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夫から外食で濟ますとの連絡を受けたので、茉麻の拵へた夕餉は三人前。 熊井との間に儲けられた二人の娘が、食卓からキッチンを窺つてゐる。 やがて茉麻が、片手に一枚づゝ、スパゲッティを乘せた皿を運んで來ると、 母の手料理を待ち焦がれてゐた娘達が群がつた。 殘る自分の皿をテーブルに置き、茉麻はスパゲッティを?張る娘達を眺めた。 「美味しい?」といふ茉麻の問ひかけに對して、娘達は揃つて頷いて見せた。 好み通りに作つたのだから解りきつてゐたことなのに、茉麻は安堵した。 「ママ?」 唐突に、長女の梨沙子が茉麻を呼んだ。 「はやく食べないとスパゲッティさめちやふ」 「あ、さうね、ありがと」 ?が笑ふから妹の舞もつられて笑ひ聲をあげた。 一方の茉麻は、手料理を喜ばれた安堵に潛む違和感を察した。 茉麻は、梨沙子に名を呼ばれるまで、腦裡に彷徨うあらぬ光景、 といふよりは過去に浴してゐた感觸を味はつてゐたのだ、無意識の内に。 ほんの刹那、梨沙子の口が女陰を摸り、梨沙子の口をめがけて昇る?のうねりが 夫の長い指と視え、フォークを?む白くか細い五指は亂れ動く自らの肢體と思へ、 食堂へ?が流れて行く音に、乳房を吸ふ夫の舌觸りを想つた。 我が娘の身に、夫との營みを想起してしまふ、 己の淺ましさににゾツとする茉麻ではあつたが、 いまだ張りも艷もある皮膚の奧から膨れ上がつてくる肉慾を、 これ以上意識しないではひられなかつた。 起伏なき幸福が、女の性的な機能を妄想へ移讓してゐたのだ。 [[←前頁>壹]]  [[次頁→>參]]
夫から外食で濟ますとの連絡を受けたので、茉麻の拵へた夕餉は三人前。 熊井との間に儲けられた二人の娘が、食卓からキッチンを窺つてゐる。 やがて茉麻が、片手に一枚づゝ、スパゲッティを乘せた皿を運んで來ると、 母の手料理を待ち焦がれてゐた娘達が群がつた。 殘る自分の皿をテーブルに置き、茉麻はスパゲッティを頰張る娘達を眺めた。 「美味しい?」といふ茉麻の問ひかけに對して、娘達は揃つて頷いて見せた。 好み通りに作つたのだから解りきつてゐたことなのに、茉麻は安堵した。 「ママ?」 唐突に、長女の梨沙子が茉麻を呼んだ。 「はやく食べないとスパゲッティさめちやふ」 「あ、さうね、ありがと」 姊が笑ふから妹の舞もつられて笑ひ聲をあげた。 一方の茉麻は、手料理を喜ばれた安堵に潛む違和感を察した。 茉麻は、梨沙子に名を呼ばれるまで、腦裡に彷徨うあらぬ光景、 といふよりは過去に浴してゐた感觸を味はつてゐたのだ、無意識の内に。 ほんの刹那、梨沙子の口が女陰を摸り、梨沙子の口をめがけて昇る麵のうねりが 夫の長い指と視え、フォークを摑む白くか細い五指は亂れ動く自らの肢體と思へ、 食堂へ麵が流れて行く音に、乳房を吸ふ夫の舌觸りを想つた。 我が娘の身に、夫との營みを想起してしまふ、 己の淺ましさににゾツとする茉麻ではあつたが、 いまだ張りも艷もある皮膚の奧から膨れ上がつてくる肉慾を、 これ以上意識しないではひられなかつた。 起伏なき幸福が、女の性的な機能を妄想へ移讓してゐたのだ。 [[←前頁>壹]]  [[次頁→>參]]

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