「拾壹」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

拾壹」(2008/07/16 (水) 16:25:24) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

勤務地へ向かふ地下鐵車兩内で、熊井は、とある事件に出くはした。 ドア付近に場所をとり、手摺に掴りつつ新聞に目を通してゐた熊井の耳に、 隣の車兩から話し聲が聞こえた。どうやら揉め事のやうだつた。 「やつてねえよ」と、如何にも煩はしさうに言ひ捨てるしよぼくれた聲の後、 「この目でハツキリ見てゐたんだ」と、衒ひも有漏も感ぜられぬ若い聲が屆く。 やがて驛に到著すると、若い聲が再び響き渡る。 「待て!」 下車する乘客群を、白線の内側で巧みに避けながら、小男が自分の前を横切らうとしたので、 熊井は咄嗟に、左足をプラットホーム側へソッと放り出し、小男を躓かせた。 長い、熊井の脚に引つ掛けられた小男は、無樣にも顏面から轉倒し、 後を追つて來た青年によつて取り押さへられた。 「ありがたうございます」 青年は白い齒を見せて熊井を仰いだ。 と同時にドアが閉まり、次の驛へ發車した。
勤務地へ向かふ地下鐵車兩内で、熊井は、とある事件に出くはした。 ドア付近に場所をとり、手摺に掴りつつ新聞に目を通してゐた熊井の耳に、 隣の車兩から話し聲が聞こえた。どうやら揉め事のやうだつた。 「やつてねえよ」と、如何にも煩はしさうに言ひ捨てるしよぼくれた聲の後、 「この目でハツキリ見てゐたんだ」と、衒ひも有漏も感ぜられぬ若い聲が屆く。 やがて驛に到著すると、若い聲が再び響き渡る。 「待て!」 下車する乘客群を、白線の内側で巧みに避けながら、小男が自分の前を横切らうとしたので、 熊井は咄嗟に、左足をプラットホーム側へソッと放り出し、小男を躓かせた。 長い、熊井の脚に引つ掛けられた小男は、無樣にも顏面から轉倒し、 後を追つて來た青年によつて取り押さへられた。 「ありがたうございます」 青年は白い齒を見せて熊井を仰いだ。 と同時にドアが閉まり、次の驛へ發車した。 [[←前頁>拾]]  [[次頁→>拾貳]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: