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シャワーから放たれた湯が排水溝まで川を作つてゐる。
浴槽には、まだ、熊井の爲に殘されてゐた、再び沸される事の無い水が張つてゐる。
誰の物か判らない縮れ毛が沈殿してゐるのが見えた。それを手で掬ひながら、
熊井は、事に運べさうな意欲の高まりを、確かに肌で感じてゐた。
情けないが、桃子から歸り掛けにされたキスが、思ひの外、身心へ刺激を及ぼしたのだ。
謂わばカンフル劑となつたアクシデントへ、感謝を捧げる樣に、指に絡まつた縮れ毛を流した。
浴室を出る。脱衣所で身體を拭き終へるまで、熊井は考へてゐた。
何故、出來なくなつてしまつたのか。別に夫婦關係の義務感から已むを得ずしてきた譯でも、
妻の魅力が衰へたとか言ふ譯でもなく、むしろ、官能的願望は彌増すばかりなのだ。
だからこそ、熊井は、果たす事も受け取る事も叶はぬ現状に苦悶してゐた。
沼地に潛む蛇に似て、密やかで獰猛な陰莖を、滿たすべき獲物へ向かはせる爲には、
こゝは、どうしても、牙を剥いてもらはねばならぬ。といふ氣概で、熊井は右手を揮つた。
扱いてゐる内に、蛇は鎌首を擡げて來た。熊井は堪らず興奮しながら、急いで著替へを濟ませ、
廊下を拔け、我が寢室へ入つた。寢間著姿の妻がベッドに腰掛けて髮を梳いてゐた。
無言のまゝで、熊井は、妻の櫛を取り上げ、微笑みかけた。
茉麻は、鼻息の荒い夫に當惑と期待を抱きながら、呑まれる樣に押し倒された。