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翌朝、熊井は夢精してゐた。
窓ガラス越しに曙光を眺めて途方に暮れながら、昨夜を思ひ出した。
とまれ、和合達せぬ己の不能を嘆いてみても始まらない、今はこの恥を隱滅すべきだ、と熊井は考へた。
妻の目が覺めぬやう、愼重にベッドを下り、洗面臺で下著を洗濯した。
しかし、置き場に困る。隱すのも後々問質されるであらうし、洗濯機へ放り込んでも疑はれる。
考へ倦んでゐる内に尿意を催して來たので、トイレのドアを開けると、梨沙子が便座に腰掛けてゐた。
熊井は股間を諸手に覆ひつゝ、慌てゝ飛び出し、理由もなく壁に背を張り付けた。
「吃驚したなあ、ゐるなら電氣くらゐ點けておきなさい」
梨沙子は返事もせず下著を穿き、俯き加減で立ち去つた。
娘の後姿に妻の面影を見るが、思ひ出したやうに熊井は「アイツ手洗つてないな」と呟いた。
用を足した後で、熊井は、濡れた下著を、念入りに絞つてから穿き直し、
ベッドの下に散らかつてゐた、寢間著に用意してゐた、黒色のパジャマを身につけた。
携帶電話に會社と、有原からメールが屆いてゐたので確認してゐると、茉麻が目を覺ます。
夫婦は、無言で視線を交はし、目配せで慰め合つた。
茉麻が用意した朝食も早々に濟ませると、熊井は出勤の支度を始める。
妹の舞に率ゐられる樣に、梨沙子も“再び”起牀し、スーツ姿の熊井を一瞥した。
父と長女は、互ひに照れ笑ひを浮かべた。