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歸り道のタクシィの中には、熊井の姿が見えた。
熊井は、桃子から渡された正式な名刺を手にして、溜息をついた。
あす同伴すれば、全てを審らかに述べる、らしい。
店のママと一悶著を起こしても引かぬ桃子に折れた形ではあるが、
いつかな埒の明かぬ状況を拔け出す爲、敢へて彼女を信用した。
半ば脅迫めいた誘ひだし、性行爲に及ぶわけでもないのだから後ろめたい事などない。
己に言ひ聞かせながら、國道を走る無數の夜光を眺める熊井がゐた。
娘の夏休みには家族旅行をしよう。
自らの多忙も辯へず、ひとりの父親は、罪滅ぼしを思案した。
そんな彼を乘せたタクシィが、交差點へ差し掛かつた時だつた。
タクシィ右後背部の衝突音と共に、突然、車體が跳ね上がり、前方を軸にして横に一囘轉した。
次に、遠くでブレーキ音と、金屬同士の擦れる音が鳴り響いた。