「祭りの中のエトセトラ」 side A-1~メード戦線異状無し~ 避けられぬ運命ならば、享受し楽しむより他にない そうは思わないかね、諸君? 祭り当日のかくた 桜の開花宣言がなされ、祭りの準備が着々と進むよんた藩国。 国全体が祭り前特有の、どこか熱に浮かされたような活気に包まれる中 ただでさえ悪い目つきを、さらに険悪にして馴染みのバーで飲んだくれる裕樹。 ただ、目つきの悪さに加えて、何かを吹っ切ったような、それとも諦めたというべきか。 まぁ、そんな自嘲的というかヤケクソな感じで口元を歪ませて飲む姿は、 周囲のふわふわとした空気とは明らかに異質で 時折、発作的に空中の一点を凝視したまま低く笑う姿は、 哀愁を音速で通り越してもはや怪しくすらあった。 「ックックックッ、足が、寒ぃぜ・・・」 そう言い、両眼からルールーと涙を流す。 彼の両足を十数年守ってきた、掛け替えの無い大切なモノ達を失った事による 圧倒的な喪失感は、彼の心身を確実に蝕みつつあった。 余談だが臨床心理学によれば、何かしらの深いショックを受けた場合人の心は 宣告→絶望→拒絶→取引→受容→希望 というプロセスを辿ると言われる。 今の彼は受容の前段階に相当するだろう。 (カランカラ~ン 「いらっしゃいませ、槙様」 「こんばんわー、いやぁ外は凄い騒ぎですよね。 あれ?裕樹さん来てらっしゃったんですね」 その言葉に、ギギギッと音を立てて首だけを入り口に向ける裕樹。 尋常でない様子の裕樹を見て?マークを浮かべる槙。 (旅は道ずれ世は情け・・・たとえ行き先地獄でも)ボソリと呟く裕樹。 その眼が怪しく輝く。受容を飛び越え彼なりの希望を見つけたようだ。 それが正常かどうかはともかく。 嫌な予感に一歩下がる槙に破顔して、人のいい笑顔を向ける裕樹。 その夜、槙は裕樹の奢りで前後不覚になるまで飲むことになる。 その際、何かとんでもない約束をした気がするが 不幸にも、あるいは幸運にもと言うべきか その内容は祭り当日、裕樹の口から語られるまで思い出される事は無かった。 / * / 祭り当日、暖かな陽光に満たされ、どこまでも続く青空 その空の下、とある控え室の一室には正に今日の青空な気分の男がひとり そして、今にも泣き出しそうな鉛色の空な気分の男がふたり。 「避けられぬ運命ならば、享受し楽しむより他にない、そうは思わないかね?諸君」 鉛色な2人に、鏡越しにメイクしながら聞くかくた。どうでもいいが、やけに手馴れてる。 「かっこいい台詞のはずなのに、なんでこんなに説得力ないんでしょうね?」 棒読みで言う槙(メード・縞ニーソ) 「せやな・・・外見って偉大やな・・・」 棒読みで返す裕樹(メード・黒ガーター) 「ハッハッハ、そんなに露骨に喜んでくれなくてもいいぞぅ」 嬉々として返すかくた(メード・白ニーソ) 「・・・この方って、かくたさんって何時もこんな感じなんですか?」 「いや、何でも以前の戦争が原因でこうなったらしぃで。 今でもメード服を着ると戦闘モードになって人格変わるそうや」 「コレも戦争後遺症なんでしょうかねぇ」 「なんか、元からな気もするけどな」しみじみと語るふたり。 メークを終え、振り返るかくた。違和感無いのが逆に怖い。 「さぁ、諸君。準備は完了だ。この服を着たからには、もうここは戦場だと思いたまえ。 今年のご主人様の数は約2万4千だそうだ。周辺各国からも観光客が来ているからな。 我:ご主人様の戦力比は1:8000、諸君らには一人頭8000を押さえてもらいたい」 そこで言葉を区切り、ニィと笑うかくた。 「と、言いたい所だが、半分の12000は桜娘部隊に任せる事になっている。 喜びたまえ、我々は三人一組で残りを押さえればいいのだ。 なお、本作戦は国としての重大任務。 メードとしての規則に反した者は即軍法会議だから気を付けろ」 「ねぇ、裕樹さん」 「なんや」 「この人埋めて逃げたら怒られますかね?」 「・・・銃殺されるやろうなぁ、一応史族やし」 「そこ、私語は慎め!いいか、先ずは基本からだ。 ご主人様を見つけたら笑顔でこう言うのだ 『よんた藩国へようこそ、ご主人様!』ハイ、復唱!」 「「よ、よんた藩国へようこそ、ご、ご主人様!」」 もうヤケクソなふたり。 「うむ、よろしい。大変によろしい。」満足そうに頷くかくた。 「ねぇ、裕樹さん」 「なんや」 「ホントに埋めちゃだめですかね?」 「・・・頼む。今聞くな、その誘惑に耐えられる自信が無い」 「何をコソコソ話している!まだまだこれからだぞ、次はこうだ 『お飲みものなどいかがでしょうか?』ハイ、復唱!」 桜祭り開始まであと2時間。 はたして、祭り開始まで二人の心は持つのか? そして、それを影から見守る謎の影とは!? [[sideB-1>祭りの中のエトセトラ side B-1]]へつづく (文:槙 昌福) ※転載の際に、文章の改行位置を変更しています。