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視界がぼやけて霞む、呼気は荒くもう一定の呼吸が保っていられない。 撃たれた右腕と右足からは激痛が絶え間無く脳に送られてくる。 だけど、この痛みがあるからまだ歩けている、もし感覚が麻痺して痛みが無くなってしまえば、たちまち意識を失っていただろう。 それほどまでに疲労と寒さは私の体力を奪っていた。 幸いに止血剤が良く効いているせいで出血は無い、もうしばらくは歩けるはずだ。 そんなふうに考えながら足を引きずりながら歩く、何か考えなければたちまち意識が危なくなる。 しかし、人間というのは疲労が増せば増すほど思考が後ろ向きになる。 追っ手を撒くために入った森は自分自身の方向感覚を狂わせたし、国境の関で捕まるのを避けたから人気の無い場所を通る羽目になった。 それに、いったい生き延びて何処に行こうと言うのだろうか。 今は戦乱の真っ只中だ、何処に行っても戦場で違うことは殺す相手が猫か犬かの違いだけ。 もし、ここで人に見つかっても明らかに面倒事に巻き込まれている奴と関わろうなんて人間はいやし無いだろう。 そんなことを考えているから、私は足元に張り出している木の根に気づかずに盛大にスっ転んだ。 倒れたまま起き上がろうと力を込めるが力が入るはずが無い。 どうせ何処で死んでも同じだ、そんな思いと共に私は意識を手放した。 あたたかい。 それが意識をとりもどした時に最初に感じたことだった。 十分に暖房が効いた室内にいるみたいだった、それに体も軽いまるで分厚くて重い防寒着なんて無いかのよう。 死ぬとこんなに気持ちの良い所に来れるんだ、なんて事を思ってしまう。 視界がはっきりしてくると見慣れない天井が目に映った。 「生きてる?」 言葉が出てきたことに驚いた、あの状況で自分が生きているはずが無いと自分自身思っていたから。 思わず身を起こそうとすると痛みがきた、間違いない生きている! でもどうして? 「おや、起きたのか」 混乱した頭で状況を確認しようと辺りを見回していると一人の男がドアを開けて入ってきた。 30代前半くらい、右目の眼帯が特徴的だ。 「お腹は空いているかな?今ちょうどできたところなんだ。」 ドアの向こうはキッチンのようである、美味しそうなにおいがこちらまで漂って来る。 手に持った盆の上には白い饅頭のようなものが載っていた。 「この国の名物ヨンタ饅さ、と言っても固いほうだけだね。食べるかい?」 返事はお腹が盛大に鳴ったためにいらなかった。 「君の怪我だが………」 私があらかた食べ終えたのを見計らって男が口を開いた。 「医者の言うことには、右腕は問題ないが右足はあと2週間くらいは痛むだろうと言っていたよ。」 杖をどこからか貰ってこないとなぁ、と男がつぶやくのを聞きながら私は必死で自分が今どんな状況に置かれているかを考えていた。 「あの、あなたは誰ですか?私はなぜここに?」 とりあえず聞きたいことは言葉にできた。 「ああ、すまない。自己紹介がまだだったな」 男は人のよさそうな笑顔を浮かべて、淹れてきたお茶を渡してくれた。 「私の名前はクラント・ドナヒュー、ドナヒューおじさんやアンクルドナヒューの方が通りがいいがね。近くの学校で教師をしている」 生徒が描いてくれたんだ、といって嬉しそうに壁際にあった絵を見せてくれる。 「知り合いに植物学者がいてね、植物分布の調査を手伝いに森に行ったら君を見つけたんだ」 「どうして……」 「?」 「どうして私を助けたんですか…」 一番聞きたかったことがやっと口から出た。 人気の無い森に一人で、しかも銃撃されて倒れている女なんてどんなトラブルを抱えているか分からない。 いったいどんな理由で助けられたのか、それが知りたかった。 「…どうして、と聞かれても理由なんて特に無いけど」 「え?」 だから返された答えが良くわからなかった。 「困っている人を助けるのに理由が要りますか?」 人の良さそうな笑顔を浮かべて、でも大真面目な雰囲気で私の命の恩人はそう続けた。 [[第二話へ>凍えた偽花に温もりを第二話]] (文:フィサリス)

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