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第4章「乙女の激闘」」(2008/07/03 (木) 20:16:05) の最新版変更点

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**あなたのカニは、私のカニよ! 第4章「乙女の激闘」 5人の乙女がひたすら無言で鍋に箸を伸ばしている。 その場の空気は傍から見れば静かなものである、しかし、そこにあるのは乙女の思惑が交差する戦場であった。 各々が狙いの具材に狙いを定め、それを獲得するための一手を模索する。 開始から30分、鍋の具材を奪取する手段はかなり直接的になっていた。 互いに牽制し、手の内を探りあう心理戦から技術とパワーによる激突戦へと。 まるで冷戦の対立構造から熱い戦争へと移行したかのようであった。 きっかけは開始20分、それまで一方的とも言える箸捌きで鍋内の蟹を奪取していた真砂の箸をフィサリスが止めたことだった。 (私の箸を止めた!) これまで幾多の鍋で勝利し続けクィーン・オブ・ナベの称号をほしいままにしてきた真砂。 その闘志に火がついた! (私もかつてクィーン・オブ・ナベとよばれた女) (ここで負ける訳にはいかない!) 一方、フィサリスの方はというと混乱しきっていた、ずっと一人で生きてきたため大人数で鍋をつつく経験が全く無かったのである。 最初は周囲に遠慮しながら鍋をつついていたが、弱鍋強食(弱きものは鍋に具材を入れ強きものが食らうの意)の戦場においてまともに戦えるはずも無く、 ついに思考がオーバーヒートした。 簡単に言ってぶっ壊れたのである。 今のフィサリスは食わなければ喰われると言うバトルフィールドで、長年の放浪暮らしで培われた戦闘思考が間違って発揮されているだけなのであった。 真砂を倒すべき敵として認識したフィサリスとクィーン・オブ・ナベの名を賭けた真砂の闘いが鍋の上で繰り広げられた。 (私のこの箸が真っ赤に燃える!蟹を掴めと轟き叫ぶ!) 真砂から背後からオーラが湧き立ち箸を握った手が真っ赤に燃えた(ように見えた) そのままバックドラフトの如き勢いで鍋に向かって箸を伸ばす。 それに対しフィサリスが迎撃を開始する。 (戦闘レベル……ターゲット確認。奪取開始) (……ターゲットロックオン) フィサリスの内の何かのシステムが起動し、閃光の輝きを放ちながら迎撃の一撃を相手の箸に叩き込む。 なんか周囲に白い羽とか舞っている(ような気がする) 二人の箸が鍋の中央で激突し、割り箸なのにガキィッ!という硬質の音が鳴り響いた。 その音を開始の合図にし鍋の上で熾烈な争いが繰り広げられる。 パワーとスピードの凄まじい激突、鍋の主導権はこの2人が握っているように見える。 しかし、鍋とはそのように単純なものでは断じてない! 熱い戦いが繰り広げられる真下では静かに乙女の謀略が渦巻いているのである。 やしほは2人の戦いの隙を突いていた。 (真砂さんとフィサリスさんが潰しあっている今こそ逆に好機!今のうちに鍋内の蟹を!) 激突し動きを止める2人の箸の隙を突いて程よく煮えた蟹を奪取しようと試みていた。 グラジオラスは鍋の死角に蟹を仕込んでいた。 (仕込みは上々、いくら姐さんでもまさか春菊やしらたきに紛れて蟹が潜んでるとは思うまい。鍋とは、いつも二手三手先を考えて行うものよ) よく見ると何か変な電波を受信しているようにも見える。 そして、鍋の中に潜んだ伏兵の存在に気づいたものは誰一人いなかった。 支那実はただただマイペースに鍋をつついていた。 (この鮭、美味しー。あ、こっちの鱈もいい感じに煮えた) 鍋をめぐる他人の思惑とは外れたところで鍋を楽しんでいた。 各人、思い思いの戦略で鍋に挑んだ、その結果は。 真砂とフィサリスの箸が火花を散らして激突し、動きが止まる(本当にただの割り箸です) ちょうど食べごろに煮えた蟹の上空で止まった箸は、静止して微動だにしていないように見えるが、その内部は多大なエネルギー同士のぶつかり合いによって均衡状態を保っているに過ぎなかった。 その緊張状態が破られたのは横からの別の人物の箸によってだった。 「蟹も食べごろかも。あれ、真砂さんとフィサリスちゃん何で固まっているんですか?」 あっという間に原因となっていた蟹をさらっていった支那実、あまりの突然の展開と支那実の笑顔の前にさすがの真砂も何も言えず、 な、なんでもないわよー、などとその場を誤魔化すだけで精一杯である。 フィサリスはというと想定外過ぎた展開だったのか、呆然と蟹のあった場所を見つめていたのであった やしほは支那実に狙っていたタイミングを完璧に奪われ硬直していた。 3人が硬直していた隙をついて、グラジオラスが動いた。 (3人とも意識がこっちに向いていない今が好機) 鍋に潜ませた蟹たちを慎重に、ゆっくりと回収し始めた。 (お次は最大の蟹ですよ~) 鍋の中に隠された蟹を求めて春菊の中に箸を突き入れる。 スカッ (はれっ?) あるはずの場所に蟹が無い、ふと支那実を見ると器の中には目的の蟹が……… 「あれ、春菊と一緒になんで蟹が?まあ、いいや」 そのまま、蟹を口へと運ぶ支那実。 (わ、私の蟹が~) ショックのあまり石化した。 そこから先は支那実の独壇場と化した。 真砂達はとことん隙を衝かれて蟹を奪われ、グラジオラスの隠した蟹は一つ残らず見つけ出された、全ての蟹が無くなるまで支那実の猛攻は続いた。 フィサリスは驚愕しながら思った、 (この娘、侮れない。いったいどんな訓練を!) いえ、ただの天然です。 鍋の中の蟹が無くなって数分、鍋を囲む雰囲気は和やかなものになった。 はずも無く、場にはより一層の思惑がグオグオと渦巻いていた、何故か!それはメニューに載せられたある食材が原因であった。 『フカヒレ』 超高級食材の代名詞であるこの食材がまだ登場していない、なぜかと思っているとおばちゃんが現れこう言った 「ごめんなさいね~、まだ下ごしらえしかできてないのよ。お詫びにこれでも飲んで待っててよ」 そういって置いていったもの、それが原因であった。 古来より、静まり返った鍋の席でも問答無用で盛り上げる飲料。 その名は 『酒』 命の水と言われ、古代より人々の中にあった飲み物。 発酵という菌の力の奇跡をかりて人類が唯一成功した錬金術の産物 それこそが酒である。 支那実以外の全員の思惑は共通していた ((((フカヒレが来る前に飲ませて潰す)))) そして、第2ラウンドが開始された。 フィサリスは悩んでいた、さっきの結果から見て最優先で潰すべきは支那実、しかし彼女の思いは別にあった。 正面に座る真砂を見つめる。 視線に気づいた真砂はフィサリスを見つめ返す、そして余裕の笑みと共にこう言い放った。 「私と勝負する気?ならかかってきなさい」 真砂が勝負と呼ぶものは全て本気のぶつかり合いである、かつて雷羅 来をパンツ一枚にして行われたイカサマポーカー対決は伝説となっている。 その台詞を受けて決意が固まる。 (……わ、私は……私はあの人に勝ちたい……!) その決意を受けた真砂の脳裏にある提案が浮かんだ。 「ねえ、フィサリスちゃんあなたこの国に来て日が浅いでしょう」 「は、はい、そうですけど……」 突然、振られた話に首をかしげるフィサリス。 「この国にはね、人に変な衣装を着せたがるやつが結構いるのよ。」 メード服を無理やり着せられることになった2人の男や、この前テレビ番組の撮影と言われチャイナドレスを着せられた自分を思い出し、 「そこで、この勝負、負けたほうが次に変な衣装が来た時に着る役になるっていうのはどう?」 しばらくの逡巡の後、ハッキリとした頷きを返すフィサリス。 「ならば、始めましょう!」 両者共に酒瓶に手をかける、負けられない女の闘いが今、始まった。 一方、やしほとグラジオラスは最大脅威である支那実を潰そうと共同戦線を張っていた。 「支那実ちゃん、はいどうぞ」 「支那実ちゃん、ジャンジャンいこう」 注がれている支那実は、「あ、ありがとうございます、こちらもどうぞ」 などと言いながら自分の近くにあった酒を返杯していた。 真砂とフィサリスの闘いは苛烈であった。 『漢盛り』 暑苦しい2人の漢がこちらに突進してくる、むさ苦しいことこの上ない絵柄が描いてある、辛口の漢のための酒である。 鍋の中の海老と蛸を肴にグラスに手酌で酒を注ぐフィサリス。 対して、烏賊と鮭を肴に一息で飲み干す真砂。 交互に相手のグラスに酒を注ぎ、それを飲み干している。 2人の背後にかなりの数の空いた酒瓶が転がっていた。 「別にいつもいつも電波受信してるわけではないんですよわたし。ほんとですよ。聞いてますか?」 「私だってもうちょっと胸があって、足が長くてスタイルがよければ実年齢に見られるんですよ。………たぶん」 微妙に噛み合わない会話をするグラジオラスとやしほ、完璧に酔っ払っている。 対する支那実は全く平気な顔をしている。 なぜこうなったのか、その原因は支那実の手のものにあった。 彼女が近くにあった酒で返杯していたのだが、その酒が『泡盛』、それも火をつければ燃える立派にスピリットと呼べる度数のものであった。 そんなものを飲まされ続ければ潰れるのは時間の問題、2人から渡される普通の酒を飲んでいる支那実と比べれば確定的である。 「れっはいに……まけまへぇん~」 呂律の回らない口調でフィサリスが喋る、真砂は顔は赤いもののしっかりした様子だ。 (もう限界のようね、私といい勝負をしたのはあいつ以来かもね) 真砂が物思いに耽りながらよんた饅を齧っていると何かが倒れる音、前を見ればフィサリスが潰れていた。 それを見て勝利を我が物としたと思った瞬間、真砂の身体を異変が襲った。 急激に襲い来る痺れに倒れる真砂、手に持ったものが何なのかようやく理解できた。 (あの男の仕業ね、今度あったらひどい事してやる) 痺れに倒れる真砂の手から雷羅 来特製痺れよんた饅が零れ落ちた。 「あれ、皆どうしたんですか?」 潰れた全員を見て不思議そうに首をかしげる支那実、そこにおばちゃんがきてフカヒレを置いていった。 無欲の勝利、恐るべき天然であった。 「いや~、食べたわねー」 すっかり痺れの取れた真砂、上機嫌である。 店の外に出るころにはすっかり夜になっていた。 「姐さんも手伝ってくださいよー」 いまだに潰れているフィサリスに肩を貸しているグラジオラス 「それじゃあ、勘定を割るわよ。しっかし結構安いわね」 「うわ、本当に安い」 あれだけ飲み食いしたのにと驚く支那実、食べ物がやたらと安いのもよんた藩国の特徴である。 「あれ、なんか違うような…?」 「どうしたんですか?」 「ううん、たぶん気のせい、気にしないでやしほちゃん」 何か違和感を感じるグラジオラス、しかし、潰れたフィサリスを寮まで届けることを優先と考えたため、あまり気にしなかった。 「それじゃあ姐さん、フィサリスちゃん連れて帰るのでこれで失礼します」 「さよなら、気をつけて帰るのよ」 それぞれ家路につく乙女達。 今日の勝者は鍋を制した支那実か、それともおごりをちゃっかり割り勘に変えた真砂か、それは誰にもわからなかった。 (文:フィサリス)

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