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ある日の夕食(槙編)」(2008/07/03 (木) 18:00:38) の最新版変更点

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 比喩を通り越して本当に肌を焼く真昼の光は分解し、植物達の吐く息はあまいあまい香りを帯び始め、山頂から見える景色は、眼下の街の柔らかな明かりと、星。星。星。星。そして月。もやを帯びた半分の月。 風はなまるぬく、有機LEDの白灯パネルが展望台と遊歩道を幽玄的に照らすが、ここは屋根の上なので関係なし。 槙は傾斜の緩い、まだ熱を含んだ屋根の上で、煙草を口に咥え空を仰ぎ見ていた。 ――――最後の戦いから2週間が経過していた。 / * /  戦後の忙しさはむしろ救いだった。忙殺されている間は何も考えなくて済む。短い睡眠時間は悪夢と対峙する時間を減らしてくれる。 だから、今日みたいに急に時間がぽっかりと空くと、暇で暇で、暇なのに困った。  だからとりあえず眠れるだけ寝て、掃除して、ゴミを捨てて、食材買いに行って作って煮込んでる間、屋根に登って黄昏てたりする。  別に何があったわけでもなく、故人なら「ただ漠然とした不安」とかそんな風に表わすのだろうなぁ と思うようなそんな気分である。 今宵の夜空は星の大河に彩られているが、今の槙の目には映らず。 煙草を上下にぷらぷらと揺らしながら、ただただ無辺空間を、ぼぅとして眺めていた。 だから、女の子が降ってきたのに気付くのが、遅れた。 ・・・・振ってきた? 「…ャァぁあぁぁあぁぁぁあ!!!」 立ち上がる暇は無く、落下地点を目算。そこまで飛んで、抱きかかえるように両手を伸ばしてダイビングキャッチ ………に失敗した。 「え゛ぢゅ?!」 女の子がストマックにダイレクトアタック。 胃と食道からのポロロッカ。根性見せろ。俺。 せーふせーふ、大惨事は防がれた。ボディーに深刻なダメージを負ったが、まぁOK。 結果として女の子は、僕の膝の上で対面でちょこんとな感じである。 膝にかかる圧力は意外なほど軽い。 頭をおさえて「う~」と発言されていたお空の天使さん(仮)が、僕をキッと見た。 済んだ瞳だ。未だ幼さが残るが、将来は美人さん確定気味なスッキリとした顔立ちの髪の長いお嬢さんである。 あーうん。アレか。翼とかは隠せるのか。収納式なのか。便利だな。 「タバコは、体によくないんだよ!」 「…あーうん。そうだよね。僕もそう思う。美味しくないしさ。甘くもない。」 「なら、辞めて。」 「いや、うん。だから吸ってないんだわ。アレね。咥えてるだけでさ、雰囲気と言うか、ええかっこしーなのだ。」 「い・い・か・ら・早く消して。そう!ホント、もう。ボクの所に来ないでこんなところで何やってるのさ!」 来ないで?、ハテ、天使さんに知り合いは居なかったと思うけど。 はて、ボクで、長い髪。というかこの香り。と声。 「あのー、つかぬ事をお聞きしますが、お空の天使さんは彩さんだったりしますか?」 「彩さんだったりするのです」 というか、今更気づいたのかこの男は と言う感じの不機嫌感。これは噛まれそうだ。手とか。 「彩さんは天使さんでしたか」 「はぁ、天使さんでした」がぶり。 「天使さんは肉食ですかー、家の中にビーフシチューがありますが」 「天使さんは、好き嫌いがおおいのです」がぶがぶ。 「割と自信作だったりするのですが」 「付け合わせはなんですの?」がぶがぶ。 「カリカリのパンに、サラダ。タンシチューはトロトロ。デザートにチョコレートサンデー」 「…じゃあ、ボクをこのまま運んで。そうしないと空に帰るんだから」がぶがぶがう。よだれだらー。 屋根の下で、赤くカラーリングされたヤドカリオウミニが、ぎゅいんぎゅいん言っている。 あぁ、彼女を降らせたのは君か。 「うむ。では、ほっ・・と」おぉ、軽い軽い。ほんとに羽でも生えてるのではーと背中に手を回す。 「ッきゃ」がぶー。 そのままお姫様だっこで、家の中へ。 天使さんは耳を赤くして俯いたまま、がぶがぶがうと僕の手を噛む。痛くないけど。 僕にキュッとしがみ付く、彩さんの早い鼓動と震えた指先。 僕はそっと(噛まれてない手で)髪を、頬を撫でて、窓から家の中へと入った。 彼女の加速する鼓動。ぐーぱーを繰り返す手。 一緒に食事の配膳をしながら、こんな日もありよね。と思う槙。 気がついたらずっと気分が楽になっていたのに槙が気付いたのは、少し時間がたってのことだった。 PS:その後しこたま怒られました。反省。 (文:槙昌福)

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