「大きい……」
私の目の前には巨大すぎる雪像が2体、鎮座していた。


「お祭りに行かないか?」
私がここに来て2週間、足の痛みも無くなったころドナヒューさんがお祭りに誘ってくれた。
そして私は雪祭りの会場にいるのだが。

「すごいだろう、何せ兵隊さんまで手伝って作っているからね」

なぜか、私の隣には王冠をかぶった謎の人物が立っている。



私たちが雪祭りの会場に着いたとき、ドナヒューさんが子ども達に囲まれて連れて行かれてしまった。
一人で雪像を見上げ途方にくれていた私に声をかけたのが、この謎の人物。

「あのー、あなたはいったい………」
「お、俺か?えーっと…そう!俺は1番雪祭りを楽しむ男、名付けて雪祭りキング!」

いま、この場で考え付いたようなネーミングだった、と言うか自分で『名付けて』と言ってしまっている。

「雪祭りははじめてみたいだが、良ければ案内しようか?」

限りなく怪しい格好をした人物だったが、限りなく人のよさそうな笑顔に、私は頷いていた。



キングさん(仮)の案内で雪像に登ってみたり、出店を巡っていたりしていると、出店の一角が騒がしい。
どうやらフランクフルトの屋台の店主とその弟子が言い争っているようだった。

「だから、無茶ですよ師匠!」
「バッカヤロウ!こんぐらいで店閉められるか!」

何事かとキングさん(仮)が近づいたので、私も後に続いた。

「どうしたんだい」
「あっ!はんお ムグゥ……」
何か言おうとしたお弟子さんの口をキングさん(仮)の手が光の速さで塞ぐ。

「俺の名は雪祭りキング、誰よりも雪祭りを楽しむ男。それで、親っさんどうしたんだ?今年の屋台に何か問題でも?」

「ああ、はん…雪祭りキングさんか、屋台には何の問題も無えよ。あるのは俺の腕だよ。」
見ると腕には白い包帯が巻かれていた。
「今日になってヘタうっちまった。でも雪祭り始まってからずっと出し続けてるこの店、閉めちまうわけにはいかんし………」
「でも、その腕じゃ無理ですよ師匠………」

賑やかな雪祭りの会場でその場所だけが重苦しい雰囲気に包まれていた。

「あ…、あの!」
自分でも何故こんなことを言ったのか理由がわからない。
「私が焼きましょうか?」
でも、『困っている人を助けるのに理由が要りますか?』その言葉だけで理由は十分なような気がした。





十分に熱された鉄板の上にもうすぐ焼きあがりそうなフランクフルトがある。
ここまでは順調、後はタイミングさえ間違えなければ良い。
呼吸でタイミングを計ってフランクフルトを取り上げる。
「どうぞ」
焼きあがったフランクフルトを3人の前に差し出す。

「むっ!」
「これは!」
「……むう」

緊張に身を硬くする。

「「「うまい!」」」

3人の声が重なった。
「これなら店を十分まかせられるぜ。譲ちゃん」
親父さんが笑顔と一緒にそう言ってくれた。
自分の料理を褒められてこんなに嬉しかったことは無かった。



いざ、店を開けてしまうと長蛇の列ができた。
お弟子さんが列を整理したり、親父さんがお勘定をしたりする横で私はひたすら焼いていた。
キングさん(仮)は「他のフランクフルト屋も巡ってみる」と言って行ってしまった。
結局、材料が切れるまでお客さんが途切れることは無かった。

「お疲れ様です」

座り込んで休憩していた私に、声と共に暖かな湯気に包まれたよんた饅が差し出された。
顔を上げるとドナヒューさんが立っていた。
ありがとうございますと、お礼を言って受け取る。

「どうだった?はじめての雪祭りは」

「とても楽しかったです。キングさん(仮)の案内で色々見て回れましたし」
それに、と付け加えて
「はじめて人助けもできましたし………」

キングさん?とドナヒューさんは首をかしげていたが、私に笑顔で

「そうですか、それは良かった」といってくれた。

そういえば、キングさん(仮)はどこに行ったのだろう?
吏族の人に両脇抱えられて「まだ5軒のこってるっ!それに〆のラーメン喰ってねえ~~~~」
と叫びながら連れて行かれたような気がしたけど。

などと考えていると、向こうから雪煙をあげながらキングさん(仮)が走ってくる。
それを見たドナヒューさんが凄く驚いた顔をしたのが気になったが、声をかけた。
走ってきたキングさん(仮)は私の前に立つなりこう言った。

「うちの国民になりませんか」

呆気にとられた私の表情を見てかキングさん(仮)は息を落ち着かせると言葉を続けた。

「すいません、いきなりで。聞いた話では怪我をしていたのでその治療のためにこの国に留まったとか」

そうだった、私は怪我の治療のためにここにいたのだ。
その怪我も治ってしまった。
だから私はこの国から

「出て行くのですか?」

ハッとして振り向くと真剣な顔をしたドナヒューさんがいた。

「それはあなたが『偽り』だからですか」

知っていたのですか、と言ってうつむく私

「知り合いに植物学者がいるといったでしょう。彼があなたの名前は『偽り』と言う意味だと教えてくれました」

「そう…です…」
絞り出すようにしか声が出なかった、上手く言葉にできない。

「私のフィサリスと言う名前は偽名です」

ずっとあなた達を騙していたんです!
みんなの人の良さにつけこんで利用しようとしていただけなんです!
私はそんな最低の女なんです!

そう叫んでしまいたかった。けれども言葉は喉に引っかかって出てこなかった。

「本当の私はこの国にいてはいけない人間なんです」
ようやく変わりの言葉を何とか絞り出した。

「でも、偽りの君も君です」
うつむく私にドナヒューさんが近づく
「毎日、学校にお弁当を届けたのも、子供たちのいい遊び相手になっていたのもみんな君がしていたことです」
そう言って私の頭の雪を撫で払った。

「あなたが偽りでも、本当のあなたを気にする人なんてここにはいません」
キングさん(仮)優しい声で私に話しかけてきた。
「たとえ偽りであろうとも、本当のあなたがどんな人でも」
真面目な、でも人のいい表情で。
「あなたがこの国にいたいと言うのなら」

「私は、この国は、あなたを歓迎します」
本当に温かな笑顔でそう言ってくれた。

「わたっ…私はっ」
その笑顔が、その言葉が、あまりにも嬉しくて温かかったから。
「私は、この国に…いたいです」
泣きながらいま言いたいことを口にしていた。

私は偽りだけれども、今のこの気持ちだけは本当だ。

最後にキングさん(仮)は
「それに、最後まで吐き通した嘘は本当になりますから」
とも付け加えた







散々泣いていた私が泣き止むとキングさん(仮)が突然立ち上がって大声を上げた

「かくたさん!いるんだろう」

私がビックリしていると突然、近くにあった雪だるまが爆発し中から人影が飛び出してきた。

「よくお分かりになられましたね、よんた様」
すごく美形でスーツの似合う壮年紳士といった風貌の人物だった。

「君が城から抜け出した私を追ってきていないわけがないからね。それより彼女の国民登録と住居の手配を頼むよ」
キングさん(仮)と親しげに言葉を交わした紳士は
「畏まりました。住居は城の寮が空いておりますのですぐに用意できます。国民登録も問題ないでしょう」
そう言って颯爽とした足取りで城に向かっていった。

そのやり取りを見ていたドナヒューさんが
「さすが、藩王様。素早いなあ」と呟いた








って!ちょっと待って!
その言葉を聞いた私は一瞬で混乱してしまった。
今までの情報を整理すると、キングさん(仮)の正体は!
この国で1番偉い、藩王よんた様ということに!

この国に来て2週間、もう驚くことは無いと油断しきっていたからこの不意打ちは効いた。
エライ人にエライことをしてしまった!
などと言うことを考えて混乱している私の前に、キングいや、藩王様は立つと
はじめてあった時と変わらない、人のよさそうな笑顔でこう言った。

「ようこそ、よんた藩国へ」


こうして雪祭りの夜、私は寒いけどとても温かな人たちがいるこの国の住民になった。






<おまけ>
「かくたさん、フィサリスくんの勧誘に行ってくるよ」
「調理場の件ですね、かしこまりました。しかし、彼女が首を縦に振るのでしょうか?」
「かくたさん、私が今までに狙った獲物(料理人)を逃したことがありますか」
「………国民登録の際に採寸は済んでおります。あとで彼女の調理服を用意しておきます」
「それでは、入ってきます」



(文:フィサリス)