ふたつめの故郷、はじめての土地
もはや慣れたものであるはずの寒さが体にこたえる

雪を踏みしめ踏みしめ歩くダーゴの体は、ふらふらと揺れていた
「しぬ」

体温が下がり始めた。あの人の最後もきっとこんな感じだろうか

ばさっと音をたてて、雪に倒れ伏す

ここは、そう、うまいもの好きの藩王で有名な・・・

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電子的な声「大変ヤド、倒れてるヤド。並列化開始、救助要請」

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「大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫かしら?」

「う・・・」
人の声がした。
雪の中から助け起される

「ここ、よんた藩国?」
「えぇ。よんた藩国ですよ~ 」

助け起した二人の女性のうち、少女らしい、どこかふわふわした印象の少女が声をかける

「ついた・・・」
「行き倒れ?外傷はないけど、早く暖かいところに運ばないと」

こちらは、20代・・・もそれほどはいってないであろう、美女だ
厚着でわかりづらいが、随分とグラマラスなようである


「ここが、よんた藩国・・・」
助けられている本人は、のんきなもので、周囲をもの珍しそうに見回している
同じく雪国である伏見藩国から来たとはいえ、「空気」が違うのだろうか

「うーん、私とフィサリスちゃんだけじゃあ運べないなぁ・・・・あっ、裕樹先輩いいところに!」

遠くのほうに見える人影、痩躯の青年であった。
雪からの反射光を受けて、銀髪が眩しく輝く

「うお、どうした支那実、フィサリス・・・その人は?」
「行き倒れなんです・・・」

答える支那実、フィサリスはなにやら端末をカチャカチャいじっている

「これ・・・」
不意に周囲を見るのをやめて、懐から、なにやらとりだす
手紙であった
封筒には「よんた藩王ならびによんた藩国の皆さんへ     だごより」


一番近くにいた支那実が受け取る

「だご、さん・・・?あなただごさんっていうのね?(じー」
「いや、わたしはダーゴです」
「あ、私は支那実です」
「はじめまして(深々」
「こちらこそはじめまして(深々」


お互い深々と礼をする二人。端末いじるフィサリス。のんきだ。
しかし・・・
支那実のセリフを聞いて、裕樹の目の色が変わった


「だごさんだって!? ごめん借して!」


支那実からひったくるようにして手紙を奪う、うろたえる支那実。
穏やかな外見からは想像もつかない・・・


「ってことは、伏見藩の人ですね…とりあえずは、王城へ行きましょう」
「ひ、裕樹先輩・・・?」


いつもとは違う裕樹の様子に戸惑う


「あ、ごめんな、支那実」

そうこうしていると・・・


「到着しました」
「到着ヤドー」


「・・・・?!」


フィサリスが端末で呼んでいたのはこの不思議な生き物・・・・いや、ロボットらしい

「ヤドカリ・・・」
「そう、ヤドカリオウって言うんだ、疲れてるだろうし、これに乗って王城まで行こうか」

ヤドカリオウ。よんた藩国が誇る農業機械であり、ドリル仕様から寂しいときの話し相手まで務めるというワンダーメカであった。
裕樹がヤドカニオウにダーゴを乗せて、王城に向かおうとしたその時・・・


「クワッ(ぼこっ)」
「よいしょっ!」

地中から(正確には雪中から)突如現れる一人と一匹

「わっ、ライさん!」
「ペンフちゃ~ん!」
「ん? あ、ペンフまた変なとこ出とるやんか。」
「クワッ(ほっとけ)」

「・・・!?」

混乱するダーゴ


「来さん、といいます。もう一匹はペンコフスキー。彼の相棒の穴掘りペンギンですよ」


説明するフィサリス。この国の人はもうなれたもののようだが、地中から出てくるとは。
ヤドカニオウといい、なんて変わった国なんだろうとダーゴは思った。
来と言う人が、魔法使いのようだ、とも

「って、みんなそろってどこ行くんや?」
「お客様が来たので、お城まで案内するのですよ~」
「ははぁ、なるほど、ちょっとびっくりさせたもたみたいやなぁ、なら・・・」

なんだか服装にそぐわない、非実用的なマントを身に着けた、少年かそれとも青年かといった年齢の彼が、パチン!と指を鳴らすと・・・


「うわぁっ!!」


ダーゴの身に着けていたボロマントの下から、何羽もの何羽ものハトが飛び出したではないか!!


「・・・・凄い」
「やろ?」

満足げに笑う来。

「クワック、クワワッ(まったく、この国は危機感が無さ過ぎる・・・そこがいいところでもあるが)」
「なんや、そう硬いこというなよ~」

「いいコンビ」


なにを喋っているのかわからないが、この一人と一匹が仲がいいことはわかった
いい相棒というやつである


「八軒とだごさんもそんな感じでしたか」


不意に裕樹が声をかけた
無表情に見えるのは、わざとなのか、それとも悲しみをこらえた、その結果か。


「しらない。あったことないから」
「あぁ、そうだったのか。ごめん。とりあえず、藩王に会いに行こうか」
「うん」

ヤドカニオウに乗ったダーゴと、妙ににぎやかな、おせっかいで、それでいて優しい人たちは、王城へと向かう
広大な小麦畑を、抜けて。


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王城につくと、一匹の犬がやってくる
妙に威厳がある犬であった。

「いぬ」
「ん、お客であるか?」
「喋った!」

「でぃ~さん、こんにちは」
「でぃ~様だ、相変わらず綺麗な毛並みですね!」
「でぃ~さん・・・?」

皆が、でぃ~さんと呼ばれる犬に挨拶をする
なにを隠そう、このでぃ~さんこそがよんた藩の王犬であった

「おはつにお目にかかる。王の犬でぃ~と申す。以後お見知りおきを。客人」
「よろしくおねがいします(深々)」


なるほど、本来であれば犬が喋るのは驚くべきことであるが、そこはわんわん帝國であり、伏見藩国の王犬ヌルともよく戯れていたダーゴは、すぐにでぃ~を受け入れた
今はおそるおそる頭を撫でさせてもらっている

「でぃ~さん、藩王に用事がありまして。このお客様を案内するところだったのですよ」
「そうか、確か2階執務室で書類と格闘しておったぞ」
「ありがとうございます、では、また」

裕樹が、ダーゴをでぃ~さんから引き剥がす。そして王の執務室へと歩き出そうとするが・・・

ぎゅむっ

床から出てきた何者かを踏みつけてしまった

「・・・もう驚かない」
「驚かないのはいいが、客人、その足をどけていただけると幸いだ」
「ごめんなさい」
「・・・なかなか藩王に会えないな、まったくドクターそんなところから出てこないでください」


素直に足をどけるダーゴ。床から出てきた白衣の男は、蒼麒と言う。裕樹と同じくよんた藩建国当初からの藩民であり
怪しい実験を繰り返していると噂の男であった


「いや、わたしの部屋から異臭がするからと苦情が」
「それはドクターが」


「もう、なんの騒ぎ? あ、支那実ちゃんお帰りなさい」
「真砂姐ぇ~」

やんややんやと、また騒がしくなったところで、一人の女性が姿をあらわした
豊かな銀髪と、しなやかな印象を与えるスタイル
この国で姐御と慕われる、敏腕技族の坂下真砂であった

「あら、お客さん?」
「ダーゴです。手紙を届けに」
「・・・一人で?」
「うん、そうなの真砂姐ぇ、この人雪の中に行き倒れてたんだから、ばふーー!って」
「それは大変だったわね、藩王は2階の執務室にいると思うから、案内するわ」
「おねがいします(深々」


スタスタと歩いていく真砂とダーゴ。とてとてと支那実がついていく


「さすが姐御」
「やはり姐御殿は違うな」
「真砂さんカッコいいな」


見送る男性陣


「わ、ちょ、待ってくださいよ!」
「見とれている場合ではなかったな」


慌てて追いかける男性陣


「騒々しいことだな」
「クワ(まったくだ)」


冷静な動物2匹。この構図はいかがなものかという気もするが、そういう国家である。
平和なのは良いことなのだ。本当に。


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藩王執務室前である
わいわいがやがやと、割といつもの様相ではあるが、やっと到着であった

「あ、皆さん~。どうしたんですか?」
首からメモ帳を提げた女の子が執務室前で待機していた


「あら、グラちゃん、どうしたの?」
「藩王様が仕事投げ出さないように監視しているんです!」
「・・・確かに戦後処理は膨大ですから」


度重なる戦争は各国間でのリソースのかばいあいを産み、その外交的な(心情的なものも含め)処理、フォローは膨大な書類仕事となって
各国の首脳陣を悩ませていたが、これはまた別の話である
ちなみによんた藩摂政であり、メガネ紳士メードガイであると帝國内でも噂のかくた、はその戦後処理で奔走し、現在国外である
よんた藩国のブレーキがひとつ少ない状態とも言えよう


「ア、お客ドノ デスカ?」

急に空々しい喋り方になるグラジオラス。緊張しているらしい。

「はじめまして。伏見藩国から来ました。ダーゴといいます」
「ダ、ダーゴサンデスネ、めも、めも」

かたかたぎくしゃくしながらメモを取り始めるグラ。この少女、物忘れが激しいため首からさげているメモに常にメモをとる癖がある
と、執務室で皆が話していると・・・・


「やぁぁぁってられるかーーーーー!」

執務室から大声
続いて凄い音とともに人影が執務室の扉をぶっ飛ばして飛び出してくる

「うお!?」
「なんだ!?」
「でや」
「ふごっ」

あっけにとられる人々をよそに、足払いをかける真砂
人影はあえなく倒れ伏した

「「「さすが!」」」

叫ぶ一同。普段は美脚かかと落としだという話だ。


「うう・・・」
「藩王、大丈夫ですか」
「この人がよんた藩王・・・」

ずれた眼鏡をなおしつつ、起き上がるよんた藩王。どこの国でも藩王様は面白い人なのだろうか?と思うダーゴ

「藩王、だごさんから、お手紙です・・・」
「・・・だ、ご?」

手紙をそっと渡す裕樹。
───騒々しい、しかし日常であるが故に幸せなその空気から一転、藩王の表情が変わる・・・

「えぇ、だごさんから、です」
「・・・そうか」

眼鏡をくいっと押し上げる藩王
先ほどまでの喧騒は、どこか遠くに。
空気がさきほどとは違っている

「じゃあ、いったん退散するわ、ほな」
来は、空気に耐えられなくなったのか、それともいないほうがいいと思ったのか、するりとどこかに去っていった


「とりあえず、ここではなんですから、あちらへ」
「どうぞ、ダーゴさん」

裕樹がダーゴの手を取り、執務室へと連れて行く
ふう、と深呼吸しながら、藩王、続いて古参の国民である蒼麒が執務室へと向かった

そして

「あ、あの・・・私もいっていいですか?」
「私もお願いしていいかしら?」

支那実と真砂が、名乗りを上げた


「いいよ、ついておいで」


答える藩王。若干重苦しい空気を肩で払いのけるかのようにぐるり、と腕を回し、歩いていった