王城前

「お気をつけて。是非、また来てくださいね。・・今日はいないけど、あなたに会いたいと思うだろう人がいるから」


真砂が笑顔で見送っている。
するとそこに・・・


「よろしければ、お土産にどうぞー、この国の名物のよんた饅です」


グラジオラスがよんた饅を山のように抱えて現れる
とてもじゃないが、一人で食べる量ではない。


「これ、そちらの王犬様にどうぞ~」

続いてフィサリスが、こちらは可愛らしいサイズの・・・甘いかおりのよんた饅の包みを持ってきた
ヌルに、ということらしい
バレンタインに国民からの甘いもの攻勢にあい、その結果虫歯が発見されたため甘いものを規制されていたヌルだが、そろそろ頃合だろう



「それならこれも持って行け、試作品のよんた饅だ」


      • さらに背後から白衣の男、蒼麒が・・・これはなんであろうか、不思議な香りのする大包みを抱えてやってくる
もはや、お土産というよりは、軽い引越しの様相を呈している


「ありがとうございます。みんなで食べます。帰り道にちょっと食べちゃうかもしれません」
「はは、どんどん食べてください。是非、あちらの藩王にも、よろしく」


からからとよんた藩王が笑う
ぎゅっと、よんた藩王から預かった古い日記帳を抱きしめるダーゴ、頷く


「では、皆仕事にもどろうか。湿っぽいのもいいが、そればっかりじゃあね」
「そうですね」
「は~い」
「了解っと」


「ヤドカニオウ、お願いね、ちゃんと伏見藩国まで送り届けてさしあげるのよ?」
「おねがい」


フィサリスがぺちぺちとヤドカニオウを叩く


「任務了解ヤド。」
「音声機能・・・」


「じゃあ、彼にもよろしく、伏見藩王にもね」
「わかりました、きてよかった」


さようなら、またね、が木霊した



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フィサリスがそっと呟く
「手紙、届いてよかったね」
「手紙はその人の想いだから・・・、本当に伝えたいこころが書いてあるものだから」

それは、誰にも聞こえなかったかもしれないが、この場の誰もが心に抱く、想いであった

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――その頃、遠く離れた森の中

「彼が心はこの地ににあり。彼が心はここにあり。彼が心はかの地にあらず。彼が心はここにありて鹿を追う。」
「野の鹿を追いつつ、牡鹿に従いつつ。彼が心はこの地にあり。彼何処へ行くも。彼何所へ行こうとも。」

その男、犬の参謀にその人ありと言われる槙 昌福であった
本人は「俺は植物を調べにきただけなんですが」と言ってはいるが、その働きは獅子奮迅である

そっと、伏見藩国の方向へと手を合わせた彼は、そっと森の奥へと姿を消した

きっと、珍しい植物を探しにいったのであろう
きっと、さようなら、またね、の木霊が、彼の耳にも届いたのであろう

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ヤドカニオウがのっしのし
ここはよんた藩国辺境
よんた饅を食べようか、食べまいか、いや、温かいうちにいただくのが礼儀だろう・・・
と、ダーゴが迷っていると。

ヤドカニオウの足跡を追うように駆ける人影。いや、犬影

「待たれい、客人よ」

でぃ~さんである。ヤドカニオウ緊急停止

「わ」


「いや、いくら名物だとはいえ、よんた饅だけではヌル殿に失礼と言うものだ、ほれ」

そういってでぃ~さま、器用に前脚で、首にくくりつけられていたホネを取り外す

「持っていくがいい」
「ありがとう。ヌル様またもちもちになってしまいますね」

ははは、と笑う王犬。実に表情豊かである



「あやつ、だごはよいニオイのする男だった。海のようなそんな薫りの」
「あやつと一緒にいると魚が食べたくなった。そういったらヤツは山ほどくれた。よい男だったぞ」
「それは、まさに。」


「まぁ、それだけだ。それだけの話だが、言いたかった」
「うん」
「では、気をつけて帰られよ。頼んだぞヤドカニオウ」
「了解ヤド!」
「うん。さようなら」


ダーゴが振り返る
でぃ~さま、まだ見送っている。揺れる尻尾

また、振り返る
でぃ~さま、まだいる。ダーゴ、よんた饅に手を伸ばす

かじりながら、振り返る
でぃ~さまの揺れる尻尾と後姿が、ダーゴとヤドカニオウを見送っていた
笑うダーゴ。本格的によんた饅にかじりついた

帰り着くまでに、いくつ食べるのだろうか

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甘くないほうのよんた饅を二個平らげ、そろそろ甘いほうにいくかと手を伸ばしたダーゴが、ふと


「あ」
「よんた藩国で噂の・・・」
「謎の敏腕摂政、メガネ紳士メードガイかくたさん、いなかったなぁ」

もぐ。

「まぁいいや」

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そしてもう一方
憂いを湛えた表情で、だごの写真が入れられたアルバムを閉じ、窓の外を見て

「ご飯・・・・まだかな」


つぶやくよんた藩王であった



「うちの藩王、ハングリー精神はありますよねぇ」
「支那実ちゃん、使い方間違ってるわよ」

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おわり


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