夏の夜。雪国のよんた藩国とはいえ、少し、暑い。
「ちょっと、どこいくのよっ」
夜をかける少年と少女が一組。少女は少年に手を引かれている。
「いいから、はやくっ。始まっちゃう」
始まる?少女は考え込む。何か今日はあっただろうか。学校関連の行事はないし(そもそも今は夜だ)・・・・
強く、手を引かれる。どうやら思考に没頭していて足が止まっていたらしい。
「だから、何があるのっ」
答えが出ず、前を行く少年に尋ねる。目的地を聞かずに連れて行かれる、というのも気持悪いし、今尋ねずにはいられない。
「それは、秘密っ」
息を乱しながら、少年が応える。
既に家を出てから15分ほどがたっている。2キロくらいは走っているだろう。既に二人の住む―――二人の家は隣あっているのだ―――住宅街からは出てしまい、もう田や畑が広がっている。
ふと、その時音が聞こえた。
「この音・・・」
「気付いた?」
いつの間にか少年がこちらを見ている。
それは、祭囃子の音。それは、屋台の掛け声。それは、祭りを楽しむ人のざわめき。
でも、と思う。祭りなら別にわざわざこんな所まで来る必要はない。
疑問は、膨らむ。
それと同時に、屋台と、人々の群れが見えてきた。
「北国食堂の新製品!たこやきよんた饅にコラーゲンよんた饅!そこの嬢ちゃん、どうだい!」
「焼きそばはいかがっすかあ」
「夏の暑い夜にラムネーラムネー」
「あ、今度は金魚釣りやろうよ。」
「おひさしぶりー」
聞こえてくるのは、人々の声。その中には、白い肌を持つみなれた人々だけではなく、見慣れぬ肌の色や髪の色を持つ人々もいた。
「あれって・・・」
「ん?ああ、難民―――新領民の人たちじゃないかな。あの人たちも楽しんでくれるといいけど・・・」
苦しいことは楽しいことがあってこそ耐えられるしね、と少年は続けると、腕時計を見て悲鳴を上げる。
「や、やばい、時間がない、急ぐよっ」
「え、あ、ちょっと!」
少年は人々の間を潜り抜けつつ加速する。
目的地はここかと思っていたのに、少年が足を止める気配はない。
しばらく走っていくと、人もまばらになり、屋台の灯が届かなくなった。目的地は、まだ先。


どのくらい走っただろうか。少年がようやく足を止めた。そこは、丁度木々がなく、開けた広い場所。ロープやくいで仕切りがしてある。
「はあ、はあ、間に合ったか・・・」
「だから、なんなの!何があるの」
我慢も限界に達し、怒鳴るように言ってしまう。
「・・・花火」
「え?」
今日花火大会があることは知っていた。だけど、まだ始まるには時間が有るはずだし、全国中継されるそうだからわざわざここに来る必要はなかった。
「見れば判るよ、そろそろ時間だ。」
瞬間。ドーンという音とともに、光が舞い散り、夜空に文字が浮かび上がる。
「好きです」
単純な文字列。ようやく少女は少年の意図を悟った。これを見せるために―――
「花火大会が始まってからだと、流石に恥ずかしいからね。予行の打ち上げをやるって言うから、便乗させてもらったんだ。」
照れながら、言う少年。
「どうだった?」
「うん・・・」
答えは、いえない。余りに嬉しかったから―――――


                                 Fin