小麦畑の四季


雪合戦、それは子供の遊び。

雪合戦、それは楽しい遊び。

雪合戦、それは命を削る戦い。

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「雪合戦すーるもーの このゆーびとーまれ」

瞬く間に、突き出された人差し指は別の子供たちの手で見えなくなった。

「じゃー、10分で陣地つくるねー」
「壁は5個までだよ」

独自のルールを組み立て、わいわいと“陣地”こと雪の壁をあちこちに作っていく。
チーム分けは暗黙の了解があるようだ。


——10分後


「3つ数えたら始めるよ。さーん…にーい…いーち…」

次の瞬間、いくつのも雪玉が空を飛んだ。

「うわっ」「きゃっ」「ていっ」「あぶなっ」「いたっ」

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次第に片方のチームが優勢となっていく。
こういう子供の遊びは一旦傾くと、一気に決着へと向かうことが多く、この時もそうである…はずだった。

「くそー、このままじゃ負ける! 誰か『よーじんぼー』連れて来い!」
「ぼくが行ってくる! 戻ってくるまでがんばって!」

一人がこっそりと離れ、どこかへ向かう。


——数分後


「そろそろ、こーさんしたらどーだ?」
「まだ、負けてない! もうすぐぎゃくてんするんだー!」
「いっぽーてきに負けてて、逆転できると思って…」
「出来るんやなぁ、これが。」

突然現れたマントの男に、勝っていたチームは慌てだす。
たまたま、この辺の農作業を手伝いに来ていた雷羅来であった。

「あ、おまえら来にーちゃん呼ぶなんてひきょーだぞ!」
「か、勝てばいいんだもん!」
「せや、こういうのは勝った方が勝ちなんや」

意味のわからない論理を語りながら、雷羅来は子ども相手に蹂躙を始める。

「やばい…こんなの勝てっこないよ…」
「あきらめるな! おれに任せろ。まだ『さいしゅーへーき』がある!」


——さらに数分後


戦況は一変、子供の遊びに紛れ込んだ大人が大攻勢を仕掛けていた。

「さあさあ、どうした?こんなもんなんかー?」

と言いつつ、実は手加減してちゃんと“遊んで”いる来。

「『さいしゅーへーき』はまだつかないのか?」
「もうそろそろ来るはず…あ! きた!」

現れたのは子供に手をひかれ走る、槙昌福。
来と同じく、農家の手伝いに出されていたのである。

「あれ、槙センセやないか。こんなとこでどないしたん?」
「僕にも分かんないんだよね。とりあえず連れて来られただけだから」
「ぼくらの『さいしゅーへーき』槙さん! われらにしょーりを!」

少年はパシッと何かを槙に投げつける。

それは赤い布地の何かであった。

「こ…これは…心を奮い立たせる赤ビ———」

どこからともなく飛んできた、一発の雪玉で轟沈する槙。

「まったく。仕事ほっぽってどこ行ったかと思って探してみれば…、子ども相手に何やってんのよ。あんたたちは」
「あ…」

現れたのは坂下真砂。来が消えたとの連絡を農家のおじさんから受け、駆け付けていた。
その後ろには数個の雪玉を抱えたフィサリスがいつでも投げられるように構えている。

「この状況じゃいちいち言い分け聞くだけ無駄ね」
「す…すぐに仕事に戻ります!」
「仕事ね…。あんたの分はとっくに終わったわよ」

来、真冬の雪原にて冷や汗をかく。

「フィサリスちゃん、あとの始末は任せていい?」
「ええ、もちろん」

フィサリス、妙に楽しそうである。

「し、始末ってえらい人聞きの悪い言い方せんでも」

真砂、すでに帰路につく。仕事を残してきていた。

「さ、来さんも準備はいいですか? 思いっきりいきますから」

ちなみに、子供たちはすでに蜘蛛の子を散らしていた。

このあとどうなったかを知るのは、フィサリスただ一人である。


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北国であるよんた藩国の冬は、雪に覆われ一面の銀世界となる。植物を育成するには不向きそうな環境ではあるが、やることはある。

ニンジンなどの根菜の一部は土中にあれば雪の下でも腐ったりはしない。それどころか、栄養が濃縮され、甘みが向上する。
同様に、ホウレンソウをはじめ葉物野菜を寒気にさらすことで栄養評価がぐんと上がる。
ただし、凍ったり霜が降りたりしないよう注意が必要なため、ほかの季節とは違った気配りが必要である。

葉物野菜は雪や霜に弱いため、畑でそのまま冬を迎えるわけにはいかない。そのため、ビニールハウスを使う必要がある。
ただし普通のビニールでは積雪に耐えられないため、研究開発された特殊な透明のフィルムを使用している。ビニールではないが慣習としてビニールハウスの名前だけが残っている。
秋に小麦を刈り終えた農地にビニールハウスの建築をするのである。刈り取り作業を終えたヤドカニオウやその整備をしていた白柴がその作業を手伝うので、大した時間はかからない。
問題は、小麦を刈り取ったばかりなので土の力が弱まっていることである。

それを解決するのにもヤドカニオウが使われる。
地面を耕すように改造されたヤドカニオウの内部には、川沿いにある豊穣を約束した土が積まれている。
耕しながら畑に少しずつ豊穣の土を混ぜ込むことで、土の力を取り戻すのである。
土の中に含まれる栄養分や微生物が定着するように、1週間ほど畑は放置される。(この間にビニールハウスの設置にいそしんでいる)
こうすることで、この冬だけでなく次の年もよんた藩国の畑に命があふれるのである。

一方で、一部の畑は耕されもせずにそのまま雪に埋もれていく。
別に手抜きをしているのではなく、前述の根菜類が埋まっているのである。
雪が積もる前にヤドカニオウに埋まっている場所を入力しておき、雪が積もっているときに掘り出すのである。
昔は手作業でやっていたため、大変な重労働であったが、農業機械として配備されたヤドカニオウによりずいぶんと簡単な作業となった。
おいしいもの好きなこの国において、簡単な作業で済むならと本来であれば比較的暇である冬の間も農作業をするものが増えていった。

とはいえ、冬の間に使われる畑の面積は全体からみるとそう広くなく、ほとんどは雪に覆われただの雪原へと変わっている。
そして、もともと畑である以上、そこに暮らす人々にとっては庭のようなものである、子供たちにとっても。
冬が長いので学校の冬休みも長いため、多くの子供たちがこの真っ白な畑で雪遊びに興じる姿をよく見かける。
中でも雪合戦は遊んでいるうちにエスカレートし、周りの大人を巻き込んだ大掛かりな対戦ゲームになることもしばしば。
ただし、子供はともかく遊んでいた大人は、あとでこっぴどく叱られるのが常である。

よんた藩国の冬の仕事はこれだけではない。

もともと、冬に農業ができなくなることを考慮して、ウシやヒツジなどの家畜を飼っているのでその世話は一年通して行われる。
そのほかに、秋までにとれた食材を利用して、保存食や加工品を用意する作業もある。
さらに、カニなどの海産物も冬はおいしい季節なので、漁に出掛ける人も少なくない。
農作業がない分の余った時間を利用していたのだが、ヤドカニオウの登場により冬にも農作業するようになり、冬もほかの季節同様いろいろと忙しい時期となった。


農業

主な作物はビニールハウスで育成可能なもので、ホウレンソウ・小松菜などの野菜のほか、イチゴのような果物も栽培している。
ビニールハウスは特殊な透明フィルムを使用することで、耐久性・保温性を向上させており、一冬越しても壊れないようになっている。
ただ、少しでも日光を入れるため、また倒壊の危険を回避するため、雪かきや融雪剤散布などの作業は必須である。
イチゴ栽培に関しては、主に国のメードたちの要望によるものである。日夜精勤している彼女(彼)らのために、藩王自らイチゴ栽培の奨励を行った。
こうして、よんた藩国の甘味処にイチゴのメニューが並ぶことになる。
ちなみに最近のはやりは、お餅のようなモチモチしたよんた饅の皮にイチゴと餡(もしくはクリーム)を包んだ「シュガー!イチゴ饅」である。


 ・ホウレンソウ
ホウレンソウはビニールハウスで育てることができるため、冬でも栽培はしやすい。
収穫できるくらいまで大きくなったところでビニールハウスに風を通す。
こうすることでホウレンソウの生育が止まり、ストレスにより糖度・ビタミンなどが増幅する。
少し葉が縮れてしまうが、生のままでもサラダにできるほど甘くなるため、野菜嫌いの子供でもバリバリ食べることができると人気を博している。

 ・ニンジン
乾燥に弱いため、上からワラをかぶせたりして栽培する。
収穫できる状態のまま60日ほど雪の下で寝かせることで、うま味成分や糖度などが増える。
これは、細胞が凍結することを防ぐため水分の吸収を抑える防衛機能によるものである。
こうしてとれたニンジンは果物に匹敵する甘みを持ち、子供たちにも人気である。
普通の野菜ジュースに混ぜるだけで、直接砂糖を入れるより甘くなるためビタミン不足になりやすい不摂生な方にも重宝されている。

 ・イチゴ
よんた藩国ではホウレンソウなどとは別に、
常設されたビニールハウスにて秋から冬にかけて栽培される。
一般農家で作られているのは適度な酸味と整った形が自慢の品種で、
お菓子の素材として使われることが多い。
しかし、非常に甘党な農家が自己満足のために品種改良を重ね、
平均糖度が18を超えるような非常に甘い品種を開発した。
さらにその品種は、一粒一粒がイチゴとしては非常に大きく、
野球のボールに迫るほどの大きさがある。
この品種をしぼりたての牛乳とミキサーにかけるだけで、甘いイチゴミルクができるという。
忙しい朝のビタミン補給にぴったりである。
デザートに使用することが多いため、ほとんどは生のまま出回っているが、
一部はジャムなど加工され出荷される。

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農作物の加工

秋に収穫された大量の農作物には、冬の間に加工されるものもある。むしろほとんどは冬に加工される。
時間のかかる酒造りなんかは秋に収穫が終わった直後から始まるが、比較的手軽に作ることができるジャムや乾物などは冬の手すきの間に作ってきた。
最近の冬は随分と忙しいが、それでも手を抜いたりすることは許されない。
なぜなら、食べるものを適当に作るなど、このよんた藩国であってはならないからである。
そして、適当に作ろうものなら近所の女性たちに袋叩きにされること間違いなしである。
なお、よんた藩国の女性陣は適当に作るなど決してすることはない。

主に作られるのは、千枚漬けや沢庵、ぬか漬けといった漬物や切干大根のような乾物などの保存を目的としたものである。
他には前述の酒造りにいそしんでいる。
また、乾物の一種としてドライフルーツ作りも行われている。多いのは干し柿とレーズンである。
民家の軒先に縄で柿がつるされている光景は、冬の間あちこちで見ることができる。


畜産

冬の主食は、秋までに刈り取った牧草を乾燥させた飼い葉や、生育不良だったり途中で間引いたりした穀類を混ぜたものである。
それをそのまま飼料とするのではなく、一度発酵させることで有機酸を増やし、カビなどの発生を抑えることができ、長期の保存が可能になる。
有機酸自体がウシをはじめ、家畜の成育を促し、乳量が増えたりする。

 ・ウシ
よんた藩国内の多くは乳牛として飼育されている。乳牛とはいえ改良されており、食肉としても問題ない品質となっている。
飼育されているのは大まかに、白黒斑点を持つホルスタイン種と褐色(茶色)のジャージー種である。
ホルスタイン種は乳量も多く、脂肪分が少なく主に飲用として用いられる。
ジャージー種の生乳は脂肪分が多く、主に加工用として使用される。
よんた藩国ではジャージー種の数のほうが多く、乳製品の加工に力を入れている。

数としては多くはないが、一部の農家では肉牛の飼育に力を入れている。
生産効率としてはあまり良いほうではないが、肉質は最高級であり、一頭当たり100万わんわんを超えるものも出るくらいである。
「よんた牛」は、やわらかくうま味成分を豊富に含んでいる。脂肪分は少なめではあるが、その分カロリーは抑えられている。

 ・ヒツジ
毛糸の材料として各農家で大切に飼育されている。
羊毛はもちろん、肉や皮も利用できるため、ウシに比べると絶対量は少ないので、主に国内で消費されてしまう。
毛を刈るのは春であるため、冬は毛の品質管理に集中する。
余談ではあるが、刈り取った羊毛を洗う時に出る油分を精製したものは保湿効果が高く、つらい水仕事にいそしむ藩国の奥様方(メード含む)に重宝されているという。


畜産加工品について

よんた藩国で作られるのは主に、 チーズやバターなどの乳製品・ハム、ソーセージなどの加工肉 が主流である。
どちらも、もともとは保存を目的に作られていたが、最近では食材としての価値が認められ、それらを専門にしている農家もある。

 ・乳製品
よんた藩国では、チーズやバターのように牛乳に手を加え固形化させたものを保存食として利用するしてきた。
保存食とはいえ、おいしく食べたいのがよんた藩国というもの。

最も多い加工法はスモーク、つまり燻製である。主に枝切りをした桜などを使用し、薫り高いスモークチーズを作る。
後述のソーセージをはじめとする加工肉も一緒にスモークすることで、効率よく燻製を行うことができる。
他にも、ほとんど手を加えず分離した脂肪分をそのまま食用とする場合もある。
その場合は保存期間が短いため、たいていは農家近隣で消費される。
あと、カビ菌の力を借りて熟成させる方法がある。が、そういったチーズはほとんど出回らない。
なぜなら、供給に対して需要の絶対量が多いからである。
ほとんどの農家は保存が効き、なおかつ食べやすいチーズを生産しており、癖の強い熟成チーズをあまり作らない。
一方で、おいしければ何でも食べるよんた藩国民は、癖が強かろうとおいしいものはおいしいと、酒の肴に熟成チーズを食べることもしばしば。
これにより、熟成チーズは他に比べ、少し値段の張る高級品となっている。

乳製品で忘れてならないのがクリーム作り。
この時期、ビニールハウスで採りたてのイチゴと搾りたての牛乳から作ったクリームを使った、旬なショートケーキを楽しむのは冬の楽しみの一つである。
よんた藩国、冬のデザートの定番となっている。

 ・加工肉
ウシに比べ、ブタの飼育数は多くない。そのため、もともとハムやソーセージは地元でのみ消費されてきた。
しかし、おいしいものを求めるよんた藩国のメードがそれに目をつけ、国中に広めた。
特に、ソーセージをよんた饅の生地で包んだ『ヨンタドック』は新たなるブームの兆しを見せており、メニューに取り入れる店が増え、専門の露店が出るほどである。



海産物

冬のはじめ、魚の多くは脂肪を蓄えおいしくなる。その機会を逃すようなよんた藩国ではない。
なにより、冬の間はカニ漁が盛んとなる。
カニ鍋は冬の楽しみの一つではあるが、鍋を囲むメンバーの選択を誤ってはいけない。
なぜならば、かつて5人の乙女が繰り広げたカニ鍋をめぐる攻防戦は、よんた藩国内の伝説と化しているほど、カニ鍋が真剣勝負になるからである。


文章:雷羅来@よんた藩国
イラスト:坂下真砂@よんた藩国



                                                                                                    
秋へ                                                                                                    春へ
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