このSSは設定群の一つ、<よんた藩国名物・雪祭り>を元に書かれたものです。

「或る吏族の雪祭り」

これはある一人の吏族のお話である。
彼は・・・・・・仮名としてA君としようか。
A君はその日一人慌てていた。
周りの連中は雪祭りだ~♪と
しっぽふりふり会場にいそいそ向かっているというのにA君だけはその波に乗れずにいる。
雪祭り。
藩国で行われる祭りの一つ。
雪がゆるみ、あともう少しでくるであろう春を祝う祭り。
藩国民総出でつくった雪像で飾り、街中を祭りの屋台で埋め尽くし、国中で春を待つ。
元々の起源は冬の間の蓄えを春まで残して腐らすのはもったいないと
当時の藩王が始めた宴会であるという話もあるが、今の国民にはそれはあまり関係ない。
ともかく、国はお祭りムード一色でそれは政庁も例外ではないということだ。
さて、話を戻そう。
A君は政庁を駆けずりまわっていた。
理由は単純、藩王が消えたのである。
他の吏族に聞いても知らない、わかんない、
どっかのラーメン屋にでも行ったんじゃないか?だのとマトモな答えは一つとして返ってこない。
この国ってホントにこんなことで大丈夫なんだろうか?と入庁したての新人であるA君は不安で一杯であった。
ワタワタするA君に一人の先輩が声をかける。Bさんである。
「どうしたの?」
「藩王さまがいないんです・・・・・・」
A君の目はウルウル今にも泣きそうになっている。
それを聞いたBさん、ああそういうことかと納得。
「それなら、心配はいらないよ」
「へ?」
「どうだいA君、キミも雪祭りにいかないかい?」
「なにいってるんですかっ、皆おかしいです。藩王さまいないんですよっ!?」
なみだ目でぶ~とほほを膨らませ怒るA君をなだめ、BさんはA君を街へ連れていく。
二人が着いた街は活気にあふれていた。
カラフルな屋台の屋根や照明、ごったかえす人ごみ、大雪像の下で遊ぶ子供達。
吏族も文族も技族も大族もなにもかも関係なく祭りを楽しんでいる。
「こ、これは・・・・・」
呆けた顔のA君を微笑ましく見守るBさん。
「そういえば、キミは移民だったね。じゃあ知らないのも無理ないか。ウチじゃ毎年こうなんだ」
「毎年・・・・・・ですか?」
「毎年。いつもこうなんだ」
と、Bさんはそこらでたこ焼きを食べてた吏族に声をかける。
「どう?今年の屋台は?」
声をかけられた吏族ははふはふと湯気を口からもらしつつ答える。
「はふ。そうですねえ。今年はフランクフルトが豊作です。アタリの店がわんさとありますよ」
「ありがとう」
Bさんはまた後でとその吏族に別れを告げ、A君を連れフランクフルト屋を回りはじめた。
店のアンチャンと二つ三つ言葉を交わしフランクフルトを買っていく。
Bさんは自分ひとりじゃ食べきれないからとA君にもそれを渡した。
戸惑いつつも受け取るA君。せっかくなので一口かじってみる。
皮が弾け肉汁が口中に広がる。
濃厚な肉汁を香り高いマスタードがその味を膨らませケチャップが爽やかに舌の味覚をリセットしていく。
「あ・・・・・・」
確かにBさんに買ってもらったフランクフルトは美味しく、そして暖かい。
焼きたてだけじゃなく、なんというか人のぬくもりのようなそんな物を感じさせる味だった。
「たしかに、今年はアタリみたいだね」
A君の食べっぷりをみてBさんが言葉を漏らす。
気がつくと手元のフランクフルトをA君は全部平らげていた。
それに気がつき顔を真っ赤にするA君。
「それじゃ、次の店に行こうか」
コクリと頷き歩く二人。
そこに父親が子供に声をかける声が聞えてくる。
大きな声だったので二人はふっと目がいった。
「もうちょっと寄れって。そうそう、撮るぞ~。動くなよ~」
眼鏡をかけた兄らしき男の子が恥ずかしげにカメラを見ている。
その一方、弟らしい子はカメラの方を楽しげに見詰めていた。
「はい、チ~ズっ」
カシャリとシャッターが切られる。
兄はやれやれといった顔しながら弟に手をひかれ、父はそのあとを追って祭りの喧騒に消えていった。
「ん?あれ??」
A君の視界にあるものが飛び込んでくる。
親子が消えていった方向、その一つの屋台にスピードくじを物色しながらフランクフルトをかじる王冠を頭にのせた男がいる。
もう片方の手には何にもつけてない素とケチャップのみとマスタードのみと
両方つけたものの四本のフランクフルトの入ったパックを持っていた。
「あれって・・・・・・」
「うん、藩王さまだね。やっぱりフランクフルト食べ歩きしてたか」
「ってことは今までの店巡りって・・・・・・」
「そう、藩王さま探しの一環」
「じゃあ、他の吏族の人たちも・・・・・・」
「藩王さまを探すついでに祭りを楽しんでただけだよ」
はははは、と乾いた笑いがB君から洩れる。
「さあ、お仕事に戻ってもらいましょうか」
「・・・・・・ですね」

藩国時間、夜7:56分藩王捕獲。
即刻、政庁へ強制連行。
執務室にて政務再開。
推定作業時間24時間。

なお、連れ帰られる際の最後の言葉は
「まだ5軒のこってるっ!それに〆のラーメン喰ってねえ~~~~」
だったそうな・・・・・・。

(文:よんた)