「ねえかくたさん。男の人って、女を一度手に入れてしまったら、飽きてしまうんじゃない?」

「んー、そうだね。物だったらそういう所あるかも。」

「どういうこと?」

「つまり、真砂さんは「真砂さん」という、素敵な存在なんだよ。
すねて可愛らしかったり、小悪魔さんだったり、今はちょっと不安だったりね。」

「うん」

「真砂さんは、物じゃなくて存在で、しかもそれは毎日変化成長していくもので。
いつでも私は新しい発見ができる。まぁ、一言で言ってしまえば、飽きる事なんてあり得ないんだ。
特に真砂さんに関しては、世界中の誰にも負けるつもりはないよ。」

「~~~~ッ」

                           ある夏の夜の会話


/ * /


「―――さん」


 呼ばれたような気がして、私は重い瞼を半分開ける。寝ぼけ眼に映ったのは可愛らしい見慣れた顔。
もちろん真砂さんだった。
化粧をしていないので、実際よりひどく子供っぽく見える。
ついでに付け加えれば、エプロン装備で私を覗きこんでいる。

長いまつげが、ふるっと揺れた。

「かくたさん。大丈夫?」

 私は「あー」とか「んー」とか、そんな曖昧な返事を返してみる。
私の意思とは裏腹に、体は布団から逃れる事を拒否していた。

 真砂のほぅ、とした吐息が聞こえ、パタパタとスリッパの音がフェードアウトして消えた。
うん。もう、すこ・・・し、だけ、ねむろ・・う。


 ―――最後の戦いから、2週間が経過していた。



季節はもう夏で、そして平和だった―――王宮での仕事場を除いては。

インフラの復旧。兵員の職の斡旋。通貨の安定、兵器に頼らない経済体制の確立。すぐ逃げる藩王。エトセトラエトセトラ。

まぁ、つまり。

むちゃむちゃ忙しいのである。

もっとも、忙しいのは真砂さんも同じで、それでも夜遅くに二人で夕飯を作って、その。まぁ、一緒に食事・・・その他
な生活は夢のように楽しい。


/ * /

「それでね、エルザさん所のチヨちゃん。もうすぐ1歳なんですって」

「へぇ、もうそんなになるんですね」

「そうそう、それがもう、手のひらなんてちっちゃくって可愛くて、あたしの目ぇ見ながら指をキュ―ッって握るのね。
もー、それがまた胸にキューンと来るのよー」

「そっかー。うん。私も暇を見つけて今度行ってみよう。うん。美味しい。」


サクサクのトースト。口に含むとじゅわっ とバターの香りが口いっぱいに広がる。

「真砂さん、アレとってくれる?」

「ん、はい」

迷わずにコーヒーをこぽぽと煎れてくれる真砂。

「うん。ありがとう」

うん。僕の好きな銘柄だ。豊かな香りが鼻腔を擽り、程々に熱い黒い液体が喉をスッと降りてゆく。

真砂さんは、「いえいえ」と言おうとしたんだろう、が、その口の形を3に変えて

「んー、アレじゃわかんないでしょー」

「分かったじゃないですか」

「いや、分かるんだけど、そういうのは長年連れ添った夫婦とか、の、会話よー?」



冗談を言うように、ニコニコとしながら、言う真砂さん。

うん。

ここ最近、真砂さんから発せられる電波というか、サインに気づいてはいた。

もちろん、その意味も。

ただ、それを現実に下ろすには、彼女が大切だからこそ、今少しの時間が必要だった。

だから、今まではそれとなく誤魔化してきた。

真砂さんも重くならないように気を使っているのだろう。

いつも冗談のような口調で、追い詰めたりはしなかった。

今もニコニコと笑っている。


時間、か。

心の中で反芻する。

今、私に出来る事は何だろう。この人の為に。この人と生きていくために。


そんなこと、分かってる。だろ?と心で声がする。

そうだね。足りなかったのは、時間じゃなくて覚悟だったのかな。

「ふむ。」

「ん?どうしたの?」

細い首をくの字に曲げる真砂さん。

「私も、そう思う」

瞳が大きく開き、じわじわと首が桃色に染まる。

「ぁ、あたしも!」

こく。こく。こく。と、頷きを3回。

「ん。ところで、明日は休みでしたよね。少し出かけてみない?」

真砂さんの口がぱくぱくした後、への字に曲がる。ちょっとシュンとした感じで

「ぐぅー上手くいかないなぁ」

「料理は美味しいよ?」

「んー、まぁいっかー」

そういって、下を向きながら、つつつっと私に柔らかな体をぴったりと寄せてきた。

ふわりと香る真砂さんの柔らかな香りとぬくもり。

明日は運命の日になるな。

そんな決意を、私は静かにしていた。

→結婚行進曲2

(文:槙 昌福)