特別授業 文族編(手品師と植物学者の場合)



ここはよんた藩国分校。
今日もここでは特別授業が行われる。

「はいみなさん今日は文族の槙さんと、雷羅さんにきていただきました。」
「こんにちは、槙です。文族ということですが、本職は植物の研究をしています。」
「どうも、雷羅言います。面倒なんで来、ゆーてください。
 えー自分の本職はマジシャンです。」
そう言って、とりあえずポケットからハトを取り出し、窓の外に飛ばす。
どうでもいいがこの二人、片方は難しい顔をした真面目な学者。
もう片方はマントをつけた、変な手品師。
自然と子供達の間には、疑いの空気が流れていく。

「…来君、非常に言いにくいのだが、子供たちが少し引いているようだ。ハトはやめておいた方がいい。」
問題はそこか?
「せやけど、つかみは大切やからな。ハトがあかんのやったら…。」
同じポケットから真っ白なウサギが飛び出た。そのウサギを教卓の上にのせ、マントを一度通らせる。
マントがきれるとそこには、雪でできたウサギがあった。

「これならどや?」
どや、と言われてもなあ、である。
明らかに子供達の視線は疑念がこもっている。ひそひそと「あれ、なにやってるの」とか囁いているようだ。
「んー、あかんか。ほな、次は…。」
「来君、今日私たちは、君の手品を披露しに来たのではない。」
「しゃーないな…。ほなさっさと進めてください。」
一番進行を妨げているのは、これを言った本人である。

「さて、今日皆さんにお話しするのは私たち文族についてです。
 私達の仕事について何か知っていることはありますか?」
しばらくしーんとしていたが、やがて一人がこわごわと手を上げた。
「…えーと、いろんなお話を書きます。」
まるで、取って食われるかのような怯えた様子である。

「はい、その通りです。主な仕事は文章を書くことです…って、今度は何をしているんですか?」
来は、答えた生徒の元へ行き、ビー球のようなもの見せ、それを自分の左手の中に隠した。
右手の指を鳴らすと、ポンッと花が現れる。
「はい、正解のご褒美や。」
左手の花を生徒に手渡す。

「あなたは毎回それをやる気ですか?」
「あかんかな?」
「やめておいた方がいいでしょう。」
というか、それを毎回記述するこっちの身になってほしいものである。
ということで、正解のご褒美は以降ありません。

「さて、話を戻します。主な仕事は文章を書くことですが、書く文章にもいくつか種類があります。
 大まかに分けると、普段の私達の生活を記したもの、藩国の施設などについて記したもの、
 中央政府から来る知らせを受けて書くもの、藩国から誰かが出た冒険について書くもの、などです。
 これらの仕事で書かれた文章は、藩国民及び、来訪者に広く読まれることになります。
 場合によっては中央政府に提出する事もあるので、うかつな事はかけません。」

「そうはゆーても、お上恐れてジャーナリストは務まらんからなぁ…。」
「あなたはいつからジャーナリストになったんですか。ただの怪しい手品師でしょうが。」
「あ…怪しいて、人を怪人呼ばわりせんといてーな。」
「正確には『奇人』ですね。」
「槙センセ、さりげにひどい事ゆうてません?」
「事実ですから。」
掛け合い漫才の様相を呈してきた授業に、生徒達はようやく笑顔になりつつある。
「さて、皆さんの緊張がほぐれてきたところで、すこし実習してみましょうか。
 そうですね、では、よんた藩国についての紹介文を書いてみましょうか。
 私と来君が、見て回りますのでなにかありましたら手を上げてください。」

「はーい。せんせー、できました。」
「では、見せてもらいます。
 『よんたはんこくは、よんたまんがすごくおいしいです。ごはんもとってもおいしいです。
  ゆきもいっぱいふります。ふゆはまっしろです。
  でもはるがきたら、みんなでさくらをみます。たのしいです。』
 なるほど、大変よく書けてますね。よんた饅のおいしさは確かに紹介するのにふさわしいですね。
 さて、他の皆さんはどうですか?」
もうすこし、と近くにいた生徒が答えた。
「もうすぐ授業時間が終わりますから、がんばって書き上げてください。
 おや、来君はそんなところで何をしているのですか?」

来は、壁際でうずくまっている。
「ん…、ちょっとネタの仕込中やから話しかけんとって。」
「…ほんとうに、あなたは何しに来たんですか?」
「何って…、なんやったっけ?」
次の瞬間、来は反対側の壁際にいた。別に瞬間移動したわけではない。
槙は怖い顔をしながら肩で息をしている。
固く握られたそのコブシからは、煙が出ているように見えなくもない。
「ふざけるのもいい加減にしなさい。ふっとばしますよ。」
すでに吹っ飛んでいる事に、言ってる本人は気付いてないのである。
この槙という学者、この国に来て猟師たちにバシバシされて無自覚ながら強化されていた。
ちなみに、来はピクリとも動く気配がない。
生徒達はというと、かなり怯えた目で二人を交互に見ている。
そして、タイミングよく鳴った終了の合図で、生徒達は一斉に教室から逃げ出した。

~数時間後~
来が目を覚ますと、なぜか保健室で寝かされていた。
しかも、なぜここにいるのか、どうしても思い出せそうにない。
かろうじて覚えているのは、役所に顔を出してすぐ、槙センセと学校行くように言われたことだけだった。
学校へ行く理由を聞いたのかどうか、もはや本人も思い出せなかった。



(文:雷羅 来)