ゼロの傭兵

第7部

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だれでも歓迎! 編集
521 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:16:56.42 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


「なんであんたがここに居るのよ!」
キュルケが詰め寄る。
「いやぁ~、麗しきレディたちが徒党を組んで馬車に乗ったものだから…
 彼女達はどこに向かうのかと聴いたら、フーケ討伐と言うじゃないか。

 だからボクは、君達のことが心配になって駆けつけたんだよ。
 あぁ、この『青銅』のギーシュが来たからには、
 何も心配することはないよ、レディ達!」
大仰な動作で薔薇の造花を振り回すギーシュ。
貴様はアホか。お前など何の役にもたたん。いやむしろ足手まといだ。

「ギーシュ、あなたねぇ…
 まぁいいわ。1人でも戦力が増えれば頼もしいし。

 って言っても、肝心のフーケはどこなの?
 まさか『破壊の杖』置いて逃げたわけじゃないわよね?」
ルイズがいぶかしげに周囲を見回す。
『破壊の杖』……、なるほどこれに魔法使いは価値を見出せないだろう。
使えないと諦めて置き去りに逃げた可能性もある。
だが警戒はするだけ無駄ではない。
この瞬間にも、フーケは木々の合間からこちらを伺っていると考えるべきだろう。

そう、たとえばあのゴーレムを出して…

…出して。

522 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:17:19.06 ID:FoSOhnag0

目の前には、あの時見たゴーレムが現れていた。

「散れっ!!」
俺の言葉に反応し、そしてゴーレムを目にし、5人で一斉に散開する。
数秒前まで俺達のいた場所を、巨大な拳が押しつぶす。
地面のへこみ具合からして、確実に即死。人間の形も残らないであろう
その一撃は、容赦なくして再び振り上げられた。
全員森に逃げ込み、なんとか姿を隠そうとはしたのだが、
それでもゴーレムが歩き回るだけで、致死の巨大な足が迫ってくるのだ。

みるみるうちに一帯は平地と化し、全員が逃げるにはあまりにも
不利なフィールドが出来上がった。
俺の近くに居るのはギーシュのみ。
ルイズを見ると『破壊の杖』を抱えながら走り、
タバサとキュルケは蒼い竜に乗って上空に待避している。

「おぉーい、タバサァー!!
 僕達はここだー!たすけてくれー!!」
バカがっ。そう思った瞬間にはもう遅かった。巨大なゴーレムの腕が、
風でも起こすかのように左手を横に凪いでくる。
それはさながら高速で迫る壁だった。
間一髪のところでギーシュごと飛び退り、まともに受身も取れないまま
地に落ちる。ギーシュは頭を打っていた。いい気味だ。

523 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:17:45.44 ID:FoSOhnag0

「ちょっ!やめなさい!!
 『破壊の杖』はこっちよ!!」
ルイズがゴーレムとの対角線で叫ぶ。
本当はこれもまた危険な行為なのだが、そちらに注意が向いたことによって
なんとかギーシュを引きずり、待避することが出来た。

さらにはゴーレムが地響きを立ててルイズを踏み潰す前に、
タバサの竜がルイズを乗せ、上手く空中に待避した。

懐からグロック19を取り出し、前回フーケが乗っていた右肩を見る。いない。

いやそれどころかゴーレムのどこを見ても、人間らしきものは見えない。

とすると中?間接部は無理だとしても、胴体ならあるいは……!



アーバレストから放たれた鋼鉄の矢が、ゴーレムの腹部に深々と突き刺さった。

立て続けに4発。と言っても武器の構造上、1分ほどかかっての4発。
出来れば後ろからも射ち込みたいところだが…

届いたか!?


ゴーレムの動きが、止まった。


◇◇◇

533 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:36:49.46 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


ゴーレムは僅か、確認するように身体を動かした後、
再び動き出し俺を追ってきた。

ギーシュは幸い気絶していたのでわめく事も無く、木の陰に隠してきた。

ゴーレムの動きはASに比べればまるで遅いものだったので、
走るだけでもかく乱できる。
背後に回りこんで2発の鉄の矢を射ち込む。
厚み、形状から考えてこれで止まらなければ中に人間はいないだろう。


…ダメだ、まだ動いている。
前回ルイズの爆発で壊れた部分は、瞬時に再生されていた。
つまり…フーケを殺すか、こいつを粉々にする他にないということか…

それにしても、おかしい。
明らかに身体能力が上がっている。
あれだけの重さだったアーバレストがこんなにも軽く、身体になじんでいる。
どういうことだ?俺はここまで速くは走れない。

そこまで考えたところで、ゴーレムの腕が同時に振り下ろされた。
判断を誤らず直撃は免れたものの、地面をえぐったときの土砂の破片が
身体を強く打ちつけた。
大したダメージではないが、まずい。一瞬足が止まった。
その瞬間、視界の両端がぐわっと暗闇に包まれる。

両手を開いて押しつぶすような攻撃を受けている!

534 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:37:12.30 ID:FoSOhnag0
完全に手詰まりだった。なんとかバックステップで回避を試みるが、
これは完全に間に合わない!!
やられる!

ドォン!!

ゴーレムの頭にあたる部分が爆発した。
知っている、あれは…
ルイズの魔法だ。プラスチック爆弾と同じ色と理不尽な爆発力を誇る、
導火線いらずの極点爆破…!

ゴーレムの動きが一瞬止まり、その隙に脱出に成功する。だが右足を負傷した。
動けない傷ではないが、打撲はとっさの動きを鈍らせる。
もはや謎の体力の上昇を加味しても、近距離での戦闘は無理だった。
いや、だがゴーレム相手に近距離で戦闘をする必要は無い。

それよりルイズだ!
今ゴーレムの注意はルイズに向いている。
ルイズはというと、上空から竜にのって攻撃したのかと思いきや、
地に足をつけて、自分の身長とほぼ同じ長さをもった『破壊の杖』を、
丸太を両手で持つかのようなポーズで構えている。

「このっ!このっ!!
 何よこれ、ホントに魔法の杖なの!?」

ルイズは必死で魔法を使おうとしているが、何も反応は無い。
その間にもゴーレムは距離を詰める。

535 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:37:48.77 ID:FoSOhnag0

「ルイズーーーッ!!逃げろーーーッ!!」
ルイズに向かって叫ぶ。ダメだ。ルイズは聴こうとしない。



「魔法を使えるものを貴族と呼ぶんじゃない………」


ルイズは、13kgもある『破壊の杖』必死で振り回す。


むしろ振り回されているようにしか見えないのだが、食いしばった歯が覗く。




「敵に、後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!!」




◇◇◇

570 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:56:04.11 ID:FoSOhnag0
◇◇◇


ドスドスドスドスドスドスッ!!

ゴーレムの背中に4、5…6本の剣が刺さっている。
あれは…青銅?
射線の元にはギーシュ。

「は… ヴァリエール、よく言った!
 ボクは貴族だ!!」
ギーシュの足は震えている。
ゴーレムはルイズが何もしてこないと認識したのか、驚異対照として
ギーシュに向き直り、歩き出す。

その瞬間、今度はゴーレムが大きく転び、その四肢が氷づけになる。

氷!? いったい誰が…!
と、上空には竜の背中で杖を構えるタバサ。
隣にはキュルケも居るのだが、口惜しそうに爪を噛んでいた。

なるほど、たしかに土相手では超常の炎ですらあまり効果は無さそうに思える。

この隙にルイズにかけよる。見ればゴーレムの四肢を覆った氷は、
ピキピキという細く硬い音を幾重にも鳴り響かせながら、砕けようとしている。
時間の問題だろう…

571 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:56:28.99 ID:FoSOhnag0

「ルイズ!なぜ降りてきた!死ぬ気か!」

ルイズは、その場にへなへなとへたりこんでいる。
無理も無い。あのゴーレムに詰め寄られ、
そして13kgにして145cmの『破壊の杖』を振り回したのだ。

「だって…悔しくて……
 いつもみんなが、私をゼロって言うから!

 『破壊の杖』でフーケを倒せば……
 きっと認めてもらえるって…!」
ルイズはその大きな瞳に涙を溜め、腕で拭った。

「ルイズ……」

ピキキッ

氷が限界を迎える音がする。
ルイズから『破壊の杖』を受け取り、装弾数を確認する。
全弾補充。チェンバーまでで11発…

いやまて、これは……

『破壊の杖』には重要なパーツが欠けていた。
これでは照準も定まらない上に、作動と同時に肩が粉砕してしまう。

572 名前: ひよこ(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/05(木) 23:57:02.93 ID:FoSOhnag0

手ごろな石か木は無いかと探し始めたとき、ついに氷が砕けた。
ゴーレムが腕を突き、のっそりとその巨体を起き上がらせようとする。

「ルイズー!ソースケ!」
ギーシュが走り寄ってくる。森を迂回してここに向かってきたのか。

ゴーレムに近すぎてタバサの竜は近づくことが出来ないらしく、
上空で旋回を続けている。

肩を粉砕させて一発だけ撃とうと意味はないのだ。
11発すべてを的確に構造的弱点に叩き込まなければ……!

手ごろな石か、木は…… いや、待て。



「おい、『青銅』のギーシュ」
「なんだい?使い魔くん」



◇◇◇

ここで日付が変わりID変更


622 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:21:35.54 ID:cvUqkgd60
◇◇◇


ドンッ!

ゴーレムの右足が爆発する。
だがそれは瞬時に地面の土を回収し、修復される。
願わくば転倒までして欲しかったが文字通りの足止め程度だ。
続いて2度目の爆発。
こんどはゴーレムとは少し離れた場所の地面がはねる。

―――わかったわ。私は足止めをすればいいのね。
   ありったけの魔法でなんとかしてみる。

ルイズの爆発は威力も命中率も低いが、爆発は爆発だ。
その衝撃自体は決して軽視できるものではない。

タバサと連携が取れないのが痛い。
だがタバサは上空から風だか氷だかの魔法を放って、
足止めに参加してくれている。キュルケも同様だ。

だが壊れた部位は次々に土で補われていく。
あれでは長くは足止めもできないだろう。

624 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:22:13.48 ID:cvUqkgd60

それでも3色の波状攻撃は、たしかにゴーレムの動きを鈍らせていた。


俺は今、ゴーレムから50mほど離れた場所で伏せた姿勢で待機している。

「ギーシュ…」
「まだだ、もう少し!最後のこれは少し複雑でね…」

遅い、この瞬間にも一番近くのルイズは危機に晒されているというのに…

セフティを解除し、
最初に頼んだ30cm程のA字型の青銅のパーツに先端を差し込む。

伏せたまま脇に挟み込むように抱え込んで構え、スコープを覗く…

「できた!できたよ!
 これでいいのかいサガラ軍曹!」

手渡された、青銅製の四角いパーツをチェックする。
青銅で出来ている分強度に不安が残るが… 構造は問題あるまい。

626 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:22:47.54 ID:cvUqkgd60

「問題ない。よくやった、ギーシュ三等兵」

受け取ったパーツをキャップをはめるように先端に装着する。
本体を固定し、力を逃がす方向を確認し、スコープを除く。


「うまく、いくのかい?その『破壊の杖』で…
 さっきルイズが振っていたけど使えなかったじゃないか。

 ましてや、君は平民なのに…」


「平民?違うな……



 俺は専門家(スペシャリスト)だ 」



◇◇◇

651 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:31:23.81 ID:cvUqkgd60

◇◇◇


「え、あれ…あれ?
 魔力が、切れた……?」

私が杖を振っても何の手ごたえも感じなくなったのは、5秒ほど前のことだった。
キュルケはまだ炎を放ってるし、タバサは2種類の魔法で足止めをしている。

でも、私の爆発が減った分だけ、ほんの少し、ほんの少しだけど
ゴーレムに余裕が出来た。

両手を組んで振り上げられるゴーレムの腕、さながら大槌のように。

キュルケの炎とタバサの氷が命中するが効果は無い。
炎にあぶられて黒くなった腕が、氷で凍らされただけだ。

肩をまわして振り下ろされる。

654 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:31:47.48 ID:cvUqkgd60

小さな私には空を覆うような巨大な黒い影。
目をつぶるのはやめよう。


私は貴族だから。

魔法が下手だって、ゼロのルイズだって…

私は、私は―――――



「―――― 私は

   ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだっ!!」


その瞬間。
私の爆発を何十倍にしたみたいな音が響いて。



ゴーレムは


砕け散った。


◇◇◇

671 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:40:34.33 ID:cvUqkgd60
◇◇◇


「げほっげほっ!

 お、おい!やったのかい!?

 る、ルイズは… ゴーレムは!?」

耳をふさげといわれた瞬間に、ひどい轟音が響いた。

ボクの周りには霧どころかシーツでも被せたかのような

ひどい煙に包まれている。

周りの様子は全く見えない。

ボクが最後に見たのは、サガラが『破壊の杖』を抱えて伏せている姿と、

ルイズがいるゴーレムの向こう側に、巨大な腕が振り下ろされたことぐらいだ。

「げほっ!…けほっ! いったい、何なんだこの煙は…」

まさか、フーケの魔法!?

辺りを警戒したが、人影は見えず、サガラも伏せていた位置に見当たらない。

672 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:40:59.77 ID:cvUqkgd60

ようやく煙が晴れてきた。

涙目になりながらも、僕はゴーレムのいた場所を見つめ、

そこに跡形も無いゴーレムだった土くれを見つけ、

それでもまだ、移動しただけではないかと思いまわりも見渡す。

だが、あのゴーレムの巨体は、最初の土くれ以外には見当たらなかった。

サガラはもうルイズのほうへ向かって歩いている。

『破壊の杖』を両手で下げながら。

「は……はは!

 やった! やったぞ!! サガラッ!!」

ボクは大手を振って、あの忌々しく目つきの悪い平民のに向かって叫んだ。

◇◇◇

683 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:55:29.42 ID:cvUqkgd60

◇◇◇


「ルイズ!ソースケ!」
着地した竜の背中から降りてきたキュルケが
叫びながら走り寄ってくる。いつもの余裕は無い。

「ねぇ、ルイズ!ルイズ!!
 大丈夫なの!?」

「………」
ルイズは黙ったまま、立ち尽くしている。
目は何も無い空虚を見つめたまま。

「ルイズ!?ルイズッ!?」
叫びが絶叫に変わる寸前だった。


「……っぷ。あははははっ!
 キュルケのくせにそんなに取り乱しちゃって!
 みっともないわねっ!」
ルイズはたまらず吹き出し、片手で腹を抱えながらキュルケを指差す。

684 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:55:51.67 ID:cvUqkgd60

要はそういうことだ。
ルイズは無事で、笑い飛ばすような元気に溢れている。

「私がどうにかなるわけないじゃない!
 私は貴族で、主人なのよ!

 最高の使い魔のね。」

ルイズがウインクしてみせる。かわいいものだ。

キュルケが半ば怒りながらも無事を喜んでいつものとおり言い合いをはじめ、
タバサも竜から降りて合流する。

そしてギーシュが加わると、

「それにしても…その『破壊の杖』の威力はすさまじいものだね。
 ボクは始めて見たよ、あれだけのゴーレムを一瞬で破壊するような魔法は」

「ホント…
 私が使ったときは、何も反応しなかったのに…。
 ねぇ、ソースケ、ちょっと見せて?」

「いや、まだ熱を持っている。
 下手に触ると火傷を負うことになるな。
 あとで見ればいい」

686 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 00:56:25.91 ID:cvUqkgd60

「そ。
 じゃあ仕方ないわね。」


「そうね、火傷は嫌だもの」


ロングビルの声だ、大方どこかに待避していたのだろう。
そう思って声の方向を振り向き、俺達は固まる。


「ご苦労様、使い方がわからなくて困ってたのよ。
 さ、ヴァリエールに『破壊の杖』を持たせて、こっちによこしなさい」

そこに立っていたのは、
黒い黒いローブを身にまとって、杖を構えた
ミズ・ロングビル――――『土くれ』のフーケだった。


◇◇◇

717 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:12:15.73 ID:cvUqkgd60
◇◇◇


油断していた。

対ASの戦闘なら、ASを機能停止か破壊すればほぼ戦闘は終了と言っていい。

だが相手は超常の人形、ゴーレム。
ゴーレムがいかなる強敵であろうと、メイジを倒せばそれで終了。
逆に言えば、

ゴーレムをいくら倒そうとも、メイジが残っていれば終了ではないのだ。

「さぁ。さっきの戦いで、ヴァリエールはもう魔法が使えないのはわかってるわ。
 その娘に『破壊の杖』を持たせて、こちらによこしなさい」

「ソースケ!」
ルイズが、どうしよう、とすがる目つきでこちらを見てくる。
だが問題ない。むしろあのフーケが構えた杖こそが未知数で問題なのだ。

「ここを掴め。取っ手があるだろう。
 ここを両手で持って運ぶんだ。この近くには触れないようにな。」

「……いいの?」

「大丈夫だ、俺を信じろ」

722 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:13:11.23 ID:cvUqkgd60

「さぁ早くしなさい!!」
ヒュンと杖が風を切る。一瞬身構えたが、キュルケやタバサが反応していない
ところをみると、ただの威嚇だったようだ。

ルイズがよたよたとフーケに向かって歩き出す。
ゴーレムとの戦いのときはあれだけ振り回していたというのに…
本当に、終わったと思って力が抜けていたのだろう。

そしてルイズがフーケに『破壊の杖』を手渡す。

ルイズは慌ててこちらにかけ戻ってくる。
フーケはルイズになど目もくれず、脇に挟むように構え、
ぎこちない手つきでトリガーに指をかける。

「全然使い方がわからなくて困ってたのよね。うんともすんとも言わないし。

 でもこの威力、『破壊の杖』の名に相応しいわ。
 今まで私のゴーレムを一瞬で粉々にまでした魔法なんて無かったもの。」

「……、つまり、誰かが使い方を知ってるのではと考えて、
 『破壊の杖』を渡しておいて追い詰めた、ってことですね」
キュルケが睨みつけるようにフーケを見る。

「そうよ、あなたたちでダメならまた次。また次と続けるつもりだったけど、

 手間が省けてよかったわ」
『破壊の杖』の先端をこちらに向ける。
ギーシュがとっさに杖を振ろうとすると
723 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:13:34.32 ID:cvUqkgd60

「動かないで!」

俺がそうしたようにフーケはスコープを覗いた。
先程の俺を見ていたギーシュはそれだけで反応し、杖である薔薇をしまう。


「さて、貴方達で試させてもらうわ…

 『破壊の杖』の威力っ!!!」




パンッ



◇◇◇

740 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:32:23.42 ID:cvUqkgd60
◇◇◇


フーケが崩れ落ちる。
ガチャ、という音と共に『破壊の杖』と共に。

きつく目を閉じた4人。あのタバサまでもだ。少し珍しく感じた。

フルオートでの射撃でゴーレムを破壊し、装弾数は0になっていた。
ましてやフーケはそれを知らずに、
あろうことか唯一の武器である杖をしまって、両手で抱え、スコープを覗き込んだ。

無防備に晒された左肩に9mmパラベラムの弾丸が撃ちこまれるまでに、
1秒も時間はいらなかった。

崩れ落ちたフーケに駆け寄り銃を構える。
動きが止まった。

恐らく、ひどく運が悪くショックで即死したか…
後者だと思うが衝撃で気絶したのだろう。

741 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:32:47.88 ID:cvUqkgd60


「え、死んで…ない?」
ルイズが自分の身体を両手で確かめる。

「無事だったの?私達」
キュルケが目を開けて、倒れたフーケを見る。

「はは……サガラに美味しいところを持っていかれてしまったな」
ギーシュは前髪をいじるふりをして額の汗を拭っている。膝が笑っているぞ。

「……」
タバサはそのままの姿勢で目を開けた。

「ねぇ、どういうことなの?
 どうして『破壊の杖』は……」
ルイズが問いかけてくる。

743 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:33:50.75 ID:cvUqkgd60
「これは、『破壊の杖』ではない。

 俺の世界の武器、バレットM82……通称・対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)だ。

 装弾数は最大11発。ゴーレムを撃つ時に使い切った。

 弾切れだ」

「うっそ、それ銃なの!?
 でも、銃があんな威力って……」
キュルケが驚愕している。

なるほど確かに、この世界の銃は未だに木製の部品を多く使い、
さらにはブローバックやフルオート掃射などの機能もない原始的なものだ。
さらに言うならば、このバレットライフルは陸戦規定し使用を制限されるほどに
強力すぎるライフル……コンクリートや厚さ30cmの鉄装甲を貫通する
12.7mmというあまりにも強大なNATO弾を試用したライフルだ。

普通のライフルのように立ったまま抱えて打とうものなら、
容赦なく反動で肉体を損傷する。

採用直後のアメリカ軍では、反動だけでヘルメットを被った兵士の頭蓋骨ごと
真っ二つにしたいう記録もある。

744 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 01:34:11.37 ID:cvUqkgd60

しかしなぜ、この銃がこの世界に…

俺と同じように、誰かがここにいるのか?

いや、だがこの銃は20年以上前の最初期のもの。
今は改良されたタイプが存在し、そちらが流通しているはずだが…

「何はともあれ、盗賊・『土くれ』のフーケを捕まえたわ!!
 ゼロのルイズだって、やるときはやるんだから!!」

ルイズが両手を上げて空に叫ぶ。

俺は、持っていたワイヤーで
なんとか生きていたフーケを拘束し終わり、
こう言った。


「あぁ、我が主。


  ―――― 俺は『ゼロの傭兵』だ!」



◇◇◇

768 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:08:19.00 ID:cvUqkgd60
◇◇◇

フーケは王都に送られ、牢に入れられたと聴いた。
後日俺達5人は校長室に呼び出され、多くの教諭や校長殿、そして騎士だという
偉そうな男に勲章を授与された。
俺は、使い魔であるため、という理由で授与はされなかったが、問題ない。
ルイズが言うには、その分私が立派になってあげる、とのことだ。
そして校長殿に話を持ちかけてみた。あのライフルはどこで入手したのか、と。
20年ほど前に、校長殿が森でドラゴンに襲われたとき、どこからともなく
銃撃がありドラゴンは倒された。
その主が、不思議な服を着て今の何だと叫んでいた。そのときに持っていた銃が
これだというのだ。男は、装弾を終え、周囲を警戒しようとした所
で息絶えたという。
それを恩人の形見として、そしてその威力に敬意を込めて「破壊の杖」と呼んで
いたらしい。
校長殿は、なるほど同郷の者だったのかと頷き、そういった「別の世界」の事例
を本格的に調査すると言ってくれた。
あと、ゴーレムとの戦闘中に感じた肉体の活性は使い魔としての能力らしい。
あの後から、銃を握るだけで、ナイフの柄に手をかけるだけで、同じように身体能力の著しい向上が見られた。

キュルケは相変わらず色気を振りまき、今日もルイズと言い合っている。
ああいうのをケンカするほど仲がいい、と言うらしい。

タバサはいつもどおり本を読んでいる。
もはや図書室やタバサの部屋の備品といってもいいようなたたずまいだ。

ギーシュは勲章の輝きを見せびらかして1年生を引っ掛けていると聴く。
なんとなくクルツのような男だと思ったが、そのとおりだった。
769 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:08:41.43 ID:cvUqkgd60

俺はと言えば暮らしは変わらん。
ルイズの身の回りの世話をし、図書室で慣れない文献に目を通し、
シエスタの手伝いをして、学院の警戒に当たる。

ルイズは自分で着替えるようになった。
着替えるときは後ろを向くようにと俺に言うようにもなった。
ベットの下は未だに許してはもらえていないが。


今日は、舞踏会の日。
普段は冗談のように長いテーブルがあるこの「アルヴィーズの食堂」。
その上の階はダンスホールになっていて、貴族らしいドレスやタキシードに
身を包んだ生徒達が、思い思いの相手とダンスをしている。

キュルケが俺の名前を呼んだ気がしたが、
あれだけの男に囲まれているのだが。気のせいだろう。
―――ちょっと!どきなさいよ!ソースケ!ソースケ!出れないっての!!

……気のせいだ。

タバサは一応来ていた。
どうだ着てるぞ文句あるかとでもいいたげなギリギリドレスと呼べる装飾の
ワンピースを身にまとい、本を読みながら
始めてみる俊敏さでフォークをトライアングルに動かして
料理を捕食している。たまにコクコクと頷いている。

771 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:09:13.15 ID:cvUqkgd60

ギーシュは、誰との約束を守るんです、と女生徒に詰め寄られ、
結局一人になっていた。
薔薇は多くの人に美しさを披露するのさとかなんとかのたまっているが。
まぁいい。あとで話でもしにいってやろう。


ルイズは、というと… まだ来ていない。
部屋で着替えるから先に行っておけと言われて来たのだが、
もうパーティは始まっているというのに。

徐々に入り口のほうがざわつき始めた、何かと思い、
誰も来ない2階席から入り口の方を覗いてみると、
胸元との空いた白いキレイなドレスを身にまとい、
それこそ姫君のように、宝石のように、それ自体が完成品のアクセサリーのように

ルイズがホールに入ってきた。

キョロキョロと辺りを見回し、目が合うと一直線のこちらに歩いてくる。
2階から見ていると、ルイズの周りでモーゼの十戒のごとく人が割れ、
結構な数の男が呆けている顔を晒していた。

ルイズはつかつかと俺の横に歩み寄って隣に立つ。


772 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:09:43.54 ID:cvUqkgd60


「……踊らないのか?」

「相手がいないのよ」

「ふむ、料理も出ているが…」

「お腹すいてない」

「そうか」


……

………

「踊ってあげても、よくってよ?」

「……授業で習ったフォークダンスしか踊れんのだが。
 それでもよければ」

「結構。一から教えてあげるわ。 ゼロのジェントルマン」


◇◇◇

781 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:19:12.53 ID:cvUqkgd60
◇◇


「信じてあげても、いいって言ったの」

「…むぅ。
 むしろ今まで信じていなかったのか」

「正直半信半疑だったけど、あの『破壊の杖』……
 あんたの世界の武器なんでしょ?
 それにソースケは、嘘吐かないもん。

 信じてあげる。全部。」

「ねぇ、ソースケ。
 帰りたい?」

「あぁ、帰りたい。
 だが帰れる手段がまるでみつからない。
 ……しばらくは、ここにいるしかないだろうな。」




782 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:19:34.68 ID:cvUqkgd60


「本当に、ありがとう。

 フーケのゴーレムに潰されそうになったとき、
 助けてくれたでしょ…あんたが」

「……あぁ、だが」

「だが?」


「当然のことだ。
 俺はそれが仕事で、君の使い魔だからな」

783 名前: 電話番(茨城県) [書き手] 投稿日: 2007/04/06(金) 02:19:58.98 ID:cvUqkgd60

「…うん。
 ソースケ、大好き」


「ん?今なんと言った?
 すまない、小さくて聞き取れなかった…
 もう一度言ってくれないか」



「ん、いいの。

 ―――ちょっと抱きしめなさい。命令よ」



「…あっ、ああ。

 了解だ、我が主。」




◇◇◇


          ゼロの傭兵

                 完



一巻分完結!

総員、書き手に敬礼!








そしてコッペパンを要求する!

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