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黄昏 前編」(2009/12/22 (火) 20:31:07) の最新版変更点

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暴虐の王から解放された町、テラネにある一軒の宿屋―― ここに無限のソウルを持つ者をリーダーとした冒険者の一行が泊まっていた。 男女別々に部屋を取り、各々が身体を休めていた時の事であった。 「悪ぃなイーシャ。急に呼び出しちまって」 「別に構わないけど……何か私に用事? ヴァン」 同じパーティのメンバーであるヴァンと、彼の親友であるナッジに呼ばれたイーシャ。 用事があるのなら早くそれを済ませ、引き続き旅で疲れた身体を癒したかった。 「僕から説明するよ。……実はカイルの事なんだ」 「カイルの事……?」 自分も気に掛けていた青年の名を出され、イーシャは顔を顰めた。 カイル――無限のソウルを持つ者であり、パーティのリーダー。 ――そして人の手によって作られた人造人間の名前だった。 「うん。魔道の塔のシャロームから自分の事を聞いてからさ、元気が無い気がするんだ」 「まあ俺達の考え過ぎかもしれねえけどさ、ますます無口に磨きが掛かったっつーか……」 イーシャが顔を少し俯かせた。実際彼女も彼の変化は感じ取っていたのだ。 仲間達と淡々と話し、ギルドの依頼を達成した時も表情を変えず、ただ黙って報酬を受け取る。 モンスターや夜盗と対峙した時も無表情、無言のままそれ等を容赦無く斬り捨てていく。 (また前の頃に……戻ってしまったのよね) 今の状態はイーシャが初めて彼と出会い、最初に彼とパーティを組んだ時期と同じだった。 シャロームから真実を聞く前は、その状態は徐々に改善され、表情の変化も出ていたのに―― 「あいつ仮にもリーダーだし、俺達の大事な仲間だろ? だから少しは元気づけてやれる事はねえかなぁって……」 「そうね。……だけどこれはカイル1人が向き合い、乗り越える問題よ。私達が迂闊に手を出して良い物じゃないわ」 「冷たい事を言うなよ! せめて少しは笑える切っ掛けぐらい作ってやりてえじゃねえかよ……」 俯き、深く落ち込む様子を見せるヴァン。 そんな彼を見て、イーシャは少し言い過ぎたかと内心反省した。 だがそんな彼女の気持ちを読み取ったかのようにナッジが言う。 「実は昨日ヴァンがカイルを笑わせようとしてさ、思い付く限りのダジャレを沢山言ったんだ。けど……」 「効果は全くと言って良いほどに無かったわけね」 ナッジが苦笑しながら頷いた。 「カイルの冷たい視線と無言の圧力が物凄かったよ。流石のヴァンもその時は不貞寝しちゃって……」 なるほど、ヴァンが急にこんな事を言い出した理由も頷ける。 大方付き合いが比較的長い自分から、彼が笑いそうな事でも聞き出そうと言う魂胆なのだろう。 先程の反省を少しだけ撤回、イーシャが呆れたように溜め息を吐いた。 「とにかく今は見守っていくしかないと私は思うわ。下手な優しさは余計に彼を傷付けるだけよ」 「…………分かったよ。ナッジ、俺達はいつものようにカイルの傍に居てやろうぜ。仲間として」 「うん。勿論だよ」 そんな2人の様子を見た後、イーシャはゆっくりと部屋を出て行った。 そして自室に足を進めようとした時、カイルと通路でバタリと出会った。 「カイル……何処に行っていたの?」 「外だ。少し歩き回っていた」 相変わらずの受け答えだった。 表情を変えず、淡々としている。 「そう言うお前は何をしていたんだ?」 「ヴァンとナッジに呼ばれてね、他愛も無い事を話してたの」 「そうか」 そう言い終わると、カイルはナッジとヴァンの居る部屋に向けて歩き始めた。 イーシャの横をサッと通り過ぎ、彼は何も言わぬままドアノブに手を掛ける。 そんな彼の何気ない行動にも、イーシャは得体の知れない不安に駆られた。 「――カイル!」 そして唐突に彼の名を呼んでいた。彼女自身自分の行動に驚いていた。 カイルのドアノブを回す動作がピタリと、機械のように止まる。 「……何だ?」 「あ、あの……その……今日少し話せる?」 「今か?」 「う、ううん。今じゃなくて、夜にでも……」 「……問題は無い」 「そ、そう。なら外で待ってるから、夜になったら来てちょうだい」 カイルが無言のまま頷いた後、部屋へと入って行く。 思わず約束を取り付けたイーシャは、ドッと壁にもたれ掛かった。 今の自分の迂闊過ぎる行動を内心で激しく攻めていたのだ。 (自分からヴァンに言っておきながら……何をやっているのかしら) 今日二度目となる溜め息を、イーシャが吐いた。

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