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男主×カルラ、251」(2012/09/02 (日) 01:01:49) の最新版変更点

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<p><br> <br>  森に充満しているのは血の臭いであり、焼けた肉の臭いであり、それは要するに戦場の臭いだった。<br> 「ひとつ、解らないことがあるんだよな」<br>  そして、まるでその臭いに似つかわしくない飄々とした声に、俺は思わず足を止めた。振り返る。<br>  その男は、膝をつき、肩で息をし、額から流れる血に片目を閉じ、杖代わりに立てた剣に身を寄せ、つまりは、どこから見ても満身創痍そのものだった。だというのに、その声は力を失っておらず、まるで世間話をするかのように、軽く届く。<br> 「騎士か。俺の知る限り、お前さんはそんなもんに憧れるようなたちじゃあないな。むしろそんなおカタいもんは遠ざけたがる」<br>  ふぅーっ、と、男の深い吐息。同時に、遠くからのときのこえ。敵の援軍は近い。<br> 「ちょっと、何してんのーっ! 置いてくよー!」<br>  さらに、俺の背中から、遠く聞こえてきた声があった。彼女の声だ。これもまた、今のこの状況を考えれば、軽いどころじゃあない調子。まあ、彼女らしい。俺はそれには返事をせずに、男の言葉の続きを待ち続けた。あとで彼女には小突かれるかも知れないが、まあいい。<br>  それよりも、俺がかねてより密かに憧れていた冒険者の言葉を、今は聞き届けたかった。<br> 「なんでこっちに付かなかったのか、なんて恨み言じゃないぜ。ただ単純に不思議でな。…なあ、なんで騎士になった? まさか幼馴染のアイツの付き合いで、ってわけじゃないだろ」<br>  やはり男の声は、疲れも痛みも感じさせない。俺は内心舌を巻きながら、視線を宙に泳がせ、考えた。いや、考える振りをした。<br>  その答えなら、迷いようもなく、もう持っている。<br> 「…惚れた女の為だ、ゼネテス」<br>  短く告げた。<br>  男――ゼネテスは、鳩がチャージスペルを食らったような顔をしてから、やがて胸を震わせ、それから心底おかしくてたまらないと言わんばかりに、大笑する。<br> 「は、はは、くっ、くっくっく。そうか、そうかよ…女か。いいぜ、予想以上にいい答えだ」<br>  …なんで笑うんだよ。そうは思ったが、俺は敢えて聞かないでおいた。<br>  ゼネテスは、笑いの余韻をかみ殺しながら続ける。<br> 「そら、もう行けよ。お前の女神様が、そろそろお冠だろ」<br>  その通りだ。いい加減彼女のもとに行かないと、飛んでくるのは拳でなく、お得意の鎌ってことになりかねない。いや、相手が彼女の場合、冗談抜きで。<br>  が、今のは聞きとがめておくべきせりふだ。<br> 「ちょっと待て。なんで解ったんだ?」<br>  そうして俺は即座に聞き返して、それからすぐにしまったと思う。<br>  案の定、ゼネテスはからかうように(いや、実際からかってるのかこれは)、にやりと口の端を上げる。…くそ、腹の立つ顔だ。憧れの冒険者のものだけに、余計に。<br> 「なるほどな。本気であの青い死神にぞっこんってわけか。こりゃあこれから死ぬほど苦労しそうだな?」<br> 「とっくにしてる」<br>  その言葉には即答して、俺は踵を返した。そろそろ限界だ。彼女のことがなくとも、もう行かなければまずい。<br>  走れば、彼女にはすぐに追いついた。これは意外だった。敵の援軍が来ようとしている場所にいつまでも立ち止まり、あまつさえ敵将と呑気に会話しているような部下など、彼女ならとっくに見捨てて逃げていておかしくないんだが。<br> 「あー、やっときた。そら、急ぐよ。もうアイリーン達行っちゃったし」<br>  呆れるような彼女の声は、やはり底抜けに軽い。さっきのゼネテスとの会話もあって、思わずここが戦場だということを忘れそうになる。<br>  ――そうであったらよかった。ここがどこぞの場末の酒場なら。俺の惚れた男と、惚れた女と、くだらない冗談を言い合って笑える場所であったのなら。<br>  しかし俺達がしているのは、紛れもなく戦争なのだ。<br>  俺は彼女に短く頷き、彼女はそれを見て走り出す。俺は一度だけ振り返り、しかしすぐに彼女のあとを追った。<br> <br>      *<br> <br> 「参ったね、こりゃ」<br>  神速の天才戦術家。青い死神。そんな異名を持つ女、カルラは、やはり相変わらず軽い調子で呟く。肩をすくめ、それに合わせて、ポニーテールに結ってある腰まで届きそうな長い髪が、ふらふらと所在無さげに揺れた。<br>  俺は息をついて、辺りを見回す。大して風景は変わっていない。軽く舗装されただけの、森の中の街道。敵の姿はなく、声も音もない。追いつかれてはいない。だが同時に、味方の気配もまるでない。つまりはそういうことだった。味方軍とはぐれた。<br>  風が吹き、木々がざわめく。俺はもう一度ため息をついた。<br> 「どうするんです、将軍」<br>  とりあえず聞いてみた。返ってきたのは、鼻先に小さな痛み。手の甲でぺしっと叩かれた。<br> 「いつも言ってあんでしょ。他に誰もいない時は敬語はいらないし、カルラでいいって」<br> 「…オーケー」<br>  それは嬉しい申し出で、恐らく彼女にそう言われるのならば、命など惜しくも無いという奴も大勢いるだろう。アイリーンあたりもそうかも知れない、と、幼馴染の女の顔を思い浮かべながら思う。ただ俺に言わせれば、状況によって口調を使い分けるとか普通にめんどい。<br>  しかしなんでまた、俺はこんな妙な特別扱いを受けるんだか。<br>  もともと俺は、最初からカルラの部下ではなかった。彼女と最初に会った時のことを思い出す。さらわれた女を助け出すために、ロセンという国の、よりによって国王の部屋に侵入したのだ。それから俺がカルラ率いるディンガル帝国青龍軍に属するようになるまでには、ざっと語るにはちょっと長すぎる事情があるのだが、考えてみれば妙な縁ではある。<br>  まあそんなわけで、もともと友達…というほどに親しくはないが、そんな風にして出会った俺たちだ。カルラとしても、俺にかしこまられるのには、何か違和感があるのかもしれない。<br>  というかまあ、こういう場合、彼女の言動に整合性を求めるのが、そもそも間違いではある。俺も20年近く男をしてきて、理解の出来ない女ってものには何べんか逢ってきたもんだが、その中でもカルラは群を抜いていた。<br>  とりあえず惚れている身としては、彼女も俺に何らかの特別な感情を持っているからこそそう言っているのだと思いたいところだが。――まあ、それはまずないだろう。哀しく冷静に判断する。<br>  惚れている、か。<br>  そう言えば、俺はいつからカルラにそんな思いを抱くようになったろうか? 横目で彼女を盗み見る。<br>  長い茶のポニーテール、美しいとも愛らしいとも一応は言えるつくりの顔は(それでも彼女の顔を見てまず真っ先に思い浮かぶのはそんな言葉ではなく、挑戦的とか生意気とかそういう類のものだが)、いつも軽薄そうな笑みを浮かべていて、そのせいで何を考えているのかよく解らないときも多い。<br>  ただ何より目を引くのは、変な言い方だが、体だろう。二年前、カルラは若干16歳にして、ディンガル帝国青龍将軍となった。つまり青龍軍の長であり、つまり騎士であるということだ。それは考えるまでもなく稀有なことで、青い死神との異名の由来は、彼女が得意とする武器、大鎌と、彼女の身に付ける青い鎧にあるのだが、その鎧がまた彼女自身以上に妙なものだった。<br>  何せ、金属部分が上半身しかないのだ。腹から下は、股間部分を覆う下着のようなパーツだけ。その下着も下着で、尻をほぼ中心部分しか覆わない、Tバック半歩前といった代物。あとは一応、膝まであるブーツ。およそ冗談か何かかとしか思えない格好だ。<br>  一度我慢できずに、カルラ本人にその鎧のことを尋ねたことがある。いわく、「ごてごてした鎧よか動きやすくっていいでしょ」だそうだ。まったく納得できん。一応、何か魔術的処置が施されているらしく、並のもの以上に丈夫な代物ではあり、素肌の晒された部分も決して見た目通りに無防備なわけではないというのだが。ついでに彼女は、「血なまぐさい戦場じゃ、男どもには目の保養にもなるっしょ?」なんてことも言ってたが、まあこっちの言葉は参考にするだけ無駄だろう。<br>  ――何を考えていたんだっけか。そう、俺がカルラに惚れた理由だ。<br>  俺はしばらく考えたが、しかしこんな変な女を好きになる理由といったら、そいつ自身も変人であるという結論しか出そうにもなかった。実際俺も彼女のどこがそう魅力的に思えるんだか、自分でも解らん。ただいつの間にか夢中だった。まあ、色恋沙汰なんて大抵そんなもんだろうが。<br>  不意に、カルラが俺を見た。俺はカルラを見ていたわけで、自然と目が合う。一瞬、動悸が早まった気がした。まったく、少女向けの恋愛劇じゃあるまいし。ほれたはれたなんてのは本来俺の柄じゃないと、こういう思いをする度にいつも思う。<br> 「さてと、どうしよっかなー。ねえあんたさあ、アイリーンと一緒で、ここが出身なんでしょ? こう、土地勘でわかんない? 帰り道」<br> 「無茶言うなよ、こんな森の中で土地勘もなにもないだろ。あとここらへんは、ロストールっていうかリベルダムに近いし」<br> 「ま、それもそうだーね」<br>  くすくすと笑って、とりあえずとカルラは歩き出す。俺もその背を追う。<br> 「ま、今回、指揮はアイリーンに任せてあるしね。あの子なら、あたしが一日二日いなくても何とかしてくれるだろうけど、でもやっぱ将軍不在ってんじゃ、兵の士気も下がりっぱなしってもんだよね。あんま長いこと、ここで迷子ってわけにもいかないなー」<br>  それが独り言か俺に向けた言葉か、俺は判断しかねて、とりあえず返事はせずにおいた。だが、妙だと思う。そんなことくらい、カルラは当然最初からわかっていたろう。ならばあの時、俺など待たずに、さっさと本隊と一緒に逃げておくべきだったのだ。いつでもやたらと軽い彼女だが、それでも将軍であり、戦争のプロである。まさかそんな判断が出来なかったはずはない。<br> 「でもたまには、こうやってのんびりデートってのも悪くないやね?」<br>  カルラは肩越しに首をこちらに振り向け、笑って言う。俺はわざとらしく彼女から視線を外し、肩をすくめてみせた。カルラがもう一度笑う。<br> 「なーにさ、照れちゃって。あたし、そこらへんははっきりしたオトコのが好きよ」<br> 「そうかよ」<br>  呆れてうめく。それから、一応大丈夫だとは思うが念の為、カルラに聞いておくことにした。当然、声はできるだけ抑える。<br> 「ところでカルラ、気付いてるよな」<br>  返事はウインクだった。何か小馬鹿にされているようでムカツく。が、くそったれ、えらい可愛い。これが惚れた弱みってやつだろうか。少し違うか。<br>  街道の端の草むらから音がしたのは、そのすぐ後だ。<br>  カルラがワンアクションで、背中にくびりつけていた愛用の大鎌を構える。俺も一瞬遅れて剣を抜き、そしてさらに一瞬後に、人影が飛び出してきた。<br>  3人まで数えたところで、俺は一番速く俺に接近してきた人間に集中することにした。力任せに振り下ろされた長剣をかわすことはさほど難しくなく、体の捻りを直しざまに相手の首に俺の剣を叩きつけることも、特に何の障害もなく果たされる。<br>  襲い掛かる瞬間に音を立てるなんてマヌケ極まる失敗といい、そもそもそれ以前に俺たちに気付かれていることといい、どうやら大した手合いじゃない。大きく裂けた首から血を噴き出して倒れる男を見ながら、そう判断する。<br>  あっさりと第一手が破られたことで、それに続くはずだったのだろう二手目の男は硬直していた。それは一秒にも満たない時間のことだが、しかしつけ入るには充分過ぎる隙だった。あんまり余裕があったもんだから、俺は剣を繰り出すのを止め、代わりに兜から覗く顔面を思い切りぶん殴る。そいつは悲鳴もなくすっとんでいった。<br>  それで終わりだった。攻撃の気配はなく、カルラに視線を転じれば、その傍には、腹をかっさばられたのと、首のない死体が一つずつ。<br>  あまりにあっけなく、お粗末で、故に逆に気が抜けない。これはただの囮で、一息ついたところに本命がということも考えられなくはない…というか、そう考えるしかないと言っていいほど、本当に気の抜けた奇襲だった。<br>  しかしそもそも物量で圧倒的に劣るロストール軍が、そうしつこく追撃してみたところであまりいいことはない。一度綺麗に撤退されている以上、そのうち持ち直した青龍軍に押されるのが落ちだ。しかも采配はゼネテス、とっくにロストール本軍の足は止まっているはずだ。<br>  とすればこいつらは、けちな敗残兵狩りといったところか。カルラを見つけて、大将首だとせいぜい喜んだことだろう。そこで恐れをなしておくくらいの頭があれば、こんなことにならずに済んだろうが。<br>  カルラも俺と似たような結論を出したのか、大鎌を一振りして血を払うと、背中に背負い直した。それに倣ってというわけじゃないが、俺も剣を納める。<br>  カルラは俺に向き直り、口を開きかけた。何か軽口でも叩こうとしていたのか。だがそれは、俺の後ろでふと目の焦点が合うと、途端に引っ込んだ。思わず振り向けば、そこには俺が殴り倒した男がいる。<br>  と言って、何もそいつが起き上がって剣を振り上げていたわけじゃない。悶絶したままだ。しかしカルラは俺の前を通り過ぎ、そいつの前に立つと、鎌の柄に手をかけた。<br> 「カルラ」<br>  内心舌打ちしながら、呼び止める。こんなくだらないことで言い合いをするはめになるなら、妙な手加減なんざせず、斬り伏せておくべきだった。ついでに言うなら、俺と彼女は部下と上司、しかも騎士だ。こんな世界で、下のものが上のものに意見などあってはならない。<br>  だけど、そんな奴をわざわざ殺すことなんてない。<br> 「何?」<br>  カルラの声はいつもと変わらないようで、しかしその実、圧倒的な冷ややかさがあった。普段はふざけたような言動の目立つ彼女だが、こと戦いとなれば話は別だ。「青い死神」の二つ名は、伊達で付けられていない。<br>  俺は息を一つ飲み込んでから、カルラの背に言った。<br> 「そいつは完全に気絶してる。とどめを刺す必要はないだろ」<br>  ひょうっ、と――<br>  風を切り裂く音がして、気が付けば、彼女の鎌の刃が俺の首を捉えていた。身動き一つできない。<br>  鎌を持った肩と首だけを俺に向けた格好のまま、カルラは言う。<br> 「必要のないとどめなんてないでしょー。こいつはひょっとしたら、今のであたしかあんたの弱点とか見つけたかも知んない。戦い方のクセとか解ったかも知んない。単純にただ気絶してるフリをしてるだけかも知んないし、そんでそれから50人60人の仲間を呼んで来るかも知んない。何が命取りになるか解んないよね、だってここ戦場なんだから」<br>  ね? と、物覚えの悪い子供に言い聞かせるような口調。俺はため息を飲み殺した。俺より年下のこの女は、間違いなく俺より生死に近いところにいる。しかも、彼女自ら望んで。解っていたことだが、それでもこうして再確認させられると、思うところなしにはいられなかった。<br>  俺は俺の首が彼女の鎌に飛ばされずに済みそうな返答を考えるが、しかし思い浮かんだどれもが、確実に安全だとは言えそうにない。<br>  まあ、仕方ないだろう。それも解っていたことだ。何となく、青龍軍に入ったときから、カルラの手にかかって死ぬことも有り得るだろうと、本当に何となくだが、俺は覚悟していた。<br>  だからまさか、俺が返事をする前に彼女が俺に向かって倒れ込むなんてことは、予想もしていなかった。<br> 「カルラ?」<br>  優しくとは言えないが抱きとめる。鎌が地面に落ちる音が聞こえた。今までになく近づいた彼女の唇からは、荒い息遣い。だらんと伸びた彼女の右の二の腕に、浅い傷がある。<br>  毒か。<br>  俺は今度は実際に舌打ちして、どうにか身を捩って、カルラの体を背負う。今すぐ治療すれば大したことにはならないだろう。だが何も、気絶しているとは言え、敵のいるところですることもない。それでなくても、しばらく立ち止まるのなら、開けた街道はいかにもまずい。<br>  大鎌も引き摺りながら、俺は草むらの中に分け入った。適当なところで当たりをつけて、そこらにあった木の幹に、彼女の背を預け、座らせる。<br> 「あー、参っちゃうな。あたしかっこ悪ぅ、あんなこと言っといてさ」<br>  荒く乱れる呼吸を噛み潰しながら、笑い、カルラが言う。<br>  確かに、彼女にしては有り得ない失態だった。俺でも余裕を持って戦えるような相手に、この青い死神が手傷を? もちろん、彼女が相手をした二人は俺のそれとは比べ物にならないほどの手練れだったのかも知れない。が、それにしては彼女も特に苦戦していた様子じゃなかった。<br>  何にせよ、考えても仕方ないことだし、原因が判明したところで、どうでもいいことだ。<br>  俺は腰に下げたずだ袋から七色の軟膏を取り出して、カルラの患部にひとすくい塗る。それから包帯を適当な長さに破り、そこに巻きつけた。<br>  これであとは少し休めば、毒のほうは問題ない。ただ奪われた体力は、当然だがすぐには元に戻らない。彼女の息はまだ荒い。<br>  青い死神とて一介の少女か。場違いではあるが、俺の胸を安堵のようなものがよぎった。<br>  カルラが大きく、ふうっと息をつく。それを思わず色っぽいと感じてしまって、俺は小さくかぶりを振った。まったく男ってのは難儀だと、こういう時は常々思う。<br> 「あ、なんか今、エッチいこと考えたでしょ?」<br>  嫌な笑みを浮かべて、カルラ。妙に目ざとい女。ひとまず雰囲気が、あの張り詰めたものから、いつものふざけた調子に戻っているのを見て取って、そういう意味では安心しておく。まあ、そのおちゃらけた顔そのままで、躊躇いなく鎌を振れるのが、カルラという女ではあるが。<br>  何はともあれ、とりあえずはこれで一段落だ。本軍との合流はかなり遅れることになるが、ロストール軍とて、当分何も出来ないはずだった。もちろん大将があのゼネテスである以上、そうそう悠長に構えていられるものでもないが、あまり急ぐ必要もないと考えていい。<br>  つまりは、カルラの体力回復を待つくらいの余裕なら、充分にあるというわけだ。<br>  そこまで打算して、俺も彼女と同じように、木を背にして腰を下ろす。<br>  太陽の角度から見て、今は夕方前といったところか。カルラが充分に動けるようになる頃には、陽はほとんど沈んでいるだろう。今日はこのまま野宿ということになりそうだ。<br> 「まったく…面倒なことになっちゃったもんよね」<br>  そう言うカルラの口調は、だいぶ落ち着いていた。<br> 「まあ、俺たちくらいの年なら、朝帰りでも問題ないだろ」<br> 「それが初デートってのは、ちょっとどうなのかなーって感じだけどね?」<br>  お互い、愚にもつかない冗談。二人で笑う。<br>  昼下がりの森林浴。これが彼女の言うようにデートなんだったら、なかなか健康的で悪くないコースだろうが。<br>  煙草を一本取り出し、呪文を唱えて火をつける。煙を存分に肺に行き渡らせ、一息で吐く。<br> 「あんたも吸うんだ、それ」<br>  と、カルラ。治療を施してから数分も経っていない割には、口数の多い奴。<br> 「嫌煙派だったか?」<br> 「ま、吸わないけど、別に嫌いでもないかな。とりあえず、あんたに煙草って、なんかイメージ出来なかったんだけど…ん、結構似合ってるかもね」<br> 「似合う似合わんの問題でもないと思うけどな」<br>  もう一度、吸って吐く。その間、カルラはずっとこちらを見つめ続けていた。適当に視線を逸らしておくが、何つうかやりづらい。<br> 「ね。それ、一口くんない?」<br>  唐突といえば唐突な提案。俺は思わず顔をしかめる。<br> 「そんな顔しなくったっていーじゃん。間接キッスが気になるってわけでもないでしょ」<br> 「いや、まあ、そりゃ別にいいけど」<br>  それじゃあと、俺が腰を上げようとすると、それより先に彼女が上体を起こした。<br>  おいおい、お前は動くなっての。<br> 「カルラ」<br> 「何よ、大丈夫だって。あたしを誰だと思ってくれちゃってんの」<br>  言いながら四つんばいでこちらに寄ってきた彼女に、まだ長い煙草を渡す。彼女はそれを受け取ると、興味深そうにじろじろと眺める。やがて立ち上がり、胸を反り、わざわざ腰に片手まで当てて、優雅に一服。それからひどい咳。<br>  まあ、最初はそんなもんだよな。青い死神、対煙草戦績、初戦敗退。<br> 「ぇふ、ぉえふっ、ああ、もー。予想はしてたけど、何これ、こんなんがおいしいわけ?」<br>  実に月並みなせりふ。思わず笑う。唇を尖らせたカルラから煙草を受け取って、これ見よがしに吸ってやる。<br>  と、ふと眼前に広がった世界に、俺も咳き込みかけた。<br>  俺は座っているわけで、彼女は立ち上がっているわけで、彼女が煙草を吸う様を見上げていて、それから視線を落とした俺の目の前にあるのは、その、さっき言ったとおり、下着(?)一枚だけの彼女の股。<br> 「あーだめだめ。なんか頭くらくらする、ホント」<br>  気分悪そうに彼女はうめく。その間にも、俺の視界はまったくもって絶景。情けないことに、俺は股間に血が集まっていくのを自覚した。<br>  俺はアレの処理は、大抵適当に女を買って済ませていたが(もちろん冒険者仲間には気付かれないようこっそりと)、ロストールへの侵攻が決まってからこっち、そんな暇なんてなかった。禁欲生活は、もう三週間にもなるだろうか。そんな俺に彼女のこの格好は、今更ながら目に毒過ぎる。俺は喉の奥で唸って、煙草をもう一吸いした。とりあえず視線をどっかにやるべきだと、首を上に向ける。そこにあるのは、こちらを見下ろすカルラの笑顔。<br> 「あらあら、どったの? 青春真っ盛りの君には、カルラちゃんのコレは、ちょっと刺激的すぎ?」<br> 「いいから大人しくしてろって」<br>  わざわざくいっと腰を捻ってみせる彼女に、俺は呆れて――少なくとも表面上はそう聞こえるような感じで――呟く。正直、もう勘弁して欲しい。こいつ、本当にさっきまで毒に侵されてたんだろうか。<br> 「別にさー、いいんだよ、ちょっとくらいなら触っても。いつも頑張ってくれてるあたしの右腕に、出血大サービス」<br>  言いながら、彼女は俺の左手を(右手は煙草持ってるからな)取る。まずいと思ったときにはもう遅く、彼女はそのまま、ちょんと、自分の太股に俺の手を当てがった。<br>  触れたのは一瞬で、それも手の甲だが、信じられないくらいの柔らかさと滑らかさが、雷が落ちたような衝撃となって、一瞬で全身を走る。言葉にならない警告が、最大音量で俺の頭に鳴り響く。<br>  これ以上は、マジでまずい。どうにかなる。俺は彼女の手を思い切り振り払った。<br>  カルラがきょとんとした表情を見せる。初めて見る、年相応の幼さが残る顔。次に笑った時には、それはいつもの彼女の顔だった。<br> 「やっだねー、そんなマジになんなくっていいじゃん。ていうか、ちょっと傷ついちゃったよそれ」<br>  けらけらと声を立てながら、踵を返すカルラ。俺の視界から股は隠れ、代わりに尻。そのまま彼女はもといた場所に戻っていく。<br>  掌を握り締める。振り払った時に、俺の手はもろに彼女の太股を捕えていた。手の甲からだけじゃ解らなかった、彼女の引き締まった筋肉の感触を得ていた。しかしその表面はあくまで柔らかく、滑らかであり、それでいて吸い付くような手触り。<br>  目で追っていたのは、彼女の尻だった。大きくもなく小さくもない。覆うのはわずかな布地だけ。<br>  その瞬間に、俺を支配した思考があった。<br>  病み上がりのカルラ。いつもなら到底敵わない。だが今なら、ひょっとしたら俺でも組み伏せられる…?<br>  俺は素早く立ち上がった。<br> <br>    *<br> <br>  煙草を地面に落としてから踏み潰し、彼女の背中へ、大股の一歩で接近する。これまでになく近くカルラを感じる。俺は何の工夫もなく、力任せに彼女を押し倒した。<br> 「うあっ!?」<br>  と。<br>  彼女のあげた悲鳴は、煮えたぎっていた俺の脳味噌に、コップ一杯の水をぶっかけた。冷静さが戻っていく。<br>  ――俺は、何をしてる!?<br>  彼女は倒れる際に、持ち前の反射神経で体を捻り、俺のほうに向き直っていた。背には、さっきも背もたれにしていた木。それに背中をしたたかに打ちつけたらしく、彼女は表情をやや歪ませている。態勢は、さっきとあまり変わらない。木を背にして座り込んでいる。違うのは、俺がその上から、彼女の両手を抑えつけて覆い被さっているということ。<br>  俺は何をしてる。<br>  繰り返す自問。俺はカルラの両手を解放し、立ち上がった。やめとけ。今ならまだ冗談で済む。<br>  そして自答。解ったよ。彼女に手を出さなきゃいいんだろう?<br>  俺は今までになく手早い動作で鎧を脱ぎ捨てた。そしてそのまま、ズボンと下着も一気に脱ぎ下ろす。窮屈そうに突っ張っていた俺のペニスがようやく解き放たれ、存分に存在を誇示する。<br>  カルラは何が起こったか解らないというような顔で、俺のそれを見つめている。そんな彼女を見下ろしながら始めたオナニーは、どんな商売女を抱いた時よりも気持ち良かった。言い訳したくなるほど早く、限界は来た。<br> <br>  どびゅびゅ、びゅっ、びゅっ! どくん、どくっ…!<br> <br>  勢い良く発射された俺の精子は、カルラの吊り上がり気味の眼にかかり、形のいい鼻にかかり、ふっくらと膨らんだ唇にかかり、艶々とした茶髪にかかり、汚していった。それは自分でも信じられないくらいの量で、カルラの顔はもう、ほぼ完全に白く染まりきっている。<br>  そしてそれだけ出しても、俺の怒張はまるで収まっていない。<br> 「え…え? ちょ、ちょっと、これっ…」<br>  戸惑いの呟きを声に出すために開かれた彼女の口を、俺は見逃さなかった。彼女の頭を両手で抑えつけ、半ばこじ開けるようにして、彼女の口にペニスを突っ込む。歯に当たったちょっとした痛みと、しっとりとした感触が俺を包む。<br> 「んむうぅっ!?」<br>  悲鳴をあげたことで、彼女の舌が幾度かペニスの先を愛撫した。それに調子づいた俺は、彼女の頭をしっかりつかんで固定すると、腰を何度もグラインドさせる。<br> 「むぐ、むう、んっんっんっ、んっ、ふうっ、んんっ、ん!」<br>  声にならない悲鳴の中、俺のペニスは、さっき出した精液の残りと、今また新しく出始めた先走り汁と、彼女の唾液とで、濡れに濡れる。目尻に涙を滲ませた彼女の表情が、より一層俺の腰の動きを激しくした。今度もやはりそう長くはもたず、腰が抜けるような快感が、やがて俺を襲った。<br>  俺はポニーテールの根元をひっつかみ、彼女の鼻先が俺の陰毛に触れるほど、彼女の頭を引き寄せる。<br> 「んぐうぅっ!」<br>  喉にまでペニスが達したことによって、彼女が悲鳴をくぐもらせた。そして射精。<br> <br>  びゅるるっ、るるるっ、どっどくん、どくっ…<br> <br> 「ぐうう! うんんーっ!」<br>  カルラの悲鳴がさらに苦しそうになる。驚愕に目を見開く。<br>  だが俺は決して彼女の頭を放しはしなかった。<br> 「カ…ルラ…っ! 飲、…め……!」<br>  息も絶え絶えに、命令する。彼女は一瞬、信じられないとでも言いたげに眉根を寄せたが、やがて諦めたように眼を閉じた。<br>  こくん、こく、こくこくん、ごくっ…<br>  カルラが俺の精液を嚥下するたび、その喉の震えが俺のペニスにも伝わってくる。ただし、多少口からこぼれてもいた。<br>  やがて俺は、彼女の口内に精液がほとんどなくなったことを悟ると、ペニスを抜き、手を離し、彼女を解放した。<br> 「ぅげほっ、がはっ、はあっ、はーっ…」<br>  空気を求めてカルラがむせび、喘ぐ。二度も一気に射精したことで、さすがに俺のペニスは多少柔らかさを帯びていた。<br>  だが、まだだ。俺は力無いカルラの肩に手をかけ、そのままうつ伏せに寝転ばせた。<br>  頭の中で俺を止めていた声は、とっくに消えている。<br> 「はっ、はあっ、はーっ、はっ…」<br>  肩で息をしているカルラの顔。俺の白濁で汚れに汚れ、虚ろな視線を彷徨わせ、涙を一筋流しているその顔を一瞥し、俺はそのまま股間に手をかけた。ショーツにしか見えないその鎧の部分越しに、彼女の秘部を強くなぞり上げる。<br>  ぐちゅん。<br> 「ひゃあうっ!?」<br>  小さい水音と、湿ったスポンジを指で潰したような感触、それから跳ねるような悲鳴。どうやら、そういうことらしい。<br> 「なんだ、濡れてるのか」<br> 「あ…っ」<br>  俺が短く告げると、彼女は肯定だか否定だか解らない声を上げた。意外も意外だが、マゾの気でもあるのか? 何にしても遠慮は要らない。<br>  ショーツを脱がすのももどかしく、俺は邪魔な部分だけを指でずらす。途端にあふれ出た愛液が、太股を滑っていく。既に俺のモノは硬さを取り戻していた。<br>  迷うことなく、それを突き入れる。<br> <br>  ずっちゅん!<br> <br> 「わああああああああっ!? はああっ、ああ!」<br> <br>  今までになく大きい悲鳴をあげて、カルラの体が仰け反る。彼女の膣内は収縮をせわしなく繰り返し、最大の快感を俺のペニスに与えてきていた。俺はそれをむさぼるために、彼女の尻をつかむと、腰を幾度もそこに打ち付ける!<br> <br>  ぬっぢゅ、ぐちゅ、ちゅ、ぬちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっずちゅっずちゅっずちゅっ…!<br> <br> 「あう! ふはぁぅ、あう、ぁぅ、は、あうああっ! あん、あん、ああんっ、あうんっ!」<br> <br>  俺が今まで突いてきたどんな膣より、彼女のそれは快楽に貪欲に思えた。怒涛の量の愛液を撒き散らし、しつこく俺のモノに絡みつき、俺の突きの一度一度を最大限に楽しんでいる。彼女の腰はとっくに俺に合わせて激しく動いていた。<br> 「食いちぎ…られる、ってのは…こういうのか…っ」<br>  俺は思わずうめき、しかし腰を振り立てることを決して休めない。今度ばかりは長くもたせるつもりでいるが、しかし加減するつもりもなかった。<br>  決して腰の勢いを落とすことは無く、俺は彼女のそのショーツの両脇にある金具のひとつを、ばちんと外した。その金具は、彼女の鎧の上半身部分と、ショーツの部分とを繋げる役割を果たしているようだ。案の定、そのひとつが外れたことにより、しっかりと体にフィットしていた彼女の鎧が、少し緩む。そのまま俺は、左手は尻をつかんだまま、右手だけをその鎧の中に這わせた。<br>  鎧の下のアンダーウェアの中に右手を突っ込む。彼女の肌が俺の手に触れる。そのまま俺は手を侵攻させていき、やがて彼女の肌が、肉が、柔らかく膨らんでいるところまで達する。<br>  そしてその胸を、押し潰すように揉んだ。<br> <br>  むにゅううぅっ!<br> <br> 「はっ、か、あ! あああああっ、あ!」<br> <br>  新しい刺激を与えられて、カルラの悲鳴が変化する。<br>  このまま犯す。彼女の胸も膣も、何もかも全部みんな犯す。<br> <br>  ぐにゅ、にゅむっ、むにゅ、にゅ、ぐにゅ……<br> <br>  ぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅ……!<br> <br> 「んあ、あう、やはぁっ、あん、あん、んあああああああんっ!」<br> <br>  カルラの体が強く仰け反り、痙攣する。膣内も狂ったようにひくつき、ペニスに生暖かい感触が流れてきていた。どうやらイったついでに、失禁までしたらしい。<br>  俺は構わずペニスを突き入れ続ける。こっちはまだイってないんだ。もっとも、そう長くももちそうにはないが。<br> <br>  ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!<br> <br> 「あーっ! あー! あーっ! あーっ! かうっ、うああっ、もっ、もおっ、はっ、あ!」<br> <br>  イった後もひたすら突かれる感覚は、カルラには耐えがたいものだったようだ。壊れた何かのおもちゃのような、断続的な喘ぎ。<br>  俺は最後に一度、一番強く、ペニスを全て彼女の中へ突っ込んだ。何かが先に当たるのが解る。<br> <br> 「カル…ラ!」<br> 「うぅあぁーっ!」<br> <br>  びゅるるる、びゅるるるっ、びゅるるる、どくん…!<br> <br>  カルラの子宮に、俺のペニスは満遍なく注ぎ込み――<br>  俺の子種を、カルラの子宮は満遍なく吸い上げ――<br>  俺と彼女は、果てた。<br> <br>  だが、俺は気力を振り絞り、俺自身に、気を失うことを許さなかった。<br>  もう出すだけ出し尽くした。すっかり満足もしている。だがそれでも、あとひとつだけやることがある。<br>  俺は、彼女のヴァギナから流れ出る、いろいろと混じり合ってもう何だか解らない体液をすくい取ると、彼女のアナルに塗りたくった。<br> 「あ…?」<br>  カルラは気絶していたようだったが、しかしすぐに気がついた。というか、俺が股を弄り始めたので、それで起こされたんだろうが。ぼんやりとした瞳で、俺の作業を見つめている。<br>  やがてその意図に思い至ったようで、その虚ろな瞳に、一筋の驚きが走った。<br> 「う…そ? や…っ、そんな…」<br>  カルラは身を捩って俺から逃げようとするが、その動きはひどく弱い。まるで無駄な抵抗だ。俺はアナルへ無造作に中指を突き入れた。<br> 「!? うぁっ、ほ、ほんとにっ…? こんな…ぁっ」<br>  許しを請うような声を彼女は上げるが、しかしそれが逆効果だってことくらい解らないもんだろうか。俺は入れた指を、我ながらねちっこく、ぐりぐりと回しながら進めていく。第二関節まですっかり沈みきってから、俺はその指を曲げたり反らせたりして、肉壁を攻撃した。<br> 「あっ、うっ、やっだっ、う、ぐっ」<br>  標的がアナルに移ってから、カルラの反発は激しい。さすがにこんな場所を責められるのは、まるで予想だにしていなかったのか。だとしたら、それは腹立たしかった。こいつは自覚していない。普段自慢げに露出させているこの尻が、どれだけ俺の劣情を煽っていたか。<br>  思い知らせてやる必要があった。<br>  俺は指を抜く。<br> 「ふっ…う…」<br>  カルラが、安堵したような、抜けるような吐息を漏らす。だが悪いが、当然これで終わりじゃない。彼女もそれが解らないわけではないらしく、這いずるようにして俺から逃げようとする。俺がそれを引き寄せると、彼女の表情に恐れのようなものが表れた。<br>  俺は構わず、もう一度膣口の方から潤滑液を調達し、アナルに塗り込んだ。そこはあまりほぐれているとは言えず、今からすることを考えればまったく準備は充分でないだろう。しかし俺のモノは、今までと比べるとやはりやや硬さが足りないが、再度屹立している。もう待てそうになかった。<br>  そして俺は挿入する。今度はカルラのアナルへ。<br> <br>  ぐにっ…ぐ、ぐぐ、ぐっ…めりっ、めりめりめり…!<br> <br> 「うっぎ…ぃっ…! ――はっ、くはぁ、あぐぅっ!?」<br>  <br>  さすがにカルラの声には純粋な苦痛の色が混じり、目を白黒させている。彼女のそこは当然前の方よりも数段キツく、俺も多少の痛みを感じんでもない。だが、思っていたほどの抵抗ではなかった。このまま出し入れは、なんとかできそうだ。<br> <br>  ぐ…ちっ、ぐ…ちっ、ぐ…ちっ……ぐちっぐちっぐちっぐちっぐちっ…!<br> <br> 「うーっ、あー! あぐ、かふ、ふああ! こっ、んな、のっ、わかんない…! あ…っ、あ…!」<br> <br>  雄叫びのようなカルラの悲鳴も、やがて次第にトーンが下がっていく。せりふ通り、もう何もわからなくなっているのか、単純に悲鳴を上げるだけの力もないのか。恐らく両方だろうが。<br>  彼女のアナルは、膣ほど俺のペニスを歓迎はしていなかったが、それでも入り口の強烈な締め付けだけで充分に味わい深い。<br> <br> 「あ…っ、あう…うっ…は…あ…」<br> <br>  急激に弱々しくなっていく彼女の声を聞きながら、俺はまた射精する。<br> <br>  どくん、どくん、どくっ、どくん……<br> <br> 「あ…ああう…あ…」<br> <br>  カルラは、無意識にだろうが(恐らくもうまともな思考はできていまい)、中の隅々にまで、俺の精液を行き渡らせようとするかのように、小さく腰を回す。やがて射精が収まり、カルラの腰の動きも止まってから、俺はカルラのアナルからペニスを引き抜いた。<br> <br> 「…う…」<br> <br>  短いうめき声を最後に、彼女は目を閉じる。<br>  ふたつの穴から零れ落ちる俺たちの体液と、白に塗れた彼女の顔を眺め、俺はようやく達成感を覚えた。<br>  そのまま彼女の体に覆い被さるようにして、俺も力尽きていった。<br> <br>    *<br> <br>  火の爆ぜる音がやたらと大きく響く、それは静かな夜だった。<br>  やや弱まったその焚き火に、俺は用意していた薪を軽く投げ入れた。あまり強くなりすぎても困るから、量はちゃんと加減しておく。薪が炭にぶつかる音でさえ、よく聞こえた。それは静かな夜だった。<br>  そしてその静けさは、本来この状況じゃありえない、異質極まるものだ。俺は火の暖かさを充分に感じているにも関わらず、寒気を覚えて身を震わせた。そして、その寒気の元を盗み見る。<br>  俺と同じように木を背もたれにして座り込み、焚き火を挟んで俺と相対するカルラは、いつもの鎧を着ていない。あれは俺が…その、なんだ。ぶっかけた時や咥えさせた時に、汚れてしまっていた。一応俺が川を探してきて(幸運なことに結構近くに流れていた)洗ってあったが、鎧そのものはともかく、アンダーウェアはまだ湿ったままだ。だから彼女が今着込んでいるのは、俺の上着。<br>  すると当然、俺は上半身素っ裸なわけなんだが(裸の上から鎧を着る気にはちょっとなれん)、まあそれは仕方ない。別に取り立てて寒いわけでもないこの季節、こうして火さえ確保出来ているのなら、夜でも大したことはないしな。<br>  ついでに言うと、ショーツの部分もいろんなもんでグッショリだったため、彼女は今、正真正銘その上着一丁だけだ。当たり前だがそれが気になるらしく、裾を駆使して、彼女はその辺りを何とか隠している。俺のものだから多少大きさに余裕があるとはいえ、あれじゃもうびろんびろんに伸びるだろうな。まあ、それはいいんだが。<br>  それよりも、そう…問題なのは、この静寂。<br>  彼女は俺をじっと見つめるだけで、怒声も罵声も死の宣告もかけてはこない。目が覚めてからこっち、ずっとこの調子。俺が鎧を脱いで寄越すように言った時も、上着を脱いで渡した時も、黙ってそれに従うだけで、不満も皮肉もない。<br>  はっきり言っておくと、死ぬほど気まずい。<br>  俺はもうとっくに覚悟は出来ているのだ。一時の劣情に流されて上官をレイプ。オーケー、死罪以外に何が値する? 俺としてもそうして償いたかった。俺が目覚めてから彼女が目覚めるまで、小一時間ほどの間があったが、その間後悔と自己嫌悪の嵐で、何度剣を自分の体に突き立てようと思ったか解らない。<br>  だから余計に、この沈黙が心苦しくてしょうがない。<br>  が、それは唐突に破られた。<br> 「あたしがあんなのに一発貰ったのってさ、あんたのこと、気にしてたからなんだよね」<br>  ぼそりとした、彼女の声。そこにどんな感情が含まれているのかは、少し解りづらい。<br>  しかしまず、そのせりふの意味がよく解らなかった。俺は黙って続きを待つ。<br> 「まず最初にさ、あんたは大丈夫かな、やられやしないかなって、そう思ったわけ。まあそりゃ、あんなザコにどうにかされるほどあんただって弱くないし、そもそもそんなこと考えるヒマあんなら、自分のことどうにかしろって話なんだけどさ。まあおかげで、こうなっちゃったんだけど」<br>  カルラはそこで一息ついて、それから続ける。<br> 「ま、何が言いたいかって言うとさ。そんなやっさしーい上司に、思いっきり好き放題してくれちゃって、うん。…サイッテーだよね、あんたって」<br>  ようやく話が見えてきた。<br> 「そうだな」<br>  言い訳することも見当たらず、俺は肯定する。<br> 「だよねー。ケガで弱った女の子を押し倒してゴーカンだもんね。騎士としてあるまじき行為、みたいな」<br>  解っていることとはいえ、やはり本人に言われると相当堪える。だがまあ、自業自得。<br> 「で、どうすんの? この責任、どうやって取るつもり?」<br>  カルラの声は、やはり感情が読み取れない。軽蔑するような冷たさも、怒りをはらんだ尖りもなかった。当然、慈愛にあふれた優しさもない。<br> 「おまえの好きにしてくれ」<br>  そう答える。今更、逃げも隠れもするつもりはなかった。<br>  と、カルラがふっと笑った。目覚めてから見せる、それは初めての表情。<br> 「じゃさ。ちょっとあたし、明日まともに歩けそうにもないから、おぶってってよね。誰かさんのせいで、前の方はまだともかく、お尻がすっごい痛いわけよ」<br> 「…は?」<br>  思わず、素っ頓狂な声を上げた。何だ、そりゃ。<br> 「此度の不義、副将軍殿のこれまでの活躍を鑑みて、それで手打ちにしてやろうってのよ。どう、あたしの度量、恐れ入るでしょ? 惚れちゃいそう?」<br> 「え、あ?」<br>  そりゃもともとべた惚れだが。いやそうじゃあなくて。<br> 「んじゃ話は終わり。あたしあんま疲れ取れてそーにないから、もっかい寝るわ。見張りよろしく」<br>  一方的に通達して、彼女はごろんと寝転ぶ。俺はと言えば、呆気に取られて何も言えないでいる。<br> 「あ、それと。――またやったら、さすがにぶっとばすかんね」<br>  決して険悪ではなく、どこか面白がるように、しかし笑えないせりふで釘を刺すカルラ。<br>  俺が何か意味のあることを考えすら出来ないでいるうちに、やがて彼女は静かに寝息を立て始めた。<br> <br>    *<br> <br>  いつの間にか俺は身を乗り出していたらしく、とりあえず背後の木にもたれ直した。深く嘆息する。まさかここまで、わけの解らん女だとは思っていなかった。<br>  とりあえずは…まあ。助かった、ということなんだろう、が。<br>  一陣の夜風。俺の心情を皮肉るためにというわけじゃないだろうが、それは実に心地いい風だった。<br>  その風に髪を撫でられながら、俺は、恐らく世界一厄介な人物に、とんでもない貸しを作ってしまった我が身の行く末を案じ、遠い目をして空を見上げた。見えたのは、高く鬱蒼と茂る木の葉だけだったが。<br> 「まあ…やることは変わらないか」<br>  呟く。彼女のために、彼女と共に戦う。そうして生きると、だいぶ前から、それは決めてある。<br>  さして強くもない橙の灯りの中で、俺はひとり苦笑した。<br>  惚れた理由。やはり多分、俺も彼女に負けないくらい、変わり者なんだろう。</p>
<p>すみません、これを書いたものですが申し訳ないが引き取らせてください</p>

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