星がちかちかと綺麗に瞬く夜、ミネルヴァは、眼下に広がる穂の海を眺めていた。穏やかな風に吹かれて、ノーブルの金の海は暗がりの中でしなやかにうねる。「今日は何かあるのかしら…?領主の館も、道も、不自然に静かね……。」ゆるやかに赤毛をなびかせながら一人つぶやくと、ミネルヴァは不審者がいないか畑の周囲をゆっくりと歩き始めた。晴れが続いて作物の豊かに実るこの季節はよく、夜のくらがりにまぎれて、治安の悪化に乗じたこそ泥が自分達の努力の結晶を狙ってきたり、ボルボラの手先が執拗に畑を荒らそうとやってくるので油断がならなかった。田畑を荒らせば、税を納められなくなる。税をまともに納められなくなれば、代わりに父から受け継いだこの田畑を奪い、ミネルヴァ達をノーブルから追い出そうというボルボラの狡猾な計略なのだ。
しかし、今日は何もない。いや、不穏なものがなく落ち着いているというわけでもない。違和感を覚えるほど静かすぎるのをミネルヴァは感じ取っていた。自然の中で育った自分の第六感を信じようと、隅々まで見回ったが、何も異常は無かった。「……戻ろ。…気のせいみたい。…もう疲れちゃった……。」
昼間の巨大ナメクジとの激しい戦闘で疲労にこわばった体をひきずって、ミネルヴァが夜の畑の見回りから戻ろうとすると、家の中が異様に暗いことに気がついた。いつもなら、チャカが明りを灯して、明日の農作業の準備に追われながら待っているはずなのに。「……?」ミネルヴァは不審に思いながらも扉に手をかけた。「チャカ、どうしたの?起きなさい。私と交替して、畑に行って欲しいの。今日は何か嫌な予感がするから……。」言いながら家の扉を開けると、中はろうそくの明りすらなく真っ暗だった。彼女がランプに明りを灯そうと手探りでテーブルに手を伸ばそうとしたその途端、一斉に、あらくれ男達のいくつもの無骨な手が襲い掛かった。「!!何をする!!!」「姉ちゃ………!!」すでに縄でがんじがらめにされ、うめいているチャカ。「チャカ、チャカ!!」暗闇の中、弟の声の方へ手を伸ばそうとしたが、あっという間に大勢の毛むくじゃらな腕に女らしく細い体を床へと押さえつけられてしまった。
「………姉ちゃん、逃げてぇ………!」「チャカぁ!うっ、やめろ!!放せっ!!」必死の抵抗もむなしく、大人数の不意の夜襲に、多勢に無勢でつかまるミネルヴァ。大勢の腕が彼女に襲い掛かる。暗がりのせいで、一体何人が自分の体に触れているのか確認できないが、とにかく大勢の手が自分の体をまさぐっているという感覚にミネルヴァは恐怖を覚えた。闇の中で感覚のとぎすまされた体をあちこち撫で回され、敏感に反応して、床の上で彼女は無意識にその肢体をくねらせる。「ううっ……、やめてぇ………。」彼女の懇願に周囲は一切応えず、四方八方からびりびりとクロースが、下着が、身につけているもの全てが引きちぎられた。「きゃぁっ!!何を!!野蛮人!!」「うひょぉ、いい体しているじゃねぇか!」男達はミネルヴァの体をじっくりと鑑賞しようと、ランプをつけた。その明かりに浮き上がった予想以上のならず者の人数に彼女は絶句した。チャカが、姉のあられもない姿を見て悲鳴を上げる。「おい、このままやっちまうか?」野蛮な集団の一人が世にも恐ろしい事を口にした。
男達はいやらしい笑いを浮かべ、じっくりとミネルヴァを視姦していた。彼女は、日々の農作業と剣の修行にひきしまった綺麗な体のラインに、実にふくよかな、大きすぎるほどの乳房と形の良い尻を、この野蛮な男達の前にさらけ出していた。 その表情は驚愕と怒りで引きつっている。「いや……、もったいないが、今はまず先に連れて行ったほうがいいだろう。それが命令だからな。」頭らしい男がそういうと、残念そうに男達はロープを取り出し、ミネルヴァを、大きな胸を強調するようないやらしい形になるようにぐるぐる巻きにした。
「……………。」領主の館の一室にひん剥かれて引き出されたミネルヴァを見て、ボルボラはいやらしく口をゆがませ含み笑いをして言った。「減税、ということか?まったくお前は同じことばかりうるさいやつだ。」一糸まとわぬ姿で領主と周りの男達の前に引き出されても少しもひるまず、ミネルヴァはきっとボルボラを見据えた。「はい、私たちは、もうこの重税には耐えられません!!畑を耕す私たちは、税を納めてしまえばもう口にするものは来年の種しかありません。これを食べてしまえば、来年の畑に蒔く物がなくなってしまいます! …他の町の人たちも日々の生活に苦しんでいます、なのに領主館で毎夜聞こえる、らんちき騒ぎ……。あなたたちは人の幸せを奪い、苦しみを与える化け物です!」「この小娘が、勝気な事をいいよるわ。」「幸いに、人の考えに税はかかりませんので!」ミネルヴァの言葉に、そばにいた兵士が欲情に血走った目を向けながら言った。「娘。余計な返し口は利かないほうが身の為だぞ。」「税を自由に使うあなたたちでも、地獄行きからは自由ではないはずよ。いつかきっと、あなた達は破滅に追い込まれる。」「!この女、言わせておけば……!!」「まあいい、ぐひ…。」ボルボラは兵士にそう言うと、ミネルヴァの卑猥な姿を頭から足の爪の先まで眺め回した。「まったく、このはねっかえりは、どうしたものか……。ぐひひ……。」
ボルボラはその腐りきった頭に、世にもおぞましい考えを思いつき、下品に分厚い唇を醜くゆがませた。「そうだ、貴様は女のくせに、乗馬が上手かったな。」こんな状況でも凛とした態度を崩さず、ミネルヴァは答えた。「母譲りです。」「そうだな、母親に似て、お転婆のあばずれだ。」「違います。母は立派な方です。」素っ裸だがしかし冷静なミネルヴァの受け答えに、ボルボラはにやりとしたので、平静を装いつつも彼女は嫌な汗が背中を走るのを感じた。
「よし、ぐひひ、お前の言う事を聞いてやってもいいぞ。税を半分に減らしてやってもいい。」「え………。」まさか本当に、と信じられない表情でミネルヴァは顔を上げた。「しかし………。条件付だ。」ボルボラは太り過ぎで汚いしわのよった顔一杯に、残忍な笑みを浮かべた。
「もしもお前が、明日の正午、この格好のまま馬に乗り、ノーブルを一周するのなら、そうしたら、ノーブル中の全ての税を今の半分にしてやろう。」ボルボラの世にもおぞましい考えに、チャカが縛られたまま言葉にならない悲鳴をあげる。ミネルヴァは黙って毅然と一糸まとわぬ姿で立ちつくしていたが、その頭からつま先まで震えが走った。
そんなことをしたら、一生、ノーブルで顔を上げて暮らせないだろう。結局は、この残虐な領主は、ミネルヴァをノーブルから追い出すつもりなのだ。「ヒィィィッ、嫌だぁぁぁぁっ、ダメ、だめっ、そんなことできるわけないじゃんか!結局、俺たちをノーブルから追い出す気じゃねぇか!!!」「うるさい!!このガキ!!!」「姉ちゃん、姉ちゃんッ!!!」「…………。」ミネルヴァは父と母の事を考えていた。忠誠を誓った主を戦火の中に失い、逃亡兵として流れ流れてたどり着いたこの地に、平和を築こうとした父。そして身分の高い身でありながら、戦で貧困に苦しむ人々を見捨てることができず、癒しの魔法のみを携えて生家を飛び出し各地を放浪して、父と出会った母。平和な町を創ろうと、二人が願い、なし続けてきたことをこんな所でつぶす訳にはいかなかった。(父さん、母さん、私は………。)両親の想いを継ぎ、ノーブルの人たちに生きる道を、未来を拓くには。それには、他に道が無い。彼女は観念したように長いまつげをふせた。
「…………………わかりました…やればよいのですね………。」「やめて、やめてーー!!姉ちゃんやめてぇ!!!こんな馬鹿なこと、絶対にやめてくれ!!!」チャカの悲鳴とも懇願ともつかないうめきに、ミネルヴァは心を塞いだ。本当に、それしか道が残されていないのだ。「その代わり、ちゃんと減税を保証してくれるんでしょうね。」「ああ、もちろんだ。この領主様にまかせろってんだ。ゲフフッ………。」「その事をきちんと書面に記さねば、私は承諾できません。」「まったく、こざかしい奴だ………。書類は後で、執務室で書いてやろう。明日持ってくるから、心配するな。」「…………………わかりました。」
「やめて、姉ちゃん、そんなこと絶対にだめだよ!!こんなの、この成金デブがまぐちのでたらめに決まってる!!姉ちゃんを利用する気なんだ!!」チャカが叫び、ならず者が彼の縄を締め上げた。「黙れ!ガキが!!」兵士の乱暴な行動に、初めてミネルヴァが悲鳴を上げた。「やめてぇっ!……チャカは、弟だけは自由にしてくださいっ!!この子は関係ありませんっ!」ミネルヴァの初めて狼狽した姿を見て、ボルボラも周りの兵士も、ようやくこいつに一杯くわせられると残酷な笑いを見せた。「弟は、人質にとらせてもらう。もしも、明日途中でおかしな真似をしたら、こいつの命は無いと思え。」「……………くっ…………!!」ミネルヴァは家畜のように裸で綱につながれたまま、がっくりと首を落とした。
次の日、約束の時間―――。ミネルヴァは凛とした表情で、しなやかに太股をあげ馬にまたがった。足をいっぱいに広げて彼女の茂みが広がり、馬の鞍に女の花びらが押し付けられる。いつもと違う感触にミネルヴァはとまどったが、何とか平静を装うと膝に力を込め、いつものように勢いよく手綱を引いた。邪魔な袖がなく、普段より動きが軽くなっている腕は、力あまって彼女の頭の方まで手綱を引き上げ、馬はキュェーといななきながら前足を高々と宙にそらせた。「やっ!!!」
ミネルヴァが減税と引き換えに裸で町を奔り回るという噂は、一晩の内にまたたく間にノーブル中に知れ渡っていた。よく晴れたまっ昼間のさなか、女性たちは雨戸を閉ざし、窓という窓を固く閉め、小さな子を連れた母親は子どもたちを部屋の隅に集めると、ミネルヴァの非常識なふるまいを見せまいときつく抱き寄せ、この嵐が通り過ぎるのをひたすら待った。男たちは、いったんは外を見るまいと窓を閉めたものの、細く開けてこれから始まる事に期待する者、また完全に分別を忘れ、陽光の下に登場する彼女の裸を一目見ようと窓に集まりやんやと騒ぎ始める者―そこにはあの長老の息子もいた―等町に騒ぎを生じさせていた。 年寄りたちは、ミネルヴァの破廉恥なふるまいは実に愚かな事だとささやき合い、ただ巻き込まれたくない一心で、家の奥にひっこんでいた。長老は周囲の人々に彼女はきちがいだといいふらした。が、しかし、ボルボラの重税や残虐な行いに苦しみ続けていた人々の多くは、心の奥で密かにミネルヴァの勇気に畏敬の念を抱き、これでボルボラの圧制が少しでも緩むようにとひたすら願い続けているのだった。
ミネルヴァは約束通り、ノーブルをあられもない生まれたままの姿で走り抜けた。家々の雨戸に挟まれた道を走り続け、民家の密集する道を駆け抜ける。馬の上でゆれて上下左右に波打つ大きな乳。大衆に見られているという緊張もあってかその先の紅色の突起は立っていた。高々と天をあおぎながら馬の動きにあわせてリズミカルに動く尻、むきだしの割れ目。ミネルヴァの艶めかしい姿に野次が飛ぶ。「ひぇーっ、いい眺めだ!!」「この淫乱女!!」しかし一切彼女の耳には入らず、なおも店の並ぶ市場へと馬を走らせ続けた。
「いい気味だぜ、まったく!」「ああ、ミネルヴァめ、いいケツしていやがる!…んぁ、な、何だよ!」長老の息子たちはミネルヴァに物を投げつけようとしたが、いつの間にか部屋に立ち入っていた年上の男たちに腕を掴まれていた。「…やめろ!!ミネルヴァが誰の為にこんな事までやっていると思っているんだ!!」「あんだよ、放せよ!!どうせこんなことやったって、ボルボラが税を軽くするわけがないだろ!?」「それでも、俺たちには、これしか残されていないんだ。ここで生活する糧を得るには、生きていくには、今の彼女にすがるしかないんだ。」「あの女はボルボラに遊ばれているだけさ!」「ミネルヴァだって、それはわかっているだろう。だが、少しでも可能性のある事なら、やらなければいけないと考えているんだ、町のために、俺たちのために。」「だからって何にもならねぇじゃねえか!!俺達が平和に暮らす為には、とにかくあいつらに関わらずに今を我慢するしかねぇんだよ!どうせ、どうせ!!」「『どうせ』なんて言葉は、ミネルヴァは一度も使ったことがない。あいつは勇気のあるやつだ…。『どうせなら』懸けてみようと思ったんだろう。どっちにしろ、このままじゃ俺たちはのたれ死ぬだけだからな……。」「……………。ケッ、またあいつばっかり………。」「……そういえばお前はミネルヴァと同い年だったな。だが、それでやっかむくらいならもっと人の役に立つことをしてみたらどうだ?」「………………。」
時折冷やかす青年達にもかまわず、減税への祈りを込めてもしくは関わるまいと異様に静まり返っている町並みをミネルヴァはひたすら走り続けた。「なんという愚行であろう…。」首をふる長老達にも気づかず、町の中央の街道を走りぬける。今のミネルヴァには、周りの景色も自分の姿を見物する野次馬も、今の自分自身も何も目に入っていなかった。今、ミネルヴァの目の前にあるものは、ボルボラが来る前、両親が生きていた頃の、畑が、家が、町全体が豊かさに満ち溢れた平和なノーブルの姿だった。「ああ、父さん、母さん……!!」
その時突然、母の建てた孤児院の前で、ミネルヴァの事を祈るように見ている美しい女性を目の端に捉えた。以前、ボルボラの残酷な行動によって恋人を失ったと話していた女性だ。「みんなを助けたい、これで町が救われるなら………!!!」ボルボラのむごたらしい暴政に恋人や親兄弟を失い、毎日を自分よりも辛く苦しい思いをして過ごしているノーブルの人達を考えると、耐えたい、耐え抜いてこの地に平和な暮らしを築けるようにしたいと思った。「あのノーブルが、あの町がもう一度戻ってくるなら………!!!」走り続けている間、ミネルヴァの頭にはその事しかなかった。
そして約束の終点地、町の一番大きな広場にたどり着いた。「!!」眼前に広がる光景に、ミネルヴァは目を疑った。広場の地面に柱が深々と打ちこまれ、周りにはボルボラと、その手下の男達がにやにやと笑いながら柱の周りを囲んで人垣を作っている。ボルボラの脇には惨めに縛られたまま、情けなく絶望に頭をうつむけたチャカもいた。「何をする気だ!!」男達はそれには答えなかった。「こんな事、約束には………!!!」ミネルヴァが何か言う間もなく、彼女は後ろからまたもやロープをひっかけられ、きつく縛り上げられてしまった。ここでようやくミネルヴァはボルボラの策略に気がつき、絶句した。残忍なことを心から喜び好むこの領主は、約束を破るばかりでなく、町でも一番目立つここの広場でミネルヴァを柱につなげ、大衆の見世物とする気なのだ。
広場にはミネルヴァの噂を聞いて、野次馬根性まるだしの旅行者たちも続々と集まっていた。元々遺跡などが近くにあり、その中継地として研究者や観光客が集まるノーブルだが、噂を聞きつけて近くの村々からもぞくぞくと野次馬が集まってきていた。
この町に住む町民よりも多いのではないかというような大勢の観衆の前で、ロープで体中を杭に繋がれ、縛られるなやいなや、そのまま無理やり両腕を上に引き上げられそうになってミネルヴァは苦しさに呻いた。 ボルボラは澄んだ青い空高く、どす黒いほど不気味な笑い声を響かせた。「このボルボラ様に刃向かうやつらは、みんなこういうみじめな末路になるんだよ!!!」その濁った声に、悲壮に満ちた表情のチャカが顔を上げる。「姉ちゃん、姉ちゃーーーん!!!」いつも弟には粗暴な態度のミネルヴァだったが、この時ばかりは、チャカを慈しみの目で見つめた。「チャカ………姉ちゃん、何もしてあげられなくて、……ごめんなさい………。」
彼女の両腕を頭の上に持ち上げ、ロープがピンとはったその瞬間だった。シュッ。ヒュン。観衆のあいだから二本の短剣が飛んできた。短剣はミネルヴァの体すれすれをかすめ、一本はミネルヴァを引っ張り上げようとしたロープ、もう一本は彼女の体を縛り付けていた杭に刺さり、ロープの切れ端が二、三本、下にだらりと落ちた。「!!」その機をもちろん逃さず、ミネルヴァは体をねじって綱を払い落とすと、杭に刺さった短剣を勢いよく引き抜き、裸のまま近くの男たちに当て身をくらわすと、観衆の中へと走り出そうとした。「馬鹿が!逃げられると思っているのか!!!」即座にミネルヴァは周りにいた男の一人に片腕をつかまれたが、思い切りひざで男の股間を蹴り上げ、その手を振り払うと身をひるがえして柱の冷たくそそり立つ台へと引き返した。
「おとなしくつかまるんだな!!」他に逃げ場はない。ミネルヴァは身軽に柱をよじ登ると、ひらりと大股を広げ近くの屋根へ飛び移った。わっと人々の観声が沸きあがる。「!!この、小娘がッ!!」ボルボラの周りにいた男達が柱に群がったが、その途端屋根からたくさんの火の玉が落下し、見上げた男達の眼を直撃した。「ぐわっ!!!」「魔法か!!」ミネルヴァは屋根づたいにノーブルの町を走りぬけた。下の広場ではミネルヴァを追って、怒鳴り声を上げる者、どさくさにまぎれて喝采をあげる者、屋根から屋根へと舞う女体という絶景を見逃すまいと走り出す者、様々な人間が入り乱れて大混乱に陥った。
ミネルヴァは必死で叫んだ。「チャカ!チャカぁ!!逃げて!逃げてぇ!!!」先ほど観衆の中へと走り出したとき、彼の方へ短剣を放り投げていたのだ。ミネルヴァはその後までは確認できなかったが、チャカは即座に落ちた短剣を足で掴み、この混乱に乗じてちゃっかりと綱を切るとその短剣をもったまま人波の中へ走り出していた。 人ごみに紛れてしまえば、何とか逃げきる事もできるだろう。ミネルヴァは弟の無事をただひたすらに祈った。彼女は煙突や大きな家の二階の壁などに身を隠しながら、何とか逃げ切ろうと走り続けた。裸のまま動き続けたおかげで、その体にはあちこちに擦り傷や切り傷、あざができ、痛々しい程になっていた。
このまま逃げ続けていたとしても、この裸の身で、結局は捕まってしまうだろうことは目にみえていた。しかし、ミネルヴァは走り続けるしかなかった。ボルボラが約束を守る気などまったく無いとわかった以上、ミネルヴァの頭にあるのは、とにかく弟を無事に領主の手から逃し、生き延びさせることだけだった。とにかくこうしてボルボラの気を自分に向けさせてさえいれば、その分チャカが逃げ切れる率も高くなる。広場から離れるように逃げ続けてさえいれば…。ミネルヴァは、チャカの無事がわかるまでは、けして捕まるまいと決心していた。捕まるのは、チャカが逃げ切ったことを確認してからだ…。
そうして屋根をはい上がり、家々を飛び越え、逃げていたが、追っ手の数は増えるばかりだった。下の道路では、領主に反対する人達が怒りに震え立ち上がり、武装した領主の兵士と乱闘がくりひろげられている。「みんな、ごめんなさい。わたしのせいで……。私がボルボラにだまされなければ、くっ……。」激しい怒りとくやしさにこみあがる嗚咽をかみ殺す。
逃亡劇ももうこれまでかと彼女は思った。最後の抵抗をしようと町一番の大きな宿屋兼酒場の屋根に飛び移り、二階の壁に身を隠しながら、その先の集落へ逃げようと細い裏路地に飛び降りようとしたとたん、その二階の窓からたくましい腕が伸び、彼女の細い腰をつかんだ。「ひゃっ!!?」抵抗する暇も、振り向く暇も無い恐るべき早業で、彼女は宿屋の中に引きずり込まれた。
ノーブルの町は大混乱に陥っていた。怒りに立ち上がる民衆、抵抗をおさえようと武器を構える兵士たち、かかわるまいとしながらも、好奇心に勝てず遠巻きに見物する観光客や町の人達。
バタバタと音をさせて宿屋のひげもじゃの主人が階段をかけ上がる。「ゼネさん、ゼネさん!あのミネルヴァがまだ捕まっていないんだ、何でも、屋根を鳥みたいに飛び移って、そのまま見えなくなっちまったそうだよ!兵士達はどこかの屋根が抜けて家の中に落ちたんじゃないかって言っているけど、みんな外にでているもんだから、気がつかなくて、それであわてて探し回っているんだ!ゼネさんも、窓からなんか見えなかったかい!?何か気がつかなかったかい!?」 主人は狼狽のあまりノックもせずに客室の扉を開け、ベッドに伏せている男に声をかけた。「おっと、俺は何にも知らないぜ。あいにくと今はお楽しみ中なんでな、邪魔するとは無粋じゃないのか?」そう言って男は毛布をひじで持ち上げて、しっかりと抱きくるめた女の白い背中をちらと見せた。
それを見た主人はあきれたように両手をあげる。「まったく、町がこんなだってのにこの人は……。まあ、こんな小さな町の騒ぎなんぞ、あんたみたいな風来坊には知ったこっちゃないんだろうがな。」「そういうわけでもないさ。このまえだって、皆が投げ出していたギルドのあの仕事、片付けたのは俺なんだってこと、忘れたわけじゃないだろう?」「はいはい、感謝してますよ。だけどね、ゼネさん、」主人はひげを撫でながらちらと視線を女体に戻すと、「あんまり関わると、ろくなことがないよ。今騒ぎを起こしているミネルヴァという女は、暴政をする領主にかなり前から刃向かっているんだ。ちょっかいださないほうが身のためだからね。」そして主人は背を向けドアノブに手をかけたが、まわそうとする手をそこでとめたまま、独り言のようにつぶやいた。「………でも、心の中じゃ、みんな彼女と同じ気持ちさ。領主の暴政にみんな苦しんで、大事な家や人を失ったりしているんだからね。けれど、結局、みんなわが身が大事だから、おおっぴらに彼女に賛同する勇気がないんだ。だけど彼女がああやって行動しているから、動き始めた人もいる…。ノーブルの町は、変わりはじめているんだ。」
「だと、よ。ミネルヴァさん。」ゼネテスは腕の中の震える背中に声をかけた。「………ふがー!!!むがー!!!!!」ゼネテスが口をふさいでいた手を放すと、ミネルヴァはおし殺したような声でうめいた。「な、なんなの、あなた、変態!!非常識じゃない!放しなさい!」「お前さんの格好も、屋根を走り回るにはちょっと非常識じゃないのかい?」ゼネテスは微笑を浮かべて言ったが、その笑みはさっきのごろつきや兵士達とはまったく違った、どこか温かさを持った、それでいて彼女の心まで見透かしたような微笑だった。 「…あなたは何も知らないの?今日の事を……。」「知っているさ。お前さんは町の人のために、こうやって自分を犠牲にして、馬で走り回っていたんだよな」「!!なら、放して!私、行かなくては…、ボルボラは約束を破った、私は逃がさなきゃいけない人がいるから、兵士に追われていなくちゃいけないの!放して!!」
「いや、悪いが駄目だ。今飛び出したら、すぐに捕まっちまうぜ。お前さん自体がまず追っ手から逃げ切ることが先決だろう。」「やめて!……私は、私は逃げるわけにはいかないの!」窓から、民衆と兵士のぶつかる乱闘騒ぎが聞こえてきた。「私のやったことで、町の人たちが暴動を起こしている…、止めに行かなきゃ、みんな殺されてしまう!!」「大丈夫だ。そこまでの騒ぎにはならない。」「どうして、そういうことが言えるのよ!!」「ボルボラへの反乱を企てているリーダーはお前さんなんだろう?なら、リーダーのいない間は、おそらく皆も本格的には立ち上がらない。ならば、ボルボラも本気では手を出さないだろう。今はまだ、この騒動も大きなものにはならずにすぐにおさまる。 …それにボルボラの目的は、お前さんを捜しだすことだ。お前さんが見つからないことには、本格的に兵を出しはしない。」「あなたはよその人だからわからないのよ!ボルボラにはそんな事通用しない、あいつは気分次第で戦闘モンスターを繰り出してくる!私、行かなくちゃ!!」「まて。……今お前さんが出て行けば、確実に捕まる。そうしたら、何もかもおしまいじゃないのか?お前さんがここで生き延びられれば、後で再び反乱の仲間を集結させることができる。弟を助けに行く事もできる。」 さきほどから、自分が反乱の集団のリーダーだという事や弟の事まで知っているのに、ミネルヴァはとまどった。「あなた……一体誰?何者なの?本当は、全て知っていて私を……?」
ゼネテスは口を開かなかった。「……私に、何か用があるっていうの。私は行かなくちゃいけないんだけど!」「とにかく、追っ手がこの周囲から去るまで、ここにいて、俺の相手をするんだな。」ミネルヴァは一瞬なにがなんだかといった表情をしたが、最後の言葉の意味を飲み込んだとたん、気が狂ったように暴れだした。「いきなり何を言っているの!!失礼ね!!名前を言いなさいよ、あなた、何なの!」「俺はゼネテス。しがない冒険者だ。少なくともお前さんをボルボラに引き渡すつもりはない。」ゼネテスはしっかりと自分の腕を暴れる彼女にからめたまま力を緩めない。ミネルヴァの抵抗は無駄に見えた。「行かせて!私は行かなくちゃいけないの!」
ゼネテスは相変わらずその願いに応えなかった。ミネルヴァは、階下に酒場がある事も忘れ興奮に声をかん高くさせて言った。「私の言ってることがわからないの!何回も同じ事言わせないでよ!行かせてっていったら、行かせなさいよ!!失礼な、人の苦しみも考えない、礼儀知らず!」
「大勢の民衆の前に、裸体をさらけ出した女の言うこととは思えないねぇ…。今日は町中の男達が、お前さんの真っ白い肌を見て欲情していただろうな。」その言葉に、今まで考えるまいとしていた羞恥の感情が一気に噴き出し、ミネルヴァは体が燃えるように火照るのをかんじた。男の、服からはだけた胸板に自分の素肌がぴったりとくっついて、その自分とは違う体温の感触が、今まで昼間の陽光の下で自分は何も身につけていなかったのだという実感となって一気にミネルヴァを襲った。 ただならない恥ずかしさに涙があふれだし、シーツを濡らしていった。「ううっ……。」突然今までとうってかわって絶望にうち震え泣くミネルヴァに、ゼネテスは優しく声をかけた。「町のためにやったことだろう。何にせよ、お前さんは度胸のあるやつだ。」ゼネテスはそう言って彼女の耳を、歯を立てずやさしく噛んだ。その唇の間から舌をちろちろと出して、彼女の耳たぶに沿わせる。「はうっ……。」ミネルヴァは、つい先ほどの、威圧するような声とはうってかわった、うろたえた声を出した。「わ、私………。あいつに騙された…。あんな恥ずかしい格好で……もうこの町にいられない………。」
「一度、お前さんと話がしてみたかった。どうしてそんなに領主と戦おうとするんだ?大変なのはわかるが、今の生活を我慢し続けていれば、すぐに命を狙われるような事もなかっただろう。 この町が嫌になったのか?畑仕事が嫌になって、俺みたいに剣でも振り回したくなったのか?」ミネルヴァは潤んだ目で、強く握り締めてしわのついたシーツを見つめた。「あなたは旅の人だから何も知らないのね。私たちの苦しみを………。私は畑仕事が好きよ、この畑を守りたい、この町を、ノーブルを守りたい……。父さんと母さんが必死で守り続けてきたものを、それを、……あんなやつに、…あんなやつに………。食べ物を奪われ、家を奪われ、のたれ死んだ人もいる。子どもたちも飢えて泣いているのに、私たち何もしてあげられない……そして私は、………あんな、たくさんの人の前で辱められて………。」「……………そうか……、しかし、それももうじき終わるだろう……お前さんが立ち上がらなくても、あの領主は、他からも恨みをかっているからな…じきにまた、落着くようになる。」 それが、気休めでない事が、彼の口調から感じ取れたので、ミネルヴァは頭を上げた。「!どういう事!?他からもって…?」
「……………。」「………ひょっとして、……広場で助けてくれたのは、あなた……?」「……違う。……そいつもじきに現れるんじゃないのか?あいつもボルボラを倒すために動き始めたみたいだからな…。」「やっぱりあなた………私たちより事情を………どういう事?」彼はそれには答えなかった。ゼネテスは、だいぶ前から、逃げ回るミネルヴァの裸体を見ていたが、なまめかしいほど美しく、いやらしく胸を揺らして動き回るそれをわずかの間目にしただけでも体の中心が急速に熱くなるのを感じ、今やすでに彼の中心部はギンギンにそそり立っていた。 このノーブルの実態を知ろうと、ミネルヴァと接触したまでは良かったが、彼女のまっすぐな想いを感じ、そしてしなやかな肢体を抱きしめて、もはや、彼の理性ではその欲情を抑えることができなくなっていた。
ゼネテスは彼女の体をいっそう強く抱きしめ、そして、町中の人々の目にさらされ、しかし誰も触れることの叶わなかったその肌に舌を沿わせた。「はぁん……。やめてぇ……。」彼女は、とにかく敵ではないが、得体の知れない旅人に体をいじくられ、不思議な快感に襲われるのを感じていた。「やぁん……。あん……。」彼女の大きすぎるほどの豊かな胸に手を伸ばし、紅色の乳首を指先でもてあそんだ。「きゃっ、ああっ、いやぁん!」彼女は乳首に弱かったらしく、身をよじらせてしかし恍惚とした表情を顔一面に浮かべた。ゼネテスは彼女の胸を愛撫しながら、高々とそそりたった自分の物を彼女のふとももに沿わせた。とにかく本能にしたがい彼女と交わりたくて仕方が無かった。こんなにも欲情のままに必死になった事はない。ゼネテスは自分のがむしゃらさに我ながら驚きつつ、ミネルヴァのふとももを開かせようとした。彼女は最後の抵抗で足を固く閉じていたが、胸を愛撫し続け乳首をこりこりとこすると、その快感に彼女の力がゆるんだ。その機を逃さず太ももに膝をあてがいむりやり開かせる。
「いやぁっ、やめてぇっ!」茂みの中を見たゼネテスは、驚きを隠せなかった。「ふー…ん。お前さん、俺がまだろくにしていないのにこんなにぐっちょり濡らして……さては、町の人達に見られて、感じていたな?お前さん、実はかなりの淫乱のようだな。」 「いやっ、ち、違うッ、違うーッ!」「本当か?実のところは、見られて、感じていたんだろう?大勢の人に裸を見られて、あられもない自分自身を見られて………。」「………。」言葉の矢で的をすぱりと言い当てられて、彼女は真っ赤になってシーツに顔をうずめた。ゼネテスは言葉に感じてさらにあふれつづける彼女の愛液をかきだそうと指を一本、そっと彼女の穴に挿入させた。そのまま指をゆっくりと手前に、奥にと動かす。「ふぅっ……いやぁん……。」そのゼネテスの指の動きに彼女は完全に自身を忘れ、いやらしく腰を動かして無意識に指を自分の中へひきいれようとした。優しいため息ともうめきともつかないあえぎに、彼の肉棒も我慢できないと汁を垂らし続ける。
「あっ、あっ、あんっ!!」ゼネテスの指に彼女の膣が敏感に反応して収縮を繰り返す。彼女の膣の中はざらざらとして、ゼネテスのごつごつとした指にぴったりと吸い付こうと動き続ける。「ああん……き、気持ちいい……」非常時という今の状況に、体が敏感になっており、彼女はいっそう快楽が感じられてしまうのだった。「はぁん……。」「すごいな……こんなに溢れて……。すでにこんなに濡れているんなら、手間がはぶけるってもんだ……。」「はぁ………あん………。」ミネルヴァは快感に他の事が考えられなくなっていた。すがるように涙を浮かべてゼネテスの方を見る。
「ああっ…………。」「ん?どうした?」「……しいの……欲しいの………。」「ふっ………お前さん、やっぱり淫乱だなぁ。何が欲しいんだ?」「…あなたの……下さい……お願いします………。」ミネルヴァの眼前にそそり立つゼネテスの太くたくましい肉棒は、今や彼女から言葉、いや思考すら奪ってしまった。「わかった……………、俺も、もう………っ!」ゼネテスは思いきり彼女の体をつかむと、彼女の濡れきった膣に自分の肉棒を突き刺した。「ああーっ!あんっ、ああん……!!」滝のように流れ続けている愛液で、彼女の穴はゼネテスの侵入を難なく許し、更に奥へ奥へと絡みつくようにゼネテスを導き続けた。
「やあん……おっきい、いっぱいだよぉ………。」彼女はその肉体をゼネテスの肉棒で貫かれて、震え、とまどい、泣いているようにも見えた。ゼネテスは欲情のままに激しく腰を打ちつけ、ミネルヴァはその勢いに押されてシーツにしがみついていた。その白い布はすでにほとばしる彼女の愛液で、あちこちにしみを作っている。 「はぁっ、あんっ、あんっ。」「うっ、ハァッ、ハァッ。」
「はんっ、イタイッ。そんなに、……したらぁっ、…こわれるよぉ……。」「ハァッ、ならず者に、たくさん、剣を向けられても、ひるまなかったのに、お前さん……っ。」「……ああんっ、何よぉッ………。」「ハァ、ハァッ、…かわいいぜ…………。」「……………ううっ。ああんっ。ヒィッ……。」「……はぁっ、ハァッ、こいつぁ、ちょっとばかし、キツいねぇ………っ。」「アンッ、アンッ!」「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」「ああっ!!!」絶頂の時を迎え、ミネルヴァはびくびくっと体を震わせた。その痙攣にこれ以上耐えきれないと思い、脳天にしびれるものを感じつつもようやくの思いでゼネテスは腰を動かしミネルヴァから自身をひきだそうとした。「ふぅ………っ、もう少し、続けさせ…………。」しかし、あと少しでミネルヴァから肉棒が離れる、という時、ミネルヴァの穴の入り口が、肉棒の先の敏感な部分を強く刺激した。「うっ………。」ゼネテスはそれ以上我慢できず、肉棒を引き抜いたと同時に、彼女の体中にどくどくと精液を放出してしまった。気がついたときには、彼女の赤毛にも、体にも、太ももにも、いたるところにゼネテスの白い液体がべっちゃりと飛び散っていた。「はぁ、はぁっ。」二人は、しばらくの間、余韻に身を震わせ放心状態で抱き合っていた。
「あちこち、いろいろべとべとしちまったな。まず風呂に入って、洗い流してきたらどうだ?」ゼネテスのすすめるまま湯浴みをし、ミネルヴァが浴室から出ると、ゼネテスは、彼女の為に服を用意して待っていてくれた。「あ、ありがとう………。」サイズがあまりに違いすぎるぶかぶかの服だったが、服を着たミネルヴァはようやく人心地ついて、ゆっくりと感情が落着いていくのを味わった。そして彼が身をまとう物を与えてくれたことに、かくまってくれた事にミネルヴァは心から感謝した。
気がつくと外は静かになっていた。窓の外を見ると、宿屋の周囲からは皆立ち去ってしまっているようで、人の気配はほとんど無かった。丁度宿屋に誰かが帰ってきたので、二人は階下の酒場の方に耳を澄ました。「どうだい、ヨサ。ミネルヴァは捕まったかい!?」「いや、まだだ。だが弟は捕まったらしい、領主はそいつを人質にして、ミネルヴァをおびき出すつもりらしいぜ。」その言葉にミネルヴァははっと全身を緊張させ、ゼネテスの袖をつかんだ。「ああ!やっぱり!!チャカを助けなきゃ、私行くわ!!」「そうだな。これを持っていけ。」ゼネテスは素直に応じると、一振りの冒険者用の身軽な剣を渡した。「あ、ありがとう……。」「ここの裏口から出て行ける。今人払いをするから、その隙に行きな。」その言葉にミネルヴァはゼネテスの顔を見て言った。「あなたは一緒に行ってくれないの?腕のたつ冒険者なんでしょう、あなたも協力してくれればいいのに……。」「いや、お前さんの力でなんとかなるだろう。俺は他にやることがあるんでな。」「でも………。」「ここでお前さんを助けるのは俺の役目じゃない。俺には俺のやらなきゃいけない事がある。」「………あなたにも、何か事情があるのね………、わかったわ。」ゼネテスの指図で宿屋を抜け出し、一人ミネルヴァは走った。
領主館の近くまできたミネルヴァは、目の前の人影に驚いて足を止めた。「あっ、あなたは!?」そこには、昨日の昼間、そして今日も彼女を助けてくれた二刀流の旅人が立っていた。
エピローグ
数日後―――。「レムオン公の妹君、ミネルヴァ、ねぇ……。」改造ナメクジの残骸を前にして、息を切らしたミネルヴァに、ゼネテスはノーブルの時と同じ、温かみに満ち、かつ彼女を見通した微笑みを投げかけた。「あっ………!!あなたは………!!!」酒場から突然出現し、ナメクジを一刀両断して振り向いた彼の顔を見て、ミネルヴァは絶句した。同時にその頬がみるみると紅に染まる。「……………、また、助けてもらっちゃったわね。」「何だよ、姉ちゃん、知り合いなのか?」恐るべき第六感で何かを感じ眉をひそめるチャカを見て、ゼネテスは微笑んだ。「弟さん、助けることが出来てよかったな。」「………通りすがりの、二刀流の旅人が協力してくれて、それで、一緒に、チャカを助けに行って……………。」ミネルヴァは驚きでしどろもどろにつっかえながら説明しようとしたが、何をどう伝えたらよいのか自分でも理解できなかった。しかし、ゼネテスは彼女を見た時に、全てを理解していた。
彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。
Fin
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