窓から差し込むやわらかな日差しを浴び、竜殺しと呼ばれる男が机に向かっていた。鼻歌交じりに机を指で叩き、リズムを取る。その豪華な部屋に似つかわしくないメロディは、どうやら彼の冒険者時代に流行したものらしかった。
「ザギヴ様、失礼します。…あっ」
一人の文官が扉をノックして部屋に入る。文官は部屋にいたのがザギヴでなく竜殺しであったことに驚いたようで、目を軽く見開き、それから慌てて深く礼をした。
「ザギヴならいないよ。僕も帰りを待っているところだ。…代わりに用件を聞いておこうか?」「いえ、急ぎではありません。また後ほど参りますので、 もし先にザギヴ様に会われましたらわたしが来たと…」
軽く手を上げて文官を招こうとした竜殺しに、彼は丁重に断りを入れる。それから静かに廊下へと出て行った。
ザギヴに見せるはずだった書類の束を手にしたまま、文官は部屋を出た。閉めた扉の前で佇み、緊張を解くように肩から力を抜く。
「…相変わらず、非凡な空気を纏った方だ」
竜殺しの英雄は決してこちらを威圧しているわけではない。それでも何か近寄りがたいものを感じ、自分のような人間は臆してしまう。かと思えば竜殺しは肩書きも無いような一般兵にも気軽に声をかけ、長年の友人のように打ち解けていく。そんな彼の人気は今やネメアや国を治めるザギヴをも凌ぐと言って良い。自分もまた畏怖の念を持ちながらも、『竜殺し』への憧れは強かった。
「それにしても…いや、私の気のせいだろうな」
あの英雄に限ってまさか、と誰にとも無く呟き、文官は長い廊下を歩き出す。竜殺しはその気配を部屋でじっと窺っていた。文官が完全に立ち去ってしまうのを感じ取ると、悪戯し損ねた子供のように溜息を吐く。
「良い刺激が味わえるかと思ったんだけどなぁ。…残念だなザギヴ?」
優しげな声で足元を見下ろす。そこにいたのは、先ほど文官が探していたザギヴ本人であった。彼女は竜殺しの陰茎を口いっぱいに頬張り、視線を向けられて頬を染めていた。机の下には丁度人が一人しゃがみ込めるほどの空間があり、ザギヴは文官が訪れた時もずっとそこにいたのだった。
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