――妹になんか、ならなければ良かった。王都ロストールの貴族街に位置するエリエナイ公レムオン・リューガ邸の片隅で、その身に無限のソウルを宿した少女は思った。義妹としてリューガ家の一員となった少女――セレネに与えられた部屋の前に広がる、小さな庭のベンチの上で膝を抱える。側に植えられた風桜ごと、木に生った赤い実が風に揺れた。本来はアキュリース近くの谷にしか自生しない風桜の実は、特別な知識が必要なわけでもないのにギルドに採取の依頼が入るくらいの貴重なものである。それが一個人の庭に植えられているのだから、貴族というものの権力が知れようものだった。しかし、セレネはそんなものには目もくれず、ベンチの縁にブーツの踵を乗せてふてくされている。今や大陸に名の知れる冒険者となった少女には、大して珍しいものでもないという理由もあるが。「妹になんか、ならなければ……」先ほど思った事を、今度は唇に出して小さく呟いた。太陽の光を紡ぎ合わせたような、金茶の髪。深い水底を思わせる青緑の瞳。整った面差しを裏切らず声は甘く、風桜の実よりも赤い唇は少女性に反してどこか艶冶だ。冒険者のものとは思えない真白い肌はきめ細かく滑らかだが、服を脱げばその素肌にはそれらしい傷痕を幾つも残している。健康的に伸びやかな四肢、特に動き易いようスリットの入った短いスカートから覗く太腿は、男ならば誰もが視線を向けてしまいそうな色香を持っていた。引き締まった身体には一見不釣合いに見える豊かな胸も同じだ。しかし、その外見に魅せられて不埒を仕掛ければ、大抵の者は痛い目に遭う。つい先日も一人で路地を歩いているところをならず者数人に囲まれたが、傷を負うどころか地に叩き伏せるのに数分と掛からなかったという出来事があり、それをギルドの親父に話したら大笑されたのみならず、お前さんにも色艶ってものを教える御仁が必要だなぁとからかうように言われた。 余計なお世話だ。もっとも、ギルドの親父はセレネの女としての魅力ではなく、その魅力を全く理解していない性格の方を揶揄したのだが、元来鈍いセレネには全く理解されていなかった。――好きな人くらい。そう、セレネにだって淡く想う相手くらいいる。勇名を馳せる冒険者と言えど、年頃の少女なのだ。その相手が、とてつもなく不毛な男だと言うだけで。ロストール有数の大貴族の当主で、好きな相手がいて、あまつさえ本当は赤の他人のセレネと母違いの兄妹だという事になっている相手。この邸の主であるレムオン・リューガ。生まれを考えれば身分違いも甚だしいが、問題はそれよりも公表されてしまっている血縁関係の方だった。元々セレネにはブラザー・コンプレックスの節がある。蝶よ花よとは違うが、限りない愛情をもって接してくれた兄ロイが、多分セレネの初恋の人だ。その兄に関する様々な変遷も恋人とのいきさつも、この旅の中で経験した事のひとつだったが――それは別の話としよう。突如義兄として自分の中に居場所を作ってしまったレムオンに対し、その性癖が反応した事は間違いない。とは言え、セレネにはきちんと一般常識も道徳心も備わっている。ロイに対してそうだったように、レムオンが本当に血の繋がった相手であれば、小さな少女のままの恋でいられたのだろう。「……ぁ」抱えていた膝の奥、身体の中心がじゅん……と疼いた。ほんのりと頬が赤く染まって、瞳が潤みを帯びる。――誰も、いない……。セレネは、部屋よりもこの小さな庭を気に入っていた。自室以外から他では入ってくる事が出来ず、正に小さな箱庭なのだ。どこにも他人の気配が感じられないのを確認して、抱えていた膝をほどくように開く。はしたなくも淫靡にベンチの上で開いた脚の奥に、白のショーツに包まれた秘所が息衝いている。月のものが来たわけでもないのに、漏らしでもしたようにそこは濡れていた。その場所に恐る恐る、細いものの節の目立つ指先を宛がった。レムオンにどうして欲しいと思うわけではない。現状が不満だとは思うものの、考えてもどうしていいか分からないだけだったから。だから、この行為が持つ意味も分かっていなかった。只、触れずにはいられないだけだ。「ふっ、ぁ……あ、あぁ……」濡れてしまったショーツの上から、開いた脚の間を弄る。びくついて震えた両脚がベンチから滑り落ちそうになって、慌てて力を込めた。広がる染みはますます広がって、指先に濡れた感触が伝わる。上の方に位置する小さな粒を指の腹でなぞると、身体の奥が更に熱くなった。あふれ出した愛液を下着が受け止めきれず、後孔に伝い落ちるのを感じて、脚の両脇で結んでいたショーツの紐をほどく。「おかしい、のかな……こんなの……っんん……でも、……熱い……」髪と同じ色の恥毛が、淡く性器の周辺を覆う。薄紅色をしたセレネの女性器は、小陰唇だけが濃い紅色をして何とも淫靡だった。ぱっくりと広がった中心にはいかにも狭そうな膣口が涎のように愛液を垂らし、その上の尿道口がヒクヒクと蠢いている。 てらてらと濡れ光る窄まった肛門まで露わになって、さやかな風が優しくそこを撫でていくと一気に羞恥が湧き起こり、セレネの頬は赤く染まった。包皮に隠れたクリトリスを指で少しだけ撫でると、電流のように背中が刺激を駆け上がる。それに誘われて左手で包皮を捲り、右手の指で露出した真っ赤な粒を弄ると、すぐに何かが湧き 起こってきて怖くて手を止めてしまう。後から後から湧き上がる愛液が、膣口をひくつかせた瞬間にどぷりと流れ落ちた。「ぁ、ぁぁあっ……ん、んぅ……あ、あ……兄、さまぁ……」右手の指先が膣口に触れると、そこはべったりと濡れた。ぐちゃぐちゃだ。ねっとりと糸を引いた透明な愛液を、すっかり勃起してしまったクリトリスに塗りつける。恐々と指先を滑らせてなぞると激しい快感が身体を貫いて、力が入った瞬間に尿道からピュッと液体が飛び出した。「ひあっ!」左手の指先が聖水に濡れる。その指も膣口に触れて蜜を纏うと、その下の薄い皮膚に覆われている会陰に宛てた。膣と肛門の狭間にあるその場所が、不可解な愉悦を生み出すのだ。右手は達しない程度に静かにクリトリスから膣口を愛でながら、左手で会陰を撫でて擽るように愛撫する。愛液はもはや滴り落ちるだけにとどまらず、尻の狭間を伝って敷いたスカートにまで染み込んでいた。「はっ、はっ……あ、あぁぁん……にいさ……ま……ふ、ぅぅ……」緑に囲まれた中で何をしているのか。今のセレネには客観的に周囲を見回すだけの余裕などない。ここは箱庭だからだ。溢れてしまった淫らな熱を慰めるのに精一杯で、誰かが聞いているかもしれないと考えることすら出来なかった。会陰を撫でていた指が、下の方が気持ちいいと感じる事に気づき、自然と下りていく。そこには、触れた事がなかった。「ぁぁ……ん……だめ……かな……っ、あ、ぁ……ひゃんっ」襞を寄せて窄まっている肛門。誘惑に負けて指を触れさせてみると、ジンと甘い感触が広がって、疼く。入口が何だかむずむずと痒いように感じたが、膣にすら指を入れた事のないセレネは表面を撫でるだけだ。今やセレネの小さな箱庭は、少女自身が発した甘酸っぱいいやらしい匂いでいっぱいになっている。激しくひくつく膣口からは透明ではなく、いつのまにか白く濁った愛液が垂れ流されていた。上下に撫でるせいで、恥毛は濡れて束になって秘所の皮膚に張りつく。「……っ、あぁ、ん! や、ぁあ……兄さま、にいさ……っ」閉じた瞼の裏に、怜悧な義兄の顔が思い浮かぶ。その眼差しがほんの時折優しく和むだけで、胸の奥を甘い痛みが襲った。義兄はこんな姿を見たら怒るかもしれない、でも、止められない――!クリトリスから膣を撫でる指を少しだけ激しくして、肛門に指を立てる。掘り起こすように表面を撫でる、それはためらった事が嘘のように快感だった。押したり、撫でたりしている内に高みに上っていくのが分かる。次の瞬間、大きくひくついた肛門が少し緩んだ時に丁度立てられた指が、にゅるんと中にもぐりこんでしまった。「にいさ……っあ、あああ――ふぁああぁぁぁんッ!」セレネは、まだ絶頂というものを知らなかった。薄黄色い液体が、曲線を描いて下草の生えた地面に注がれていく。こみあげた絶頂感を排泄欲にすりかえる事で、いつもセレネは欲を発散していた。浅い水溜りを作った地面から湯気が立っている。羞恥で、顔から火が出そうな程熱い。それだけではない、やりすごす事の出来なかった絶頂感は今もセレネの体内に燻り続け、熱を齎していた。しかし、セレネにはその先をする自信がどうしても持てない――というよりも、手段が分からない。それまでの行為を続ければ絶頂に達する事が出来ることも知らなかった。力を失くした脚の踵がずるりとベンチの縁からすべり、地面に投げ出される。無性に悲しくなった。「ぅ……っえ……兄さま、……兄さまぁ……っ」股ぐらから淫猥な匂いをさせたまま、セレネは小さな子供のように泣きじゃくった。粗相をした事を咎められまいと泣く、途方に暮れた子供と同じだ。セレネにはロイを求めて泣いているのか、レムオンを求めて泣いているのかも分からなくなった。清純と淫蕩――そのどちらもを併せ持った少女は、愛しい男を想って泣くほどに可憐だ。側で揺れる風桜は何も見ない、語らない。泣き濡れた目にそれを映したセレネは、駄々を捏ねる子供そのままにその実を引き千切り、地面に叩きつけた。Fin.
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