夕映えが照らす時間、ルスランはオズワルドを訪れた。偽りの森という場所の奥にひっそりと存在している村だ。入口の門を潜ると、柔らかい土の感触を確かめるかのように、彼はゆっくりと歩みを進める。視界の開けた、中央広場らしき場所を訪れると、ルスランはふと立ち止まった。「長かったな」立ち尽くし、一人、呟く。しばらくそうしてから、彼は広場の端の方に移動した。廃屋と化している民家の前まで行くと、腰に差していた二本の剣と荷物を地面に置く。そして自身も民家の壁にもたれかかる様に腰を降ろした。彼は一つ大きく呼吸すると、目を閉じた。鳥の囀りと、虫の鳴き声と、風の音だけが聞こえてくる。静かだった。ここにあるのは、澄んだ空気と、人間以外の生物の日々の営みだけだった。かつて自分が住んでいた頃のオズワルドとは違うのだと、彼は実感する。その時、ふと懐かしい気配を感じた。それはあまりに突然の事だった。例えるならば、戦場で不意打ちを受けただとか、ルンホルスの森で寝込みをマンティコアに襲われただとか、それくらいに急な感覚だった。その場の空気に、本来存在しないものがいきなり現れる。そんな時は、殆ど例外無く、剣呑な事態の幕開けだった。一年前、死の都と化したエンシャントにおいて、ネメアが加勢に来てくれた時くらいだろうか。例外に当てはまるのは。その時以外は、即座に剣を取り、振るっていた記憶しかない。そんなわけで、ルスランは突然の闖入者の存在には碌な思い出が無かった。だが、その嫌な思い出も、少しは薄くなるかもしれない。今、彼が感じている気配はとても懐かしく、そして安らぎを感じられるものだったからだ。その場に浮いた気配を感じてからも、彼は目を閉じたまま、微動だにしなかった。気配の主が足音をたてながら、近付いてくる。そして彼の目の前で止まった。気配の主が魔物であったのなら、既に首か胴を両断されて絶命していただろう。それくらい、彼と気配の主の距離は近かった。彼は目を開き、自分の前に立ち尽くす気配の主を見上げる。「お帰りなさい」気配の主は静かに言った。「ああ…」ルスランは静かに言葉を返した。
気配の主は、かつて母と呼んでいた女だった。血は繋がっていない。女は人間ではないのだ。破壊神ウルグの円卓騎士の一人、開け放つものアスティア。それが彼女の正体である。そしてルスランがずっと追い求めていた存在でもあった。「随分、男らしくなったわね」アスティアはルスランに手を伸ばしながら、そう言った。「もう23だからな」彼はその手を取り、立ち上がる。傍から見て、この2人はとても親子には見えないだろう。ルスランは若いが、精悍な顔付きをしていたし、アスティアは大人の女には見えるが、若さ特有の美しさも持ち合わせていたからだ。それにこの2人が互いに向ける目は、親しき者に向けるそれではあったが、身内に向けるものというにはどこか余所余所しささえあった。ルスランとアスティアはしばし、お互いを見つめ合う。「しばらくはここにいるのでしょう?」沈黙を破ったのはアスティアだった。「ああ」ルスランは答える。「なら私たちの家に戻ろうか」アスティアはルスランの手を取り、歩き出した。彼はなすがままだった。手を繋いで歩く2人に、心地良い風が吹いた…。そうしてしばらく歩いていると、ルスランとアスティアがかつて住んでいた家が見えてきた。大きくも小さくもない、普通の家屋だったが、ルスランはそこから郷愁の念を感じ取る。中に入ってみても同じだった。1階はキッチンで、2階が寝室だ。間取りも覚えている。彼に取って、全てが懐かしかった。ここが自分の故郷だという事を、強く実感する。だが白々しさも同時に感じた。なぜなのだろうか。「座りなさいな。お腹空いたでしょう?お前の好物を作ってあげるから」考えを巡らせるルスランに気付いてか気付かずか、アスティアは椅子を勧めてきた。「ありがとう。…母さん」自分で言っておきながら、恐ろしく違和感を感じる言葉だと思った。
アスティアの料理が出来上がる頃、家の外には夜の帳が降りていた。暗く静かで、平和だった。魔物の気配一つしない。「七年振りくらいになるかしらね。お前とこうやって話すのも」アスティアが料理を口に運ぶ手を止め、ルスランに聞いた。「そのくらいだな。ここを出たのが16の時だった。あの日から色々あったよ、本当に」既に料理を食べ終わっていたルスランは、レベルティーを飲みながら答えた。「そう。なら色々聞きたいわね。話したい事だけでも、聞かせてくれる?」「それはもちろん」そうしてその夜は、明け方まで2人で話し込んだ。ルスランはいつになく喋っているという感覚があった。それはそうだろう。彼が冒険者となってから今に至るまでの七年間についてを、片端から言って聞かせたのだから。初めて依頼を受けた時の事、出会った仲間たちの事、剣聖レーグを破った時の事、闇の勢力との死闘…、特に最後の話題については深く話したように思う。何せ、アスティアもかつてはその一員だったのだ。最も、全ては過去の話である。ルスランが経験した何を話しても、深刻な話になる事など無かった。そんな感じで、2人はオズワルドでしばし時を過ごす事になる。毎日がゆっくりと過ぎてゆく生活だった。ところでやはりというか、たまには闇の勢力の残党がオズワルドに襲撃を掛けてくる事もあった。何せ土地柄、闇の影響を受けやすい地域なのである。最も、そんな襲撃などは、二人に取って何にもならない。アスティアも相当な実力者だったし、ルスランはその気になれば、バイアシオンを滅ぼせるくらいの力を持ち合わせていたのだから。二ヶ月が過ぎる頃、オズワルドの周囲にはゴブリンやプレデターというような低級の魔物すらいなくなっていた。ただ、そういったハプニングが無くなると、暇な時間が増える。ルスランは未だに鍛錬を怠らなかったし、生活する上で必要な事も、全て自分で行っていた。
だが空いている時間はそれだけでは埋まらない。そういう時、彼はよく考え事をしていた。部屋のベッドに横になりながら。故郷である筈のオズワルドに感じている違和感と、アスティアと話している時に、時々感じる白々しさについて。彼女との関係が上手くいってないわけではない。それどころか極めて良好といっていいだろう。だがそれは果たして親子としての関係だろうかと思う。ルスランはアスティアの事を愛していたし、その逆もまた然りだ。だが2人の間には一定の距離が設けられていた。思春期の子供と、その母親の間にあるようなものでは断じて有り得ない。そうそれはまるで…。そんな事をずっと考えているのだった。「少しいいかしら」その時アスティアが部屋のドアをノックした。ルスランは立ち上がり、ドアを開けてやる。「ありがとう」アスティアはそう言い、部屋に入ってきた。そうして窓際のソファに腰掛ける。「やっぱり、この部屋には陽の光がよく入るわね」そうして彼女は、後ろにもたれる様に伸びをする。「隣、座らない?」彼女に言われるがまま、ルスランは隣に座った。三人掛けのソファだったので、随分余裕を持って座れた。「俺の部屋に来るなんて珍しいな」「そう?」「ああ」お互いに窓の外を見やりながら会話する。外はよく晴れていた。そして良い風が吹いてくる。しばらく2人でそうしていると、アスティアがルスランの肩に体を預けてきた。というより目を閉じて、静かな寝息を立てていた。無防備な姿を晒すなど、彼女らしくも無いとルスランは思ったのだが、悪い気などするわけもなく彼女の目が覚めるまでそのままでいた。
アスティアが意識を取り戻したのは、一時間程経ってからの事だった。晴れた風景を視界に捉え、彼女の思考は急激に覚醒する。そして自分がもたれ掛かっていたルスランの存在に気付くと、ゆっくりと顔を上げる。「ごめんなさい。あまり気持ちがいいから、ついうとうととしてしまっていたわ」微笑を浮かべてアスティアは言った。窓の外を眺めていたルスランは視線を落とし、構わないという風情で首を横に振る。そしてアスティアの肩を抱き寄せた。彼女は少し驚いたような顔をしていたが、その表情もすぐになりを潜めて、されるがままだった。2人は夕映えが顔を出す時間までそのままでいた。その日以降も、オズワルドでの時間はゆっくりと、そして穏やかに過ぎてゆく。ルスランには新たな旅に出る予定もなかったし、アスティアも彼がしばらくとは言わず、ずっとこの町…、いや自分の元から去る事は無いだろうと、その肌で感じていた。そんな感じでまた二ヶ月ほど過ぎた。その間にあった珍しい事と言えば、新米の冒険者が迷い込んで来た事くらいだろうか。随分と衰弱していたので、回復するまで面倒を見てやり、ロストールまで送り届けてやった。ルスランはその時久々にロストールに出たのだが、戦争中に比べて随分活気が戻っていたように感じた。件の新米冒険者が言うには、ゼネテスとレムオン、そしてエリス王妃が死んでからというもの、残った者達が随分と奮闘しているのだそうだ。スラム街の住人たちの生活形態もかなり改善されているとの話だった。「ロストールの貴族たちも捨てたものじゃないな」ルスランは感心したものだった。ところで、ネメア、レーグ、ルスランの三人がバイアシオンの表舞台から姿を消した事に関しては、未だに様々な噂が出回っているという話も耳にした。酒場に立ち寄った時にフェルムから聞いた話である。三人とも海の向こうへ渡っただとか、三つ巴で争って相打ちになっただとか、新しい組織を作り上げて大陸を乗っ取ろうとしているだとか、巷ではそういう話ばかり聞くらしい。これにはルスランも苦笑いするしかなかった。そんな風に大層に語られている人物の一人が、酒場でおとなしく茶を啜ってるのだから、笑うしかないところだろう。どうやらフェルムも同じだったようで、客にそういう話を振られる度にいつも笑うのを堪えているそうだった。
それからある日、久し振りにアスティアがルスランの部屋にやってきた。日が変わるか変わらないかの時間帯の事だ。眠れないので、話でもしないかという事だった。ルスランもその日はたまたま目が冴えていたのでそれに応じた。読んでいた書物を机の上に置く。話の話題は、専らロストールに出た時の事だった。死に別れた友人たちの事も少しは話したかもしれない…。そんな感じで夜は更けてゆく。牛の刻を回った頃、そろそろ寝ようかという話になった。「部屋まで送ろうか」ルスランは立ち上がりアスティアに手を伸ばした。「ありがとう」アスティアもその手を掴み立ち上がった。彼女は手を繋いだまま、ルスランから目を離さなかった。その様子に気付いたルスランも、アスティアから視線を外さない。そして空いている方の手で彼女の腰に手を回した。アスティアは抵抗する事もなく、そして驚いた顔をする事もない。ルスランはそれを確認してから、さらに彼女を自分の方に抱き寄せる。そして背中にまで手を回すと、静かにアスティアの唇を奪った。最初は薄く口付けるだけだったが、徐々に互いの舌を絡ませ合ってゆく。アスティアもルスランの背中に手を回して、2人で夢中になっていった。しばらくそんな感じで深いキスをしていると、アスティアの方が一旦その身体を離した。「灯りを消していいかしら。少し恥ずかしいわ」「ああ」ルスランはうなずくと部屋の灯りを消して、小さなランタンに火を燈した。そして部屋の入口辺りで、行き場が解らないとでも言うかのように、立ち尽くしているアスティアをベッドに誘導した。拒絶されない事は解り切っていた。この数ヶ月、ルスランと彼女が考えていた事は、多分同じだ。親子として生活している自分たちの不自然さについてである。かつてルスランが16だった頃ならば、2人ともそんな事は考えなかっただろう。だがあれから七年の時が過ぎ、ルスランはこの世に磨かれ、汚され、良くも悪くも大人になってしまった。対してアスティアはかつてヴァシュタールに殺されてから、今またこの世に開放されるまでの間、何も変わってはいない。
その結果、2人の互いに関する意識が、同年代の男女に近いものに変容してしまったのだった。ルスランはこの事についさっき気付いた。自分がオズワルドに戻ってきた時に感じた白々しさや、アスティアの事を母として愛そうとした時に感じた違和感の正体はまさにそれだろう。そしてそれに気付いてしまったら、二人が親子のままでいられるわけがなかった。ルスランは精悍でありながら涼しげな容貌で、華の塊のような男だったし、アスティアは誰と比べても劣る事は無いといえるくらいに美しかったからだ。それに加えて、元々がお互いを気遣えるような関係なのである。今の状況は、ごく自然の成り行きだったとしか言えない。そしてやはり、ルスランがアスティアをベッドの上に押し倒しても、彼女は一切拒絶の意を見せなかった。それどころか、自分からルスランの肩に手を伸ばし、唇を求めてくる。今度はいきなり深い口付けに興じた。ルスランは同時にアスティアの衣服を剥がしてゆき、その形の良い乳房に触れる。中央で隆起している乳首の色は綺麗な桜色をしていた。それを爪で軽く挟んでみると、身体に力でも入ったかのように、アスティアはその腕を、その足をルスランの身体へと強く押し付けてくる。その生娘のような反応に、ルスランはさらに一つ、理性の箍が外れたような気がした。今、身体全体から溢れ出そうな欲望を開放したくて堪らなかった。アスティアも同じようなもので、来ていた衣服を自ら脱ぎ捨て、ルスランの上着も脱がしていった。彼の胸板に上半身を押し付けるだけで、全身に快感が奔る。ルスランのものが欲しくてしょうがなかった。その様子を見て取ったルスランはアスティアの残りの衣服も剥がして、自分が身に纏っていた服も全て脱ぎ捨てる。アスティアの下半身にそっと触れてみると、いつでも受け入れられるというくらいに濡れていた。「これ…、欲しいわ」アスティアはルスランの隆々と起った一物を握り締めながら言った。ランタンに燈された小さな火が、欲情した女の身体を、闇の中に薄く浮かび上がらせる。その様子を目にて、さらにルスランの一物は硬く大きくなった。彼はそれを握っていたアスティアの手を離し、彼女の濡れた花弁に添えた。愛液のぬるぬるとした感触が先の方に感じられた。
ルスランはゆっくりと腰を前に突き出した。滑る様にルスランの一物がアスティアの中に入ってゆく。絡みつくように、すんなりと奥まで到達した。アスティアの中はかなり狭く、頭がおかしくなりそうなくらいの快感をルスランに与えた。ゆっくりと抜き差しする度に、アスティアの花弁からは愛液が糸を引いて零れ落ちる。そしてそれは抜いた時は縮小し、入れた時は必要なだけ伸びるような強い伸縮性があった。そんな卑猥な結合部の動きに、ルスランの腰の動きもどんどん早くなる。アスティアも応えるように伸びた足を絡ませた。繋がったまま口付けをすると、激しく舌を絡ませてくる。背中に回した腕には知らず知らずの内に力が込められていた。「そのまま…、続けて。い…いきそうなの」甘い声を漏らし始めたアスティアに応えるかのように、ルスランは彼女を深く突いた。「とても…、いいわ。とても…、そのまま。ア…ァン!」彼女の声が盛り上がるのに比例して、ルスランも腰を激しく動かした。そして絶頂の時はやってくる。ルスランはアスティアの奥を突いた時に腰を動かすのを止め、そのまま出した。一物がどくどくと脈打ち、アスティアの女の部分を浸食していく。数秒そのままの姿勢でいた後、ルスランは腰を引いた。一物がアスティアの中から抜けるのと同時に、精液も垂れてきた。ピンクの花弁に白濁とした液が混ざる様はこの上無く卑猥な光景だった。ルスランの欲望はまだまだ治まる事は無い。開いたままの足からさらけ出されたアスティアの花弁に指を入れる。アスティアはそれに反応を示し、上半身を起こして、ルスランにキスをした。そしてそのまま彼を下にすると自分が、その上に跨った。花弁から垂れた精液が重力に従うまま、太腿を伝ってゆく。「私も、まだ足りないわ。上になってもいい?」「ああ」ルスランの言葉を聞き終えてから、アスティアは彼の一物を自分の性器に添えた。そしてそのまま深く腰を落としてゆく。デュル…ズブ…と音を立て、また2人は結合した。程なくしてアスティアは腰を振り始めた。ルスランのものを全身で飲み込むかのように、美しい金髪を揺らしながら乱れる。ルスランが下から乳房に触れる度、腰を掴んで突き上げる度にアスティアの頭の中はより強い快楽で支配されてゆく。
「また…、イキそう…」アスティアが肩を震わせながら腰の動きを止めた。絶頂を迎え、全身に痙攣を奔らせる。その時ルスランもまた、アスティアの中で射精していた。その後もまた2人は激しく口付けを交わし抱き合う。欲情が理性を飲み込む度に、2人は結合し、乱れた。朝の光が差し込む頃、ルスランとアスティアはシーツを被って座っていた。ルスランの肩にアスティアが身体を預けている形だった。2人とも無表情のまま、明るくなりかけている部屋を、ただ眺めていた。「正直、私には解らないわ」アスティアがふと言った。ルスランは視線を向ける事も無く耳を傾ける。「お前と…、貴方とこういう事になって良かったのか」アスティアはどこまでも無表情だった。ルスランはアスティアの方に視線を落とす。同じく無表情だったが、代わりに彼女の肩を抱いた。「誰だって解らない事だらけさ。俺だって何も解っちゃいない。ただ…」「ただ?」アスティアは視線をルスランに向けて、問う。「愛している女が幸せだというならそれでいい」「そんな殺し文句、何処で覚えてきたのかしら」薄い笑みを浮かべてアスティアは言った。「でも嬉しいわ。ルスラン」そうして、彼女は軽くキスした。外は随分と明るくなっていた。それからというもの、ルスランとアスティアの間は少しギクシャクしていたが、それもほんの数日の間の事だった。2人は徐々に、ごく普通の恋人同士のような間柄になっていった。ところで彼らの没年を知る者は後の時代に一人もいないが、少なくとも生前は幸福に過ごし、死に様も悪いものではなかったという事だけは何故か知られているようである
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