第一話 「キス」
「突然だがアトレイア。頼みがある」 彼女の部屋を三度目に訪問したとき。俺は意を決して話を切り出した。 一目見て決めていた。ロストールの変態大魔王の異名を取る俺にふさわしい女は、アトレイアしかいないと。いわゆる一目ぼれと言い切ってもよいかもしれない。「え?」 アトレイアは俺の真剣な声に、不思議そうに首をかしげた。「わたしに……頼み、ですか?」「うむ」「あ……は、はい。わたしなどに、できることでしたら……でもそんな、アクト様のお役に立てることが、わたしにできるありますか?」「むしろアトレイアにしかできないことだ」「わたしにしか……そんなことが? それはいったい……」「うむ。アトレイア」 俺は宣言した。ザ・男らしい宣言ナンバーワンであるところの最高に高貴な宣言であろうと確信する。「俺の肉奴隷になれ」 この宣言を口に出したのは、これで三度目だ。 一度目。アイリーンに対しては、言った直後にその場で九分殺しにされた挙句絶縁状を叩きつけられた。 二度目。ティアナ王女に対しては、言った直後に危うく衛兵に処刑されそうになった。 この俺の熱き欲望、受け止められる奴はそう多くはない。 だが、アトレイアなら。「……?」 アトレイアは、俺の言葉を呆然とした表情で受け止めると、やや時間を置いてから、問いかけてきた。「あの……すいません、わたし、知らなくて……にくどれいとは、何のことでしょう」「うむ。肉奴隷とは、身と心の全てを俺に捧げて奉仕する、名誉ある女のことをいう」「……あ……わたしに、それを、できる?」「うむ。俺が保障しよう。アトレイア。頼む」 アトレイアは俺の言葉を聞くと、真意を確かめるかのように俺と目を合わせた。 そして、十数秒の後。アトレイアは、胸の前で腕を組むと、高い声で返事をした。「わかりました。私なんかでよろしければ、ですけど……」 アトレイアは、鈍く輝く瞳で俺を見つめて、感慨深く言った。「わたしは、アクト様の『にくどれい』になります」「おお!」 ついに、ついに俺の全てを満たす女が、ようやく目の前に現れたのだ。今度こそ何かの間違いなんかではなくて。「ではいただきます」「え? ん――!」 俺はキスをした。それはもう凄まじい判断の早さで、アトレイアの唇を奪った。据え膳は0.2秒以内に食わなければ男の恥であり腹を切って死ぬべきである。「ん、ん!?」 俺の突然の行動にアトレイアは目をまん丸に広げていた。だが、そのような反応はあえて無視する。今はただひたすらに、アトレイアを犯し続けるのだ。 舌で口内を遠慮なくまさぐる。歯茎を優しく舐り、円を描くようにして口内全体をくすぐる。 時折隙を見て、緩急をつけて激しく舌を動かすと、アトレイアの舌が驚きでぴんと、まるで勃起するペニスのような反応を見せ、前方に突き出された。その先端を、きゅうっと吸いこんでみる。「――!?」 未知の刺激に反応し、ぴくんとアトレイアの体が弓なりに跳ねた。アトレイアの瞳は、閉じられることなく俺を見続けている。その目は、ただ未知の感覚に対する驚きに溢れていた。 だが嫌がっていないのは間違いなさそうだ。 というより、拒否という表現自体を知らないのだろう。 唇をいったん少しだけ放し、口元をぺろぺろと嘗め回す。 口の周辺の肌を丹念に舌で辿り、唾液を染み込ませていく。汚れの全てを引き受けるべく、ピンク色の柔肌を蹂躙し、堪能する。 よく洗ってあるらしく、アトレイアの唇は何の味もしなかった。ただ、感覚だけが甘い。「ん、んぁっ!」 アトレイアは俺の舌の動きに対し、ぴくん、ぴくんと何度も体を震わせる。 手足を突っ張らせ、抵抗することも無く、ただ俺の舌による愛撫に身を委ねている。 感じているのだろうか。反応がよくわからんが、まあどっちでもいいや。とにかく最高に気分がいい。無抵抗の女の子に舌を這わせるとは、こんなに気持ちいいものなのか。「はあ、ああっ! ん!」 再びキスに移る。 今度はたっぷりと唾液を口に含み、べちゃ、といやらしい音をわざと立てるようにする。唾液がアトレイアと俺の口の間でじゅぶじゅぶと泡立つ。 唾液を管轄油として、ペニスを出し入れするのと同じように、口内への舌の抜き差しを何度も何度も繰り返した。 ぬぞり、と舌と唇が触れ合い摩擦するたびに、身震いするほどの快感が、舌から全身に伝わる。アトレイアも同じのようで、瞳をとろんとさせて、ただ俺のなすがままだ。「あ、ん、ちゅ、ん――!」 アトレイアの後頭部を両手でつかみ、引き寄せる。 俺は顔を横に倒して、舌をよりいっそう激しく動かした。アトレイアの歯茎のすみからすみまでを舌で往復させる。なまぬるく、ねばねばしていた。びちょびちょという、粘液が擦れ合う音が、振動という形を取って直接俺の脳に響いてくる。「――! ――!」「くっ」 俺は耐え切れず、腰をアトレイアに押し付けた。ズボンを突き破らんばかりに肥大しているペニスに快感を与えるためだ。 ずり、ずり、と、一人でオナニーをするのと同じように、アトレイアの絹のドレスにペニスを押し付け、上下左右に快感が赴くままにこする。 服を通して、アトレイアの肌のぬくもりがペニスに伝わる。言い知れない快感が、口と股間から同時に伝わってくる。それだけでイッてしまいそうだ。 アトレイアは、服の上を這い回るペニスを特に気にした様子もなかった。というより、そんな余裕が全くなかったようだ。俺のキスを、一心不乱に享受し続けている。背筋をぴんと伸ばし、俺に口唇を押し付け、ただ己の内から来る欲望に身を任せ続けている。 その要望に答えてやろう。 舌の先を目いっぱいに伸ばし、アトレイアの喉の近くを、こつん、と子宮を突き上げるかのようにノックし、強く押してやった。 さっきの様子だと、ここが一番の性感帯だ。「――ん!」 性感帯を刺激された瞬間、アトレイアの体が派手にぴんと伸び、そして、かくん、と膝が折れた。 唇同士が離れる。その直後、アトレイアは深く、そしてつやめかしいためいきをついた。「あ、ふあ、ふぁああぁぁああああぁぁ……」 ため息をついた後、手を口の前で組むアトレイア。その頬は興奮のために赤く火照っている。だが同時に、その肌は瑞々しさを過剰なまでに称えており、てらてらとした光沢が見受けられた。その光沢は、言うまでもなく染み込んだ俺の唾液だろう。 倒れるのを防ぐため片手でアトレイアの腰を支える。ふくよかでとても感触がよい。 イッたな。 とりあえず、しばらくそのまま腰を抱えておいてやった。「アクト……さま」「む」 しばらく後に、アトレイアが、腕の中から俺の名前を呼ぶ。 その呼び声の響きは、清楚で、かつ艶めいていた。 アトレイアの身体は快感の余韻のためか細かく上下していたが、その中でも俺はある一点に目が言った。 意外にボリュームのある乳房。その先で、ぴんと乳首が隆起して、ドレスを小さく押し上げていた。さっきのキスで、感じていたのだ。 下半身に視線を移す。さすがに見えないが、まず間違いなく、アトレイアの下着は愛液で濡れているだろう。
冷静に分析している場合か。犯そう。 おっぱいを欲望のままにもみしだき乳首を母乳が出るまで吸って吸い尽くしてちゅぽんと唾を出して噛んでむしゃぶるべきだ。そしてペニスを欲望のまま解き放ち、まだ見ぬアトレイアの股間に突き立て、その奥の奥に精を解き放つのだ。そうすべきだ。「アトレイ――」 欲情をそそる名を呼びつつ、俺は今まさにそそりたつペニスを抑圧から開放し、この俺の理想そのものであるアトレイアを犯「――!!!」「!?」 そうとして、寸前で踏みとどまった。鋼鉄の自制心が俺の脳とペニスの間にカーテンを下ろした。 待つのだ。待つのだ俺。俺・ザ・変態大魔王。誇りある無限の性欲よ。「……あ……あの……?」 このまま処女を奪うのは簡単だ。 それこそ、あっけないぐらい簡単に、アトレイアは俺に全てを委ねてしまうだろう。 だが、それでは勿体無い。そうは思わないか俺の最高の性欲。 俺の息子よ。「……アクト様……さ、さきほどの……キスは……?」 アトレイアが俺の腕から自然と離れていく。疑問を投げかけてきている。なんだか残念そうな表情をしていたような気もする。だがとりあえずどうでもいいので放っておく。
この処女性は、たとえ何が原因であれ、天が与えたもうた奇跡だ。その表現が不謹慎であることは十分に承知していたが、俺の受けた天啓をそのまま表現するとこのようになる。決してこの姫君を貶めているわけではないので、許せ。 なにしろ男の視線や欲望と、ひとかけらの縁もなく、十七まで生きてきた、箱入りの中の箱入りである。盲目の姫君。なんと魅力的な響きだ。 その響きは、長く人前に出ていた普通の女では成し得ぬ、性的魅力そのものを指している。少なくとも俺にとっては。「……あの……」 それを、たった一度の快楽だけで済ませてなるものか。 俺は、決心した。味わいつくしてやるのだ。 この無垢なお姫様を、処女のまま、俺の肉奴隷にしてやるのだと。 清潔で可愛らしい唇も、意外にボリュームのありそうな胸も、まだ見ぬヒップも、耳も、髪もへそもうなじも首も腰もふとももも脇の下も、そして何より、その心も。 アトレイアの全てを、処女のまま、全身全霊をかけて犯しきってやるのだ。処女はそれからでよい。 なんと素晴らしき計画だろう。東方の性は退廃的に進んでいるというが、まさか俺ほどの域にまでは達していまい。想像だけで股間がズボンを突き破らんかのごとく肥大化していき先走り汁がだくだく出る。 ふふふふふ。ふふふふふふふ!「ふ、ふ、わははは、わはははははははは!」「きゃ!」 む、しまった。思わず笑い声に出てしまったらしい。 声に驚いたらしく、アトレイアはぴょんと飛び上がって胸を押さえた。 ふふん。安心するが良い。 俺はアトレイアの肩に両手を置き、力強く言った。「そういうわけで、アトレイア!」「は、え、あ?」 アトレイアは急展開についていけないようだ。まあ説明してないし。 だがそんなことはどうでもいい。「一週間以内に全体計画を立ててやる。また来るぞ。それまで、今のキスを存分に思い出して存分に一人でいじり続けるがよい!」「……え?」 うむ、俺の放った言葉の意味すらわかるまい。 だがそれでいいのだ。「……あの、一人でとは……?」「肉奴隷は知らなくてもよい言葉だ。ではさらば」 アトレイアの質問に適当に答えて、クローゼットのドアを開く。「あ……! あの……」 そのまま俺は逃げるようにして部屋を去った。 振り返っていれば気づいただろう。 キスの前までは、ただ闇だけを映していたアトレイアの黒い瞳。 それがいまや、好奇心の光に満ち満ちていたことを。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。