センナについて、旅を始めたころは、ただ彼と旅をする事が喜びだった。自分は、変われるのかもしれないと、希望を持つこともできた。マゴス開放の源となる、マゴスへの恐怖さえなくす事ができた。何故なら、センナを、愛し始めたから。人を愛することで、ザギヴは、変わりつつあった。
だが、その愛が、ザキヴを苦しみ始めた。
センナは、その無限のソウルゆえか、性格ゆえか、多くの人に救いをもたらした。最初の頃は、そんな彼のことを頼もしく思えていた。だが、センナへの想いを自覚しはじめてから、そのことが苦しく思えてきた。
アトレイア王女は、もう目が見えるようになったんでしょう?それなのに、どうして彼女に会いに行くの?
クリュセイス、何で、あんな、あなたを嵌めた様な女と関わり続けるの?
フレア。あんな、人形、土に返せばいいじゃない。
お願い、センナ。ほかの女に、私以外の人に、微笑むことをやめて。救いの手を差し伸べないで。
そうしてくれないと、私が、救われない。
ずくん。
マゴスの鼓動。さいきん、再びマゴスが活性化してきた。理由は解っている。ザキヴの嫉妬心を糧に、マゴスは成長している。
「ん…あ…」ベッドの上で、ザキブが艶かしい声を上げている。はだけた浴衣から覗く乳房は陶器のようにしろく、美しい。その形のととのった乳房の上を、ザキブの細い指が這う。
胎内のマゴスが蠢くと、ザキブの体はどうしようもなく発情してしまう。体中が汗ばみ、目の焦点が合わなくなりる。子宮が熱を持ち始め、どこに軽く触れるだけでも腰が立たなくなる。
体の熱を治めるため、ザキヴは自分で触れる。生半可な愛撫で治まる疼きではないため、自然とそのやり方は激しくなっていった。まだ幼かった頃、どうしても中がうずいて、大切な事と解っていながら、自分で膜を破ってしまった。あのときほど、マゴスを呪ったことは無かった。
ベッドの上で、激しく自慰を続けるザキヴ。浴衣も乱れ、あられもない格好になっている。そして、誰のも受け入れた事が無いまま、自身によって開発されきった箇所に、手を伸ばそうとした瞬間……
「ザキヴ!!!」ドアが勢いよく開けられ、センナが飛び込んできた。
「な、ななななにゃにゅあ」何が起こったか、さっぱり理解できずに居るザキブの元へ、センナが駆け寄り、混乱しているザキブをしっかりと抱きしめた。
「どどど、どう、どうしたのよ、センナ」混乱しながらも、ザキブはセンナにたずねた。「もう、大丈夫だ。大丈夫だよ。」センナは、優しく、子供をあやすかの様にザキブを抱き続けた。「声が、聞こえたんだ」「こ、声?」ザキブが聞き返すと、「宿に帰ってきて、部屋で横になってたんだけど、隣から、ザキブの苦しむ声が聞こえてきたんだ。 だから、またマゴスがザキヴを苦しめてるんだと思って、飛んできたよ」
(声、って…まさか、私の…)隣まで聞こえるほどの大声を出していたと気づき、センナに抱かれながら顔を真っ赤にするザキヴ。服の乱れも、センナは、苦しんだせいだと勘違いしてるようだ。
「ああ、心配しないで、センナ。マゴスの暴走じゃなくて、それは…」「それは?」顔を覗いてセンナは聞き返してくる。「それは…」なんと言えばいいのか。まさか、「オナニーしてて、大声出してしまったのよ」とでも言えというのか。
「…気にしないで」フッと、自嘲的な笑いを漏らすザギヴ。
だが、センナはそんなザギブの態度を見ると、「ザギブ…君が、苦しんでるのは知っているよ」そういいながら、ザギヴの手をとり、「けど、そうやって、なんでも自分の中に溜め込んじゃいけない。 俺たちは、仲間だろ? だから、君は、もっと俺たちを頼ってくれていいんだ。 そうじゃなきゃ、俺たちが一緒に旅する理由が無いじゃないか。 セラも、ルルアンタだって、きっとそう思ってる いいか?君が苦しんでるのを見るのはつらいけど、それより辛いのは、 君がそれを隠そうとすることなんだ」
ザキブの目を真摯に見つめながら、言い聞かせるかのように話し続けるセンナ。だが、当のザギブからすれば拷問に近い。「あー」やら「うー」とだけ言って、センナの視線から逃げようとする。心配してくれるのはうれしいけど、今回だけは、ちょっと…
あいまいにごまかして、センナを部屋に返した。センナが出て行くと、どっと疲れが出てきた。ぐったりと、ベッドに横になる。
しばらくうずくまっていたザギヴだったが、しばらくすると、独りで笑い始めた。
そうだった。私には、マゴスが居た。マゴスが居る限り、センナは私を「放っておけない」だろう。マゴスを利用すれば、センナは、ずっと私のそばに居る。
今まで、憎悪の対象でしか無かったマゴスが、急に愛おしく思えてきた。私とセンナを結びつける大切な要素だ。ザキヴは愛しそうにマゴスの眠るお腹を撫でる。その姿は、胎児を撫でる母親のようだった。
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