「あなた、どういうつもり?」カルラの部下になると決めた時、アイリーンは私に言った。「あなたはノーブル伯でしょう?騎士道精神はどうしたのよ?そんなに簡単にロストールを裏切ってディンガルに付くなんて何を考えているの?「私はカルラ様に忠誠を捧げている。私を騎士に取り立てて下さった方だもの。でもあなたにカルラ様への忠誠心があるとは思えないわ。「そりゃ、あの状況では嫌だと言えばあなたもあなたの解放軍の仲間もカルラ様に殺されていたかも知れない、けれど……」アイリーンはつくづく軽蔑とも疑いとも何とも付かない表情で続けた。「あなたは女は騎士になれない国の例外中の例外の女騎士じゃないの。騎士道から言えば、命を捨てても国に忠誠を誓うべきじゃない?」「……そうね」私は答えた。私はもうただの冒険者じゃない、ノーブル伯だ。守らねばならないものはたくさんある、それは重々承知だ。「じゃあ、どうして……」「なんとなく……いや、必要とされたから。カルラが私を必要としてくれたから、よ」私はカルラに『あんたみたいな貴重な人材、殺すには惜しい』と言われたのを思いだしながらそう言った。「何よ、それって。あなたはロストールに必要とされているじゃないの!」アイリーンにそう言われるのも尤もだ。でも私はそれ以上正当な理由を挙げることが出来なかった。
最初にカルラに出会ったのは彼女がロセンに潜入するのを手伝った時。愚王ペウダから村の娘を助け出した時。奇抜な青い鎧を身に纏った彼女の姿を初めて見たあの時から運命は決まっていたのかも知れない。その後、彼女の身の上話を聞く機会があった。それは、オズワルドで母と別れてから見知らぬこの地で冒険者になった私にも充分、同情に値する内容だった。「同情したら殺すよ?」彼女はその時私の気持ちを読んだように、しかしあっけらかんとした様子で言った。でもその時私はカルラに同情じゃないにせよ、何か特別な感情を抱いてしまったに違いないのだ。でなければ私はカルラの配下になることはなかった。その感情は何なのか、未だに分からないのだけれど。ただひとつ言えることは、彼女は私が今まで出会った娘の誰にも似ていない、唯一無比の存在であったことだ。こんな娘には今まで出会ったことがない。カルラはカルラであり、それ以外の存在になりえなかった。赤毛のポニーテールも、奇抜としか言い様のないそのいでたちも、口癖であるこの言葉も。「あたしはいつでも笑っていたいの」そう言うカルラの小動物のように悪戯っぽく、それでいて薄く儚い微笑みが、あの時から私の瞼の裏に焼き付いたまま、いつまでも離れていかなかった。
カルラのリベルダム陥落に私は同行した。その後カルラと共にリベルダムの街を破壊した。カルラ曰く『今後の戦争の被害を最小限に食い止めるため』だそうだ。けれど、それは本当だろうか。カルラは自分の故郷を破壊した愚王ペウダに通じていたリベルダムの武器商人を皆殺しにしたいくらい憎んでいる。その武器商人が牛耳る街だって、同じように破壊したいだけじゃなかったのか。そんな事を考えながらも私はカルラの指示に従って街を破壊していた。騎士としての立場ではなくて、まるでカルラの命令には何も逆らえない操り人形のように。
リベルダムを破壊し尽くし、瓦礫の山に変えた後のカルラは至極上機嫌で私に言った。「仕方のない事なの。これでロストールの貴族たちの士気も落ちるって訳。次の戦いではあまり人が死なないですむ、分かった?」私のもやもやした気持ちを読み取ったのか、カルラは私の顔を見て言った。いつもの飄々とした軽薄そうな様子で。「くすっ……だからあんた、好きよ」好き――カルラのその言葉にどれほどの重みがあるのか。枯葉一枚ほどの重さしかないのか、それとも――
リベルダムを陥落させた後、私はアイリーンと一緒にロセンの街を歩いた。お互いに、交わす言葉もなく、無言のまま。近い将来、カルラのロストール制圧が待っている。私が忠誠を誓っている国。そしてアイリーンの故郷。アイリーンは不意に、私に聞いた。「ねぇ、あなたはどうしてノーブル伯に任命されたの?」私は事の成り行きをかいつまんで話した。エリエナイ公レムオン・リューガ様を助けた事がきっかけで私はレムオン様の義妹ということにされた事を。「なるほどね。つまり……まかり間違えばあなたじゃなくてそこにいたのが他の冒険者であったとしてもその人がノーブル伯になれた訳よね」アイリーンはそう言ってから、私の表情に気付き、慌てて付け加えた。「あ、誤解しないで。あなたが成り行きで騎士になって、騎士に相応しくないなんて言っている訳じゃないの。あなたの今の評判はちゃんと知っているわ」けれど私の気持ちは曇ったままだった。何故なら、それがずっと心に引っ掛かっていた事だったから。レムオン義兄様は私じゃなくても良かったのかもしれない。貴族に見えるような風体の腕の立つ冒険者だったら、誰でも良かったのかも知れない。黙り込んだ私を見て、アイリーンは続けた。「あなた、ロストールの王族の人たちが大切?貴族のお兄さまも、ロストールの王女様も王妃も、あなたにとっては大切なもの?」「大切なものよ、もちろん。かけがえのないものよ」「じゃあ、何故……」私はその時思いだしていた。ロストールの事ではなく、カルラのことを。16歳で将軍に抜擢された天才戦術家であり、青い死神と呼ばれたカルラ。ロセンのペウダの許から逃がしてやった見ず知らずの村娘に母親の形見である宝石を与えたカルラ。エンシャントの墓地で表情の読み取れない白い顔をして立っていたカルラ。愛用の武器であるデスサイズを振り回す時、トレードマークのポニーテールが綺麗な弧を描くカルラ。カルラのあの薄い笑み、カルラの薄茶色の瞳。カルラに対する感情が私の心の中で大きくなっていく。「私は……カルラが好き」そう、言ってしまった。アイリーンは一瞬、信じられないと言った目で私を見た。私は繰り返す。「私は、たぶんカルラが好きなの。カルラに必要とされたかったの」「本気なの?」「おかしい?これ以上の理由が要る?」「おかしくはないわ。でもね……」アイリーンの目には当惑と、少しの憐憫の色が浮かんだ。「騎士に私情や感傷は禁物よ……カルラ様がこの先どうするおつもりか分かっているでしょう?もしかしたらロストールもリベルダムの二の舞にされるかも知れない」私は黙って頷いた。ロストールを瓦礫の山に。それは、あり得ないことじゃない。そしてそれ以上に確かなことは、カルラはロストールの王族、貴族は根絶やしにするつもりでいる。カルラの故郷を略奪したのにはロストールの王族貴族たちが絡んでいるのだから。ロストールにカルラが攻め込み、そしてロストールが敗北したら、レムオン義兄様もゼネテスも二人の王女様も、間違いなく処刑されるだろう。私は今、それを補佐せねばならない立場にいる。アイリーンはそんな私の気持ちを見越したかのように言葉を続けた。「今度の戦争では、確実にロストールは不利だわ。あなたのお兄さまであるエリエナイ公が処刑されるところをあなたは見ていられるの?その可能性は充分あるのよ。「私はカルラ様に絶対の忠誠を誓っている。例え故郷のロストールが陥落されても、その気持ちは揺るがないわ。あなたにはそこまでの気持ちがあるの?」
私はレムオン義兄様が好きだ。人からは冷血の貴公子と呼ばれているけれど、本当は優しくて一人でロストールの為に戦ってる。そして、こんな流れ者の冒険者である私を義理の妹として大切にしてくれている。ロストールを、いや、それよりもレムオン義兄様を裏切る。そんな事が許されるのか。もしそれを知ったらレムオン義兄様はどんな想いを私に抱くだろう。私はレムオン義兄様の事を考えていた。いつも一人でエリス王妃と政権のことで戦っている――孤独な、傷付いた義兄様――――でも、義兄様には私じゃなくても良かったのかも知れない不意に脳裏にカルラの笑顔が浮かんだ。消そうと思っても、消せない。私の葛藤を笑ってるように見える。――そしてカルラは、私を必要としてくれた私はいつしか心の天秤にレムオン義兄様とカルラを掛けていた。それはどうしようもない泥沼の選択だった。天秤はふらふらと揺れ、どちらにも傾かない。
「やだな、そんな顔して。あたしの前ではもっと元気出してよね」ロセンの執務室で、呼びだした私の顔を一目見るやいなや、カルラは言った。「……お呼びでしょうか、青竜将軍」「一対一の時は、青竜将軍や敬語はやめてよね。カルラって呼び捨てにしてくれていいって言ったじゃん?」そう言いながらカルラはいつもの何を考えているのか分からない笑みを浮かべながら私に近付いた。ポニーテールがゆらゆら揺れる。「どうしてあたしがあんたを呼んだか分かってるよね?」ふっと頭が冷たくなる。やはりこの娘は人の心を読むことには長けている。私は数日間悩み続けた結果、やはりロストールを裏切ることは出来ないと結論を出したのだ。それをカルラに報告しようとしていた矢先のことだ。「あんた、あたしを裏切ろうとしてるっしょ、ノーブル伯?」「……どうしてそれを?」「最近さ、あんたどんどん思い詰めた顔になってるじゃん。やっぱりロストールの貴族のお兄さまを見捨てることはできないのかなー?」ふっと視界の端に光るものが目に入る。カルラが愛用の武器、大鎌のデスサイズをいつの間にか手にしていた。私は怯んだ。まさか、カルラに戦いを挑まれるとは思っていなかった。もちろん私も愛用の剣は常に携帯しているけれど、私の今の立場は彼女の部下だ。カルラに向かって剣を構えることなど、出来ない。しかし、カルラはデスサイズを手にしたまま立っているだけだった。私の顔を見ながら。「言っとくけど、ここであんたの首を斬ることくらい簡単だよ?けど、そんな無粋なマネはあたしはやらないよ、だってさ」また、心のうちの読み取れない薄い笑みが彼女の唇に浮かぶ。「前にも言ったよね?裏切られないためには、あたしがそれくらい大きくなればいいだけの話だって」カルラはデスサイズを傍らに置き、ブーツの踵をこつこつ鳴らし私に近付く。そして不意に私の手首を掴み――カルラの腕力は、小柄な身体に似合わず、強い――私を部屋中央のソファに投げつけるように放り出した。そのまま私はソファに座り込み、身を預ける形になった。「カルラ、何をするの……?」「あんたの心の中であたしを裏切れないように大きくしてあげる、そ・れ・だ・け」カルラは顔を私の顔に近づける。吐息も掛かりそうな位に。カルラの睫毛は意外に長い。そして彼女はいつも付けている革製の長手袋を脱いだ。不意にカルラの掌が頬に触れた。冷たい、体温の低いしっとりした掌。それがすっと頬を撫でる。「……綺麗な肌、してんねー」その声を聞いた刹那、私は自分の唇に何かが押し付けられるのを感じた。――カルラの唇が、私の唇に。その赤い唇が、私の唇に。私は動けなかった。金縛りにでもあったかのように、身体が硬直してしまった。命の危険?そんなものを感じたわけではない。ただ、動けなかった。心臓が早鐘のように鳴っている。死神の口付け。まさにそれだった。魂を抜かれてしまったかのように私は動けなかった。「イヤじゃないの?」何も抵抗しない私を不審に思ったのか、カルラはにっと笑ってそう言った。「……あんた、ホントにかわいいよ。手放したくないよ」そしてもう一度口付けされた。今度は長い口付け。男にもされたことのない、貪るような口付けをカルラが私に。「……っ……ふっ……」痺れるような感触が唇から全身に伝う。力が抜けていく。こんな事って。
カルラの舌が私の唇を割って入ってくる。舌が私の歯茎を、そして上顎をめちゃめちゃに嬲る。途端に頭がぼうっとなる程の感触が全身に伝う。舌の先に吸い付かれた、と思う間もなく、私の口内のカルラの舌から唾液が、カルラの唾液が私の中に注ぎ込まれている。苦いような、酸っぱいような味。それが驚くほどの量で私の口の中に。それに連鎖反応するような私の舌からも犬みたいに唾液が溢れ出していた。上を向いている私の口の端から、収まりきれない二人分の唾液がたらたら流れて落ちる。首筋を伝う。そのまま数分間、お互いの口からはぴちゃぴちゃと水音だけが響いていた。カルラは私の口腔を陵辱し尽くした後、やっと解放した。唇と口の中がむず痒い。私は口を閉じて中に注ぎ込まれたカルラの唾液をどうしたらいいのか分からずに目を白黒させていた。「飲むのよ、の・む・の」カルラは命令した。私はその命令に逆らえず、口の中のものを飲み干した。口の端から垂れた唾液は私の首筋を伝い、胸元まで濡らしている。
その時私の頭は混乱を極めていたのだろうか。自分でもよく分からない行動をとっていた。私は無意識に手を伸ばして、カルラのポニーテールを留めている髪留めをぱちんと外して取り上げてしまった。「あっ、なにすんのさ?」ふわり、と彼女の赤い綺麗な髪が降りてくる。顔にかかる。カルラの唇の端に一房、髪の毛が銜え込まれている。甘いような髪の毛の匂いに私はくらくらした。カルラはちょっと笑ってから、髪を耳の上に掻き上げた。つつ、とカルラの唇が私の頬に触れ、それから耳に触れた。吐息がかかる。囁かれる。「裏切っちゃイヤって言ったじゃん?」もうこの時点では分かっていた。カルラが私に何をしようとしているのか。今抵抗すれば間に合う、度が過ぎた悪ふざけで済むかも知れない。けれど私は――抵抗しようとは思わなかった。抵抗する気力さえ、奪われてしまったかのように。思考能力がゆるゆると低下する。流されちゃいけない、そう頭の片隅では分かっていてもどうすることも出来なかった。いつの間にか首筋に唇が這っているのを感じる。 「あ、痕、付けないで……」「お兄さまに怒られちゃうのかなー?」彼女は私の訴えを無視して、首筋に吸い付く。痛いような唇と歯の感触。
クロースの胸元がはだけられて、先日のリベルダム破壊の時に作った胸元の傷跡に、カルラが唇を這わせている。疼くような感触にびくんと身体が痙攣した。「くすっ、反応するなんていやらしい身体だよね」そう言いながらカルラは私の胸元に顔を埋めている。吐息と素肌に触れるカルラの睫毛がくすぐったい。「あんた、あたしよりおっぱい大きいね、嬉しいなー」私の身体はもはやソファの上に仰向けにカルラに押し付けられて、全く身動きが取れない。身体にかかるカルラの長い髪の毛。「ん……んんっ、カルラ……やめて……」いつの間にかカルラの掌が私の乳房を撫で回している。やわやわと揉むように、次は円を描くように。そして、クロースの下にカルラの掌が入り込む。じかに乳房を触られる。先端が掌に押し付けられる。「勃ってきてるよ、ここ?」指摘されて顔がかっと熱くなる。でも熱くなっているのは顔だけじゃない。身体中が熱い。私は掌にも額にもじっとり汗をかいている。胸をこねくり回されると喘ぎ声が溜まらずに漏れた。何だろう、このむず痒いような切ない感触は。「う……はうっ……」前のボタンが全部外されて、胸元を限界まではだけられた。カルラの口付けが開いた胸元に食らい付く様に降りてくる。見えないけれど、そこは赤い痕が幾つも付けられてしまっているのだろう。触られてもいないのに、下腹部の辺りがぎゅっと痛い。
「可愛い妹がさ、こっそり敵方の女将軍と睦み合ってるって知ったらさー、あんたのお兄さまはどんな顔するだろうね?」カルラは耳元で意地悪くこう聞いてきた。そして私の露出している太股を掌で撫でた。なんて冷たい掌だろう。「ひゃっ、やめて……!」「うそ、濡れてんじゃん、ここ」カルラはもう私のスカートの中に手を入れていた。彼女の指が私のそこをショーツの上からなぞる。ああ、本当に濡れている、どうして?そこを指で撫でられると虫に刺されたようなじりじりした、それでいて甘美な感触が生まれて、思わず溜息が漏れた。有無を言わさぬように彼女は私のスカートの中からショーツを引きずり下ろしてしまった。「や、やだ、カルラ……!」私の股を脚の間に挟むようにして、カルラは私に身体を押し付けている。その為に私は脚を閉じられない。私の股に押し付けられている、カルラのショーツの部分が、しっとりと熱い。そんな事を考えていると、カルラの指が不意に私の敏感な場所に触れた。スカートの布越しにそこが激しく弄ばれているのが分かる。「ここ、ぬるぬるだよ?あんた感じてるね」指の感触がじりじりするようなものにすり替わり、私は悲鳴を上げた。本当にカルラの言う通り、信じられない程の水音がそこから聞こえる。「ひっ……あぁっ……やだっ」「ほら、見てよ」カルラは私のそこから指を離して、私の目の前に突き出して見せた。彼女の指には白っぽいねばねばした液がどろりと絡みついている。羞恥心に顔が真っ赤になるのが分かった。カルラは可笑しそうに私の顔を見つめていたが不意に、その指を――私の液体で汚された指を舐めた。私は一瞬、顔から血の気が引いた。カルラは私のその表情を見ながら赤い舌を出して自分の指を舐めている。見せつけるかのように。「おいし……」ぽつりとそう言ったかと思うと、いきなり彼女は私の脚の間に顔を埋めた。あまりに素早い行動だったので私はどうすることも出来なかった。「や、やだ、うそ、うそうそっ、カルラ……!」カルラの吐息が脚の間にかかる。慌てて脚を閉じようとしてもカルラは私の股を掴んで離さない。何か、濡れたものの感触がそこからした。ぴちゃぴちゃ、水音がする――舐められている、私のそこを、カルラの舌に。ぴりぴりと痺れるような感触が走り、その後でじんわりと、痒いところを掻いた後のような快感が広がる。吐息が押さえられない。「ひっ……や、あっ……ひっ、く」「あんたの声かわいいねー。もっと、聞かせてよ」カルラがそう言うのが聞こえた。私はどうすることも出来ず、目をぎゅっと閉じる。目頭に熱いものが滲む。
そこを指で広げられたり、舌先でさんざん弄ばれて、私の身体から力がぐったり抜けてしまった。私はただ、犬のように喘いでいるだけだった。「はっ……はあっ……やあっ、カルラ……!」「お兄さまのことなんて考えてちゃダメだよ。あんたは、あたしのものなんだから」カルラの吐息がそこにかかり、また熱いものが溢れる感触がする。カルラはようやく満足したように顔を上げて、上から私の顔を見下ろした。体重がのし掛かる。重さはそれほどでもないのに力が強い。この小さな身体のどこにそんな力があるのか、跳ね除けることなど出来ない。彼女の唇が濡れている――私の液体で。そしてカルラはその唇で私の唇に口付けた――酸っぱい。「……裏切っちゃイヤって言ったよね?」色素の薄い茶色の瞳にすっと吸い込まれそうになる。催眠術でも掛けるかのような口調に、私は思わずこく、こくと水飲み鳥のように頷いた。
カルラは自分の脚の間を私の股に擦り付けてくる。腰が痙攣するみたいに動いている。左手で私の股を鷲掴みにした彼女は右手を私のスカートの中に入れた。先程まで舌で弄ばれていたそこにずきん、と痛みが走る。カルラの揃えられた指が何本か、やや荒々しく私のそこを掻き混ぜる。水っぽい音がする。執拗に彼女の指は私の入り口を探している。やがて私の身体の中に、何かが、カルラの指が――私の中に入ってくる。不快な異物感がする。感触で、根元まで挿れられたのが分かる。「や、や、やぁっ……カルラ……!」「力、抜いて。あたしを、受け入れて」カルラは耳元で囁いた。それはゆるゆると入ってきて、優しくそこを掻き回す。ねちゃねちゃと淫らな水音がする。鈍い痛みが伝わる。痛みから逃れたくて、私はもがいた。カルラは開いた方の手と身体全体で私の身体を抱きしめるように押さえ付けている。私の両手は空しく空を切る。「いっ……痛いっ!ふ……く、あぁ……」「うそ、痛いなんて。腰、動いているじゃん」そう言われて初めて、私は自分の腰が意志に反してうねっているのに気付いた。それでも私は自分を止めることが出来なかった。カルラの指を少しでも受け入れやすいように、私は腰をうねらせていた。
カルラは左手で私の右手首を掴んで、自分の鎧の隙間に私の掌を滑り込ませた。熱い、彼女の体温を掌に感じる。柔らかな乳房の膨らみを、肋骨の感触をじかに感じる。私が掌を動かすと彼女は微かに吐息を漏らした。カルラの丘の先端もはっきりと感じられるくらい硬くなっている。カルラは何処でこんなことを覚えたんだろう。カルラは女と寝たことがあるんだろうか。そんな事を私は痛みと混乱の中でとりとめもなく考えていた。
カルラは二本の指で私の中を掻き回しながら、親指をそこの上部の突起に押し付けた。そして私の胸元の古傷に唇を押し付け、食らい付いた。カルラの犬歯が肌に突き刺さる。電流が、カルラの指が暴れているところと、カルラが食い付いた古傷から全身に走り抜ける。私の身体は、跳ねた。思わず私はカルラの鎧の中の右手でカルラの乳房を掴んだ。彼女の身体は一瞬、びくっと痙攣する。カルラの鼓動を感じる。私の肌にかかるカルラの吐息が荒い、全速力で走った後のように荒い。「もっと泣いてよ、あんたの声聞かせてよ、あたしに」「ふ、くぅっ……ぃっ……あぁっ……!」その声に少し、苛立ちのようなものを感じた。故意に私を苦しめたいかのような嗜虐心が含まれているような気がした。最初は優しかったカルラの指がだんだんと激しく動く。私の膣内を、肉壁を引っ掻くようにカルラの指は出し入れされ、激しく動く。痛みと異物感の他に、何か別の感触が混じってくる。甘いようなその感触が、私に抵抗しようとする気力を失わせる。掻き回し、抉るように引っ掻かれ、卑猥な水音がぐちゅぐちゅと響く。股の内側まで何か熱いものが伝う感触がする。壊される感触に視界が明滅する。壊されているのは私の体内だけじゃない、私の心もその時にはすでにかき乱され粉々だった。私の身体に身体全体を預けているカルラの甘いような汗の匂いと髪の匂いが正常な思考を狂わせてゆく。自分がどうにかなってしまいそうで、私は悲鳴を上げ、懇願した。 「や……あぅっ、もぅ、やめて……カルラっ……!」「ダメだよ、許さないんだから」ほとんど何も考えられず、それでも翻弄され、私はカルラの首に両手を回し、がくがくと腰を震わせながら私を壊している娘の名前を呼んだ。「ふ、あっ、くっ……か、カルラ、カルラぁっ……!」「あんたが悪いんだよ……あたしを裏切るなんて」カルラの指が曲げられ、的確にそこを抉った。一瞬、意識が飛んだ。――痛い。階段を駆け登るように痛みが一定の高みに到達する。目の前を黒い闇が覆い、白い光が点滅する。それで私は自分が達してしまったことを知った。
私はしばらく口が聞けず、荒い息をしていた。カルラはぐったりした私を見下ろしてもう一度私の唇に食らい付く様に口付けた。しばらく、お互いの体温を貪るように私たちは抱き合っていたが、私はやがて口を開いた。こんなことをされても私はレムオン義兄様を裏切れない。「カルラ、駄目……私はもう、カルラの部下には……私はロストールに……戻らなきゃ」「……やっぱそう言う?これでもカルラさんをフるなんてあんた、度胸あるねぇ」カルラはそう言いながら私から身を離した。私は下腹部の痛みを堪え、ショーツを上げ、クロースの前ボタンを留めた。「これであんたを引き止めるつもりだったけど、無理みたいだね。まぁ簡単に引き止められる相手ならこんな事までしなかったけどさ」淡々とした口調のカルラのその言葉にはどんな感情が含まれているのか良く分からない。私はばらばらにされた心の断片を必死に拾い集めて、心を落ち着かせようとした。そんな私を見ながらカルラは言った。「手放すのは惜しいけどさ、帰っていいよ、ロストールのお兄さまの許へさ」「カルラ……?」「あーダメダメ、そんな暗い顔した上官がいるとさー、わが軍の士気が下がっちゃうよ。もうこっちから願い下げだよ、お・わ・か・れ」まだ放心している私の顔を見ながらカルラは呆れたように首を振った。長い髪がさらさらと鳴る。「あたしには捨てきれないものがある。ロストール制圧はあたしの夢であり、あたしの支え。ロストール貴族を皆殺しにするのがあたしの願い。「でもあんたにもあたしへの忠誠以上に守りたいものがある、それだけの事っしょ?……なんて顔してんの?あたしがあんたを解放するのがそんなに不思議?」私は口を開いたが、言葉は出なかった。どう答えたら良いのか、心の中が目茶苦茶にかき乱されて分からなかった。「カルラ……ううん、何でもない」カルラは不審げに眉をひそめたが、何も言わなかった。ただ、長い髪を鬱陶しそうに掻き上げただけで。
281 名前:カルラ×女主12 :2005/12/10(土) 00:21:18 ID:eF69OyQ5「あ、そうそう、髪留め返してよ」「いや……返さない」そう言ってしまってから私は自分の言葉に呆れた。カルラもきょとんとした顔で言った。「はぁ?思い出の品にでもしたいわけー?ま、いいわ、あげるわ」カルラは長い髪を掻き上げ掻き上げ、後ろを向いた。きらきらと赤い髪が光る。そして私の顔を見ないで言った。「もしかしてあんた、忠誠心とかじゃなくて、単純にあたしに惚れてただけ?」分かっていたのか。そして、それ以外に私がカルラを受け入れた理由なんて、ない。「……うん」「あんたも物好きだねー、あたしに惚れるなんてさ。惚れてるんなら、ずっとこっちに付いてくれりゃ良かったのに。「でもまぁ今更そんな事は言いっこなし。今度戦場で会った時は容赦しないかんね」私は乱れた着衣を整えた。そしてふらつく足で立ち上がった。もう私がここにいていい理由はないのだ。おそらくこれで最後になるだろう、執務室の扉を開けた。その時、カルラは不意に私の手首を掴んで引っ張り、私を振り向かせた。――唇が重ねられる。先程とは違う、ついばむような優しい口付けだった。そして彼女はいつもの軽薄そうな笑みを湛えて言った。「じゃ、戦場で会える日を楽しみにしてるわ、それまで元気でね」
その夜、私はロセンの宿に泊まった。鏡の前で私は一人、カルラから奪った髪留めを自分の髪に付けてみた。私の髪はカルラのように長くない――当然、全く髪留めは似合わない。鏡の中の自分の顔を見つめながら、私は不意に笑いが込み上げてきた。――私はカルラに同情じゃなくて、羨望の気持ちを抱いていたのかもしれない。自分の中にはないもの、求めても決して得られないものをカルラの中に見いだしていたのかも知れない。私は確かに、カルラが好きだった。今日の日の記憶とこのカルラの髪留めをたぶん私はいつまでも捨てることが出来ないだろう。近い将来、私はカルラと戦場で命を懸けて剣を交える事になるのだとしても。私は鏡の中のカルラの髪留めを付けた滑稽な自分の顔を見つめながら笑っていた。壊れたオルゴールのようにいつまでもいつまでも笑っていた。
-終-
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。