「……へえ、あの化け物を使って改造モンスターねえ」なかなか面白いことをやらかす奴らが居るもんだとゼネテスは感心したように頷いた。面白がってる場合じゃないでしょうと傍らから冷静な突っ込みが入る。酒場でちょいとひっかけた後(もっとも娘に言わせるとちょいとどころではない)、出てきたところを入れ替わりに酒場に入ろうとしていた娘と出くわした。最初から目的は彼だったのか、それとも情報収集に来ていただけかは知らないが、娘はゼネテスを人懐っこい子犬のような瞳で見上げ、そのまま付いてきた。しっぽがあったら振っていそうだが、彼女は良くしたものでその嬉しさを落ち着いた態度の下に隠し、ただ表情や瞳を愛らしく輝かせる。見ていて眩しく、目を伏せてしまいたくなる程に。広場へと通じるロストールの大通りを二人並んで歩きながら、何と言うこともない会話をする。話題は専ら、以前ゼネテスが娘に協力して倒したティラの娘に絡んだ顛末。何処かの坊っちゃんも愛用していた、その辺を彷徨いてる化け物から造られた改造モンスターは巷にも出回っているが、伝説の存在にまで手を加えようとは剛毅なものだ。「アンティノの遺産か。良いねえ、お前さんも色々楽しそうで。俺も連れてって貰うんだったな」「ロストールはどうするの、総司令閣下?」ゼネテスとて本気では無いことは分かっているから、返す娘の口調も茶目っ気を含ませていて真面目に窘めるものではない。ただゼネテスの場合、全て冗談というわけでは無いのが厄介だ。先の戦からこっち、ゼネテスはずっとロストールに詰めているが、本心では冒険に出かけたくてうずうずしていることを娘は察している。「相変わらずね、ゼネテス」娘が大人びた笑みを浮かべる。そう言う彼女は、会う度に変わっていく。彼女は目覚ましい速さで強くなり、ギルドでは彼女に感嘆する噂ばかりを聞いた。今ではゼネテスと肩を並べられる程だ。出会ったばかりの頃、少々頼りなく心細げだった表情には自信が宿り、そして、目に見えて艶やかになった。その艶を育てた彼女の想いに、ゼネテスは気付かぬ振りをしている。「冗談だって。でもま、無事片付いて何より。研究所に居た連中はお前さんがとっちめたんだろ?」「でもまだ、奪われた聖杯は……」途切れた娘の言葉にゼネテスは不穏さを嗅ぎ取り、真顔になりかけたが、娘の視線を辿った先に見つけた姿に、ああ成る程と合点して張りかけた気を再び緩めた。
娘の視線は、広場の奧に座す千年樹の麓へと続く扉へと吸い込まれていた。普段は閉ざされているその扉から、長い金髪をきつく結わえた青年貴族が丁度出てくるところだった。兵士が彼の背で扉を閉め、錠を降ろす。大樹に七竜家の祖たる英霊への祈りを捧げていたのだろう。墓参りのようなもので、生真面目な彼は時折この場所へ通っている。レムオンもこちらに気付いたらしい。つかつかと、ゼネテスと娘の元へやってくる。「……兄様」「貴様等、そこで何をしている」妹の傍に居る政敵に、レムオンがあからさまに敵意を込めた一瞥を投げたが、ゼネテスは何処吹く風だ。娘が、場を収めるべく言葉を探した。「彼に以前手伝って貰った仕事があって、今はその話を」「仕事? 冒険者ギルドのか」レムオンが鼻で笑う。「このドラ息子はまだ冒険者の真似事などしていたのか。相変わらず気楽なものだな」「違、」恐らくは、それはずっと前のことだと言ってくれようとした娘の言葉をゼネテスが手で制した。それが戦の前だろうが後だろうが、貴族の責務の放棄という事実は変わりはしない。間を取り持とうとした娘をそっと脇に除け、レムオンの剣呑さを正面から受け止めると、ゼネテスはふっと口元を緩め、笑って返した。「つれないねえ、将来の義弟に向かって」「貴様如きにリューガ家の姫を呉れてなどやるものか」冷たく突き放すレムオンの横で、娘がこちらを黙って睨む。何が言いたいのかは知れた。ゼネテスがこの手の軽口を叩くのは人前でだけだ。他人をからかうダシには使う癖に、その気にさせるような言葉を、冗談でもゼネテスは娘と二人の時には決して口にしない。「貴様の戯言になど付き合ってられん。……行くぞ。何をしている、お前もだ」「え」下された兄の命令に、娘は躊躇い、ちらとゼネテスを窺う。「兄様、でも私……」「いいから行くぞ。どうせこの男との話に実などあるまい」聞く耳持たぬ兄の物言いに、娘が折れた。「御免なさい、ゼネテス」「気にすんな。お前さんとの別れは名残惜しいが、ま、続きはまた次の逢瀬の時の楽しみってことで」「何をしている! 早く来い」「……それじゃ、また」先を行く兄の叱責に、後ろ髪を引かれるようにして娘は男に背を向ける。
「……しっかし、良い女だねえ」兄と並んで去っていく娘の背を見送り、ゼネテスはそうひとりごちる。彼女は賢い。引き際を知っている。別嬪だし、あの豊かな胸も尻も何とも魅力的だ。何より、共に冒険して、あれほど楽しい時間を過ごせる女は他に居ないだろう。そんな女に会うのは初めてだった。好いてくれてるのは知ってる。肩を抱いて甘く囁き、部屋に誘えば逆らうまい。なのに、踏み出せないのは何故だろう。彼女が素知らぬ振りをしていてくれるから、ずっとそれに甘えている。さぞ狡い男だと思われていることだろう。深入りして、はまっちまうのが怖いのか。それと見抜く者は少ないが、ゼネテスは案外と臆病な自分を知っている。彼の弱さを知るのは、多分あの娘とそれから、彼を産まれた時から知っている女性。「ま、怖い兄貴も居ることだしな」ゼネテスはそううそぶいて、その思考を切り上げた。
足早で先行しがちな兄の背を娘は追った。広場を抜けて、邸へと続く道を辿る。レムオンは眉間深く皺を刻み、むっつりと黙り込んでいる。娘も慣れっこなので特に宥めようとはしない。ことゼネテスが絡むといつもこうだ。沈黙を破ったのはレムオンだった。「あの男に関わるのは止せ」娘は軽く肩を竦めてみせる。「ご心配なく。あちらの方でその気は無いようですから」「……だからこそ、言っている」いつもの小言かと聞き流しを決め込もうとしたところに、耳に飛び込んできたその静かな声音が娘の注意を惹いた。レムオンの口調は、いつもゼネテスを怒りに任せ罵っている時のそれではない。「泣くことになるのはお前だ」「…………」諭すような、言い聞かせるような声。今、彼の脳裏に浮かぶのは誰の姿だろう。妹とあの男のことばかりではあるまい。「レムオン……」気遣わしげな娘の声をレムオンは振り払うように正す。「兄様と呼べ」「分かっています。兄様」妹の言葉に納得しなかったのだろう、レムオンは尚も厳しい表情を崩さず、だが何も言わなかった。
鼻をつく、微かに甘いような香りが部屋を満たしている。月の無い夜は常よりも暗く、娘とゼネテスが部屋に持ち込んだ蝋燭の火だけがうっすらと部屋を照らし出す。弾き飛ばされた身体が床を転がった。ゼネテスは鞘に入れたまま振るった愛剣を手に、油断無く相手の様子を窺う。「レムオン!」兄の元に駆け寄ろうとした娘を制する。倒れた身体からうめき声が響き、金色に染めた長い髪を内側から銀色に透かしていた紫の燐光が収束していく。肩を撫で下ろし、ゼネテスは構えを解いた。「んー……やり過ぎたかな?」加減していたらこっちがヤバかったにしても、流石に手荒かったかもしれない。様子を見ようと、レムオンの傍に歩を進めたゼネテスの顔を、不意に下からほのかな光が照らした。「何?」見下ろすと、ゼネテスの足下で、光る古代文字がくるくると旋回し、輪を作っていた。魔法陣――倒れていた身体を吹き上げた紫の燐光が包み、男が床から首を擡げる。赤い瞳の下で、ニッと口元が笑み、罠にかかった獲物を嘲った。身体を退く暇は無かった。重い疲れに身体が地に沈むような感覚で、がくんと膝が崩れ、床にのめった。まずった。噛み付いて血を吸う以外に生気を奪う術があったのか。後方で、娘が悲鳴のように名を呼んだ。「ゼネテス!」揺らめくようにして、娘の兄が立ち上がる。先程受けたダメージは微塵も感じさせない。とうに回復している。赤い瞳が上目遣いに次の獲物を見咎め、満足げに細められた。
「……逃げろ」ゼネテスが、掠れた声で呟く。その声が果たして届かなかったのか、娘は震えながら剣を抜いた。聞こえていたとしてもこの娘にゼネテスを置いて逃げることなど出来ないのだろうが。先程の戦いとは違う、抜き身の刃を娘は兄に向けた。「レムオン……いくら貴方でも、この人の命を奪おうというのなら……!」「止せ……お前さんには出来っこない。やめるんだ!」二者それぞれの必死の叫びも、理性を失っている男の心を揺らすことはない。銀色の髪がふわりと靡く。床を蹴り、娘との間の距離を一気に詰めた兄に向けて、今や大陸一の冒険者と噂される娘の剣が空を斬った。襲いかかってくる様変わりした恐ろしい姿。それでも、その中に娘の瞳は、普段の優しい兄の像を重ね合わせる。彼は恩人だった。受けた恩への感謝ばかりでなく、その誇り高さを尊敬していたし、意外なその優しさを慕ってもいた。それを、こんな形で。その剣先が、一瞬躊躇った。「え」懐に踏み込まれる。赤い瞳が、娘の眼前に迫っていた。不器用だが家族想いの兄の瞳の、常とは全く違う冷たさに、娘の背筋が凍り付く。剣を持った手が掴まれ、骨が砕けんばかりの強さで男の指が食い込んだ。堪らずに緩んだ指先から剣が滑り落ち、床で固い音をたてる。男の腕が娘の腰に回され、引き寄せた。娘は藻掻き、拳を打ち付けたが、女の力で新月期のダルケニスとまともに組み合って振り解ける筈もない。首筋に刃のような冷えた感触と、吐息の熱さを感じた。ダルケニスの牙が娘の柔肌に食い込む。
「…………っ!」咬み裂かれた傷口から、ぽたぽたと血が滴る。娘の首筋に牙を突き立てたまま、男は流れる血を啜り上げ、零れた血を舌先が拭う。それと一緒に娘の身体から淡い光が零れ、男の身体に移っていく。生気を奪われている。娘の膝が力を失い、かくんと折れた。くずおれる身体を男が支え、尚も血を啜る。「やめろ……!」制止の声に、男が娘の首筋に埋めていた顔を上げる。指先が娘の首に穿たれた孔を撫でると、赤い痣を残して傷口から流れる血が止まる。真紅の瞳が不快そうに振り返ると、床に転がった男を睨む。再び、先刻の魔法陣が床に浮かび上がり、輝く。「ぐ、あ……!」生命を削り取られる感触。視界が回転するような激しい目眩が襲い、意識を失いかける。まずい。これ以上、生気を奪われたら――。「やめて……やめて!」娘が、自らも最早まともに立っていられないような身体で、必死に兄の腕に縋り付いた。「ゼネテスが死んじゃう! 欲しいなら、私の血をいくらでもあげるから、……だから」旋回する魔法陣の光が緩やかに消えていく。闇に呑まれかけた意識をゼネテスは押し止めた。心臓がばくばくと爆ぜそうに鳴っている。身を差し出したもう一つの獲物を、紅い瞳が値踏むように見つめる。男の腕が取りすがる娘の身体を掴んで立たせる。牙の覗く唇が娘に迫った。娘は覚悟を決めたように目を閉じた。「嬢ちゃ、」言いかけたゼネテスの言葉が目にした光景に途切れる。娘もまた、驚愕に目を見開いた。
レムオンの唇は、娘の首筋ではなく、その唇に押し当てられていた。男の手が娘の顎を掴み、口を開かせる。「んっ、……む」重ねられた唇の合間から、ねじ込まれた舌が覗き見える。逃れようと呻く娘の口端から唾液が零れて、滴った。やがて、塞がれていた唇がつうと糸を引いて離れる。娘は咳き込んだ。少し、血の味がする。「レム……オン?」何故と問いかけるような娘の呼びかけに応えず、男は娘の身体を抱き上げた。その脚は、迷い無く部屋の奥へと向かう。抵抗する力の無い身体で、娘は首をめぐらせ、その先に何があるのか見て、これから起こることを察し、戦慄した。部屋の奥には、赤い天蓋のついた寝台が置かれている。寝台の上に、娘の身体は放り込まれ、どさりと落ちた。続いて男も寝台に上がり、のしかかって娘の服を引き裂いた。悲鳴が上がる。「嫌! いや! やめて……兄様、レムオン!」「嬢ちゃん!」「ゼネテス!」助けを求めるように伸ばされた細い腕は、直ぐに娘を組み敷く男に押さえ込まれる。裂かれた服の間から零れた乳房に男の手が触れる。びくんと娘が震えた。相変わらず良い身体してるなーうんうんとゼネテスが頷きながら誉め、何言ってるのこのエロ親父と娘が叱りつけ、そんなやりとりを幾度もしながら、ゼネテスは決して娘の身体に触れようとはしなかった。今、娘の肌に触れているのは彼以外の男。その手の平が、娘の柔肉を掴み、揉みしだいている。荒い吐息が娘の胸元にかかった。男は娘の胸に顔を埋め、牙を立てるのではなく、口付けてきつく吸い上げた。首筋につけられたのと同じ、赤い痕が娘の肌に刻まれる。
「止せ……やめろ」男の手が、娘の下肢に伸びた。「やめてぇ、レムオン、お願い……」娘が懇願する。ゼネテスが吐くように叫んだ。「止めろ! ……お前さん、分からないのか!? 見えてないのか! お前さんは、その娘にそんなことをするべきじゃない……!」制止など聞こえなかったように無遠慮な手が、娘の脚の間を探った。ひっと娘が短い悲鳴を上げる。娘は唇を噛んで声を堪える。男の腕が僅かに動く度、娘の身体が震える。やがて、湿った音が聞こえ始める。娘はその音を聞くまいとするように顔を背けた。男が娘の身体から身を起こす。一瞬安堵しかけた娘の身体を男の腕が引き起こし、寝台の端へ引きずっていく。「……な、何?」娘の服は引きちぎられ、その肌はほぼ余すところ無く曝されている。レムオンは娘の身体を抱き起こして背後に周り、膝立ちでその背を抱く形で娘を支えた。その裸身が、無様に床に伏している男に良く見えるように。娘の目と、ゼネテスの目が合う。「あ……」顔を背けようとした娘の顎をレムオンの手が捉え、ゼネテスに向けさせる。片腕で娘を羽交い締めにして、もう一方の手が娘の茂みの下へと降りていく。閉じようとした娘の脚を男の膝が背後から割った。男の指先が、娘の脚の間の赤い花に沿って這わされ、それを拡げて見せた。「……見ないで、ゼネテス。おねが、い……」悲鳴のような娘の懇願は、ゼネテスの耳に届いたが、目を逸らせなかった。充分に濡れた花心は、ぱっくりと裂けて、奧までその姿を晒していた。誘うように蜜を滴らせている。
男は愛液で濡れた指を娘の花弁から離した。背後で何か、ごそごそと気配がする。「――ひ」男の指が拡げていた場所に、固い何かが押し当てられる感触に娘は竦んだ。娘からは見えるまいが、それが何かは分かるだろう。男が自らの衣服を緩め、取り出した自身を娘の秘所にあてがっていた。娘の腰を掴み、落とさせる。「嫌! 痛っ、止め……」身体の奧で受け入れることを必死に拒んでいるのだろう、男が力を込める様子に反して、楔は容易に娘の身体に突き立たない。逆らえば逆らうだけ、蹂躙は手酷く、痛々しいものになる。「嬢ちゃん!」「ゼネテス……!」男を呼ぶ娘の肩越しに、赤い瞳がゼネテスを見た。その瞳が細められ、何も出来ずに惚れた女が引き裂かれるのを見ているだけの、 床に這い蹲る男を愉快そうに嗤った。ゼネテスは、奥歯を噛み締める。獲物を嬲る様を見せつけながら、男は優しく娘の耳朶を食んだ。男の鎌首が、娘の身体に飲み込まれていく。開かれた入り口に、男は自身を一息に根本までねじ込んだ。「――――いやああああああああ!」絶叫が部屋にわだかまる闇に響き渡った。
「あ、ああ、あ……」身を貫かれた痛みに、娘は呻き、涙を零した。男の僅かな動きにも痛むのか、逃れようと身を捩りもせず、苦痛に顔を歪める。「うあ、あ……!」男は、それ以上己の快楽を求めようとはせず、娘の腰を持ち上げ、楔をゆっくりと引き抜いた。「あ……あ」娘の太股を破瓜の血が伝い、シーツに赤い染みを作った。放心した様子で涙を零し、力無くのめりかけた娘の身体を男の腕が抱き留め、寝台に寝かせる。膝を立てさせ、開かせた脚の間に男が顔を埋めた。男の舌が娘の秘所を這い、破瓜の血を舐め取る。舌が蜜をかき混ぜる淫猥な水音が静かな室内に殊更に響く。娘はえっえっと、子供のようにしゃくり上げて泣いた。
唇から蜜を滴らせながら男は顔を上げ、娘の身体に覆い被さると、潤った場所に、今度はゆっくりと自身を埋めた。再び襲った痛みに、娘は仰け反り、か細い悲鳴を上げた。男が腰を動かし始める。最初は緩やかに、次第に激しく。むせび泣く娘の肌を、男の手が滑った。藻掻く娘を押さえつける必要の無くなったその手は、随分と優しく娘の肌に触れた。その優しさに宥められ、娘の泣き声が小さくなる。男の手が腕に、肩に、首筋に触れ、指先が娘の髪を梳き、手の平が頬を包む。「ふ……」白い肌が熱を帯び、娘の吐息が荒く高ぶる。男が娘の唇を求め、舌を差し入れる。その舌に、娘の舌が応えた。ゼネテスは、その様を呆然と見ていた。
見えてなかったのは誰だ。分かっていなかったのは誰だ。レムオンには、傍目にも分かる想い人が居た。そこに、妹として引き取られた、レムオンが唯一弱音を吐ける女が一人。その傍らに、頼りがいのある、気さくな男が一人。そして時間は巡った。ひっそりと、当人すら気付かぬ想いが育つには充分なくらい。描いてみれば随分と簡単な構図だった。
「御免、なさい、……ゼネテ、ス」男に揺さぶられ、荒い息を吐きながら、娘は床に伏せるもう一人の男に謝罪した。「御免なさい。……私、」ゼネテスは優しく笑った。「いいぜ……俺に遠慮するこたあねえ」視界が暗い。そろそろ、意識を保つのが難しくなってきた。気力を振り絞って、最後に鋭い声を投げた。「――イけよ」男の許しに、くぐもっていた娘の声が堰を切ったように弾けた。娘の初めての絶頂の声が長く甘く、闇を切り裂いて響く。牙を覗かせた吸血鬼の唇が噛み付くように口付け、その声を呑んだ。
娘の声はもう聞こえない。視界が黒く閉ざされ、意識は深い闇に沈んでいった。
END
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。