青年が寝泊りしている宿舎にイークレムンが訪れてきた。水の巫女といっても、エルズのエアのように崇拝され恐れられる存在ではない。勤めを果たすかたわら、天気の良い日には広場で日向ぼっこをする姿が見られる。供はついているが、気軽に町を歩いていることさえある。だから、わざわざイークレムンが訪れてきたときも青年は驚かなかった。
それが夜だったとしても。このどこか世間ずれした青年は当然の如く彼女を迎えた。さすがに部屋に招き入れることはしなかったが。だがそれも、イークレムンが月夜の散歩に誘ったからであって、青年がそれをしなかったとは言い切れなかった。ともかくも、無限のソウルを持つ青年と水の巫女であるイークレムンは、面白い遊びを思い立った童のように、無邪気に笑いながら手をつないで夜のアキュリュースへと、降り立った。
静まり返った広場を抜け、商店が連なる大通りを軽やかに跳びまわる。そして、グラジェオンの足跡と呼ばれる湖のほとりに、彼らはたどり着いた。輝く月が空と水面に二つ存在する。イークレムンは足が濡れるのにもかかわらず、水と戯れる。周囲は深い木々に囲まれ、街の喧騒を遮っている。イークレムンは、岸辺で黙って見守っている青年に手招きした。
「来て下さい。水が冷たくてとても気持ちがいいですよ」
青年は靴を脱ぎ、水の中に入る。くるぶしを撫でる冷水がたまらなく心地よかった。
「ほんとだ。このまま水浴びしていきたいぐらいだ」
「ふふ、私はかまいませんよ」
イークレムンは口元に手をあてて笑った。小さな肩が小刻みに揺れる。
「やめておく。泳ぐのは苦手なんだ」
「あら勿体ない。こんな日に泳ぐのはとても気持ちがいいのに」
イークレムンは青年の手をひく。彼らの膝に水が押し寄せる。鎧こそつけていないものの、やはり水というものに青年は腰がひけた。彼女の父親と、鎧を着けたまま遠泳した苦い記憶がよみがえるのだ。無意識にイークレムンの手を握り締める。やわらかい感触に少しだけ安堵する。
「大丈夫です。水はときに恐ろしい姿を見せることもありますが、その本質はとても優しいものなのですか。ふふ…なんだか貴方のようですね」
「俺は怖いかな?」
「戦っている姿はそう思ったこともあります。でも、それは何かを守ろうとしている姿。誰かの為に怒っている姿。嫌いだと思ったことは一度もありません」
青年はイークレムンをじっと見つめる。彼女の瞳の中には青年が映っている。青年はイークレムンの剥き出しの肩に手を置いた。極上の絹のような肌触り。頭の片隅で抱きしめたいと青年は感じた。そのまま引き寄せると、青年の胸の中にもたれかかる。服越しに頬を摺り寄せる感触が、豊かな胸の弾力が青年に伝わる。先ほどまでの穏やかな願望が、より生々しい肉欲へと変化していくのを青年は感じた。己の身体全てで、彼女の肌に絡みつきたいと。
「そろそろもどりましょうか?」
イークレムンは体を離す。青年は反射的に手を掴んだ。柔らかなイークレムンの表情に微かな怯えの色が浮かぶ。これは何だろう。火に油を注ぐとでも言うのか。青年は心中で呟いた。
「やっぱり水浴びがしたい」
今度は青年がイークレムンの手を引き、より深い場所へと進む。腰まで水につかり、水流を体で感じることができた。水面は穏やかで、よもやおぼれることはないと思うが、イークレムンは不安げに青年の服を掴んだ。時折、波が彼らの半身に飛沫をかける。イークレムンは水で服を張り付かせていた。腰のくびれが、乳房の形が、はっきり見て取れた。じっとこちらを見る目に怯えはない。イークレムンは、そっと目を閉じた。誘われるまま口付けをする。唇の柔らかさを味わったのは一瞬で、青年はすぐに舌を侵入させた。うなじに手を滑り込ませて引き寄せ、より深く舌を絡める。青年の動きを真似るように彼女の舌も青年を追いかける。清らかな水音に交じって、空気の混じったいやらしい唾液の音が聞こえた。イークレムンは青年の首に細い腕を絡ませ、口内を、歯列を、舌を、いとおしむように撫でる。
青年の手はうなじを降り、大きく開いた背中を撫でる。腰にまわされていたもう片方の手は豊かな胸を、最初は優しく、次第に力強く揉みしだいていく。イークレムンの唇から、くぐもった声がもれる。いったん唇を離す。青年は口元を汚す唾液を舐め取ると、イークレムンのそれも同様に舐め取っていく。そして、再び口内を互いに犯し始めた。
ようやく青年が顔を離す。二人の唇は銀色の糸でつながれている。もう一度、軽く口付けをして舐めとる。
「上がろう」
そういうが早いか、青年は有無を言わさずイークレムンを抱え、岸に上がった。水を大量に含んだ衣服が重い。青年はイークレムンを草の上へ下ろす。イークレムンは無言で服のすそを絞り上げる。重たげな水音が響く。夜目にも白い足を投げ出して、静かに青年を待つ。青年は上着を脱ぎ捨てる。膝をついてイークレムンに覆い被さると、耳元で何事か囁いた。うっとりとした表情でイークレムンは頷く。青年は、男の体の下で横たわる巫女の頬を撫で、軽く音を立てて口づけする。
イークレムンは歓喜に染まった表情でそれを受け入れると、白い腕を男の首に回し、たくましい背中にゆっくりと手を這わす。「嬉しい…。好きです、貴方が好きです」「うん。俺も、ずっと好きだった」鎖骨をなぞりながら白い首に舌を滑らせると、イークレムンはくすぐったそうに呻き声をあげる。「ん…ひゃん。くすぐったいです」青年は巫女服の留め金を外し、上半身をあらわにさせる。今まで、服越しで想像するしかなかった乳房が惜しげもなくさらされる。指で先端をつまむと艶かしい吐息が漏れた。腰を撫でると、びくりと体が震え、豊かな乳房もまた揺れる。無心に青年は胸に吸い付いた。舌先で乳首を転がし、軽く歯を立てる。耳をふさぎたくなるような音がする。その一方で、手は肌の感触を堪能していた。「あん…ひゃ…ん、くすぐった…あん!」腰のくびれを責めるたびに、高い声があがる。細い腕は別の生き物のようにふるふると震え、やがては地に落ちる。「あん…や、…きゃん」「くすぐったい?」青年が顔をあげると、イークレムンは口を引き結び、青年を恨みがましそうに見つめていた。「ひどいです」「ごめん」非難する声には艶があり、迫力はない。急にイークレムンの手が背中に回り、青年の肩甲骨をなで上げる。そのまま、手は首をなで上げながら正面に向かい、青年の胸の突起をもてあそぶ。青年の顔が恍惚で歪む。「ちょっ…なにを」「うふふ、お返しです」笑みを浮かべながら青年の上半身に手を滑らせる。イークレムンの掌は硬い腹部を通過し、臍まわりに細い指で円をかく。さらにそのまま下に行こうとするのを、青年は慌てて止めた。「こら」青年は腰あたりで止まっていた巫女服を一気に下げおろす。急なことに、イークレムンは腕を引っ込める。大切な部分を隠そうとする腕を、優しく引き剥がし、青年は足を割り開く。髪の色と同じ、濡れた茂みを撫で、すでに湿っている陰部に指をねじ込ませる。「あん…!」イークレムンは青年の指を受け入れようと腰を動かす。その仕草に後押しされるように、青年はさらに指を増やす。熱く、狭い肉壁を擦るたびに体をよじらせる。蜜が青年の指をつたう。「大丈夫かい?」口ではそう言いながらもも指の動きは止めない。それどころか答える暇すら与えず、喘ぐイークレムンの芽を擦る。
軽く達したイークレムンに口付けし、ベルトを緩める。すでに彼女の愛撫を受けていたときから勃ち上がっていたそれをとりだし、横たわる彼女の陰部にあてがい愛撫するように擦りつける。「はん…あ、あ」雫が滴る足を片方だけ持ち上げ、凶器の先端をなぶるように出し入れする。「つかまって」だらんと投げ出されている腕を自分の腕にまわさせ、ぐっと力をこめた。粘り気のあるいやらしい水音が間近で聞こえていた。とろけそうな表情を苦痛に染める様も、イークレムンは清らかな美しさを保っているように思えた。熱く、侵入を阻もうとする中へ慎重に進んでいく。くいちぎられそうな締め付けに、このまま呑み込まれてしまうようだった。「ひゃあん、ああ、あ…」我慢できずに青年が腰を打ち付けると、イークレムンは痛みとも快楽ともつかない声をあげる。熱を帯び弓なりに反らされた体で、潤んだ瞳で、しっとりと濡れた半身で、快楽を求める嬌声で、その全てで青年を誘惑し、引きずり込む。青年は、労わりや優しさが何とも頼りないものであると知る。奥へ奥へと進み、引き抜いては、打ちつける。「はあ…ん、あ…感じます。ああ…貴方を感じます…!」がくがくと震える足を下ろし、腰を強く掴んで体を重ねる。豊かな胸が押しつぶされて形を変え、青年のものをより深く受け入れる。青年は噛み付くように口付ける。互いの舌はより快楽を求めようと、貪りあう。「あ…ああ……!」最奥に達し、中が収縮するのを青年は直に感じる。イークレムンが果てたのを見て、限界間際の己を引き抜こうとする。「あっ、待って…。お願い…!」白い足が青年の腰に絡みつく。淫蕩な様子など微塵もない。ただ、一人旅立つ恋人に泣きすがっているようだった。「くっ…」熱いほとばしりをイークレムンの中に放ち、青年も果てた。
「はしたない女だと思いましたか」青年の上着を羽織り。イークレムンはたくましい胸によそりかかる。「そんなことは思わないよ。でも、どうしたの?」「お母様の真似をしたくなりました。貴方が好きです。お父様も居て、こんなにも満たされ居るのに。私を産んだお母様もこんな気持ちだったのでしょうか」青年はイークレムンを抱きしめる。はらりと上着が落ち白い裸身があらわになる。「俺も、君が好きだ。君が欲しいものを俺も望んでいるし…。いつでもいいというか…いや、そういういやらしい意味じゃなくて…」イークレムンはしどろもどろになる青年に微笑む。「はい、いつでもお待ちしております」青年は完全に言葉を失い、イークレムンの首筋に顔をうずめた。
次の日、青年はアンギルダンと会う。何となく気まずい思いをする青年の背を、アンギルダンは上機嫌に叩く。そして「よくやったあ!」と往来で叫ぶと、青年を酒場へ引きずっていった。
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