バイアシオン大陸の南東に位置する半島エルズ。海にほど近い街道で一人の少女が潮風に吹かれて佇んでいた。その顔には見覚えのある者も大勢いるだろう、先日の作られた神と闇との戦いで闇に打ち勝ち、人々を救った少女である。少女は輝く海を眺めながら、先ほど訪ねた風の巫女から言われた言葉を思い出していた。――ネメアはこの大陸から離れた。何処に向かったかはわらわにも読めぬ。少女の唇に、悲しい笑みのようなものが浮かんでいる。
少女と共に闇に立ち向かい、闇を退けた獅子帝ネメア。少女はこのままネメアはバイアシオンに留まり、ディンガル皇帝の地位を存続すると思っていたのだ。ところがどうだ――今、ディンガルの皇帝の地位は少女と冒険を共にしたこともあるディンガルの玄武将軍、ザギヴの許に収まっている。――ネメアは、なぜ我々の前から姿を消したのだろう。風の巫女の言葉を聞いてから、少女の心の中に繰り返し答えの出ない問い掛けが反響していた。心の中に何か、ぽかりと穴が開いたような気がしていた。
「おい、お前ダークエルフだな!覚悟しろ!」遠くの方から聞こえてきた怒鳴り声に少女の夢想は破られた。ダークエルフ狩りをしている者の声らしい。少女はやれやれ、と溜息をつく。ネメアがあれほど種族平等を唱えていたのに、その思想は民の元には行き渡らなかったのか。ともかく、ダークエルフの命は助けなくてはならない。少女は声の聞こえてきた方へ向かった。草むらの葉陰から見えたものはならず者らしい二人の男と、吟遊詩人風のダークエルフ一人。「てめえのようなダークエルフはエルフ族の恥だからな、命を頂くぜ!」ならず者たちは毒づいている。このままではあのダークエルフは殺されてしまうだろう――少女が助けに飛び出していこうとした時である。「あっ……お前は……!」赤い稲妻のように、そのならず者達の前に現れ、少女より早くそのダークエルフを助けた者がいる。それは赤く長い髪をして、手に弓矢を持ち、褐色の肌をした美しい女。「お前は……ネメアの……!」「立ち去れ……聞こえないのか?この矢でその身を射貫かれたいのか!」その女のよく通る声を聞き、ならず者たちの先ほどの剣幕は消え去って、逃げるようにその場から走り去った。命拾いをしたダークエルフの吟遊詩人はへたへたとその場に跪く。少女はその女のものに走り寄った。その女のことはよく知っていた。「……オイフェ!」少女の呼び声にその弓矢を携えた美しいダークエルフの女は振り返った。紅く長い髪と、褐色の肌が輝いたように見えた。「あなたは……久しぶりね、こんなところで会うとは思わなかったわ」
助けた吟遊詩人のダークエルフを見送りながら、オイフェは少女に話しかけるようでもあり、自分に言い聞かせるようでもあるような口調で言った。「闇との戦いが終わっても……ダークエルフの立場は何も変わってないんだわ」その言葉が少女の胸に静かに突き刺さる。「私も今はネメア様の元騎士という称号があり、鉄火姫なんて呼ばれて普通のダークエルフとは違う扱いを受けているけど……この先どうなるのかしらね。私もいつか、あんなやつらの標的にされる日が来るのかしら」少女はオイフェの顔を見た。今の彼女の姿は以前と変わらない。ネメアに仕えていた、一時は少女と敵対していた頃もあった、あの時のままだ。あの時の燃えるような、ならず者など一瞥の元に蹴散らせるような、強い意志を瞳に宿したまま。今のオイフェの力と名声があれば、冒険者として生きてゆかなくても、そのままディンガルの騎士として生きてゆく道もある筈なのにと少女は思う。オイフェは少女の瞳の中にその疑問を見取ったのか、少し微笑んで言った。「私がここにいるのが不思議?……私の忠誠はディンガルにあるのではないわ。私の忠誠はネメア様だけのもの……私に生きろと言ったネメア様にだけ忠誠を誓ったのよ。ネメア様は私に生きろと言った……生きる道を与えて下さった。そして、私に仲間を与えて下さった。ゼリグ、ドルドラム……種族は違ったわ。けれど、二人ともダークエルフである私を理解してくれた、大切な仲間だったわ」そこでオイフェは瞳を伏せた。少女にも分かっている。ゼリグもドルドラムももう、この世にはいない。「ゼリグも、ドルドラムも死んだわ。私はまた一人になってしまった。そしてネメア様は……この大陸を旅立ったわ。もう、帰ってはこない……」オイフェは淡々と言った。けれど、その胸の内にあるどうしようもない寂しさややるせなさを少女は見抜いた。それは当然だ――ネメアは闇に落ちたオイフェの最初の理解者だった。彼女に生きる道を与えた人間だった、オイフェが悲しまない筈がないのだ。「……私は言ったの。連れていって下さいって。騎士として何処までも忠誠を誓いますって。この世の果てまでもお仕えしますって。けれど、ネメア様は首を縦に振らなかった……ネメア様は……私の心は受け入れてはくれなかった。私の心では、ネメア様はだめだったのよ」オイフェの唇には悲しい笑みが浮かんでいた。
「あなたは?あなたはどうしてここにいるの?ネメア様のように英雄となった、ロストールにもディンガルにも必要とされているあなたがどうしてここに?」自分は?自分はどうするのだろうか。少女は自分に問いかける。本当は分かっていた。風の巫女にネメアの行方を聞くことだけがここエルズに辿り着いた理由ではない。自分はエルズからバイアシオンの外海にある世界へと旅立とうとしていたのだ。少女には分かっていた。自分もまた、英雄になってしまった。世界の均衡をも脅かす存在、そう呼ばれた。エルズに辿り着くまでの間、アミラルの住人が自分を見た目。――あれが、我らが竜王を屠った者。英雄呼ばわりされているが、竜王をも恐れぬ狼藉者だ。いずれ世界を滅ぼすやも知れぬぞ。人々の囁き声が胸に突き刺さった。――自分はバイアシオンから離れなくてはならない。自分の存在はきっとこの先、また戦乱の火種となってしまう。少女はそう悟っていたのだ。
「あなたも、この大陸を離れるのね……ネメア様のように」オイフェは少女の心を見透かしたように言った。そして、きっと少女の顔を見据えて言った。「私も連れていって」有無を言わせぬ口ぶり。今まで何度も聞いた、オイフェの強い口調。一度決めたら考えを決して覆さないその口調。「外の大陸へ私も連れていって!私はバイアシオンでダークエルフが狩られることのない世界を作るつもりでいた、けれど、その為には私の力はまだ足りないわ。外の大陸で私はもっと強くなりたい……連れていって、外の世界に!」「……いいわ、一緒に行きましょう、オイフェ」少女は頷いた。その声は、純粋に共に旅する仲間が増えたことの喜びで弾んでいた。
その夜、少女とオイフェはエルズに宿をとった。明日にはバイアシオンを離れる予定だった。しかし少女は緊張と、急遽また一緒に行動するようになったオイフェの存在もあってかなかなか寝つけなかった。少し、冷たい夜風にでも当たってこようと、少女はベッドから降り、部屋の外に出た。オイフェとは出発する前の晩と言うことで別々の部屋である。ふとオイフェが寝ている部屋の扉を見ると、深夜だというのに灯が漏れていた。オイフェも眠れないのだろうか。ふと、扉に耳を近づけるとオイフェの声が聞こえた。声――ではない、荒い息遣いだ。はぁはぁと激しく息を吐く音。そして、衣擦れの音、布団の上を転げ回っているような音も。――オイフェ、身体の具合がおかしい?苦しんでいる?少女はそう考えるといても立ってもいられずに扉に手をかけて開けようとした。「オイフェ!オイフェ!……大丈夫!?」扉に鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。そして飛び込んだ少女が見たものは――
ベッドの上に腰かけ、寝間着の前をはだけて形の良い乳房を剥き出しにし、顔を上気させ息を弾ませたまま少女の顔を見ているオイフェ。寝間着の裾は捲り上がり、ショーツが顔を覗かせている。空気の中に甘い匂いが漂っている。何をしていたのかは一見して明らかだった。オイフェと目が合った少女は、一瞬思考が停止したようにそのまま立ち止まってしまった。オイフェも少女の顔を見つめたまま何も言わない。嫌な沈黙だけが流れる。「……出てってよ……!」やがて、掠れた声でオイフェが言い放った。恥じらいと戸惑い、そしていつもの怒りがないまぜになったような表情で少女を見返す、ランプの灯に照らされたオイフェの上気した頬、潤んだ目は妖しく輝き、この上もなく美しいものに見えた。何も見なかったことにして部屋を出ていけばそれが最善だったのかも知れない。けれど、その時見たオイフェの妖しさと美しさが少女の心の狂気のスイッチを押した。甘い香りを放つ、狂った歯車が突然回り始めた。「んっ!んんっ!」気がつけば少女はオイフェのベッドに飛び乗り、食らいつく様に彼女の唇を奪っていた。オイフェの唇は熱い。オイフェは一瞬、逃れようとするかのようにもがいた。だが、弓を操るオイフェと、両手剣を得意とする少女では腕力の差がありすぎる。もがく美しいダークエルフの自由を奪うかのように、両の手首を握りしめてベッドに押し倒し、少女はオイフェの唇を貪り続けた。汗ばんだオイフェの身体からは甘いような酸っぱいような香りがする。
不意に、唇に激しい痛みが走る。オイフェが少女の唇に歯を立てたのだ。少女の力が緩んだ瞬間に、少女の頬に激痛が走った。少女の手を振りほどいたオイフェが少女の頬を張り飛ばしたのだ。「……何をするのよ」オイフェは怒りと、そして今まで少女から与えられていた唇への快楽に息を弾ませながらも言い放った。少女はやっと、正気を取り戻したかのようにオイフェから身を離した。「私があなたに欲情しているとでも思ったの?違うわよ!」徐々に冷めてゆく少女の心にオイフェの言葉が沈み込んでゆく。自分は何をしてしまったのだろう、一時の劣情に身を任せて。まるで――まるで情欲のままにオイフェの妹を陵辱した冒険者達のようではないか。「……ごめん」少女の唇から謝罪の言葉が漏れた。
「……謝るなんて」オイフェははだけた胸元を合わせながら、息を弾ませて言い放った。「謝るくらいなら、最初から襲わなければいいじゃないの」今やオイフェの顔は薔薇色に染まるほど赤みを増し、激しく吸われた唇もまた深紅に染まっていた。その言葉とオイフェの燃えるような美しさがが鎮火しようとしていた少女の劣情に再び火を付けた。(私はオイフェの妹を襲った冒険者なんかとは違う、私は……私は……!)少女は顔を上げ、怒りに震えるダークエルフの顔を見て言った。「謝って欲しくない?……じゃあ、どうして欲しいの?続けて欲しいの?」返事を待たずに、再びオイフェの両手首を掴んで全身を使ってベッドに押し倒した。もう、どんなにもがいてもこのダークエルフを逃がしはしない。再びオイフェの唇を奪うと、先ほど噛み付かれた唇の傷が痛んだ。痛みを堪えて、舌をオイフェの舌に無理に絡める。脚と脚の間に脚を割り込ませて、閉じさせないようにする。裾の短い寝間着の下に手を差し入れると、オイフェのショーツはもうぐっしょりと濡れていた。オイフェはびくんと飛び上がるように身体を反らせた。さきほどの自慰で達したばかりで敏感になっているのだろう。うぅ、と押し殺したような呻き声がオイフェの咽の奥から聞こえた。構わずに、ショーツの上からオイフェの敏感な部分を指でなぞり、硬くなっている秘芯を探り当てた。唇を解放し、はだけた胸元を強く吸い、赤い跡を残す。「う、ああっ……!」ショーツの上から数回激しく彼女の秘密の肉芽を擦り上げると、一瞬激しく抵抗したオイフェはそのままぐったりと身体を弛緩させた――再び達したようだ。空気の中に、甘酸っぱい匂いが立ちこめる。オイフェの荒い吐息を聞きながら、少女はようやくオイフェの身体を解放し、ベッドに横たえさせた。美しいダークエルフは力のない、しかし怒りの混ざった瞳で少女の顔を見上げている。「……もう、謝らないわよ」オイフェの非難に満ちた目を見ながら今度は少女はそう言った。そしてオイフェの唇に今度はこの上もなく優しい口付けを落した。「謝らないわよ。だって私、あなたが好きなんだもの……オイフェ」オイフェは黙ったまま、潤む目をしばたたかせていた。
エルズの街では奇妙な噂が流れていた。先刻の闇との戦いで闇を退けた英雄である少女と、獅子帝ネメアの騎士であったダークエルフがこの辺境のエルズに腰を据え、名もないような安い仕事をしているというのだ。しかし、噂は噂であろうと、大抵の人々は思っていた。そのような英雄二人がこのバイアシオンの外れに辺鄙な土地に居る筈はない、と。しかし、それは真実だった。
あの晩の翌日には、もう少女とオイフェは合意の許に身体を重ねた。長年連れ添った愛しあう恋人のように、ごく自然にお互いの身体を欲したのだ。実のところは、少女はオイフェに対してあんな行動を取ってしまった後、オイフェが自分と行動を共にすることはないと思っていた。しかし、オイフェは、そのまま少女の許から去るでもなく、自ら少女にその身を委ねたのだ。そして二人はバイアシオンを離れるという約束も忘れたように、エルズに留まり、夜は毎晩のように臥所を共にした。
あの夜、少女はオイフェを好きだと言った。それは一時の世迷い言でも何でもない、真実のことだった。――憧れていた、いつの間にか、心の何処かで。この美しいダークエルフの何処までもまっすぐで、何者も恐れぬ鉄火の意志に。自分の意志に忠実で、好きなものを好きと言い、嫌いなものは嫌いとはっきり言う。時にはその時の敵である少女にさえ剣を向けた。少女がいつも旅の仲間から言われ続けていたこと――『君は誰に対しても、優しいんだね』その通りだった。自分は誰に対しても優しくするように心がけていた。ある時は自分の意志さえも押し殺して周りと接していた。辛いとか、悲しいとか、素直な感情さえも言えずに周りだけを見て生きていたような気がする。ロストールの騎士、ノーブル伯に任命されながら、親しくしていた敵国の将軍が傷付くのを見ることが忍びなくてディンガル側に就いて戦ったこともある。――八方美人。常に耳元で誰かが自分にささやいていたその言葉。
オイフェは、そんな自分と真逆の位置にあった。オイフェは、ただ、ネメアだけを慕い、ネメアの命令にのみ従い、周りの人間から鉄火姫と恐れられても仲間のゼリグやドルドラムに呆れられても何も頓着はしなかった。ひたすら一途で、懸命だった。少女はいつしか憧れていた――その、オイフェの火のような強さに。素直で一途な心に。
今夜もエルズの名もないような寂れた宿屋の一室が、女二人の湿った熱い吐息で満たされる。初めて身体を重ねてから、少女とオイフェはまるで熱に浮かされたかのようにお互いの身体を欲した。オイフェは性行為を毛嫌いしていた――今までは、表向きでは。それは妹を卑しい男達に陵辱の限りに殺された、その事実が心の傷になっていたためだ。だが、そんな心に反して熟れきった彼女の身体の中で肉欲は抑圧されて、その芽を吹き出すのを待っていた。自慰に溺れていたのもあの時が初めてではない。ましてや、相手は妹を陵辱したような汚らわしい男ではない。美しく、この国を救った英雄の少女だ。この相手の腕に抱かれ、肉欲を満たす事にはなんの罪悪感もなかった。少女の肌は滑らかで吸い付くようにしっとりしていた。まだ青さを持ちながらも、女性の部分だけは発育した扇情的な肉体。オイフェはたちまち少女の身体の虜になった。少女もまた同じであった。誰もが見惚れるような容姿の、美しいダークエルフの彫刻のように均整のとれた肢体、そしてその匂い立つような色香に同性という枠を超えてのめり込み、溺れた。絡み合う唇、くちゅくちゅと湿った音を立てて、お互いの口腔を陵辱する舌。唇の表面を舐め、舌と舌はもつれ合い、やがて離れる二人の唇から光る糸が引く。オイフェの着ている白い寝間着の胸元をはだけさせると、浅黒く輝く形の良い乳房が顔を出す。それはいつも月明かりに照らされてくらくらするほどの妖艶な光を放つのだ。「オイフェ……きれいよ、とても……」少女はそこに顔を埋める欲求を押さえることが出来ない。乳房に顔を押し付け、頬擦りをする。そして、既に充血して尖ったその赤みを帯びた先端を唇に含む。強く吸い、舌の先で弄び、軽く前歯で噛む。オイフェは身を捩り、甘い吐息を漏らす。自ら強請るように少女の右手を取り、それを自分の脚の間へと誘うオイフェ。薄い寝間着の下には、今日も彼女は下着を付けていない。まくれ上がった寝間着の中から、赤く烟る茂みが顔を覗かせている。少女がその中に指を侵入させると、にちゃりと粘り着く液が指に纏わりつく。先ほどの乳房への愛撫で、すっかり勃起したオイフェの秘密の肉芽。絡みつく蜜の中で、指の腹でくるくるとそこを撫でると、オイフェはたまらず何度も泣くような声を上げた。少女はオイフェの太股に手をかけ、脚を開かせる。むっと立ち込める、牝の匂い。紅く烟る茂みの下の色づいて震えているダークエルフの秘所。綺麗だった。濡れて光る秘密の果実に口付けし、舌を這わせる。「あ、あああっ……」甘く酸い蜜を味わい、紅く膨れ上がった肉芽を舌の先で何度も愛撫した。そして指をその下の膣口へ差し入れる。愛液は溢れ出し、指を締め付けるその中をぐりぐりと掻き回す。ある一点を探しだし、そこを強く刺激する。オイフェの嬌声が部屋の中にこだました。「いや、いやぁっ……もう……っ!」オイフェの喘ぎが掠れ、激しい呼吸が一瞬止まる。びくん、と身体が硬直する。オイフェの身体の中を今、快感が巡っているはずだ。そのままオイフェの身体が弛緩するまで少女はオイフェの肉芽を舌でくすぐり続けていた。
二人の夜はまだ終わらない。一度達したオイフェの身体を抱きしめ、今度はしとどに濡れた自分の花園を少女はオイフェの太股に押し付ける。お互いの太股がちょうどお互いの性器を擦り付ける形になる。火のような熱さを少女はオイフェの身体から感じた。「好きよ、オイフェ……」少女は耳元で囁く。密着する肉体。押し潰され、相手の体温を直に伝える四つの熟れた果実のような乳房。下半身を絡めたまま、オイフェの身体に身体を預ける。美しいダークエルフの乳房を両手で揉みしだく。艶やかな褐色の果実に何度も口付けし、紅い跡を残す。その間に激しく自らの濡れた秘部を相手の股に擦り付ける。押し付けるたびにきゅっと尻肉が締まるのがわかった。「あ、ああぁ……いい……」少女は、自分の股に押し当てられているオイフェの秘部もまたぬらぬらと濡れているのを感じた。そっと手を伸ばし、その間に指を差し入れる。濡れきった茂みを掻き回し、焦らすように指で肉芽を探り当て、それを捏ね回すように弄んだ。「ああっだめ……また……!」オイフェは身体を痙攣させる。この分だとまた先に達してしまうだろう。少女は名残惜しげに指を引き抜いた。指に絡まるオイフェの透明な蜜。それをそっと舌の先で舐め、味わった。強く、強く、身体を押し付ける。性器が押し潰されるのではないかと思うくらいそこを押し当てる。頭が痺れるような、うっとりとした恍惚感がそこから生まれてくる。「オイフェ、オイフェ、愛してる……!」オイフェの髪の毛に指をからませ、首に腕を回し、譫言のようにそう呟きながら少女はオイフェの唇に、首筋に、口付けの雨を降らせた。「ああっ……あ、ん……!」絶頂が近くなったオイフェは力の限り少女の身体を抱きしめる。髪が、身体が、瘧のように震えている。そして、腰を淫らにくねらせ股に押し当てた秘部を激しく擦り付けた。少女もまた腰を動かし、最後の高みを登り詰めてゆく。「はぁぁ……わたし、もう……!」「オイフェ、オイフェ……一緒に……!」絶頂まで登り詰めた快感が弾けたとき、喘ぎに混じってオイフェの声が聞こえた――最後にオイフェは『あの人』の名前を呼んだ。今日も、また。――ネメア様……少女の薄れてゆく意識の中で、オイフェの呼んだその名前がいつまでも反響していた。
真実の愛が尊く崇高なものであれば、少女とオイフェとの愛は歪で屈折したものであろう。オイフェが少女と睦みあいながらその姿に愛するネメアを重ねているのは火を見るより明らかだった。オイフェはこの国を救った英雄としての自分をネメアの代わりに見ているのかもしれない。或いは、ネメアの存在を忘れたいがために自分と関係を結んだのかも知れない。けれど少女はそのオイフェに腹を立てる気持ちも、ネメアに嫉妬する気持ちも不思議と起こらなかった。代替の愛であったとしても、オイフェの傍にいたかった。恐らく――ネメアを強く愛し、それを忘れられない今のオイフェのそんな情念や執着さえも少女は愛しているのか、許してしまっているのだろう。――真実の愛ではなく、代替の愛。それでも良かった。自分がオイフェを好きであることは事実であったし、闇との戦いが終わった後、少女は自分の心の中に、何か穴が開いているような気がしていたのだ。大きな目標を終わらせてしまった後、自分の心の中にぽかりと開いた穴。それを埋めてくれるもの、それがオイフェとの関係だった。
情事の最中に、情事の後に、オイフェがネメアの名を呼ぶ。その度に少女の心がずきりと痛み、冷たくなる。心の中に開いた穴を埋めてくれるのがオイフェとの睦み合いだった。その筈だった。だが、二人抱き合った後、なんとも言えない寂しさ、虚しさがいつの間にか付き纏うのに二人は気付いていた。心の中に開いた穴を塞ごうとしても塞ぎきれぬように。それを忘れようとして、二人は必死にまた情事に溺れた。ほぼ毎日のように抱き合い、口付け愛撫し、体温を分け合った。だが、埋められぬ寒さ――所詮は、これが代替の愛なのか。
その夜も、少女はベッドに腰掛けてオイフェの髪を櫛で梳いていた。それはいつの間にか出来た習慣だった。オイフェの紅い髪が櫛で梳かれる度にきらきらと輝く。「もう、終わりにしましょうよ」唐突に紡がれたオイフェの言葉にぴたり、と少女の髪を梳く手が止まった。櫛が手から滑り落ち、ベッドの上に落ちる。しかし、少女はそれほど動揺していない自分に気がついた。「こんな関係……もう止しましょうよ」「……分かったわ」少女のその答えにオイフェは少し怪訝な顔をした。「何故、って聞かないのね?」ええ、と少女は頷く。「……分かっていたのね?私がネメア様のこと、忘れられないってことを……所詮、恋人ごっこしていただけだって……分かっていたのね?」少女は悲しげな瞳でそれを聞きながら頷いた。「オイフェが私のこと愛してないって、分かってたわ」オイフェはそれを聞いて黙り込んだ。何か言いたげな目、梳かしたばかりの髪がきらきらと輝いている。今度は少女が質問する番だった。「どうして私に抱かれたの、オイフェ?ネメアしか愛してないあなたがどうして、愛してもいない私に身を委ねたの?」「……あなたは、私の残されたただ一人の理解者じゃないの!」オイフェの声は力強い。しかし、それにはどこかやるせないような憂いが含まれていた。「ネメア様は私を残して旅立ってしまった……ゼリグもドルドラムももうこの世にはいない……エルフの故郷には帰れない。私に残されたものは……そう、あなただけよ。だからあなたの望みだったら叶えてあげたかった。あなたが私を抱きたいのなら……あなたをこの身体で繋ぎ止められるのなら、繋ぎ止めておきたかった!」一気に吐き出すようにオイフェはそう言った。少女の顔に複雑な笑みが浮かんだ。「ばかね……私が何があってもオイフェを捨てるわけなんてないわ。私を拒絶しても良かったのよ……それでオイフェを見捨てるような私じゃないわ」「……!」「好きなのはあなたの身体だけじゃないわ、オイフェ。あなたの心が好きよ。あなたの素直で一途なまっすぐな心が好きよ。私は……私はあなたのようになりたかったのよ。もう、恋人ごっこはできない……けれど、私はあなたの傍にいたい、オイフェ」オイフェは長い睫毛に隈取られた瞳を伏せて、紅く輝く髪をかき上げながら言った。「……私は本当に愚かだったわ、あなたをこの身体で繋ぎ止めておこうだなんて……あなたが私を孤独にするわけがなかったのね。あなたはいつも私を助けてくれた……私の勝手な願いも聞いてくれた。そんな心の持ち主であるあなたが、私を見捨てるはずがないわ。あなたは……本当に私を理解してくれるのね」オイフェは静かに微笑んだ。少女もつられたように笑う。やがて、どちらからともなく二人の唇が合った。今までのような肉欲に支配された貪り合う口付けではなく、優しいいたわりに満ちた口付け。少女は初めて、自分の心に開いた穴が塞がり、暖かいもので満たされる感触がした。「恋人ごっこはお終い……でも、私たちは仲間よ。かけがえのない、仲間よ」「ありがとう……ネメア様は私に生きろと言った。だから生きるわ、私……あなたと共に。」オイフェの口から初めて心からの感謝の言葉が紡がれた。それは、二人の歪んだ関係の終焉――そして、本当に新しい二人の旅立ちの始まりを告げるものであった。
少女とオイフェは古の樹海深くに向かっていた。バイアシオンを離れる前に訪ねておきたい場所があるとオイフェが少女を導いたのだ。森の奥深く入ったその場所に、少し開けた地がある。うっすらと木漏れ日がそこだけに差し込んでいる。その中央に、それはあった。一見して分かる手作りの木製の、それは墓標――そして供えられた、枯れた花の山。少女は息を飲んだ。それが誰の墓であるかを一瞬にして悟ったからだ。オイフェも少女の心を読んだように、何も言わなかった。オイフェは枯れた花を取り除き、新たに用意していた摘みたての花で墓標を飾った。少女もそれを真似る。やがて、墓標は汚れも取り除かれ、花で飾られた美しいものとなった。オイフェは墓標に向かって祈りを捧げた。エルフ族に伝わる祈りだろうか、少女には馴染みのないものだった。「……行ってくるわ、エメル」最後にオイフェは呟くように言った。少女の考えは当たっていた。エメル――オイフェの死んだ妹の名。冒険者達に陵辱され、殺された妹。オイフェが怒りと悲しみのあまり、闇に墜ちる原因となったエメルの死。少女はそこまで考えるとオイフェの祈りを真似た。そして、エメルの冥福を祈った。「……エメルはね、あなたには殺されたと言ったけど、本当は……自分で命を絶ったのよ。……その苦しみに耐えられずにね。エメルも……私を置いて行ったのよ」オイフェはその言葉をまるで独り言のように抑揚のない声で話し始めた。「私は、アズラゴーザの復活の為の生贄にされるところだった……あなたが助けてくれなければ。そして、エメルもそうだったのよ。エメルを嬲り殺した冒険者達を雇ったのは、あいつらだったのよ、あの救世主どもだったのよ。あいつらは、エメルを生贄に使うつもりだった。あとでパルシェン……オルファウスに聞いたの。私が……私が身代わりになれば良かったと思ったわ!私が先に生贄にされていれば、エメルは死なずに済んだのよ!」「オイフェ!」少女はオイフェのその言葉を制した。「オイフェ、そんなことを言ってはダメ!妹さんのことは不幸だったわ……けれど、自分が身代わりになっていればなんて考えるものではないわ」「……分かってるわ。ネメア様も仰っしゃった。エメルのために何ができるかと……そうよ、私はエメルの為にも生きなくてはならないの」オイフェはふと、顔を上げてじっと少女の顔を見つめた。そして不意に言った。「もっと似ているかと思っていた……けれど似ていないのね」「似ている?」怪訝に聞き返した少女にオイフェは柔らかい表情で答えた。そしてつと右手を上げて少女の頬を軽く撫でた。「あなた、エメルにどこか似ていると思っていたのよ。でも、私の思い込みだったのかしらね……」少女は自分の頬に当てられたオイフェの手を握りしめながら言った。「私は、妹さんの代わりにもなれない。ネメアの代わりにもなれないわ。私は私よ、けれど……」少女はふわりと微笑んで続けた。「あなたを一人になんかしないわ。私は、あなたの理解者よ。あなたの答えに、あなたの道標に、私はなりたい。なってみせる。だから行きましょう……新たな地へ、一緒に」
オイフェと少女は翌日、バイアシオンから新たな地へと旅立った。もう以前のように二人が抱き合うことは二度とないだろう。それで良い。我々は仲間だ。そんなものはなくても、かけがえのない、仲間だ。新たな地で何を見つけるだろう、二人でどんな旅路を辿るだろう。胸の中を今までにない、清々しい風が吹き抜けてゆく。それは本当の新たな旅立ちだった。
-終-
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