日が沈みかける頃、あたしはそこを訪れた。粗末な木造の大きな机と椅子しかないがらんとしたこの部屋。机の上のルーマ・ティーの入れられたティーカップからいい匂いがする。ここは解放軍の本部。訪れたあたしを見ると、彼女は気高さを湛えて言った。「よくいらしてくれたわね、待っていましたわ」
あの日、あたしは数人の冒険者達に暴行を受け、輪姦された。リベルダムのギルドでナイトメアの雫を運ぶという依頼を受けたが為に。胡散臭い仕事だとは思っていた。その数日前も街中で小包を運ぶ仕事を引き受けたら暗殺者呼ばわりされてしまったじゃないか。あたしを利用するべく今目の前にいるこの娘――クリュセイス・クロイスとその伯父アンテノがツェラシェルを雇ってナイトメアの雫をあたしから奪ったのだろう。クリュセイスは自分の父親をあたしが毒殺したと信じているばかりに、闘技場の事故に見せかけてあたしを殺すのだけが目的で、冒険者どもにあたしが何をされようが知った事じゃなかったのかも知れない。あたしは気絶するまで殴られて、何人の男に犯されたのか。まだ生娘だったのに。孕まされなかったのだけが幸いだった。クリュセイスはそれを知っているのか知らないのか、あたしを泥棒扱いし、あなたの保釈金を出したのはわたくしだから、とあたしを捕らわれの身にした。
あの後、あたしは唯一、弟のチャカだけにはそのことを打ち明けて二人で泣いた。チャカの方があたしよりぎゃあぎゃあ泣いたくらいだ。姉ちゃんの仇を討ってやる――とあたしを罠にかけたアンティノ達の屋敷に突っ込んでいきそうな勢いだった。でもあたしはそれを止めた。チャカの手を血には染めたくない。汚れるのはあたしだけでいい。そう言ってチャカを止めさせた。それからあたしはクリュセイスの言いなりになり、泥棒の汚名も甘んじて受け、闘技場の試合にも大人しく出て、リベルダムの解放軍にも加わった。そうしてあたしはいつか復讐してやると誓ったのだ。この心と身体が引き裂かれた復讐を。元はと言えばアンティノがすべて悪いのかもしれない。クリュセイスも自分の伯父であるこの欲深いオッサンを信用していて、裏切られたのだ。そのアンティノはもうこの世の人間じゃない。自分が作り上げた最強の改造生物とやらであたしに戦いを挑んできたけれども、あんなのは『竜殺し』のあたしの敵じゃない。切り刻んでやった。闇の神器を手に入れるついでに。アンティノがあまりに呆気なく死んだので、あたしの燻る復讐心はどこへ行けばいいのか――そして行き着いたのがこの娘、クリュセイス。あたしはあの時からいつもこの気高い娘ばかりを見ていた。惹かれるように。
クリュセイスにロセン潜入を命じられたときに、解放軍を裏切ってカルラ側に味方しても良かった。そうすればクリュセイスはリベルダムが陥ちたと同時に解放軍リーダーとしてディンガルに処刑されただろう。でもあたしはそうしたくなかった。カルラはいずれロストールにも攻め込むつもりだっただろうし、ロストールには義兄のレムオン様もゼネテスもいる。ノーブル伯でありながらディンガル側について、好きな人たちと戦うなんてまっぴらだ。それに、クリュセイスがディンガル兵に、カルラに処刑されてもあたしの復讐心はきっと治まらない。あたしはあたしの手でこの娘、クリュセイスを穢したいのだ――あたしがそうされたように。あたしはそうして期が熟するのを待っていた。
「本当にあなたには良くしていただいて……」目の前のクリュセイスは話し続けている。「でも、ロセンにもリベルダムにも難民は溢れていて、資金不足です」あたしはルーマ・ティーを啜りながら、彼女の話は上の空だった。あたしは確かにこの娘を憎いと思っている。けれども目にするのも嫌だというわけではない。実を言うと、彼女に会えるのは愉しみだ。あたしは正直、彼女の容姿に魅せられている。彼女は気高くて美しい。深窓の令嬢、解放軍のリーダーとは言え箱入りのお嬢様だ。気高く美しい女性ならばティアナ王女にも何回かお目にかかっているが、ティアナ様は一国の王女様。身分違いで手が届かず、恐れ多い。クリュセイスは手の届く距離にいて、美しい。きめの細かい白い肌、すっと通った鼻筋、大きな目とそれを彩る長い睫毛。前髪を切りそろえ、長く肩まで延ばした栗色の髪形はお人形のようだ。彼女は伯父のアンティノに自分が裏切られていたと知った時、彼女はあたしの胸で泣いた。あの時のぞくぞくした感じを忘れることが出来ない。なんだろう、あの征服感、達成感のようなものは。もちろんクリュセイスの悲しみが分からない訳でもなかった。彼女は父親も伯父もなくし、天涯孤独になったのだから。でもそれがなんだと言うの?あたしだってチャカと二人きりじゃないか。親とは早くから死に別れ、故郷のノーブルの畑を守りたくてそれが仇になって村を追い出され――貴族の義妹とは名ばかりの、しがない冒険者になってその結果見も知らぬ男どもに輪姦される羽目になったのだから。この娘とその伯父のせいで。
それはそうと、解放軍は相変わらず資金不足なのかとやっと彼女の話を聞いて分かった。「あなたには以前、大金一万ギアを寄付して頂きましたが、あれでは、まだ……」あたしはあぁお嬢様だな、と思う。冒険者を何年かやってれば分かるけれど、一万ギアなんて一件の人命救助依頼で稼げる金なんだよ。あんたも指揮ばかりとっていないで、働いてみればいいんだよ。それこそ冒険者でも何でもやってみて――ふっと可笑しくなる。こんな箱入りお嬢様に出来る仕事などあるものか。冒険者?無理無理、小間使いも勤まらないよ。そう、せいぜい娼婦くらいがお似合いだよ――
娼婦、その言葉を思いついてあたしはぞくぞくした。何気ないふうに言ってみる。「クリュセイス、あたしね、まだお金なら寄付できるよ」クリュセイスは目を真ん丸にしてあたしを見つめた。「そうだね、あと五万ギアくらいならすぐに用意できるよ」「でも……!」クリュセイスはおろおろと、その赤い唇に手を当てて言った。「先日もお金を寄付していただいたばかりなのに、そんなに甘えるわけにはいきませんわ」「大丈夫大丈夫、他ならぬクリュセイスの為だもの」「わ、わたくし……」クリュセイス、目が潤んでいる。あたしを信頼しきっているのか。まぁここまで彼女の気持ちを傾けるのに随分費やした訳だけれど。「わたくし……昔はあなたを間違って酷い目に遭わせてしまったというのに……」そう、その通りよ。良く分かっているじゃないの。「そんなに甘えてしまっては申し訳ない……何か、わたくしもあなたの助けになることができませんでしょうか……」掛かった、あたしはそう思った。
「クリュセイス、お金の代わりにあたしの役に立ちたい?」「はい、出来ることでしたら」「じゃあさ……一晩あたしのものになってくれない?」その言葉を聞いて彼女は固まった。ぽかんとあたしの顔を見ている。意味が分からなかったのか、思いもしない言葉だったのか。「一度でいい、あたしを慰めて欲しいの。あたしは寂しいの」「慰めるって……ど、どのように……」「難しいことはないよ、こう……」あたしはクリュセイスの唇に口付けを落した。怖がらせないように、あくまでも、優しく、ついばむように。初めてのキスだったのか、クリュセイスは目を白黒させている。「な、何をなさるの!このわたくしに……!」「クリュセイス、あたしが嫌い?」すかさず聞く。実のところ、答えは分かっている。クリュセイスのあたしを見つめる目が、時々熱を浮かされたようなものになることをあたしは見抜いている。あの日、クリュセイスがあたしの胸の中で泣いた日から。でもクリュセイスはとっさに威厳を保って言い返してきた。「好きとか嫌いとか、そういう問題ではありませんわ。わたくし、そんなはしたない事は……!」「あたしを慰めてくれないの?あたしはただ寂しい、クリュセイスが欲しいだけ。だめ?」「それは……できません」「あーあ、寂しいなぁ」あたしはむくれたような声を出してみた。「せっかく解放軍のために、いや、クリュセイスのためにがんばっているのになぁ」「……ですが、それとは」「クリュセイス、前と変わってないじゃない」この台詞に彼女はびくりと反応する。追い討ちをかけるように言う。「クリュセイス、最近可愛くなってきたと思っていたのにな」「……」「あたしのこと、やっぱり解放軍の一員としか思っていないんだ」「そんな事はありません!」クリュセイスは大声を出した。顔色が悪いよ。「解放軍のことは第一です。でも、あなたはそれにも増して大切な……」「じゃ、どうして言うこと聞いてくれないの?解放軍のためならあたしを傷付けてもいいんだ、前みたいに」「そんな……!」何度も何度も言葉で責め付けると、次第にクリュセイスの目から光が失われてきた。あたしを失うのが怖くなってきたのだろう。「ねぇ、言うこと聞いてくれる?」「……はい、それでは一度だけなら」五万ギアという金額がかかっているからなのか、あたしを失いたくないからなのか、彼女は遂に頷いてしまった。
あたしがクリュセイスの手を握ると、彼女は戸惑ったように言った。「こ、ここでですか?」「うん、待ちきれないの」本当はどこか落ち着ける宿にでも行きたかった。けれども彼女の気が変わったら元も子もない。こんな何もない部屋だけどあたしは計画を実行する。クリュセイスの身体を立ったまま抱きしめて、あたしは彼女の唇を貪る。柔らかい唇。いい匂いがする。いつも彼女は薔薇の香りのする香水をつけている。そのまま頬にも、耳にも何度も何度も口付ける。耳朶を噛むと、彼女は甘い吐息を漏らした。「クリュセイス、誰かとこんなことした事ある?」「い、いえ……」「そっか、あたしが初めてなんだね。良かった」強く抱きしめるとお互いの胸がぎゅうぎゅうに密着する。気持ちがいい。防具を外しておいてよかった。そっと髪に触れるふりをして、何気なく彼女の胸に触れてみる。びくっと彼女の身体は反応する。感じやすいのかもね、この娘。面白くなって、また何気なくちょっと掌を胸に当てて、手を離す。「あ、また触っちゃった、ごめんね」「い、いえ……その……」「もっと触って欲しい?」彼女は恥ずかしそうに俯く。へぇ、実は淫乱なんだ、この娘。あたしは片手では収まりきれないくらいの彼女の乳房を服の上から掴んで、揉んだ。強弱をつけて、優しくしたり、鷲掴みにしたり。「ふうっ……」クリュセイスの目がとろんとしている。この胸、じかに触ってみたらもっと気持ちいいだろう。そう思ってあたしは彼女のドレスの前のボタンを外した。下から真っ白な胸元が顔を出す。雪花石膏とはこの事か。「あっ、何をなさいますの……!」構わずにボタンをもっと外す。女同士だけど力では冒険者のあたしとは問題にならない。身を振りほどこうとする彼女をしっかり片手で抱きしめて逃がさない。レースのついた高級そうな下着が見える。それも後ろのホックを外して取り外してしまう。コルセットは――付けていない!ラッキーだ。ではこの細いウエストは自前か。ますます腹立たしくなるこの娘の身体。
前のボタンをほとんど外して、クリュセイスの乳房を露にさせた。思わず唾を飲んだ。綺麗だった。日が暮れて部屋の中は薄暗かったが彼女の乳房はその中で輝いて見える。「綺麗……」思わず口に出してしまった。クリュセイスはあたしの腕の中で羞恥心からか目を閉じてふるふると震えている。美味しい果実を貪るように、あたしは彼女の乳房に顔を埋めた。いくつもそこに口付けの痕を残す。彼女の身体はその度にびくびくと震える。「ああ、やめて……」「嫌なの?クリュセイス」意地悪くそう聞いてから、胸の先端を口に含んだ。吸ってみると面白いように反応が返ってくる。なんていやらしい声だろう。しっとりと掌に吸い付くようなその肌の感触を愉しみながらあたしは彼女の乳房をじかに弄んだ。面白いようにあたしの手の動きに添って形を変えるそれ。クリュセイスの身体が小刻みに震えている。
忌々しいほど裾の長いドレスを着ているこの娘。あたしは脚を閉じられないようにわざに彼女の脚の間に自分の脚を割り込ませてから、長い裾から苦労して手を突っ込んだ。彼女の暖かい股に触れてみる。あたしの手の感触が堪らないのか彼女の身体は腕の中で反り返る。色っぽい声ではぁはぁと喘ぐ。撫で回す、何度も。その度に彼女の唇から嬌声と溜息が漏れる。どんどん手を這わせていって彼女の下着に触れてみる。レースの感触。――濡れているね。感じているんだ、この娘。何も知らないような顔をして。彼女はさすがに恐れを感じたのか、脚を閉じようとする。でも脚は閉じられない。「いや、そこは……!」「ねぇクリュセイス、いい子にしててよ」あたしは耳元に息を吹きかけながら囁く。左手は彼女の身体を支えているので使えない、だから唇で彼女の唇を塞ぐ。何度も唇に、頬に、そして乳房に口付けを落す。優しく、優しく。そうやって紛らわせながら、あたしの指は下着越しに彼女の一番敏感な部分に触れる。彼女はびくりと身体を震わせる。あたしは自分の経験で知っている。これは下着越しの方が刺激が強い。あたしは彼女の乳房に口付けし、先端を軽く甘噛みする。「はぁっ……!」途端に彼女の身体がのけ反る。そうして濡れている下着の上から二回、三回とそこを激しく擦り、触覚で分かるくらい膨れているそこを押し込み、抓った。「あああっ……!」耐性がなかったのか、クリュセイスは身体をがくがく震わせて呆気なく達してしまったようだ。左手にクリュセイスの体重が急激にかかる。あたしの右手の指はクリュセイスの愛液で濡れた。
クリュセイスの呆けた顔を間近に見るとあたしの口元には笑みが浮かんだ。クリュセイスはあたしの腕の中でぐったりとなっている。全身から力が抜けて、あたしの支えなしでは立っていられないだろう。あたしもさすがに彼女の身体を支え続けるのには疲れてきたので、部屋を見回す。床は――砂と泥だらけだ。さすがに床に彼女を置くのは気が引ける。仕方がないので唯一この部屋に置かれた大きな机の上に彼女を横たえる。日はすっかり暮れてしまった。もう灯なしではほとんど何も見えない。彼女を机の上に横たえさせてから、あたしはランプの灯を付けた。クリュセイスの栗色の髪が机の上に広がっている。扇みたいだ。軽く失神してしまったのだろうか。脚も広げたままで動かない。少し踵の高い靴が見える。あたしは彼女の長いスカートの裾をばさりとたくし上げる。その下のレースのごてごて付いたペチコートも邪魔なのでたくし上げる。信じられない程白い太股が露になる。露になった乳房も太股もランプの炎にゆらゆらと揺らめき、眩暈がするほど扇情的だ。あたしは男になりたいと思ったことはない。けれどこの時あたしはペニスが欲しいと思った。机の上に無抵抗で横たわるこの娘の顔や身体中に汚らしい精液をぶちまけてやったらどんなに気持ちがいいだろう。真っ白な太股の間のそこをペニスで貫いてやったらこの娘はどんな声で鳴くだろう。その声をどんなに聞きたいだろう。
服を脱ぐつもりは毛頭なかったが、これ以上は下着を汚したくなかったので下着だけは脱ぎ捨てる。宿に行かなくて正解だったかも知れない。いつもは会議に使うこの机の上にあられもない姿のクリュセイスが生贄のように横たわっているなんて。なんて素晴らしい淫猥な光景なんだろう。あたしはクリュセイスの身体の上にのし掛かり、下着を引きずり下ろしてから、彼女の股を自分の脚の間に挟んだ。机の上に二人分の体重が乗ったが、この机は何とか持ちこたえてくれた。「クリュセイス……」耳元で囁くと、彼女は目を開けた。とろんとした潤んだ目で見つめ返してくる。長い睫毛。そして少し慌てたような表情を見せた。たぶん、脚にスカートの感触がしないからだろう。「スカート、汚すといけないからね」あたしはわざとらしくそう言ってから彼女の目じりに口付けして、微笑みかける。クリュセイスの目が歓喜で潤む。――いい顔してるよ。あたしに押し倒されてさ、分かってんの?いよいよだ。あたしは指を彼女の茂みに差し入れる。さわさわとした感触を愉しみ、撫で回す。彼女の花弁に這わす。もうそこは愛液でぐっしょり濡れている。襞の中に指を入れると、後から後から濡れてくるのが分かる。「ああっ、そんなところ……」「動いちゃだめ……動くと机から落ちちゃうよ」クリュセイスはあたしの身体を跳ね除けようとするが、あたしの方が力が強い。構わずに左手で、全身で、彼女の身体を机の上に固定する。「クリュセイス、大丈夫、ね?」そう言いながらあたしは指の動きを激しくした。二対の花弁の中に指を這わせ、その上の肉芽を弄ってみたり、散々弄ぶ。その度に彼女の唇から激しい吐息が漏れる。「クリュセイス、聞こえる?この音」わざと卑猥な水音が聞こえるように弄ぶ。くちゅくちゅ――とそこから水音がする。「あぁ、やめて……言わないで」「クリュセイスはいやらしいね」一言一言区切って、苛めるように耳元で囁く。クリュセイスはいやいやするように首を振る。あたしはわざと彼女の愛液で濡れた指で彼女の髪を撫でた。綺麗な髪の毛が粘つく液体で汚される。
もはや白痴みたいな顔して、口を開けたまま蕩けきっているクリュセイス。半開きの唇がなんて美味しそうなんだろう。あたしは彼女の唇にもう一度口付けた。今度は簡単に離さない。唇を噛む、軽く――そしてだんだん強く、血が出そうなくらいに。クリュセイスは苦しそうに呻く。その声を聞いてからあたしは噛むのをやめて、舌で彼女の唇を舐める。たっぷりと唾液を付けて、べたべたと舐める。ぺちゃぺちゃと音を立てて。そうしてこのまま食べる、食い尽くす。クリュセイスの唇も心も身体も。首筋にも胸元にも、ドレスを着ても見えるところにも数えきれないくらい口付けの赤い烙印を付ける。右手の指はまだ彼女の花弁を弄り続けたまま。もう愛液でどうしようもなく濡れたそこは、あたしの指くらい簡単に受け入れる。あたしは彼女の泉にずぶずぶと指を挿し入れた。人差指、中指。そして親指で泉の上の震える肉芽を擦った。クリュセイスは知らず知らず腰を動かしている、すごく淫らないやらしい動き。机が傾いでぎいぎいと軋んでいる。彼女の中は熱く、狭い。中に突き刺した指を動かした。水音を立て、掻き回すように、何度も、何度も。「はぁ、あぁ、あぁ……!」クリュセイスの悲鳴にも似た嬌声が響く。彼女の腕はあたしの首に回されている。もうすべてをあたしに委ねている。その蕩けた頼りない瞳であたしを見ながら。あたしは耳元で何度も彼女の名前を囁きながら指でクリュセイスの肉壁を強く抉った。「いやぁ……ぁぁっ!」クリュセイスは激しく身体をのけ反らせてから、がくりと首を垂れた。それを見ながらあたしは自分のぬめる秘部を強く強く彼女の太股に擦り付けた。ぐちょり、と音がした。クリュセイスの身体を征服した悦びを味わいながら、あたし自身も果てた。それは目の前に白い光が飛び散るほどの、今までに感じたことのないものすごい快感だった。身体ががくがく震え、思わずあたしは大きく喘ぎながら天を仰いだ。こんな愛し方を覚えてしまったら、あたしはもう二度と男と寝ることは出来ないかも知れない。そんな一抹の不安を覚えながら。
息が落ち着くと、あたしは彼女から身を離して、背を向けた。ポケットからハンカチを出して、汚れた脚の間を拭いて、捨てる。何事もなかったかのように脱ぎ捨てた下着を拾って履く。そして防具を付ける。しばらくはクリュセイスの存在をも忘れたかのように振り向きもしない。「あの……」その声を聞いてからようやく振り向いた。「あの、その、お金は……」クリュセイスはほとんど放心状態で立っていた。着衣もまだ乱れ、前のボタンも開いたままで。その時のクリュセイスの目。以前から湛えていた気高さは微塵もなく消え去り、媚びにどんよりと濁っている。まるで捨てられた子犬のように。この目だ、あたしの欲しかったものは。このプライドのかけらもない、卑屈で媚びに満ちた目。元はリベルダムの指折りの名家の娘とは思えない、売女のような目。あたしの胸に味わったことのない満足感が溢れる。笑いだしたくなるのを必死で堪えた。「ああお金ね?もちろん忘れてないよ、クリュセイスはいい子だったもんね」持ち歩いているポーチから札束を取り出す。エンシャントのギルドの宝箱で膨れ上がらせた金だ。それをあたしは彼女に手渡さず――床に投げた。そしてそれを踏みつける。「キスして」その言葉をクリュセイスはまだぼんやりと聞いている。信じられないのか。「キスして……さぁ」もう一度言うと、クリュセイスは跪いた。そしておずおずとあたしの爪先にキスした。思った通りだ。この娘はもう気高く振る舞うどころか、怒ることも出来ない。あたしは脚をどけた。彼女は札束を手にし、恐々とあたしの顔を上目遣いに見上げる。泣き出しそうなその顔にはもう威厳も何も残っていない。完全な服従だ。あたしは満足げにその顔を見ると、彼女に背を向けた。そして部屋から出ていこうとした。「あの……また来て下さいますか?」予想通りの言葉を聞いた。あたしの口元が笑みで歪む。わざと気の乗らなそうに返事する。「まぁ、また気が向いたら来るから」ドアを閉める時、最後に振り向くと、クリュセイスの目は涙でいっぱいだった。
あたしは征服し尽くした、クリュセイスの心を。そしてその身体に消えない烙印を押し、忘れられない感触を覚えさせた。もう彼女はあたしから逃げられない。彼女はあたしなしでは身体の疼きも心の溝も埋められないだろう。彼女はこの先もあたしに溺れ続けるしかないのだ。名家のプライドも威厳も何もかも捨てて。溺れさせてあげる――あたしに依存しきって、あたしに服従し尽くし、あたしなしでは生きていられなくなるまで。そのプライドも気品も何もかもなくなってしまうまで。解放軍の仕事にも手がつけられないくらいに。そして最後の時が来たら、溝泥の中に捨ててあげる。
二日後、あたしは何事もなかったかのように解放軍本部を訪れた。ドアを開けると、クリュセイスは待っていた。その顔には以前のようなプライドと気高さが戻っているように見えた。一瞬、あたしとクリュセイスの視線が戦うように絡まりあう。だがそれも一瞬のことだ。たちまち彼女の瞳がどんより曇る。彼女はあたしに飛びつき、首に腕を回して頬に口付けた。「あぁ……お待ち申し上げておりました」その姿は、夫に傅く従順な妻のようだった。
-終-
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