「きつく、きつく私を縛って下さい、もう離れたくありません、一時も………」背中に感じる女の体温と鼓動が、マグマの熱で一層熱を帯び、それが彼の愛情に勝る劣情に引火した。彼は振り返りざまに女の唇を奪うと、そのままゆったりと着流すローブを引き裂くように脱がせ、ねとりと絡みつく舌を引き離すと、蛞蝓(なめくじ)を這わすように女の細い顎から真っ白い首筋、鼓動の響く乳房を経て、臍を執拗に舐り、下腹部から止めどなく流れる蜜を自らの唾液と絡め、さらにその下の艶やかに湿る尻の穴を、残飯をあさる野良犬のように貪り尽くした。女は身悶え、脱がされたローブを掴み、腰を浮かせ、吐息を荒げる。前戯らしい前戯もままならず、女の陰部を自らの欲望の権化で貫いた。ただ腰をグラインドさせ、自らの劣情を果てさせるためだけの行いを続ける間も、彼は女の足の指の間を舐め、やわらかなでほのかに甘く薫る脇に舌噛み千切らんばかりに吸い付いた。「あっあああっ、あ、好きです!愛しております!お慕いしております!ああっどうか、もう、うあぁ・・・・離れないで下さい・・貴方の呪縛で・・・私を、フレアを!」彼は、「フレア」の女陰から果てるすんでの性器を抜くと、唇に目掛けて劣情の結晶を吐露した。「うぁぁ」とも「ふおぁ」とも取れる声にならない喘ぎをあげ、勢いよく白濁の劣情をフレアの口腔に発射すると溢れる汗と精液と唾液で溺れたフレアの唇に、またねとりと唇を重ね、そして先ほどと同じことを繰り返した。
救世の勇者。そう呼ばれた過去から、まださほど時間も経たぬころ、彼は、救世の勇者の名を捨て、人知れぬウルカーンの炎の座処で、火の巫女フレアと愛欲の渦に飲み込まれていた。
全ての厄災を払拭した彼の魂は、絶望に打ち拉がれる民の心を救い、厄災をもたらせようとした者共の魂を悲しみと虚無から解放し、世界に光と希望を照らせた。
しかし、全てを「有」に還した彼は、地位も名誉も捨て、忽然と姿を消した。共に闘いし仲間との思いでを投げうち、袂を分ち、剣を交え、そして和解できた幼馴染みとの約束を、命を賭して心の闇を打ち消した王女との約束を、導く運命の光のみを頼りに幾度救い出した地の巫女との約束を、全てを捨て、全てを裏切り。
今、フレアの上で腰を振り、犬の交尾然とした獣じみた声をあげる彼が、姿を消した救世の勇者である。理由など無かった。いや、有るとするならば、初めて出会った時にフレアが見せた、漆黒のガラス玉のような無垢な瞳にこの世に有る全ての美しいものを映してみたいという感情からだったのだろうが、最早理由など存在しないに均しかった。フレア自身の存在が有るならば、霊峰トール山頂からのぞむバイアシオンの緑と青の情景も、しぶきの群島の絶景から望む海原に煌々と輝く太陽の燈も、全てが無価値。最早、自分の存在しか映せない瞳でかまわないと彼は望み、フレアは更に強くそれを望んだ。5度目果てると、彼はぐったりと下に寝そべる精液と汗にまみれたフレアに寄りかかる。「・・・・温かいです。・・・・孤独は恐ろしいです。・・・・・死にたくは無いです。・・・・愛しております。・・・・貴方が居てくれれば、もう何もいりません。」一人ごとを呟くように、耳もとで自分の知る全ての愛の言葉でフレアが彼の愛に応えると、そのか細く消え入るような声を一層愛おしく思えた彼は、フレアの身体が拉ぐほど強くきつく抱き締めた。束縛の腕輪の力を一時でも浴びることが出来なければ、フレアは土くれに戻ってしまう。一時も彼女の傍を離れないことが彼の使命となり、抱き締める腕に暗色に輝く束縛の腕輪が朧に光を放っていた。
* * * * * * * * * * *
どれほど時は流れただろうか、炎の座処ウルカーン。
一対の雄と雌が、果て止むこと無き交尾を繰り返す。もはや交尾と呼ぶのすらおぞましいほどの快楽の海に溺れた雌雄の豚。豚と呼ぶよりは、扁形動物の絡まり合う沙汰のように、うねりながら愛しあう男女の姿。彼は、フレアの全ての蜜壷を愛おしめた。口を、性器を、肛門を。そして快楽に溺れた二人は互いの姿を映すだけの鏡となった瞳を覗きこみ、言葉なく唇と唇を重ねる。否、言葉なくでは無い、言葉を交わすことも出来ぬほど脳は後退し、快楽を求める以外の思考を失っていたのだから、闇の神器、束縛の腕輪の放つ力により。体温で溶けた泥と互いの汚物にまみれ、重ねた唇を放つとべとりと糸を引き唇の端から滴る。
遠くで、軍靴の、かつん、かつーんという音が響く、「・・・・久しいな。無限のソウルよ」見覚えの有る姿、特徴的な尖った髪、傲慢な笑みを浮かべる男とそれに従う黒鎧の騎兵。
(あ、べるぜーば)
軍服の凛とした男は、過去に帝国の宰相であったベルゼーヴァと名乗る男。あまり彼とは親しい真柄では無い、闇の神器を争奪しあった敢えて言うならば敵、だろう。最後に彼に会ったのは廃虚と化したエンシャントの城門の前、革新がどうたらと宣い傷の手当てをしてくれた時だろう。座位で突き上げる腰を止めしばらくそのトンガリに見とれると、ベルゼーヴァは言葉を続けた。
「まずは有難う、無限のソウルよ。貴様は人類の革新に多大なる尽力を惜しまなかった、そして、古い神を屠りさった後、余の新たな障壁になると踏んでいたが」座位で体面に座るフレアの髪をむんずと掴むと、そのまま地面に叩き付ける。「淫蕩にふけて、見事余の障壁にならず忠義を尽くした」うずくまるフレアの頭を足げにし、彼に顔を近付けると、「ウッ」という声とともに顔をしりぞけ鼻を襟で覆う。「感謝している・・・・。全て余の思うがままに・・・・事を勧めることが出来たのだからな。」「ん?これを引き剥がされたことが不快か、すまんな。ほら、抱け」転がるフレアの頭をまた鷲掴み、彼に投げ渡す。フレアは目の下半分を充血した白目が多い、鼻水と涙と涎を垂らし、あの人形のように美しかった顔をぐちゃぐちゃにし「・・・あああぃしておいまず・・・・すぎでぅ・・・・こどぐぁおそぉい・・・・」と呟いていた。「無限のソウルよ、貴様が捨てた世界は、余の標により革新の路を進んでいる。」「バイアシオンは今一つとなった。無能な王は二人と要らぬ」「なに、心配することは無いディンガルの女王も、ロストールの女王も、余の子を孕み、革新の子種を宿して次代の礎を築く担い手となっているからな。」「最も、″貴様等″と同じに、今日生きることと快楽を得ることだけに従事する豚となり、互いに慰めあっているがな。」ベルゼーヴァは続けた、聞いているか、聞いていないか等関係が無い。ただ自らの手駒となり、古き神を葬った者に対して、人類の革新に貢献したものに対しての褒美としての談であった。「次に、闇の神器の破壊、余の革新に枷となるものを排除した。獅子帝と名乗る半端者はな、今際の際まで貴様の存在を信じて闘ってくれたぞ。エルフの長もそうだ、皆塵芥に還ったがな。」「そして、竜も神も巫女も、全ての余の枷を今屠り、革新の最上段を登ろうとする最中だ」「笑えるぞ、皆必ず貴様の名を呼んでいた」話を聞かず、いや、聞こえない彼がフレアと絡み合う中、狂王ベルゼーヴァの独白は続いた。「風の巫女はな、余が戯れで狂わせた翔王に食われて死んだ。直ぐに翔王も巫女のもとに送ったがな」「水の巫女は自らの命と引き換えに街を守りたいと懇願した。敢えて余は捕らえた巫女の眼に崩れ去る都を見せつけてみたがな。巫女は狂わんばかりに呪いの言葉を吐き、舌を噛み切って死のうとしたがなかなか死ねんもんだな、面白いので余は是を飼うことにした。絶望を与え続けるとどうなるか実に興味深い」「地の巫女は、民共々しなびたラドラスとともに余を道連れに地の底に埋まろうとしたが、そんなものに気付かぬ余ではない、そもそも、あんな古びた玩具など地に埋まろうとかまわん。埋まるラドラスの底で、砂に溺れがら地の巫女は貴様の名を叫び続けていたぞ、タスケテ、タスケテ、とな」果て、フレアを抱き締める彼にベルゼーヴァは言い放った。「そして、残るはウルカーンと、束縛の腕輪」
スチャン、とダブルブレードを抜くと、抱き締め合うフレアと彼の首筋に大鋏のように突き立てた。気付かない。今、命が奪われる際となった二人は、命を失うことに気付くことは無い。唇を重ね、唾液と舌苔の混じり合う口を重ね引き剥がし、フレアは彼の瞳を耳を舐めまわし、彼はフレアの首筋を、鼻の穴を舐り続ける。「あ・・・・・しゅきでぅ・・・あぃしでおぃおいあず・・・・」聞こえない。死の音も。全て。
ベルゼーヴァは鼻でふん、と笑うと、ダブルブレードをまた腰に戻した。「行くぞ」二人をおいて、黒鎧の騎兵と共に、マグマの回廊へと進んだ。
「よろしいのですか。″シャローム″閣下」「ん、ああ、かまわん。あの神器のみではもう事を無さない。そしてそもそも在の土くれは炎の巫女でも何でも無い。古い神を屠るだけで足りる。」
「蛆虫のつがいを残したところで、何にもならん。そのまま朽ち果てるのみだ」
ふと、ベルゼーヴァ、基い、シャロームは思い出した。そう言えば、息子に蛆虫呼ばわりされたな。と。遠くで聞こえる女と男の喘ぎ声を聞きながら、ふふん、と笑う、また靴をならしマグマの回廊を進んだ。
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