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灯りのない部屋に、白い娘のうなじが浮き上がる。肩の横に流した長い髪とのコントラストが、いっそうその白さを引き立てて、普段は儚げな肌の色が、今は男を誘う誘蛾灯のように艶めかしく思える。
「アトレイア・・・・・・」
おぼつかぬ仕種で乱れた襟の縁を指でたどる。僅かな震えが指先から伝わって、男の心に熱の影を落とす。一度も陽の光にさらされたことがないような白さに目を奪われながらもなぜだか胸が痛くなる。暗い部屋。光のあたらぬ場所。白い肌のままの彼女。
「──? どうか、なさいましたか?」「い、いやその。こ、これはどうやってとめたらいいのかと」「ああ。それはこう、上の方にボタンが──」
振り返ることもなく服の構造を答えてくる姫に言葉を返しながら、男は突き上げてくる衝動を宥めることに労力を割かねばならなかった。乱れた襟からのぞく背中の曲線がちりちりと熱を煽るようで。その肌の白さに胸の痛みを覚えるのは事実で、けれど同じほどに欲望が高揚していくのもまた事実。誰も、陽の光さえも見たことがない姫の肌を目の当たりにしているという思いがどうにもならない下心を炙る。
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