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今日も朝から暗い部屋の中、アトレイア王女は一人ベッドの上で、彼女が来るのを待っていました。
今日の午後に来ます、と彼女は言い残して行きました。だからといってそれまでにやることもなく、目を覚ましたときから彼女がくるのを待っていたのです。
王女は、一人の冒険者の慈愛と冒険の賜物で見えるようになった目を半ばうつろにさせ、薄暗い壁や天井の隅を見つめ続けていました。
この目が覚めなければと思う日もたびたびあったほどです。そう、少し前までは。

アトレイアの目に光が戻ってからしばらくして、彼女が度々アトレイアの部屋を訪問するようになりました。
彼女が来るようになってから、アトレイアは日付の見方というものを教わり、初めて暦を数えることを覚えたのです。
暦によれば今は冬。彼女は早く春が来たら嬉しいと笑っていましたが、王女は春というものがなんなのか知りません。
今日は彼女が王女に春を教えてくれるといっていた日です。
彼女はうつぶせになって、枕に顔をうずめました。しかし泣いているのではありません。
ただ横になったまま、静けさに耳をかたむけていたのです。
もう眠ることはできません。時間の遅い歩みに心をかきむしられたようになり、目が覚めたきりです。
どのくらい時間がたったでしょうか。
誰にも縛りつけることはできないであろう、あの風のような、いや、
風をも思いのままにする鴎のような女騎士は、この部屋に舞い降りることを忘れてしまったのでしょうか。
と、ふいに誰かが小走りにやってくる音が聞こえて、アトレイアはびくっと頭を上げました。
キィ、と耳障りな声を発して、音の主が走り去りました。ネズミでしょうか。
上体をそろそろと半分起こして耳を澄まします。人の気配はしません。
王女は倒れこむようにふたたび枕に顔をうずめました。
ひとりぼっちで寝ていて、様々なことをわすれまいとすると、体中痛くなり、大きな声で泣きたくなる衝動にかられます。
私が最近、気分がよくなってきているのは、私の闇を忘れさせてくれる人が現れたから……。
そんな思いが浮かび、また沈みしながらアトレイアが何度目かのまどろみを始めたとき、ふたたび誰かが廊下を走る音がしましたが、
半分眠りの渕に立っていたアトレイアには聞こえませんでした。


「アトレイア様!お待たせいたしました!」
ジルがそばへよると、アトレイアは壁に反射するロウソクの光に気がついて、こちらを向き、
目をゆっくりと大きくあけて待ち焦がれていた来訪者をじっと見つめました。
彼女がドアの所に立っていました。彼女はそのまま部屋の中へ入ると、テーブルの上にロウソクを置きその横に数冊の大きいが薄い本をのせました。
急いできたのか、乱れた髪の毛。外の空気を吸って、いきいきとした表情。艶めかしいほど健康的な肢体に、部屋が霞みます。
その体から、ふんわりと外のにおいがするのを、アトレイアは感じました。
「来て下さって、嬉しいです。ジル様、今日もこの前のように、すぐにお帰りになってしまうのですか?
嬉しくて、今、目の前に立っていて下さることが、信じられないほどです。
今見ているのは、私のはかない幻ではないでしょうね…?」
「いいえ、今日は時間があるのです。仕事も入れていません。見てください。ほら、この服にさわってみます?」
アトレイアはゆっくりとベッドから立ち上がりました。
王女のどっしりしたしゅすの服は、足まで届いて、足のまわりにふわっと立っていました。彼女はゆっくりとジルの方へ歩みより、裾をそっとつかみました。


「ごわごわした布ですよね、冒険者の着る服なんです。幻ではないでしょう?
アトレイア様、また、お部屋を暗くしたままで…。せっかく絵本をもってきたのに、このままでは読みにくいではないですか。
せっかく目が見えるようになったのですから、文字を覚えていただければ楽しみが増えると思いますよ。
春の花や生きものが、この絵本にはいっぱいついています。
少しずつ、あせらず文字と、外の季節を覚えていけると思います。」
アトレイアはものめずらしげに首を小さく傾げました。
「まあ…。きれいな絵…。この小鳥はなんていう小鳥かしら?」
「その小鳥はヒバリですね。春になると、外に出てきて、きれいな声で歌いだすんですよ。」
ジルはそういって壁の方を向きました。
「アトレイア様、窓を開けましょう。そうすれば、小鳥のさえずりが聞こえてきますよ。」
太陽は、よろい戸の中まで、いくつもの細い線になって差し込んできていました。
その斜線をたどるようによろい戸を押して窓を開けると、いきおいでほこりを撒き散らした後、
いい香りのするさわやかな風がさっと流れ込んできました。
風が二人を包み込み、部屋に魔法がかかったかのようです。やさしいさえずりが聞こえてきます。


ジルは窓から手を出して、太陽にあててみました。それを見たアトレイアも、おずおずと真似て片手をかざしてみます。
「あったかい…。」
アトレイアは思わず大きく息を吸って、風の匂いを嗅いでみました。その様子を見たジルは、微笑んで言いました。
「アトレイア様、これが外の風ですよ。新鮮な空気です。深く吸ってみると、体がそれだけでいきいきしてくるんです。
このロストールの風に守られて、花や作物がぐんぐん育つんです。」
話に聞き入るあどけないアトレイアの瞳を見て、ジルは村にいた頃の気分になって楽しそうにしゃべりつづけました。
「今日は久しぶりにいいお天気ですよ。ちょっとの間、嵐がやんだんです。
それはですね、春が近づいてきたからなんです!毎年今頃はこうなるんです。
まだまだ先のことですけど、春は確実に近づいてきているんですよ!」
「そうなのですか…!?」
目の見えなくなる前から宮廷育ちのアトレイアは、本当は春のことなどなにも知りませんでしたが、
ジルの無邪気な様子を見て何かに心を動かされるように胸がどきどきしてきました。
「私の故郷では、春が近づくと、苗を育てるために一生けんめい土をならしたり、水のかんがいの準備をしたり、そりゃもう
大混乱で、それで、春になれば、チョウもひらひら、ハチもぶんぶん、ヒバリもぴいぴいばたばた。うたったりわめいたり大変なさわぎですよ。
アトレイアさまもそれをみれば花や小鳥と一緒に歌ったり踊ったり騒いだりしたくなっちゃうと思いますよ。
私の故郷では、春になれば花まつりもあって、アトレイアさまでしたら、きっと最後の儀式の時に使う、
巫女の花かんむりのあの白い花が一番お似合いに…。」
「そんなところまで私はいけるのでしょうか…?」
王女ははるか地平線の方の青色にかすんだ縁を、窓から潤んだ目でじっと眺めながら、つぶやくように言いました。
それは本当に珍しい、ロストールの家々や平地を見渡す広々とした見事な眺めであり、
神々しいほどの美しいたくさんの色に包まれていました。


「さあ…どうでしょうか。王女さまは今まで、御自分の足を使ったことがないのですものね。私のうちはここから、少し、遠くにあるのですよ。
でもきっと大丈夫です。行けると思います。アトレイア様は行きたいとお思いになられたのですか?もしそうだとすれば、私は嬉しいです。」
ジルの言葉にふっと我にかえったアトレイアは、午後の太陽のまぶしさと自分の発した言葉に、とまどったように目をしぱしぱさせました。
「……。行きたいと思ったのでしょうか、今、私…。」
「アトレイア様は、ほんのたまにでも、お部屋や宮殿からでることはないのですか?外へ出たいとお考えになることはないのですか?」
ほとんどしめきりの部屋に、自分まで閉じ込めてすわりきりでいる王女に、ジルは思いきって聞いてみました。
アトレイアは、まだ片手でジルの上着の端をおさえていましたが、それをひっぱり、苦しそうな声で言いました。
「……。よくわかりません。他のところへどうやっていけばいいのかわからないし、行っても何をすればよいのかわかりません。
だからこの部屋にいるのです。外へ出たら、くたびれてしまうので。」
「ずっとここにいては、発見も経験も少ないでしょうし、さぞや退屈ではないのでしょうか?」
「しかたがありません。なんのために私がここにおいておかれていることになっているのか、
私は存じません。おそらく最も簡単だからでしょうか」
アトレイアは、無表情のまま、他人事のように答え、またいつもの遠くをみているようなまなざしになりました。


「エリス様は、人に私の話をさせたがりません。
召使いの方達は、私のことを話してはいけないことになっているようです。
それで、ときおり、私のことを口に出すときは、……………私のことを――。」
アトレイアは、階下の下働きの部屋にうつろな視線を送るように、床の向こうを眺めました。
その無表情のヴェールをかけた目の奥の苦痛を、ジルは痛いほど理解していましたので、
自分の服をつかんでいる彼女の手にそっと自分の両手を添えました。
「……話の中では――。私のことを、こういうのです―――「闇の王女」と。」
かわききって喜びも悲しみも感じられない瞳には、ひとしずくの涙さえありません。
「アトレイア様……。」
「私は生きていれば、病気になるかもしれません。しかしこの闇の中で、そう生きることもできないのかもしれません。
私は、むしろ生まれてこなかった方がよかったのです。」
「!アトレイア様っ……!それは違います……!!アトレイア様は優しすぎますから、こんな……!!」
ジルは思わず彼女の手を握り締め、そのまま騎士の礼をしてその手に口付けました。
なんと言ったらよいかわからず、そのように体が自然に動いたのです。


アトレイアは一瞬驚いた表情を浮かべ直立しましたが、またもとの空虚なまなざしになり、
王女自身にも聞こえるか聞こえないかの喜びとも悲しみともつかぬため息を一つつきました。
ジルは自分に力がこみあげてきたような、それでいて無力になったような、変な感覚に襲われました。
同時に、彼女を愛したい、騎士としてではなく一人の人間として彼女を愛したいという欲望にかられる自分に気がつき、そして今の自身の立場が脳裏に浮かび、
ジルはためらいました。
このアトレイアへの想いに嘘偽りはありません。
しかし、ジルはアトレイアと知り合う前から、ティアナ姫のおつきの騎士としてつとめを果たすよう王妃から厳重に言われていました。
そして、アトレイアと出会うまでは、その任務を申し分のないほど忠実に果たしていたのです。
女騎士のいなかったロストールにおいて、ティアナ様を身体的にも精神的にも支えるジルの存在はとても貴重で、突然ふってわいたリューガ家の人間という、
はたから見れば非常に胡散臭い存在であるにもかかわらず、ジルは特にエリス王妃には非常に気に入られていました。


一方アトレイアについては、今までジルは、ティアナの他に王位継承権を持つ王女の存在すら公には聞いたことがありませんでした。
初めて隠し部屋でアトレイアを見つけたときも、シャリに教えられるまで彼女が何物か知らず、そのくらがりの怪しさと彼女の美しさになにかのまやかしではないかと思わず剣をぬいたほどです。
この、ほこりの積もるほど放りおかれたアトレイアの部屋自体が、ロストール宮廷のアトレイア王女への考えを如実に表しています。
ロストールの貴族達が王女の存在を隠したがっているのは周知の事実でした。
ジルはアトレイアを知っている事を自ら厳重な秘密にしていました。
ティアナ付きの騎士がアトレイアの部屋に通っていることが知られれば、周りは彼女が密かにアトレイア王女に肩入れしていると見るでしょう。
ロストールの至宝、ティアナ姫は絶大な人気を誇る美しい王女です。
ティアナ様は何とも思わなくとも、ジルの行いを周囲が黙ってはおかないだろうことは、深く考えなくともジルにはわかっていました。
ロストール宮廷にはどんな人物が集まっているのか、まだジル自体も把握しかねていましたが、今までの散々な体験から貴族というものに閉口していたジルにとってはろくな集団には思えませんでした。


もし、アトレイアの目が見えている事や、かつジルとの事が知れたら、ティアナ様の周りの人達はティアナの地位を危ぶみアトレイア王女を完全につぶそうとするかもしれません。
エリス王妃をよく思わない人達が―義兄上はティアナ様につくだろうが―これを機にアトレイアを利用してティアナを攻撃し、あげく王権を奪おうと動き出す可能性もあります。
王女と、それに対する勢力の騎士。
ジルの抱えるそれは禁じられた想いでした。
ジルも、ロストールに来た当時心から忠誠を誓ったティアナ様自身には、悪い感情をもっているわけではありませんでした。それどころかお互い熱く慕いあい、ロストール王宮では唯一気兼ねなくつきあえる女友達でもあったのです。
およそ王女らしさをみせない屈託のない笑顔でたわいのない話に花を咲かせ、別れ際にはいつも自分の旅の成功を祈って愛の女神に祈る光の天使。
しかし、アトレイアと出会ってから、ジルの中で何かが変わってしまいました。


「もっと、窓をいっぱい開けてみましょうか。そうすれば、この部屋も明るくなってきっと何かが変わりますよ。」
ジルは、ほこりの落ちるままにもうひとつの小さな天窓も開け、
他に窓はなかったか薄闇の部屋の中を目を凝らしてぐるりと見渡しました。
すると古めかしい模様のついた炉棚の、その上の壁に、ひものついたバラ色の柔らかそうな絹のカーテンがかかっているのに気がつきました。
そのカーテンの端をジルは無造作に引っ張りました。しかし、その中は窓ガラスではありませんでした。それどころか、一人の若い女性の微笑んだ目と出会ったので、ジルは仰天しました。
彼女は光って柔らかそうに波打つ髪の毛を桃色のリボンで結いあげ、楽しそうな澄んだ目をジルに向けています。よく見るとその目は、アトレイアの寂しげな目とそっくりでした。
その絵を見たアトレイアの目は、さきほどの外の感動とは別の色を映してみるみる大きくなりました。


「ああ…お母さま!」
アトレイアはしばらく身動きもすることができずに、絵と向かいあっていました。
「お母さまが生きていらしたら、私もっとちがう暮らしがあったと思います。」
ジルは何と答えたらよいかわかりませんでした。
「お母さまはあなたとよく似ていますね、特に目の色と形がおんなじです。」
アトレイアは体の芯が痛むように、母親の方へ体を前のめりに動かしました。
そして、体の奥から搾り出すような声を出しました。
「アア…。お母様…。どうして…。」
彼女はしばらく絵を凝視したまま立ちすくんでしまいましたので、
ジルはまるで彼女とその周りだけ時間が止まってしまったかのように感じられました。
突然、アトレイアは視線を絵から外し、体をかがめ、ひきつけを起こしたように体を激しく震わせました。
ぎょっとしてジルが思わずその背に腕をまわして彼女を支えようとすると、
彼女は自分の頭を抱えている手から、こわばったその指を動かし、
バラの彫刻を施した額に囲まれている母親を指差しました。


「私のことをじっと見ていらっしゃる…。ひとりぼっちの私を見てお母様は笑っていらっしゃる…。
私がかわいそうなときでも、こんなに、にこにこ笑って…。」
「いいえ。アトレイア様、あのお母様は貴女と一緒にいて、
さびしくない時の貴女を見て笑っていらっしゃるのです。」
それ以上なんと言えばいいのかわからず、
ジルはくちびるをきゅっとかんで灰色の壁に目をやりました。
もしもあの忌まわしい事件が起こらずに、この美しいお母様が生きていたら、
アトレイア様の心の支えになっていていろいろなことを楽しくしてあげたことでしょうし、
アトレイア様もお母様と一緒になって、ティアナ様のようなレースやフリルがたくさんの服を着ていたに違いありません。
この部屋のドアも出る人や入ってくる人に何度も開け閉めされ、彼女もパーティーにでかけたり殿方と踊ったりしたことでしょう。
けれどもその方は、もうここにはいないのです。
孤独と悲惨の中へ一人の少女をおきざりにして、ロストールの政争の一つは闇の中に消え去りました。


アトレイアはジルの腕に包み込まれて、自分の両手で頭を押さえ込むようにして背をまるめ、うずくまっていました。
ジルは彼女の長い髪にそっと頬をよせました。アトレイアはうわごとのように何かを繰り返しつぶやき続けていました。
「ああ、お母様、どうして私をおいていってしまったの…。」
「お母様、私、お母様を助けたい、私を助けて、お母様……。」
アトレイアはなおも闇に語りかけます。
「おきざりに…。」
「お体が冷たい…どうして、……。」
「待って、お母様……!」
幼い頃のことを思い出しているのでしょうか。
その無垢な幼女の頃から、今にいたるまでどんな思いが彼女を駆け抜けたのでしょう。
その長い期間の気持ちを知るのは、ただ闇のみなのです。
「エリス様………?」
「彼女……ティアナ…様が………。」
「光……ずっと闇……また闇…光は……。」
「ああ…」
「お母様……アア……ア……。」
「アトレイア様……?」
異変に気がついた時には遅すぎました。
はっとしてジルが自分の腕をアトレイアから放すと、
彼女の体から、黒い霧のようなものがおぞましい気配をみせて湧き出していました。


「アトレイア様!アトレイア様!?」
ジルはもう何も考えられずただ無我夢中で、
叩きつけるような勢いでアトレイアにまとわりつく黒い霧を払い落とそうとしました。
が、それにかまわず払い落とそうとしても払い落とそうとしても、黒い霧はアトレイアの体から湧き出てきます。
それを見た瞬間、ジルは過去にギルドの仕事で同じような黒い霧に出会ったのを思い出しました。
「アトレイア様!御自分に負けては駄目です!!!」
ジルはアトレイアの両肩を荒々しいほどしっかりとつかみ、
無理矢理彼女の顔を上げさせて生気を失いつつある目をはしと見つめました。
「心をしっかりお持ち下さい!
あなたのお母様は貴女を捨て置こうとしたわけではないのです!それに……」
部屋のロウソクが、ふっと何かに揺れるように消えました。
その瞬間激しい気配を感じて、ジルは彼女から体を離し腰の短剣をつかみました。


「……!」
単なる邪気とも違う、しかしジルにとって激しい違和感を感じるこの空気の持ち主。
この見えない相手に向かって、王女を護らんとする女騎士は、
ロストールの兵士相手に使う時の厳しい声を部屋全体にはりあげました。
「シャリ!!またお前か!!!どうしてこのようなことをする!」
顔も感情も見えないままに、返事が返ってきました。ジルの頭に声が響きます。
「ふうん、君こそどうして僕の邪魔をするんだい。僕のやりたいことは
前にもいったはずだろう?」
「アトレイア様に手を出すな!!一体彼女が何をしたというのだ!?」
ジルの問いかけに、無邪気なほど感情の見えない答えが返ってきます。
「何も。でも、そのままで、闇の王女は僕たちに必要とされているのさ。
この王宮よりもね。」
ジルは床と天井の間の空虚に向かってのどもつぶれる勢いで叫びました。
「やめろ!やめろやめろやめろぉっっっ!!」
その絶叫も空しく部屋の中に吸い込まれます。
「王女を、アトレイア王女をそのように言うな!」
激しい怒りと悲しみに気持ちが高ぶり、冷たい汗が健康的に焼けた首筋を流れました。
「これ以上アトレイア様を闇に染めるのはやめてくれ…!
アトレイア様はこのまま闇に置かれるべき方ではない!!」
「ふうん。で、君はどうしたいの?せっかくの闇の王女を、闇から解放しようっての?
それで、どうしようっての。その闇はどこに行ったらいいんだい?
それとも王女の闇を倒す気かい?闇を殺すつもり?」
からかうようにシャリは続けます。
「ふふっ。王女の闇は王女自身のものさ。彼女から生まれ、彼女の中で生き続ける。
闇の王女から闇をなくしたら、終わりだよ?」
「そうではない!アトレイア様は、闇を遠ざけたり殺したりはしない!
アトレイア様は自分の闇を自分の生きる力に変えられるお方だ!
お前に利用されなどしない!」


ジルが叫んだその瞬間、部屋の中のものがとたんに静まり返ったような気がしました。
壁の絵にかかっているカーテンのみが妖しく揺らぎ、闇の中に人の輪郭が浮き上がりました。
その人影は、かげろうのように揺らぎながらしだいに異国の服を身にまとった子供の姿へと変化していきます。
ジルは、きつく唇をかみしめ、短剣を握り締めました。
「シャリ……!!」
「待ってよ、無限のソウルと戦う気はないよ。」
あいかわらず遊戯を続ける幼児のような調子でシャリは話しかけます。
「かわりに、王女の心の闇と遊んであげなよ。王女が気のすむまでね。
でも、さっきいったように、王女の闇は王女自身だからね、闇が傷つけば彼女も傷つく。
ま、せいぜいがんばりなよ。」
シャリが最後の言葉を言い放った途端、周囲に黒い霧が一気にたちこめ、
ジルがその中で目をこらそうとしたときには、部屋にジルと闇に苦しむ王女二人きりを残して、
彼の姿はかき消えていました。


「ウウッ………!!」
アトレイアの「闇」はまだ消えずに彼女の周りで激しい邪気を出しつつ湧き続けていました。
ジルはその闇を引き剥がそうと、腕を伸ばしました。
「!!!……アアーーー…っ!!!」
激痛が、のどをひきさく叫びと共にジルの全身を貫きました。
とびのいて腕を見ると、闇に触れた部分が焼けただれたように
赤黒く変色しています。痛みが脈打つように脳天までつきささります。
「アトレイア様……。」
「ジル様……アア……ア………。」
闇の王女はうめきながら床に両手をつき、闇とともに苦しみに身を置いていました。
ジルは自分の腕にかまわず彼女に呼びかけました。
「アトレイア様!大丈夫です!!アトレイア様は…。」
「アア…ジル……サマ……。」
アトレイアは、自分の闇をまとったまま、ジルの方に這いずるように身を動かしました。
「アトレイア様?」


「……サ………ジ…ルサマ…」
「私を呼んでいらっしゃるのですね?私はここです。どこにも行きませんからね。」
ジルは王女の心になんとかして語りかけようとしました。
「流れの冒険者からきたような女騎士ですが、アトレイア様に絶対の忠誠を誓います。
貴女を何があっても、何がきても、お護りします!」
「ジル……サ…ドウ……テ……ワタシニ……」
たくさんの針でたえず刺し抜かれるような腕の痛みに耐えつつ、ジルは、王女が自分に必死で何かを訴えようとしているのに気がつきました。

 

「ドウ…シ…テ……ワタシニ……ヒカリ……ヤミ……ワカ……ナイ………。」
「………アトレイア様。」
苦しげなアトレイアを前に、ジルは押さえられない熱い気持ちが一気に噴き出してくるのを感じました。
今、彼女が自分の名を呼び、助けを求めている。
しかも彼女にその苦難のもととなった光を与え、闇を教えたのは自分なのです。
王女が光と闇を受け入れるため、この自分を知る苦痛を乗り越えて、
彼女自身を生きてもらうために、自分には大いなる責任がある。
ジルは、熱っぽく潤んだ瞳で王女をまじまじと見ました。
王女自身の苦しみを抱えて、たどたどしいほどの声ですがるアトレイア。
ジルは、初めてアトレイアに出会った時と同じ、熱い激しい想いにつきうごかされ、
突然彼女の闇ごと彼女をきつく抱きしめました。
とたん、部屋中にどす黒い音が響き、激しい痛みがジルの全身を貫きました。
しかし、ジルが感じていたのは自分の痛みよりも彼女の痛みでした。
強く抱きしめられて、びくりと大きくアトレイアは体を震わせました。さらにジルはアトレイアをしっかりと抱き寄せ、
王女の震える唇に優しく、しかしありったけの情熱を込めて口づけをしました。
「アトレイア様…。」


その瞬間、不思議なことにアトレイアの瞳にみるみる生気が戻ってくるのをジルは見ました。
「ああ…ジル様!ジル様!!ああ!ああ!!」
ジルの情熱的なキスは、アトレイアの疲弊した精神を、水をあびせかけたように目覚めさせました。われもしらずアトレイアは、息をのんでジルを仰ぎ見ました。
アトレイアは全身の力がぬけたようになり、両手をジルの方へいっぱいに差し出しました。それと同時に、
王女の周りを厚くとり囲んでいた闇の気配が、まやかしだったかのようにすっとかききえるように消えていくのをジルは感じました。
「う………ふぇ…ジル様……。」
今まで彼女の体を縛っていた闇が解け、体中の神経が一気にゆるんで、アトレイアの両の瞳から涙がとめどなくあふれてとまらなくなりました。
それは、闇の呪縛から自分自身を解き放つことのできた、安心の涙でした。
アトレイアはジルの胸の中で、全身を震わせて涙をふるいおとすように泣き続けました。ジルはその涙を一滴もこぼさせるまいとするように彼女の瞳のふちに
キスし、頬にキスをし、白く柔らかい首筋にキスの雨を降らせ、王女を全身全霊で包みこみました。


「ジル様…うっ…私は……うっ………もう……大丈夫…です。」
「アトレイア様、私を助けていただいて、ありがとうございます。」
「違います!私は、ジル様を傷つけてしまいました。その腕、そのお体……。」
ジルは彼女を抱きしめる手に優しく力を入れました。
「いいえ、いいえ、アトレイア様が、私を助けてくださったのです。アトレイア様には、私を救う、その力が
こうしてあるのですよ。」
アトレイアは、ゆっくりと、長いため息を少しずつ、何回か吐き出しました。
そのたびに、安心の気持ちが徐々に彼女の心を満たしていくのを
ジルは感じ取りました。


「ふふ、初めて会ったときの事を思いだします。私は、王宮の隠し通路で、なにげなくそばの壁に手をかけたのです。
そのとたんに、おもわずぎょっとしてとび下がっちゃいました。
その崩れかけた瓦礫の山のかげはドアで、その向こうには小さな部屋のようなものが続いているのですから。
私は自分が夢か幻をみているのではないかと思いました。
その向こうには、この世のものとは思えない、とても神々しく美しい…王女がいたのですもの。」
「ジル様、美しいなんて……」
「いいえ、アトレイア様はとてもお美しい方です。そのお顔も、そのお髪も、そのお体も、そのお心も、何もかも。」
「違います!私は…ずっと闇の中にいて、病気なのです。体中にできものがあって、変で…それに、ほら、こんなに震えるのです……震えが今も止まらないのです。」
「アトレイア様は病気なんかではありません!!」
ジルが突然声を荒げたのでアトレイアはびっくりして顔をあげました。ジルはその不安やまない顔をまっすぐ見つめました。

「震えがとまらないのはお体が冷えていらっしゃるからですよ!ほら、手もこんなに、氷のように冷たくて、この頬も、肩も冷えておられて…」
ジルはアトレイアの手や、頬や、体をいとおしそうに何回も撫ぜました。
「今日はまだ湯浴みをなさっていないのでしょう?侍女を呼んで、湯浴みをなさったほうがよろしいですよ。
湯浴みで体が温まれば、この震えもおさまります。」
アトレイアは震えを少しでも抑えようとするように、自分の体を抱きしめた。
「侍女は…私の目が見えるようになってから、暇をとらせています…。」
「そういえばそうでしたね。
では、私がつきますから、一緒に入りましょう。
アトレイア様が病気かそうでないか、他の方と変わっておられるか
そうでないか、この私がきっちりと見てさしあげます。」
ジルはそう言って、アトレイアの肩より下のすらりとした流れるようなラインを、やや古びた、しかし高級な布地の上から確かめるようにそっと撫で続けました。


アトレイアは、決められた侍女以外の人間に裸体を見せたことはなかったので、
かすかな上目づかいでジルを見ました。
乙女の恥じらいから、すぐには返事をしかねたのです。
しかし、闇から逃れた自分を見てみたいと思っている気持ちが、大胆にさせたのかもしれません。
まずそろそろと両足に力を込め、床の上に立ちあがりました。


二人は浴室の中に入り、なんともいえない恥ずかしさにお互い一瞬、顔を見合わせました。しかしその気持ちを押し隠すように、ジルは自分の服を手早い動作で脱ぎました。
護身用の短剣やら服の止め具やらが鈍い音を立てて隅に置かれ、冒険者のごわごわした質素な服が足元に脱ぎ捨てられると、
あつぼったい布から解放されたとばかりの生き生きとしたつややかさで、豊かな胸と、しまった腰、そして、はりのある太股があでやかにアトレイアの眼前にさしだされました。
ランプのほのかな明かりをうけて、端々を激戦の傷跡で縁取られたそのきらめきが、痛いほどのまばゆさでアトレイアの目にしみます。
自分の肢体をみたアトレイアが、真っ赤になって、視線をはずし、うつむいたのにジルは気づきました。
「アトレイア様…、すみません。冒険者とは文字通り危険がつきまとうものですし、騎士もまさにそれが勲章ともいわれるほどに生傷のたえない身分なのです。
といっても、私の場合は、九割方冒険で無茶ばかりした傷なんですけれどもね。王女様には御見苦しい体を見せてしまって、申し訳ないです。」
アトレイアは返答に困って少しの間視線を泳がせていましたが、しかしジルの顔をしっかりと見つめなおして素直な気持ちで答えました。
「いいえ。あまりにジルさまのお体がお美しいので、真正面からはとても、自分が恥ずかしくて見られなかったのです。
ジル様の体は、私とは全然違いますので……。ジル様のお体は、まるで……。暗雲をかき分けて大地を照らす朝日の光のようです。」

 

ジルはその思いがけない言葉に、その白い太股から首筋まで真っ赤に染めて、息もできないほどの気持ちに喉をつまらせ、
しらずしらずの内に涙まで自分の頬をぬらしていることにも気がつきませんでした。
「アトレイア様……。私、今まで誰かからそのような言葉をかけられることがあるなどと、思ったこともありませんでした……。
あれ…まだお湯もかけていないのに、私の顔、濡れていますよ。悲しくなんてないのに…、私、どうかしてしまいましたね。」
彼女はそのてきぱきした動作で王女の服も脱がせようとしましたが、
平民達の普段まとう仕事着ならいざ知らず、その作業には思いのほか手間取ってしまいました。
なにせジルは今まで一度も貴族のドレスというものを人に着せたり脱がせたりということをしたことがないばかりではなく、
何かのおりに自分がそういった衣装の必要な場に出席しなければならないときは、
たいてい男物の服を着るか、(何せこの国には騎士の衣装は男物しかないのだ。)そうでなければ数人のメイドに取り囲まれ、
すったもんだの格闘の末に、これならモンスターの相手をしたほうがましとひいひいいって、
何がなんだかわからぬうちにきついドレスに身を押し込められるような忌まわしいケースしか記憶にありませんでしたので、
王女の服を脱がすのに大変な難儀がかかってしまいました。
そうしながらもジルは、闇が今まで周りの何物からも遠ざけ守ってきた宝を開けるような感覚に、すでにその裸体を紅色にほてらせていました。


何とか脱がせてあげようとして、あちこち布をひっぱったりもどしたり、紐をのばしたり絡めたりとして、
ひどく時間がかかりましたが、なんとかかんとか王女の服をジルがそろそろと脱がせていくと、
華奢な鎖骨からするすると布が下がり、厚ぼったくて重いドレスがゆっくりと床の上に折り重なって、気品のある薄いベージュ色のドレスの中から、
その帯の締め付けから放たれて、ミルクのようにきめの細かい肌が表れました。
そのほっそりとした白く輝く肢体を見たジルは、思わず感嘆のためいきをもらしました。
「アトレイア様、何と美しい…まるで朝の海に洗われた真珠のようにまぶしく、なめらかで…、素晴らしく綺麗でいらっしゃいます。」
生まれて始めて自分の姿を美しいと言われたアトレイアは、その信じられない言葉に驚愕といえるほどの衝撃を受けてわなわなと体を震わせていました。
鏡をごらんになりますか?と言いたげにジルは細い腰をよじって鏡をさがそうとしましたが、鏡は一枚もありません。
いや、人の姿を映せる状態にあるといえる鏡は一枚もない、と言ったほうが正しいでしょう。
部屋の鏡はみな、割られていました。アトレイアが自ら割ったのです。視力の戻った眼で今の自分の姿を見てしまうことは、アトレイアにとっては耐えがたい苦痛でした。
しかしその急に自分の信じていた見方を変えられたとまどいに、アトレイアの顔にもあつい涙がほとばしります。
二人はお互いの姿に打たれ、言の葉も湯気と一緒にどこかへ舞い散ってしまったかのように、ただただ相手の生まれたままの姿を見つめあっていました。

 

「アトレイア様のお体は象牙のように白く、鳥のように優美な形をもっていらっしゃるのですね。」
ジルは思わずまた彼女を抱きしめました。アトレイアは遮るものの一切無い
肌の感触をじかに感じて、驚きとともにうっとりとした表情を顔いっぱいに浮かべました。
「ジル様…。ジル様は、とても柔らかくて、外の匂いがします。」
「ふふ、傷だらけの体ですよ。
しかし、血なまぐさい戦を村々に撒き散らして、日々の人びとの生活を脅かすようなまねは、なんとしても避けるようにしています。
それに今のロストールの女騎士はディンガルと違って、謁見の間や会議室の円卓の上が戦場みたいなもんですからね。」
「ジル様はいい匂い…。花のような匂いがします。なんのにおいでしょう?つめたくて、でもあたたかくて、とっても甘い匂いです。」
「それは風のにおいです。」
ジルはま白の肌に白い泡をのせながら、話し続けました。
「小鳥やリルビーや人間や、みんなのいる街に吹いている風のにおいです。」
ジルは白い湯気に紅色に染まりはじめた顔で、微笑んで見せました。
「さあ、あちらを向いて、背中をお見せ下さい。」
「は、はい…」

 

「アトレイア様のお体を見ながら、隅々まで洗って差し上げます。」
そう告げるとジルはていねいに王女の体を調べ始めました。熱心に彼女の体をさすり、うすぐらいランプに照らされながら、
ほとんど手探りで彼女の髪の毛、うなじ、肩、腰、足と、すみずみまでいとおしさをこめて撫でまわしました。
「あ、ジル様…。あたたかい…。」
王女は自分とは違う体温の擦れ合うのに感じて、不思議な感覚になり、後ろから見えないジルの手が彼女の体を滑らすたびに、心臓のどきんどきんという音が、ジルの耳にきこえてくるのではと思いました。
「私の体は他の人とは違うのでしょうか?ずっと闇の中で暮らしていたので、
何か重い病気があるのではないでしょうか?それで外に出ようとすると体や頭が痛くなるのでは
ないのでしょうか?いつもそうで、それで、決まって最後には、立ち上がれなくなってしまうのです。」
「あまり歩かず、お食べにならないから、お背中がほんの少し弱っていらっしゃるのですよ。」
「でも、腫れ物が、体に……」
ジルは神妙なほどにアトレイアの背すじや腰を指先でまんべんなくさすってみせた。
「お痩せになっているので、骨がほんのちょっぴり出ているだけです。これは腫れ物なんかではありませんよ。今度はこちらを向いていただけますか?」
ジルは話しながら、向かい合わせになった王女のいたるところに泡を伸ばして丁寧に優しく包むように洗い始めました。
ときおり二人の目があい、その視線は熱っぽい輝きでお互いにからみつつ、また恥じらうようにはなれ、再び交錯を繰り返すのです。

 

「アトレイア様は何も病気ではありません。部屋の外の事を考えるとあちこち痛みはじめるのは、不慣れからくる不安ですよ。
外の空気に慣れれば、そんな痛みは徐々に、気がつかぬうちに消滅するでしょう。」
彫刻を施した柱にかこまれた浴室の中は、小さなランプがただひとつ灯され、
ときおりそのゆらめきに、お互いのやわらかな肢体が映えて浮かび上がる他はほとんど闇に包まれている中、
なかば手探りで王女の体を、まるでロストール唯一の国宝を扱うような丁重さで優しく丹念に撫でるように洗い続けました。
ときおりジルの手がアトレイアの柔らかい胸や脇に伸びてこすれ、王女はあえぐような声を出しました。
「ああっ、ジル様……。なんだか、くすぐったいです。いい気持ち…。」
「ああ、アトレイア様、この流れる水も、泡も、アトレイア様の曲線の間で、こんなにも楽しそうに遊んで流れていらっしゃる。」
闇に浮かぶ白い泡のあいまからは、牛乳に果実の汁を溶かしこんだように
ほんのりと二人の桃色の唇、肌、そして揺れる乳房の先が見え隠れしています。
王女の体を磨くように洗いながら、合間に彼女自身も手早く体を洗い湯をかけ流すと、ジルは王女にも頭、そして首筋からゆっくりお湯をかけはじめました。
そして、温かいお湯に濡れてつやめいていく彼女の髪と、それがかかりおちている肩、そして鎖骨やほど良い大きさの形のいい胸などをいとおしく触り、
撫で回しました。そのふくらみの先のやや小さめの乳輪にお湯をかけると、まるで摘みたての果実のように、きらきらとその突起が光ります。


アトレイアは気持ちよさげにうっとりとその長いまつげを頬にかからせています。縁にユリの模様のついた桶を傾けながらときおりジルは、そのまま彼女がうとうとと寝入ってしまうのではないのかと思いました。
泡を流しきり、泡をのせる前より血色がよみがえったアトレイアの肌はさきほどとはまた別の魅力を輝かせていました。
ジルがアトレイアの髪の毛を端々まで撫ぜていると、自然とアトレイアの顔にジルの豊満な胸がはからずも密着する体制になりました。
「ジル様の、気持ちいい、……」
ふと、眠ったようにも見えていた王女が口を開いたので、ジルは自分がうたたねから引き戻されたような気持ちになりました。
「私の何がですか?」
アトレイアは自分の両手を握り、もじもじと首筋を動かしました。
「ジル様の、あの、………、が………。」
「私のような…女騎士めのおっぱいが、気に入ったのですね。興奮するのですか。」
顔を紅潮させて、思いきりこくこくとうなずいたアトレイアは、熱っぽい瞳をさらに潤ませた。
「胸が、柔らかいです…。私とは違って…。」
「いえ…。アトレイア様のお胸も、柔らかな花の蕾に美しくて素晴らしい…。
アトレイア様は、とても、形の良い乳をしていらっしゃいます。淑女のまとうドレスで綺麗に整えられ続けていたのですね。」
王女は紅く染めた頬を上げてゆっくりと上目づかいになってジルを見た。
「触っても、よろしいですか…?」
「ええ……。もちろんですとも。」
アトレイアは、おずおずとその白魚のような指先を、ジルの豊かな乳房にすべらせた。


「ジル様の、大きくて、とてもやわらかいのですね。
………私のお願いを聞いてください。
今だけ…今だけ、私を子供のように甘えさせてください………。
こうしていると、ジル様とこうしていると、私は外の世界が見えるのです。ジル様の体験したたくさんの冒険が私にも見えます…。
この宮廷の隅の薄暗いくぼみから遠く離れて、自由な旅を感じることができるのです。」
そういうと淑女を脱ぎ捨てた王女は女騎士の豊かな胸に顔をうずめ、まるで赤子のように無心に彼女の乳房を自分の頬でゆっくりと下から上へともてあそび、
やがていきいきとした張りを持つその敏感な先端にそっと唇を寄せました。

「ん……あっ………。」
ジルは彼女の細い体にしっかりと手をまわし、その弾力性のあるふくらみに半ば無意識にアトレイアをさらに踏み込ませようと彼女の頭をいとおしげに撫でました。アトレイアの柔らかい髪がジルのなめらかな体をくすぐります。
いっそう体をよせあい舌でちろちろと乳首を舐めはじめるアトレイアに、しかしジルはふいに我にかえりました。
「アトレイア様……。いけません……。私は…。
一介の騎士が、王女さまとこうしている資格などないのです……。
どうして、どうしてこのようなことをしでかしてしまったのでしょうか。」
「ジル様………?」
「……ああ、ああ、でも、しかし、それでも喜びを感じる私がここにいます…。……私は自分がわからない…。こんな行いに走るべきではないのに………。」
それでも快感を感じてしまう自分に、ジルは己を見失いそうになっていた。
そして、アトレイアの形よく膨らんだ胸に手をかけ、何度も何度も撫でまわした。


「ああ、アトレイア様、どうしてそんなにじっと私を見るのです?」
さきほどから乳房をもてあそびながらもひしと自分の顔へ向けているアトレイアの瞳に、ジルは言葉をかけた。
「本当のような夢ではないかと思うからです。」
アトレイアはたまらないような声を絞り出しました。
「ときどき、目を開けていても、目が覚めているとは思えない時があるのです」
「私たち二人ともはっきりと目が覚めているのですよ」
ジルはそういって、薄暗い部屋の隅だの、湯に濡れた床だの、ぼんやりした浴室のランプの小さな光だのをながめまわしました。
そしてゆっくりと、視線を、アトレイアのつややかな、お湯の温かさに色めいた肌に移し、そのみずみずしさを得た頬にキスをしました。
「本当に夢のようにも思えますが、しかし、はっきり私たちは目がさめているのです。」
「夢でなければいいのに…。」
アトレイアはなおも、もどかしげにささやきました。
そして清らかに澄んだ瞳にいっぱいに開いて、ゆっくりと、花がひらくように微笑みました。
しかしその露のように透き通るような瞳には切なさを浮かべているのがジルには見えました。


ジルの脳裏に、まぶしく笑いかけるティアナが浮かび、今、目の前のアトレイアの花のような微笑みがかさなりました。
無心に愛撫を受けるアトレイアの、つややかな髪のゆれをみつめながら、ジルは乱れる思いにそのやや薄めの唇を強くかみしめていました。
ロストールの国は王権が命です。
ティアナに絶対の忠誠を誓っている騎士が、このようなことをしているということが知られれば、
この王権、ロストールを脅かすようなことになるかもしれません。
そうなれば義兄上にも迷惑がかかるのでしょうか。
いや、むしろ義兄上のこと、王権に混乱を生じさせ機を得たりと、とんでもない行動に出るかもしれません。
ジルは、政争にまきこまれて苦しみ続けたアトレイアの、
幼いときより全人格を打ちひしがれるほどの悲しみを想いました。
これ以上の悲惨を生み出さないためにも、
これから先の政争は何としてでも避けなければなりません。
それがジルの心奥深くに根ざした決意だったのです。
しかし、王女を愛すれば愛するほど、その争いに歩みを進めてしまうのではないかという不安に、ジルは身が引き裂かれる思いでした。


ジルの胸には、また、世の中を知らない無垢な王女に、どうにかしてのびのびと外の世界を見て欲しい、飛び立ってほしいと強く望む心とはうらはらに、
あたかも彼女を独占したがっているかのように彼女を求めてあつく焦がれきっている己のこの身にも戸惑っていました。
自分は彼女を愛している。だから世界を見て欲しい。
しかし、そうしたら彼女がそのままどこか遠くに行ってしまうのではないか……。
このまま彼女の前にいるのは自分だけであってほしい……。
それは自身の奥深くからとめどなくあふれるどうしようもない感情でした。
「いっそのこと、あなたに会わなければよかったのかも知れません。」
ジルの体を無心にもてあそぶアトレイアの口からこぼれる言葉に、ジルはどきりとしました。
「あなたに会わなければ、私はこんなにも苦しまずにすんだ…。闇の中で、何も知らずにいることができました…。」
手に沿うように柔らかく変形する乳房を愛撫しながら、アトレイアの目からとめどなく涙があふれました。
「うっ…う…ひぃあ……あ…。」
「アトレイア様………うっ……。」
声無き声を振り絞り、ジルも静かに涙を流し始める。
二人はそのまま、愛撫の手も止め、しばらく涙の流れるままにまかせていた。


「ジル様……。」
ひとしきり涙を流しきるとともに、今は心の闇を乗り越えたアトレイアは、思いのたけをジルにぶつけました。
「ジル様、ジル様がいなければ、私はさみしいという気持ちを知らずにすんだ…
何も知らずにこの部屋で、いつか闇に消えることだけを考えていることができた…
けれど、ああっ!ジル様が来て、私は自分がわからないことがわかってしまいました!……。見なければよかった。知らなければ楽でした!
自分の姿を!自分の力を!光を得て、自分の闇を見てしまいました!」
ジルは何も言わずお互いの流しきった涙も拭わずにアトレイアをさらに強く、しっかりと抱き寄せました。
ジルの体温に包まれて、アトレイアはジルの胸に顔をうずめましたが、体を震わせ目はしっかりと開けたまま続けました。
「しかし、私は、何があろうと、何にも誰にもジル様を傷つけさせません。
私は弱い存在です。悲しいことですが弱くてはジル様のために生きる事はできません。
それでも、………、私はジル様のために生きたいと思うのです。
ジル様は私の大切な人ですから。
でも、私は、自分の力がいまだわかりません。
それとも、やはり、私は、もう、終わりなのでしょうか。」
ジルは王女から体を離し、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。彼女も震えと不安を必死でおさえようとしてその瞳を見つめ返した。
「いいえ。アトレイア様にはご自分に逃げず向かい合える強さがあります。それで充分です。」
「ジル様……。」
アトレイアはジルの首に思いきりひしと抱きつきました。
しかしアトレイアを受け止めたジルは心の中で決意を固め、優しく、けれど弱々しげに微笑みました。
「アトレイア様……もう……やめましょう。
これ以上アトレイア様を苦しめたくはないのです。辛い思いをさせたくはないのです、アトレイア様だけには!私は間違っているのでしょうか?
お放し下さい、その手を。お願いします……。」


アトレイアは、まだジルのふくよかな胸に赤子のようにむしゃぶりついていましたが、首をすっくとあげ、
柔らかな彼女の体に両手でしがみつき、自分の方へさらに引き寄せるようにして激しい目つきで彼女を見据えました。
その時、アトレイアの瞳に、うまれて初めて燃えるようなまなざしが宿りました。
「だめ。いなくなったら、私は貴女のことを夢だと思ってしまう。
もしも、貴女が本当の人間だというのなら、もっと…続けてください。
貴女のことを知りたいのです…。」
言い募るアトレイアのまなざしの色に、ジルへのひたむきな想いが満ちています。王女への耐えられないほどのいとしさが、その時ジルの全身をつらぬきました。
ジルは自分でも気がつかないままに、彼女の名を呼び続けていました。
「ああ、アトレイア様。アトレイア様。」
声いっぱい、体いっぱいに王女への愛を叫びながら、力のかぎり王女を抱きしめました。
同時に、下腹部につきあげるような激しく燃えるものを感じていました。


「アトレイア様………。」
ジルはアトレイアにとろけるほどの長い、深い口づけをし、彼女の口の中深くまで舌を這いこませました。
「ああっ…あんっ……っ」
「う…………ふっ……。」
「あ……ふう…あ…っ。」
柔らかな唇をためらいがちに放すと、お互いの唾液がゆっくりと糸をひいて二人を結び続けています。
どちらからともなく二人の白い指と指が優しく絡まりあいました。
「ああ…ジル様っ………・。」
ジルは王女の白い清らかなうなじにもキスをし、そのまま肩から体へと唇を、そして指も走らせました。
そして膨らんだパイの上の果実をつまみとるように彼女の乳首を細い指と指の間に挟み、コリコリと優しく指先を動かしました。
「やっ!ああーっ!イヤっ、あーん!」
今までに想像したこともない快感に身をよじらせ反応するアトレイア。
「あっ……。おいやなのですか?それならばもういたしませんが…。」
「イ、イヤ、いいえ、それはイヤなんです、やめるのは、いやなのです。続けてください、お願いです……。」
狼狽して、それでも真っ赤な顔で懇願するアトレイアのこのうえもないかわいさに微笑むジル。


「アトレイア様…。ええ、もちろんやらせていただきます。」
ジルはアトレイアの乳首だけでなく、肩や腹と、周りのいたるところも揉み、さすり、愛撫した。
「ああ……気持ちいい………もっと…、もっとお願いします………。」
アトレイアの長らく凍てついていた感情が溶け出し、水を得た魚のように欲望が生き生きと動き出します。
「アトレイア様、もう他の何がどうなってもかまいません。……愛しています…。」
女騎士のその手は王女を放したくないとばかりにたえず彼女のいたるところを愛撫していました。
「はあ……ん……空を飛んでいるよう………。ジルさまとこうして………。」
水に濡れてなめらかに滑るお互いの肌と肌の感触にこのうえもない至福を感じる二人。
「うっ…ふ…もっと……。」
「あん……あ……。」
やがてジルはアトレイアのほっそりとした上半身から、初々しく美麗な曲線をなぞり下腹部へゆっくりと手を差し伸べました。


「ん………。」
まず形のいい彼女の尻にゆっくりと焦らすようにじっくりと指を這わせ、ジルは言いました。
「さあ……、ここも丁寧に洗わせていただきます。」
そして、アトレイアの花びらのような、対になった両のひだに指先をかけました。
「あっ……。」
彼女のひだの間は、アトレイアの肌よりもいっそう高い体温でジルを包みます。
尿道の先や奥の割れ目の端に触れられると、何とも変な感じがして、アトレイアは思わず足をすくめました。しかしジルは強引に足を開かせ、
奥の割れ目の端から、アトレイアの中へ、滑るように人差し指の先を侵入させました。
「ふぇ……はぁぁん……。あぁん………!!」
「アトレイア様……。初めてお会いしたときから、私は……。
貴女の闇を見つめる瞳に私を映したかった……。」
そうつぶやいてジルは彼女の、生まれてからずっと闇の中秘められていた割れ目の、その中をかきまわしました。


「あん、ああっ、ああっ!」
ぐじゅ、ぬぷっ、じゅぐっ………。
そこはすでに濡れきっていて、王女らしからぬいやらしげな音を立ててジルをより中へと迎え入れていました。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。」
ジルの指が、吸い込まれるように1本、そして中指の2本目と、その縦に割れた深い彼女の中に引き込まれていきました。
「あーっ……あーん…ふぅぅ……んん………。」
アトレイアはとろけるような視線をジルに送りました。
じゅぷっ……。
滑るようにジルの2本の指が深く入っていきます。
「ああっ……。」
「アトレイア様のなかが、とても温かくて、きゅうきゅうと締め付けられます。ああ、素晴らしく、…気持ちいい……。」
ジルはその指を何度も彼女に入れたり出したりと抜き差ししながら自分のヴァギナやクリトリスも片手で激しく擦らせていました。


「アトレイア様……。」
ジルはいったん指を出すと、アトレイアの股間の花びらに包まれた小さな突起に触れました。
そしてそのまま激しく奥から手前へとこすりつづけます。
「ああっ、あん……………あ…。」
「ふぁあん……。ジル様……。ああん………あん……。」
あっというまにその花弁からは蜜がぐちゅぐじゅといやらしいおとをたててあふれ、白い彼女の足の間を滴り落ちていきます。
「ふうっ……んん………ああっ!………。あーっ、あーんっ!」
今までよりさらに激しい快感に突き動かされ、湧き上がる欲望に身を震わせるアトレイア。
ジルの愛撫が気にいったアトレイアはうっとりとした表情を浮かべ、ジルの為すままに体をまかせるだけでなく、もっともっととねだるように腰をよじらせてジルを求めます。


「ああ、ジル様、ああんっ、ああっ、ううっ…!」
次第に感情が高ぶり、しなやかに泡のすべらせるまま腰をくねらせ、甘い声を上げるアトレイア。
「ああっ、あんっ、ああんっ。」
流れる髪が、はげしく波打ちながらジルの胸に乱れてこぼれます。
柔らかい髪がはりのあるジルの胸に触れ、彼女の指の動きをいっそう速めました。
「あああーーーッ!やっ、あーん!」
ジルの激しい愛撫に耐えられず、アトレイアの体は絶頂に達しました。
「アアアーーーーーっ!!」
アトレイアのやわらかな股間からほっそりした足元へ、しずくが光って滴り落ちます。
アトレイアは快感の激しい波に打ち震えた唇を開きました。
「どうしたらよいのでしょう、ああ、おしっこが……。私、わたし、おもらししてしまいました!私はやはり病気なのですか!私の体は、一体どうなってしまったのでしょう!!」
「いいえ、おしっこではありません。病気などでもありません。私が綺麗にしてさしあげます。」
ジルはそういうと、アトレイアの恥部にゆっくりと舌を這わせ、ぺろぺろと舐め始めました。柔らかい温かいその唾液の感触に、アトレイアは再び絶頂を迎えそうな快感に震えました。
ランプの薄明かりにすかして、お互いを見上げ、深淵なる闇の底からくみ上げた生きる力をふりしぼり、からみあう二人。王女の恍惚とした表情で、瞳いっぱいの微笑みは目を見張るほどまぶしげでした。
やさしくうるんだ彼女の瞳は、もう剣も魔法も争いも、ただならない雲行きに追い込まれていく王宮のことも、忘れ去っていました。
ただ、王女の姿のみが、心いっぱいに広がっていきます。
アトレイアのほうも、胸の奥に密かにしまいこんでいた、争いさえなければ自分もそうだったかもしれなかったティアナ姫の華やかなありよう、エリス王妃への母親殺しの嫌疑、暗闇に支配されていた時間や今までの闇に縛られていた自分などもきれいに忘れ、
ただこの女騎士とともにいたい、彼女のかけがえのない支えになりたいという想いでいっぱいに満たされていました。


「ジル様、今日のこと、私一生忘れません。」
寝室のベッドの上で、アトレイアは、古びてはいるが洗いこまれて清潔なビロードの寝巻きにくるまって、
一面に細かい刺繍をした大きなクッションによりかかっていました。
浴室を出てから、屈託のない笑顔で二人は語り合い、とりわけアトレイアは、ジルに、故郷の事、どこに住んでいるのか、何をして暮らしていたのか、
旅はどのようなものなのか、自分と同じように世界で一人ぼっちになるような気持ちになったことがあるかどうか、そんなことを聞きたがりました。
ジルはその質問に全て答え、そのほかにもいろいろなことを話して聞かせました。
アトレイアはベッドに座ったまま、じっと耳をかたむけています。特に長く話したのは、旅の話でした。

「ずいぶん長いこといましたね。もう行きましょうか?アトレイア様の目はとても眠たそうです。」
「貴女がいるうちに眠ってしまいたいのです…。」
アトレイアははにかみながら言いました。
「それでは、目をおつぶりください。」
ジルは足台をそばへ寄せながら言いました。
「そうしたら、昔、母がしてくださったようにいたします。」
「わかりました。そうしてください。お願いします。」
と、王女は眠そうな声で答えました。
ジルも彼女を目を覚ましたままで寝かせておきたくありませんでした。
そこでベッドに寄りかかって、アトレイアの片手を自分の両手で包み込み、
小さな声で記憶にある母の子守唄を歌いました。
「いい気持ちです………。」
うとうとしながらもアトレイアはそう言ったので、ジルはなおも歌い続けながら、手をさすっていましたが、みると長いまつげが頬にぴたりとついています。
もうすやすやと眠ってしまったのでしょうか。ジルは静かにたちあがると、ロウソクをもって、音のしないように、部屋を出ようとしました。
すると、衣擦れの音にアトレイアが目を開け、部屋を去る彼女の方に首をかしげて、口を開きました。


「ジル様。ベッドの中で、考える事があるというのは、すてきです。それが楽しい事なのは、もっとすてきです。
ジル様となさった楽しい事が次々に心にうかんでくるのです。私は…とても幸せです。
もう行ってしまわれるのですよね…。ずっと一緒にいられたらいいのに…」
ジルはアトレイアの唇に優しいキスをして言いました。
「アトレイア様はずっと私と一緒です。
これからの私の旅は忘れられないものになるでしょう。
なにしろ初めての旅なのですから。」
「……?初めてとはどういうことですか?今しがたお話なされたように、ジル様は旅ならいつもなさっているのではないのですか?」
「単なる旅なら。しかし私は、他の人の気持ちも一緒に連れて行く旅は初めてなのです。」
「ジル様……。」
ありがとうございます。では、また…。
とアトレイアは言ったつもりでしたが、意識の半分は夢の中に入り込んでいたので、
別れの挨拶をしっかり言えたかどうか、はっきりとは覚えていませんでした。
王女は闇の底で柔らかな光に受け止められて、夢の中で愛しい人に再び会いに行く、初めての眠りについたのです。 
Fin