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セラと少女がノーブルに辿り着く頃には、空は曇り空になっていた。

少女がノーブル伯に任命されていた事は仕合わせなことであった。
ロストールのリューガ邸とは違って、ノーブル領主邸には老執事が一人いるきりで他の使用人はいない。
傷付いた少女をノーブル領主邸へと運び込む。
毒と疲労と精神的ショックで昏睡している少女を見て何事かと狼狽する老執事。
旅の途中でモンスターに襲われた、と言い訳し少女を寝台に寝かせた。
医者を呼び解毒薬を処方するように言い聞かせてから、ノーブル領主邸を後にした。

アンティノの研究室で、無残に全裸にされてベッドに固定されていた少女。どんな仕打ちを受けたかは一見しただけで分かった。
何を聞いてもまともに答えられず、ただ譫言のように『兄さんが、兄さんが』と繰り返すだけだった。
自分を見て泣き、錯乱する少女を何度か頬を張り飛ばして正気に戻し、キュアをかけて連れ帰った。
あの時の事を鮮明に思いだす。少女の身体に触れた時、仄かに立ち昇った甘い匂い。
少女は香水など付けない。それにあの匂いには覚えがある。過去に何度か魔人アーギルシャイアと遭遇した時にいつも漂っていた香水の匂い。
――アーギルシャイアに?そしてサイフォスに?
セラは頭を押さえた。到達したその答にいつもは冷静な頭が混乱しそうであった。
ふと、自分が何か重いものをぶら下げたままであったことに気付く。
竜破。少女の愛用の剣だ。
こんな大きなものを置いてくるのを忘れるとは本当に自分はどうかしている。
数日後、セラはノーブル領主邸を訪れた。少女の竜破を返すという口実の元に。
少女は自分の部屋のベッドに膝を抱えて座り込んでいた。いつもの服装とは違う、裾の長い簡素な寝間着を着て。
落ち窪んだ眼窩に憔悴の色が濃い。目は熱っぽく潤んでいる。セラを見ても何も言わない。ただちらっと視線をこちらに向けたきりだ。
「これを返しに来た」
少女は彼から竜破を受け取った。手にした竜破を鞘から少し出す。
剣の艶やかな表面に少女の顔が映る。そこに映った自分の顔はひどくやつれて見える。
少女は唇を噛んで竜破をまた鞘に戻し、傍のテーブルの上に置いた。

しばらくの沈黙が流れた後、少女が口を開いた。
「もう、何を信じたらいいのか、分からない……」
少女は俯き、呟くように言った。セラは少女の両肩をがっちり掴んでその顔を正面から見、言い聞かせるように言った。
「いいか、お前を……」
セラはそこで少し言い淀んだ。一時、少女の目から視線をそらす。
「お前に……危害を加えたのはお前の兄でも俺の姉でもない。あくまでもアーギルシャイアとサイフォスなんだ。それを勘違いするな」
口調の最後が少し掠れた。それは少女に対してではなく、自分自身にも言い聞かせているように見えた。
「……何故、抵抗しなかった」
セラのその言葉を聞いて、少女は顔を歪めた。
「お前の力なら、あの二人を倒せただろう」
「そんなの……!」
少女は目を閉じて、首を激しく振る。
「そんなこと、出来ないよ……だって、アーギルシャイアは、ううん、シェスターさんはセラのお姉さんでしょう?だから、出来なかった……」
「だからお前は甘ちゃんだと言うんだ」
少女は目を見開いた。この男は本当にアーギルシャイアとサイフォスを殺すことを望んでいるのか?
それは恐らく違う。少女には分かった。
今の自分にも、そして恐らくこの男にも自分の兄と姉を犠牲にして魔人達を倒すことは出来ない。
自分たちを捉えているのは自分の兄であり、姉であるのだから。
「出来ないよ……セラのお姉さんを殺すことも、私の兄さんを殺すことも、私には、出来なかった……」

「私はどうすれば良かったの……?」
「お前が一人で勝手に行動するからだ、何故俺を呼ばなかった」
少女は俯く。いつだってこの男は自分の保護者だった。もう誰の保護も必要ないと思っていたのに。
「俺がいればこんな事にはならなかっただろうに」
「……ごめんなさい」
声が掠れた。セラはそれ以上何も言わない。少女もそれ以上何も言えない。
酷く傷付いているのは、傷付けられたのは自分だけではないと少女は改めて思う。

日は暮れようとしている。沈黙だけが流れる。
少女は部屋から出て行きかけたセラの手を握った。
「……帰らないで」
セラは驚いたように少女の顔を見る。少女の手は熱を持ち、汗ばんでいる。
「一人にしないでよ……一人が怖いんだ」
少女のこんな弱い一面を見たのは、焼け落ちたミイスの村で一人途方に暮れて立ち竦んでいた、あの時以来だ。
一人にしないで欲しい。少女は切に願った。
一人になるとまたあの時の幻影が甦ってきて、自分を苦しめる。
だから今日だけでも、一人にしないで欲しい。眠れない一人の夜が、怖い。幼い子供の頃のように。
『竜殺し』などと通り名で呼ばれて、他の冒険者からも一目置かれるようになった自分が何を言うか、と思う。
普段なら心の弱みは決して見せない。けれど、今日だけでも何か大きなものに寄り掛かりたい。

熱を持った手で握りしめたまま、少女は潤んだ目で男の顔を見上げる。
上目遣いに見るその眼差しと長い睫毛が男の目にはひどく蠱惑的に映るのを少女自身は気付いていない。
「セラ、私は怖いんだ……闇に墜ちるのが」
ぽつりとそう言った少女の顔をセラは責めるように見た。
「何を言ってるんだ」
「だって、私はサイフォスに……闇の神器を使った兄さんに……それに、アーギルシャイアにも……」
少女はそこで首を振った。思いだしたくない記憶に触れてしまう。
「魔人と、闇の神器の力が私にも……注ぎ込まれてしまったら、私は、もしかしたら闇に墜ちるかもしれない」

「セラ、私を抱いてよ」
不意にそう言った少女をセラはじっと見た。膝を抱えている姿が胎児のようだ。
少女はか細い声で続ける。
「私はこのまま闇に染まりたくないよ。一人になったら、心の中が闇に閉ざされて、闇に墜ちそうで……怖いんだ」
「馬鹿言うな、お前が闇になど墜ちるものか」
「それでも……私を抱いてよ……私を救ってよ。このままじゃ、闇に押しつぶされそうで……」
少女の顔をじっと見ていたセラは不意に自分の唇に少女の唇が押し付けられるのを感じた。
熟れた果実のようなその唇は少し熱を持ち、熱い。
「私を救ってよ……」
少女は唇を離し、潤んだ目でセラを見つめながら繰り返した。

再度唇を重ね合う。最初はおずおずと、次第に激しく。お互いの損失を補い合うように何度も唇を、舌を絡ませ合う。
唇を離すと、お互いの唇からつと唾液が光って糸を引く。
二人で唇を重ねていても、どうしてお互いの瞳には悲しみを湛えているのか。
その行為が意味するもの。
傷の舐め合い――それ以外に何と形容する?
一時的に傷を舐め合い、相手の温もりを貪りあっても後に残るのは空しさだけなのに。

「後悔するな」
「……しないよ、絶対に」
セラは己のグローブを口ではぎ取り、脱ぎ捨てる。背後から少女の身体を抱きしめる。
長い間一緒に旅をしていたが、抱き合ったことなどなかった。この先もそれはないと思っていた。
自分と同じ冒険者とは思えない、少女の身体は華奢で細い。折れそうな感触。
体温の低い手が少女の胸元に滑り込む。下着を引きずり下ろし、乳房を弄ぶ。その掌の冷たさに少女はぞくりと寒けを感じる。
自分は兄に犯された。兄であって兄ではないものに犯された。それ故にこの男に全身に触れて欲しいと思う。
自分の身体に染みついた、アーギルシャイアとサイフォスから受けた屈辱の名残を払拭して欲しいと思う。
胸当てを付けていない男の厚い胸板に自分の後頭部が、首筋が、背中が触れている。
あの時は――サイフォスに犯された時には感じなかった暖かさだ。
親友の妹。
兄に犯された妹。
その身体を抱く事はセラにとって微かに背徳感を覚える行為だった。
セラは知っていた。少女の俯いた表情、目を閉じた表情がどこか兄である親友のロイに似ていると。
自分だけが知っている事実。出来れば他の者には知って欲しくない事実。

少女とセラはお互いの身体を抱きしめ、体温と鼓動を分かち合うように貪った。
寝間着の前をはだけられ、露になった白い乳房に男が顔を埋める。
二つ、三つ、乳房に赤い花の痕が咲く。先端の突起を吸われた。
「あっ……」
初めての感触に信じられない程、甘い吐息が口をついて出る。少女は頬を赤くした。
時折、歯を立てられる。その度に少女は小さく呻いた。
男の掌が、唇が、身体の上を這う。切ない感覚についてゆけず、ただ震える。
少女の身体からは熱を持つ者特有の甘い匂いがする。

傷の舐め合いからは恐らく何も生まれない。ただ往々にしてそれは甘美なもの。
身を寄せ合い、温もりを分かち合う時間はあまりにも甘くそれ故陶酔してしまう。

男の手が股の内側に触れる。あの時、サイフォスに蹂躙された場所に触れようとする。
思わず脚を閉じようとする。脚の間に男の脚が割り込む、もう脚は閉じられない。
男の指が太股の内側を這い、そこに、少女の一番敏感な場所に下着越しに触れる。
そこを指で押される。下着の上から指を動かされるとそれだけでずきりと切ない感触がそこから身体中に伝わり、少女は喘ぐ。
下着が既にぐっしょり濡れているのが少女にも分かった。身体が受け入れる準備を整えていることを知って、少女は軽い自己嫌悪を覚える。
自分は本当に淫らなのかもしれない。あの時アーギルシャイアに言われた言葉を思いだす。顔が熱くなる。

日は暮れかかり、部屋の中は薄暗い。
少女は下着を剥ぎ取られ、男は服を脱ぎ捨て、お互いに生まれたままの姿になる。
少女は羞恥心から目を閉じる。男の裸身を見るのが怖かった。
男はその左腕の中に少女の身体を抱きしめる。右手は少女の秘部に触れたままで。
男の指は執拗に少女の花弁を弄び続けている。蜜が溢れ出して、股の内側を、男の脚を濡らす。卑猥な水音。
やがて少女の膣口に指が差し込まれる。ずぶり、と湿った音を聞いた。静かに中を掻き回す指先。
少女の中は狭く、きつい。ざらざらとして、温かい。
はぁはぁと喘ぐ。羞恥とお互いの体温、脚の間から伝わるもどかしい感触に狂いそうになる。

拘束などされていないのに、全身を触れられ、撫で回されたせいで少女の身体からぐったりと力が抜けてしまう。
抵抗する術など知らぬように、生贄のようにベッドにただ横たわる。
そっと薄目を開けて、男の顔を見上げる。目に入った男の劣情に思わずまた目を閉じてしまう。
上目遣いするその仕草が男の嗜虐心をかき立てる程蠱惑的に映るとも知らずに。
兄は太陽の輝きを持っていた。
しかし日蝕と名を変えた兄に付けられたこの身体の傷が闇ならば、この男はきっと月の光。
月の光が闇を静かに払拭してゆく。

男はそっと少女の唇に口付けしてから、少女の脚をM字に開かせた。少女は羞恥に顔を歪める。
指でそこに触れられると、信じられない水音が聞こえる。身体はこの男を受け入れようとしている。
怖い事はないのだ、と自分に言い聞かせてみても恐怖は拭いきれない。ひたすら目を閉じて顔を覆う。身体が震えている。
力抜け、と言われてふうっと息を吐いてみる。身体の力は抜けきれず、掌に汗をかいている。
やがてその堅いものが自分の中心にあてがわれ、それは数回滑った後、身体を押し広げて入ってきた。
「ん……あっ……んんっ……」
入ってきた時の鈍い痛み。熱い。堪えていても、呻き声が漏れてしまう。
それが身体の中を押し広げる度に、圧迫感と、痛痒いような焦燥感が身体の中から生まれ始める。
あの時の記憶が甦りそうになり、少女は小さく首を振った。違う、今はあの時とは違う。今、自分は望んでこの男を受け入れた。
身体の最奥まで進んだそれがぶつかって止まった。少女は深く息を吐く。締め付ける感触。
楔は完全に打ち込まれ、自分と男とは今、ひとつになっている。

男は少女の目の上に被さっている前髪を指で掻き上げてから、辛いか、と聞いた。
少女は軽く首を振る。熱く苦しいが、あの時のような激しい痛みはなかった。
男が腰を打ち付け始める。少女の胎内を、堅い楔が動き始める。ゆっくりと引き抜かれそうになり、また打ち込まれる重い楔。
異物感が変化して、身体の中が掻きむしられるように疼き始める。甘いような辛いような感覚が結合部から生まれ始める。
卑猥な湿った音、水音が結合部からぐちゃり、ぐちゃり――と聞こえる。
楔が身体の最奥に打ち込まれる度に、閉じた視界の中に赤い光が花開く。身体の奥からもどかしい様な感触がその度にわき上がる。
少女は何が起きているのかも分からずに、ただ必死に目を閉じて呼吸を荒くした。
「うわあっ……!」
いきなり身体を抱えて持ち上げられた。男の膝の上に脚を広げさせられ、座らされる。
結合部からぐちゃっと音がした。楔が深く深く少女の身体を貫き、少女はそれだけで軽く達してしまった。
「あ……ああっ……」
緩い快感と痛みが下腹部から広がる。瞼の裏を白い光がちかちかと点滅する。
痛みから逃れ、快感だけを貪ろうと少女は体をがくがく震わせながら身体を反らした。身体の中を押し広げるものすごい圧迫感。苦しい。
「セラっ……息……できない……!」
少女は激しく喘ぎながら圧迫感から逃れようともがく。しかし太い楔で繋がれている以上、逃れることはできない。
どうにか腰を動かして楽になろうとするが、逆に楔が敏感な部分を抉る。
男が少女の反らした身体を引き寄せるように抱きしめる。楔に抉られた箇所から電流が走った。
腰を持って前後に揺さぶられる。下から何度も突き上げられる。その度に楔が少女の感覚を激しく抉ってゆく。
「ああっ……もう……!」
再び達しようとする兆候が少女の顔に浮かんだのを男は見逃さなかった。

男は少女を再び押し倒すと、激しく腰を打ち付け始めた。
脚を抱え上げられ、男の肩の上に乗せられる。
少女は頭の中が崩壊するような錯覚を覚えた。下半身から広がる、限りなく痛みに似た甘い感覚。
激しく突き上げられる度に、身体の一部が端々から崩落していくように思えた。
「セラっ……お願い、もっと、ゆっくり……!」
少女は感覚に振り回されそうになって叫んだ。しかし、その願いは聞き入れられなかった。
「あぁっ……いやっ……あぁっ!」
少女は泣き声にも似た嬌声を上げ続けた。律動が続く度に、男の髪が顔や身体に当たる、それさえも痛い。
二人の身体から立ち昇る、性の混じったむせ返るような匂い。結合部から流れる少女の蜜がシーツに飛び散り染みを作る。
少女の胎内が収縮を繰り返す。雌としての生殖機能が、男のものすべてを絞り取ろうと締め上げる。
締め付けられる感覚が男にとっては眩暈がするほど心地良い。もう自制が効かない。
なおも掻き回す、少女の身体の中を、意識をも壊してしまうほどに。
構うものか、このまま壊す、この少女が誰のものにもならないように。

楔が打ち込まれる、その度に徐々に混乱し、麻痺してゆく思考の中で少女は思った。
分かっていた。この男とずっと旅を続けていて分かっていた。
いつも無愛想で口が悪くプライドが高く、口を開けば嫌みか説教しか言わず、少女を子供扱いするこの男の内面に、ガラスのように脆いものがあるという事を。
そして常に自分の半身のようなもの――姉――に捕われ続けているという事を。
自分とこの男は似ている。鏡に写したように恐ろしく似ている。
自分もまた、自分の半身のように大切に思い、神聖視しているもの――兄――に捕われてその存在から逃れられない。
似た者同士で、傷付いた者同士の自分たち。
ましてや今、そのお互いの半身から裏切られたという喪失感に苦しめられている。
だから、もしこの男と肌を重ねてしまったら。この男に心の領域に侵入することを許したら。
自分は溺れてしまう。他の大切な事を何もかも忘れて溺れてしまう。
自分の旅の目的が兄を取り戻すことである事も、自分がエリエナイ公リューガの義妹であることも。
ロストールの竜字将軍であることも。他の大切な旅の仲間達も、世界の運命の歯車が自分を中心に回り始めていることも。
自分が無限のソウルと言われていることさえも。
何もかも忘れて、甘美な傷の舐め合いにのめり込んでしまう。
だからわざと一歩離れたところでこの男を見ていた。実の兄妹のように距離を取っていた。
嫌みを言われれば憎まれ口でそれを返した。旅のパートナー以上の感情を持たないように努めてきた。
それでも、いつも自分を守ってくれたこの男に徐々に惹かれ始めていた自分の心に嘘はつけない。
ましてや、自分の半身と言えるものに、自分が神だと信じていたものに裏切られてしまったこんな時には。
この男を今以上に好きになるのが怖かった。自分が壊れてしまいそうで怖かった。
それなのに。こんな形でこの男を愛し、肌を合わせてしまうとは。

身体の中を掻き回され続け、少女はただ叫び声を上げながら揺さぶられ、翻弄されていた。涙が零れる。
少女のすべてと男のすべてが身体の中心でぐちゃぐちゃに溶けて、ひとつになる。
何度目か突き上げられた後に、少女は昇り詰め、激痛にも似た絶頂を迎えた。身体が震える。意識は一瞬、遠のいていった。
少女は自分の身体を拭っている男の手の感触で、ぼんやりとした意識が戻るのを感じた。
気を失えれば幸せだと思ったが、それは叶わなかった。
やがて少女の頬を涙が伝い始める。堪えようとしても噎び泣きが咽から漏れる。
まるで、実の兄か――或いはそれ以上に血の繋がりの濃いものと契ってしまったような、禁忌を破ってしまったような背徳感に襲われる。
今、自分の傍にいるのは血の繋がりのない他人である筈なのに。胸の奥が痛む。
その痛みはどこか甘やかなものを秘めている。

セラの大きな手が少女の顔を伝う涙を拭った。
「泣くな、後悔しないと言ったろう」
「後悔なんかしてない、よ……」
少女は噎ぶのを堪えて深く息を吸い、宙を見ながら独り言のように言った。
「セラ……ロイ兄さんはね……私の神様だったの。私にとって神様はノトゥーンじゃなくて兄さんだったの。
「でもその神様に裏切られてしまったの。私は何を、これから何を信じたらいいのかな……?」
セラは少女の頬を両手で包んで顔を見つめながら言った。
「自分を見捨てるな、自分を信じるのをやめるな……お前は闇には墜ちない。お前はお前なのだから」
「セラの事は、信じていいよね。セラは私から離れたりしないよね」
少女は自分の細い身体が強く抱きしめられるのを感じた。少女は思う、この男の温もりが今は素直に嬉しい。
「俺から離れるな……二度と」
少女はセラの首に腕を回した。そしてその薄い唇に唇を押し当ててから、言った。
「セラ、好きだよ……」
涙の味がした。

近い将来、自分はアーギルシャイアとサイフォスとにまた遭遇することになるだろう。
それは追い続けなくてはならない自分とセラとの目的なのだから。
その時、自分は平常心でいられるのか。分からない。
その時が来るまでは、せめて今だけでも、甘い傷の舐め合いに溺れていたい。
傷を舐め合いながら、お互いの損失を補い合いたい。そうすれば例え闇に墜ちようと自分とこの男は何度でも甦れるだろう。

-終-