太陽が沈み、夜の帳が降りはじめたエルズの街。
バイアシオン大陸の南に位置する島にあるこの街の夕暮れは、春先のような涼風が運ばれてくる。
宿の自室で窓を開け、そよぐ風をその身に感じたフェティは、嘆息した。
「食事は豆と芋ばかりで最悪だったけど、空気は悪くないわね」
ジルは相変わらずなその言葉を聞きながら、微笑んだ。
ああ、やっぱり。
闇の勢力が消え、大きく変化した世界においても、フェティは変わらない。
それが、とても嬉しい。
ベッドの端から立ち上がり、ジルは窓辺のフェティへ近づく。
エルフ特有の尖った耳にかかる、くすんだ金色の髪。
自然に緩やかなカーブを描くその髪に何度触れたいと思ったことか。
気持ちのままに思わず、指を伸ばす。
フェティは気づかない…。
そのまま、指を髪に絡めると、柔らかな感触。
「なによ?」
気づいたフェティが訝しげに首だけ振り返る。
ジルは、何も疑っていないフェティの眼差しにたまらなくなり、透けそうなほど白い肩を後ろから両腕で抱きしめる。
フワリ、といい香り。
フェティからはいつも、深い森を思い起こさせるような、香りがする。
「な、なにするのよ!」
身体を強張らせ、」驚くフェティの首筋に顔を寄せ、ジルは囁く。
「ねえ、フェティ。あたしね、とっても嬉しかったんだよ…フェティがそばにいてあげるって、言ってくれた時」
誰も、ついてきてくれないと、そう思っていたのだ。
最強の存在となった自分は戦乱の火種とならぬよう、大陸を去るしかない。

 

明日、エルズから出ている別大陸への船に乗る。
きっと、独りで乗ることになるだろうと、エンシャントでは思っていた。
でも、フェティはエンシャントの城門前まで追いかけてきて、ついていくと、そう言ったのだ。
それだけで。
ささくれ立った心は優しく、丸くなっていった。
孤独に脅かされた心が癒されていったのだ。
「バイアシオンを出る…旅が友達の冒険者だっていっても…本当は、さみしくて………」
思わず、声が震えてしまう。
すると、フェティの身体から強張りが抜けた。
首筋にジルの涙を感じたフェティは、自分を抱きしめたジルの手をギュッと握ってやる。
「馬鹿ねぇ、ほんと下等生物だわ、アンタって。このアタクシが…そんなこと分かっていないと思って?」
「え…?」
間抜けな返事をするジルの腕の中でフェティは器用に身体を反転させ、向き直る。
「アタクシのような博識のエルフは、アンタがさみしがることなんてお見通しなのよ」
そういうフェティの眼差しと表情は、言葉とは裏腹に、思いやりと優しさに満ちていた。
言葉は相変わらず気持ちとは反対のことを言ってしまうけれど…。
本当はフェティ自身、寂しかったのだ…。


セラとは仲が悪かったけれど、フェティは本当は優しさを持っていることをジルは知っていた。
とっても我儘で天邪鬼なところもあるけれど、驚くほど真っ直ぐな純粋さも併せ持っているのだ。
旅をする間、何度も彼女の気の強さと明るさ、そして突拍子もない行動が自分を助けてくれた。
…いつのまにか、自分の中でフェティはかけがえのない存在になっていった。
「フェティ…!」
こらえきれず、嗚咽が漏れる。
そんなジルの頭を胸に抱き寄せ、フェティは幾度も髪を撫で、背を撫でてくれる。
ふにゃりと、柔らかい感触。
暖かい、森の香り…。
「このアタクシがそばにいてあげるのよ。それでもまださみしいといえて?」
もう、さみしくない。
その言葉は嗚咽に阻まれて、言えない。
代わりにジルは強く強く、フェティの身体を抱きしめた。
それで、フェティはわかってくれたのか、もう何も言わず、ジルを撫で続けてくれた。

 

夜になると、さすがに冷え込んで、風も冷たくなってくる。
小さなランプの明かりをつけたまま、フェティがベッドに入った。
ジルも、ベッドに入り目を閉じるが、夜風にあたった身体は冷えて眠気も起こらない。
「…ねぇ、フェティ。まだ、起きてる?」
「なぁに?まだ泣きたりなくて?」
隣りのベッドに問うと、そんな答えが返ってくる。
もちろん、そんなことではなかった。
ジルはためらいつつも意を決して言う。
「そっち…いってもいい?」
一瞬、沈黙が部屋中に満ちて、すぐにフェティの嘆息が聞こえてくる。
「…しょうがないわねぇ、いいわよ。アタクシのありあまる慈愛の精神に感謝なさい」
フェティはいつもの調子だ。
可笑しいのと嬉しいので、吹きだしそうになりながらジルはフェティのベッドに滑り込む。
毛布から、フェティの温もりが微かに伝わってくる。
そしてやっぱり、いい匂いがした。
「何やってるのよ、寒いじゃない。もっと寄りなさいよ」
フェティのその言葉に、ジルは毛布の中でわずかな距離を詰め、両腕でフェティの柔らかい身体を抱きしめた。
「だ、だ、抱きしめろとは言っていなくてよ!」
フェティは身体を強張らせたが、ジルは放さない。
少しすると、フェティもおずおずとぎこちなくジルの身体に両腕を回す。
足を絡めると、フェティの足も冷たい。
でも、密着するともう寒さなど気にならない。
お互いの温もりが伝わりあって、陶然となる…。
顔を間近によせて、おでこ同士をコツンと合わせてみる。
ランプの小さな灯りでも、これだけ近ければよく見える。
フェティは真っ赤になっているようだ。
密着したフェティの柔らかな胸から伝わる鼓動が早くなっている。
「フェティ、大好き」
自然に口をついで出た言葉。
「な、なな…!」
絶句しているフェティ。
ジルはもう一度、好き、と言って出掛かった言葉を遮るように、唇を塞ぐ。
息が苦しくなるまで、続ける。その融けそうなまでのやわらかさに、ふたりは酔っていた。
しばらくしてから、離す。

 

…女同士なのに、とは何度も考えた。
けれど、好きになるのは理屈ではどうにもならない。
テラネの酒場で出会って、驚くべき世界を見せる約束をしてから、どれだけの月日が流れたのだろう。
あの頃から変わらず、我儘な「フェティ様」だけれど、ずっとずっとそばにいてくれた。
「もうずっと前から、好きだった…。最初は一緒にいられるだけで嬉しかった。でも…そのうち、それだけじゃ
我慢できなくなって。フェティのことずっと考えて見てた…。フェティが怒ってるときも、旅で歩いているときも」
「高貴なエルフのアタクシを好きになるのは当然だけど…ずっと見蕩れていたというの?」
フェティは困惑ともいえる表情を浮かべたが、内心はまんざらでもなかった。
それどころか、フェティのほうこそ口には出さないが、ジルを愛しく思っていた。
森を出て、人間の世界で初めて仲間として一緒に歩んだジル。
旅を通して誰よりも深く、フェティに触れたジル。
モンスターとの戦いでも、いつも身を挺して護ってくれたジル。
つい、「当然よ!」などといつも言ってしまうのだけれど、本当は孤独感と寂寥感を癒してくれたジルが大好きだった。
だが咄嗟のことでフェティは何と返せばいいのかわからず、言葉につまる。

 

気まずい沈黙を破ったのはジルの声だった。
「フェティ…ごめんね。女同士でこんなの…変だよね。あたし、困らせちゃってるね…」
「………」
「私、きっと…フェティのこと、男が好きなように好きなんだ」
「……ジル」
「だからさ……ハダカだって見たいと思うし、エッチなことも……ずっとしたかった」
「………」
「もちろん、フェティのそばに居たり、手をつないだり、一緒に旅をしてるだけでも幸せだよ?
でもやっぱり、それだけじゃ満足しきれないし…。でも、そんな事云ったら嫌われるんじゃないかって……」
弱弱しい声でそういってジルは微笑んだ。
その微笑は、泣き笑いのようで…必死に笑顔で取り繕うとして失敗していた。
それを見た瞬間フェティの胸に激情が湧き上がり、考えるより先に口を開いていた。
「べ、別に困ってなんていなくてよ!ダメだとも言っていないわ!」
「………フェティ、それって……」
ジルが意味を完全に理解する前に、フェティは押し付けるように唇を重ねていた。
「「ん…!……ふ、んうぅ………」」
そのキスは、さっきのとは違っていた。しばらく後、ジルは不意に唇に何かが当たっているのを感じた。
決心を固めて、僅かに唇を開く。思ったとおり、フェティの舌が割り込んでくる。
フェティの舌はすぐにジルのそれを探り当てた。
舌が、なぜかとても敏感になって、快感を脳に伝える媒介になる。
ジルも積極的になって舌を求めて、絡ませあった。
重なり合った二人の唇の間から、熱い吐息が漏れる。
灼けつくように熱くて、そしていつまでも唇に残る錯覚。
互いの唾液を交換し合って、一つの生物に生まれ変わるような…。


………いつまで一緒にいられるだろうか。

唐突にそんな想いがジルの心を過ぎる。

 

フェティは、人間ではなく、エルフ………どれだけ長く一緒にいても、いつかは彼女を置いて自分は死ぬ。
それは、とても寂しいことだけど、だからこそ彼女の記憶と身体に自分という存在を焼き付けたいのだろう。
フェティも、それがわかっているから、思い切った行動に出たのだ。
「ん…ふッ…あ……フェティ…!」
ジルは驚きつつも、フェティの想いが嬉しくて、応えるように唇を交わす。
思わず涙が溢れて、ぽろぽろと流れる。
ふたりの頬は紅潮し、髪はほつれて、服の胸元ははだけている。
舌を絡めて、息も出来ないくらいお互いを追い詰める。
「ジ…ジル……激しすぎてよ……ッ」
息が続かなくて、たまらず唇を放すフェティ。
荒い息をついた二人の唇の間には透明な架け橋ができて、プツリと切れた。
「好きよ」
そう言ってジルは再び唇を重ねる。今度は、そっと。
陶然とした表情で自分のキスを受けるフェティが愛しくてたまらない。
「アタクシも…好きよ、ジル…」
キスの後、彼女はそう言って微笑んだ。
それで、止まらなくなった。
「フェティ………フェティッ」
名前を呼びながら乱暴に引き寄せ再び唇を重ね、はだけた胸元から手を差し入れる。
柔らかい豊かな膨らみが、手の中でぐにゃりと形を変える。
フェティの背中に指を這わせ、そのまま腰、臀部へと撫で下ろす。
清楚な草色の下着を下ろし、両足の間へ差し入れると、敏感な部分に指が触れる。
薄い金色の茂みの奥はすでに熱い蜜でしっとりと濡れていた。
「……濡れてる。うれしい。感じてくれて」
そういって、身体を傾け、フェティの胸の上に頭をもっていく。
フェティの右胸に唇を更に押しつけ、 堅く尖っているそれを舌先で弾き音を立てて強く吸い付いた。
「は……あぁッ…ジルッ」
フェティの喉は声を絞り出してしまう。ジルはそれだけで嬉しくなる。
間隔を置きながら何度も吸い、舌先でそれを上下に弾いていると
フェティの様子が変わってきた。

 

微かに首を振り、頭に置いてあった手を肩に置き突き放そうとしている。
様子を伺おうと唇を離すと、フェティが左胸を頬に寄せ付けてきた。
何を意味しているかすぐに察知したが、 ジルはフェティの視線を無視して右胸への愛撫を再開した。
「はッ、ん、ジル…」
小指の先ほどに膨らんだそれを歯を立てて挟み、舌先で左右に弾く。
フェティの体が左右に捩れる。だが愛撫を弱める事無く、更に激しく責め立てる。
「ひぁ!あッ、んッ!」
悲鳴に近い声が喉から漏れる。肩を掴む手に力が入ってくる。
「ジル、お、お願い…アタクシ…これ以上…は、ぁ」
余程堪えているのか、目尻に涙を浮かべていた。
ジルはやっと右胸の愛撫を止め、フェティの目尻にキスをして左の胸に顔を埋める。
フェティは再びジルの頭に手を当て、待ち焦がれていた左胸への愛撫を迎え入れた。
ジルは左胸を口に含み、舌の表側を使いゆっくりと舐める。
「…あ、ん、…んッ」
左胸から甘い刺激が伝わってくる。
腕を上げ、フェティの臀部を撫でる。そこから腿へと濡れた手を移動させ、
そのまま腹部の辺りへ滑らせる。
「ん、く……ジル」
「…私以外の事は何も考えないで…」
「……んん…」
フェティが頷くのを確認すると、ジルは一気に手を下腹部に潜り込ませた。
「あ、ぁ、…ん!」
中指の先に当たる突起を見つけると、両脇の指を使い秘烈を広げ
包皮を剥ぎ、その部分を直接中指で触れて愛撫した。
「……ッ!!くぁ、あん、ジル…ッ!?ふあぁ…」
強い快感がフェティの体を硬直させ、必死にジルにしがみ付こうと腕に力を込める。
指で抑え付けている突起が微動した。重ねている唇の隙間からフェティの声が漏れる。

 

「や、ぁ!……ふ」
ジルは指を離しそのまま手を奥へ滑り込ませ、 浅いところでの出し入れを続ける。
そして熱く熟れているそこへ中指を付き立てた。
「ひあッ、ぁ…」
「フェティ、…好き、大好き…ッ」
少しずつその濡れた中へ指を飲み込ませていく。
根元まで入れ終えると、フェティが大きく溜め息を吐いた。
「ジ、ジルッ…」
少し行きすぎた愛撫のせいなのか、既に中は熟しきって柔らかくなっていた。
指を大きく動かす。腰が遠慮がちに少し引く。
「だめよ、フェティ…ちゃんと…ッ、私を感じて…」
親指の腹で手前にある突起をゆっくり潰すように撫でる。
ジルはその指を何度もフェティに入れたり出したりと抜き差ししながら、自分の秘所も片手で激しく愛撫していた。
「! や、だ…めッ、あ、ん」
フェティの身体が限界に近づく。
それを見てジルの手が激しく動き始めた。
「あぁっ!」
反応してしまう腰を動かすまいとして、フェティはすがる様にして抱きつく。
額に掛かるジルの息は熱い。
「ふ、…あぁ!」
中で暴れるように動く指についていけず、奥が喘ぐようにひくつく。
「ジ、ジルッ……は、やぁ、も…」
フェティが限界に近い事を悟り、 ジルは周囲が狭まり動かしにくくなった指の動きを早めた。
「くぅ、んッ!」
ふと目をやるとフェティのとがった耳がぺたりと垂れている。
なんだか、たまらなく可愛く思えて、耳元にわざと息を吹き掛け、指を内壁に擦り付ける。
フェティの腰全体が震えてきた。
快感の波が次から次へと襲っているのだろう、フェティが登っていくのがわかる。
そうして、やがて。前兆もなく、突然に…途切れて、落ちた。
「…ふあああああッ!!!」
激しく痙攣するフェティの身体を抱きしめ、ジルは指を思い切り奥まで突き入れる。
熱い蜜が断続的に噴出して、ジルの指をしとどに濡らす…。

 

―夜明け前―。
まだ、熱い身体を持て余しながら、それでも二人は抱き合っていた。
篭る空気を解放するために、少しだけ開けた窓から、暖かなエルズの風が吹き込む。
互いに何度も愛しあい、達して、朝は少し足元が危うくなるかもしれない。
「ジル」
そんなことを考えていると、ふと名前を呼ばれ、ジルは顔を上げた。
気だるげに顔を上げたジルの唇にフェティのそれが重なる。
お目当ての果実にありついたフェティは一頻り、堪能してからようやく離す。
「アタクシが心底驚く日は、まだまだ遠いけれど…今日は少し、驚いてよ」
照れくさそうにフェティは頬を赤らめて、微笑んだ。

きっと、いつか別れる時が来る。
それはフェティもわかっていた。
けれど、出会わなければよかったなんて、思わない。
今、こんなにも幸せで…愛する人が傍にいてくれる。
それが人間になるとは思わなかったけれど。
今、この瞬間にも互いの体温を交換するかのようにぴったりくっついている。
身体は少し気だるいけれど、フェティは満ち足りた気分だった。
それはジルも同じだったのだろう。
微笑みあい、腕を絡めあい、ふたりはまた、どちらからともなく身体を寄せ合い、やがて愛撫を始める。

夜明けまでは、まだ少し時間がある。

いずれ訪れる朝まで、その間だけは、互いに愛する人と一つに溶け合う…。

 

せめて、その間だけは……………………………。


END

 

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最終更新:2007年12月12日 17:47