とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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想いを乗せたココロの向かう先

<あらすじ>
ゲームセンターで上条にコツを教えて貰った美琴。
お礼に日曜日遊びに行かないかと誘うと、上条はあっさりOK。
しかし、その日曜とは、2月14日バレンタインデーであった…
→【想いを乗せた拳の向かう先】の続編となります。

□□□□

『第四学区の催しに行きたいと思ってます。11:00に駅前待ち合わせで。  御坂美琴』

上条当麻は、了承のメールを返しつつ、第四学区のイベントを調べる。
第四学区は、食品関連の施設が多く並び、この学区だけでほぼ世界中の料理を楽しめる学区であるが、
2月14日の日曜、『カップルで楽しむバレンタインイベント』として、協賛店を巻き込んで色々行うらしい。
ひとまず、次の日曜遊ぼう、という話は、バレンタインデーと知っての事だろう、とは分かった。

(御坂は…何を考えているんだろうか)
割りきってカップルになりきって遊ぼう、なら上条も気楽に、問題なく遊べる。
とはいえ、なんといってもバレンタインデーである。
『あの可能性』も考えておかないといけない、と思う。
(でも、俺が御坂に何かしたっけなあ…?)

シスターズの件や、白井黒子を助けた件ぐらいしか、御坂美琴にプラスになるような事はしていない、と思う。
宿題などを年下に聞く情けない高校生、理由は不明だがしょっちゅう電撃を落とされ、その他遅刻や諸々…
マイナス要因ならいくらでも挙がってくる。
(うーん、やっぱそっちの話はねえよな。バレンタインにソロ活動は恥ずかしい、とかだろうな)

とりあえずは、インデックスから、その日どう逃げるかという点が、一番の問題だ。
TVっ子のインデックスもその日がバレンタインだというのは分かっている。
まだ言わないだけで、何か画策している可能性だってある。
…考えた末、上条は1本の電話をある所にかける。


「インデックス、俺今週の日曜、病院で検査してくっから。悪いが留守番な」
「えっ、とうまどうしたの!どこか悪いの?」
純粋無垢に心配するシスターに、上条は心を痛める。嘘ではないが…
「いや、経過検査だから。先生に近いうちに来いと言われてたんだ。」
「…そっか。遊びたかったけど、しょうがないね」

――ゲコ太先生にアリバイ工作を頼むと、ノリよくOKは出してもらえたが、条件を出された。
本当に9:00、検査に来ること。それは1時間で終わるからと。そしていつか、シスターズのリハビリに付き合うこと。
検査を本当にやる以上、ちょっと罪の意識も軽くなった上条である。
リハビリの方はまた考えればいい、と安直に考えていた。


御坂美琴も来るべき日に備えて、考え込んでいた。
こちらも最難関は白井黒子である。
黒子は14日、美琴の動きをサーチし、近づく者をデストロイするはずだ。
(やっぱり、正攻法で逃げるのが一番かな…)
ホテルを取り、着替え、地下からタクシーで逃げる。今回は、私服で動きたいという思惑にも合う。
これなら、探偵でもない黒子は追いかけられないだろう。


2人は準備を着々と進め、Xデーを待つ。

当日11:00。天気は快晴。
病院での検査に手間取り、タクシーで駆けつけた上条当麻は、御坂美琴の姿を探す。
常盤台中学の制服らしき人物がいない。
ありゃ、駅の向こう側かなと思った時、大きな柱の影から手をふる少女を確認する。
(げっ…!)
白いプリントシャツに黒のファー付きジャケット、紫系のミニスカートの…
恥ずかしそうに小さくなっている御坂美琴が、そこにいた。

「き、着替えたのか御坂。制服は?」
「制服でさすがに動きたくなくってさ、今回は」
美琴は何か窺うように上条を見つめている。こんな時、言うべき言葉は一つ。
「あー、うん、似合ってるぞ。ちょっと目のやり場に…困るぐらい」
「あ、アンタがそういう台詞言うなんてね。…ありがと」
「さすがに短パン履いてない…よな」
「みりゃわかるでしょ!ちょっとスースーするけど…」
これは本当に目のやり場に困る。

「よし、とりあえず行こうぜ。ここに長居は無用だ」
「そうね。色々と電車の中で話しましょ」
ここでは知り合いと遭遇する率が高すぎる。
2人は早々に切符売り場に向かった。


モノレールの中は、結構混んでいた。
逆側の扉のスペースを確保し、美琴を守るように上条は立つ。
「んーと、第四学区ってことは、食いまくるつもりなのか、今日は?」
「そう言っちゃうと身も蓋もないけど、そんな感じ。いくつか予約しといたわ」
「手回しいいな」
「混んでそうだったし。アンタは甘いもの苦手じゃないよね」
「ああ。でも胸焼けするほどは食いたくねーぞ。」
「大丈夫、量より質って感じで選んだし」

上条は車内を見回す。
第四学区イベント狙いのせいか、カップルが多い…が、どう贔屓目に見ても、
御坂美琴が際立っている。目移りしている男どもが、相方に睨まれている姿もある。
「どうしたの?」
「帽子でも買わねえと、こりゃ目立ちすぎだな…」
「?」

「いや何でもない…ところで、手を繋ぐぐらい、かまわねえよな?」
「え」
「これ相当混みそうだしさ。はぐれちまう」
それを聞いた美琴は、上条の左手の甲を、右手で掴んだ。
「う、うん、掴んどく」
(い、いや電車降りてから、…まあいいか)
…一気に照れくさい状況になり、2人は無言になった。


(浮き足だってるなあ、私。でもコイツも何かアガってるような…)
ちょっとは意識してくれてるのかしら、と美琴は思う。
実際、上条はアガっていた。
「…今日は化粧してんだな」
「常盤台じゃ校則違反だから…今日もちょっとだけよ。香水もつけたけど、匂いきついかな?」
「いや、それは全然問題ねえ、けど…」
「けど…?」
「いや、何でもねー」
良く分からないが、化粧していることについては認識してくれているようだ、と分かって美琴はちょっと嬉しかった。

上条は電車から降りたら、ある提案をしようと心に決めていた。

第四学区の駅に到着し、改札を出ようとする美琴を、上条が引っ張る。
「ん?どこ行くの?」
「ちょっとそこのカドに」
上条は人の流れに逆らうように歩き、人のいないコーナーに歩を進める。
普通に乗降するルートから完全に外れているので、無人だ。
「どうしたのよ?」
「えーっと、相談なんだけどな」
上条は、ちょっと照れたような顔をして、言いよどんでいる。

「実はさ…俺、今日のお前にとても接しにくくてさ」
「え…」 美琴に軽く衝撃が走る。
「いや、悪い意味じゃなくてだな、お前がなんか変わりすぎて、どう対処していいものか掴みかねてるんだ」
「ふ、普通にしてくれればいいじゃない」
「例えるなら、精巧なガラス細工を手渡されて、これを数時間守りきるように、って言われてる気分なんだよ!」
「そ、そう言われても。普通に接してよ」
「それができねえから困ってるんだ。だから、その改札を境目に」
上条は息を継ぐ。
「恋人みたいに動かないか?というお願いなんですけど!」

美琴は動揺しつつも、
「ぐ、具体的には?」
「手は勿論、腕を組んだり肩組んだり。もちろん一線を超える気もねえし、嫌なら振りほどいてくれ。」
「カップルごっこてこと?」
「ああ、そういうこと。下の名前で呼び合ってさ、冗談言いまくって。」
「…」
「頼む。今の距離感のまま、歩きまわると胃に穴が開きそーだ」


「…イヤ。」
美琴は小さくつぶやいた。
「う…ダメか」
「もう…ごっこはイヤ。」
「え?」
思わず上条は聞き返す。

「もう…罰ゲームとか、ごっことか、そういうのは、イヤ。」
「御坂…?」
「私にとって今日は…ごまかしのない、本当のデートのつもり」
美琴はぐっと唇を噛み締める。
ダメだ!今はダメだ!美琴の頭の中でアラートが鳴る。
しかし、もう止まらなかった。

「あーもうっ!! …私はアンタが好きだからもう偽デートは嫌ッ!いい加減気付け、このド馬鹿ッッ!」


総ての電撃を防いできた上条だが、ついに言葉の落雷に撃ち抜かれた。
「最後に言うつもりだったのに、今言わされちゃ、今日はもう台無しじゃない!
 ホントにもう、アンタってば…」
言葉が次第に小さくなり、美琴はうつむく。

「数日前から、夜も眠れないぐらい楽しみにしてて…
 どこに行こう、何を着ようって…なのに…」
涙声になり、肩を震わせだした美琴を見て、固まっていた上条の足がようやく動く。

この状況になっては、さすがに優しく抱きしめる他、方法はなかった。
「いや、その…すまん。」
御坂ってこんなに華奢だったのか、と、改めて思う。

「いつも『出会いが欲しい』なんて言ってたのが馬鹿みてーだな。ここにいたんじゃねーか」

「…え?」
「中学生ってのがネックだけど、それは俺がしっかりしてりゃいい話だしなー」
「ええ?ちょ、ちょっと!?」

美琴は上条の想定外な態度に慌てつつ、上条を見上げる。
「な、悩むとか何かないの? あ、あのシスターとか、何かあるでしょ」
「カミジョーさんはいつだって恋人募集中ですけどね」
上条は美琴に口をわずかにゆがめた苦笑いを見せた。

「そう…インデックスの話はしなくちゃなんねーな。
 …俺は、過酷な運命を背負っているアイツを守ると誓った。御坂、お前も。
 俺はさ、救いを求める声があれば、飛び込んで行く。俺にしかできない事なら。
 例え、恋人が止めようとも、俺は、俺の信念で動く。」
美琴を抱きしめる腕が、少し強まる。
「だから、例えばインデックスがまた海外で助けを求めたなら、
 全てをおいて、俺は助けに行く。
 守るという誓いは、何よりも優先する。…恋人がいようとも、だ。」

「なんでお前が俺なんかを好きになったか分かんねーけど。
 …でも俺はそういう、恋人を省みないヒドイ奴になる、と思う。」
上条は一息いれて、美琴に問いかけた。

「そんな、俺でいいのか?」

――美琴の答は決まっていた。
「…うん。そんな時が来たら怒るとは思うけど、さ」

美琴は腕を伸ばし、上条に腕を回してしがみつく。
「でも、そんな怒るという行為一つすら、…電撃を止められるアンタ以外には本気でできないのよ、私」
「…」
「恋人なのに、心の底からケンカもできない関係なんて…本物じゃないよね。」
美琴は上条の胸に深く顔を押し付けた。
「私は…アンタしかいない。絶対に、離したくない…ううん、離れられない…」
「御坂…」

「でもカミジョーさんも、お前が本気で怒ったら、ケンカする前に土下座すると思いますが」

「アンタは…何でこんな空気でそんなボケたことしか言えないのよ!」
さすがに電撃は出さなかったが、ベアハッグでもするように美琴は上条を思いっきり締めた。
「お、落ち着け御坂!冗談だ冗談! いてえってば!」
「交際OKって言えー!言ったら離す!」
「ああ、OKOK!だから離せっ!」

ピタッと美琴の動きが止まり、腕が緩まる。
「ホント…に?嫌々じゃなく?」
告白してから、初めて上条の顔を見る。
上条は同居人の顔を思い浮かべながら、美琴に頷く。
「OKだよ。まだちっと話すべきことはあるけど、ま、それは後々。じゃ、…」
体を入れ替えて美琴の肩を抱いた体勢になった上条は、美琴に笑いかける。
「参りましょうか、恋人の世界へ」
「う、うん!」


上条は、美琴の告白を聞いた瞬間から、『救いを求めるものを助けるモード』にスイッチが切り替わっていた。
そこにはもう、浮き足立った先程の姿はなく、自分を心の底から愛してくれている女の子を守る姿、となっていた。
(大切に…しなきゃな)
腰に手を回してしがみつく美琴の温もりを感じつつ、上条は心に誓う。

2人は改札を過ぎた後は、手を握って目的のベーカリーレストランに向かっていた。
「と、当麻って呼んでいいよね…?」
「はー、アンタからすげーランクアップですねー…そーいや、俺苗字すら呼ばれた事ないんじゃね?」
「…うん。私、『アンタ』か『馬鹿』としか呼んでないと思う…」
「…それで好きだと気付け、とか無茶苦茶言ってません…?」
「うるさいっ!言うなあー!」
美琴は照れてつないだ手をブンブン振り回す。
「はいはいっと。じゃあ美琴さん、今後は当麻でよろしくですよー」
「…もう!」
美琴は口を尖らせながら、それでも嬉しそうに身体を上条に寄せた。


「こりゃウマイな。焼きたてはやっぱウメエ」
「おいしーね。有名店の名に恥じないわねえ」
2人はベーカリーレストランのペア席で、並んで仲良くクロワッサン等を頬張っていた。
入り口には長蛇の列だったが、予約で何の苦労もなく入れた。
「あと何店予約してるんだ?」
「2箇所ね。両方ケーキのお店だけど」
「そっか。ウマイからといって食い過ぎちゃマズイな」
「うん、適度にね」
店ではヴァイオリンの生演奏を行っている。
イベントデーでは毎回行っているらしい。

「そういや、美琴もヴァイオリン弾けるんだよな?」
「嗜む程度ですけどね。この演奏はやっぱプロねえ…私にはとてもとても」
「前にお前の女子寮のナントカ祭で聞いて以来だな、ヴァイオリンは…あの子には悪いことしたなあ」
美琴の手が止まる。
「あの子?」
「綺麗な子だった記憶はあるんだけどな。演奏前に邪魔しちまった…あれ?」
上条は眉をひそめる。まじまじと美琴の顔を見つめ直す。
「アンタまさか…私と気づいてなかったの!?」
「お、お前か!い、いや、そういやそうだ!制服のせいか、今の今まで一致してなかったぞ!?」
「ありえないでしょ…って」
美琴は一つの可能性に思い当たる。上条は美琴の表情の変化を見て、頷く。

「…俺が持つ、お前との記憶はその辺から、だ」

美琴は息を飲む。
「御坂妹との件からは全部記憶にある。…でもそれより前はな。忘れちまってすまない」
「ご、ごめん!その話はまた今度にしましょ!せっかくのデートだし!」
「そうだな。…まあでも、あの時のあの子が、美琴だと分かったのは収穫だ。いつか謝りたいと思ってたから」
「アレね、私にとっては逆に緊張がほぐれて助かったのよ。…でも引っかかるわね」
「なにがだよ」

「初対面に近かったわけよね。そんな相手に『すごく綺麗』とか…他の子にもいつもそうやって声かけてるのかしら?」
「ちげーよ!至近距離であんな肩の開いたドレスなんて初めてで、目が奪われ…って何言わせんだテメーは!」
「じゃあ綺麗って顔じゃなくドレスだったの?」
「はいはい、美琴さんが可愛すぎて、ドレスしか正視できませんでした!これでいいだろ?」
「ふざけんなーー!」
美琴はプッとふくれてジト目で上条を睨みつける。内心、記憶喪失というシビアな話から離れられてホッとしていたが。
実際のところ、記憶を失ったばかりのその頃の上条は、出会う人が知り合いかそうでないかで神経をすり減らしており、
知り合いでないと判定されたドレス姿美琴は、記憶の片隅に追いやられていた、のである。


昔話に花を咲かせて、しばし楽しい時を過ごす。
「そろそろ次いくか?」
「そーね。ちょっと色んな店冷やかしながらいけば、ちょうどいい感じかも」
そう言いながらカバンの携帯をチェックする。
「うげ…黒子から鬼のように着信が…」
「…相手して貰えなくて怒り狂ってそうだな。おっと、俺病院で携帯の電源切ったままだった…」
「あれ?舞夏からも…珍しい、ちょっと掛けさせてね」
「ああ」

『おーみさかみさか~。ラブラブらしいなー』
土御門舞夏の第一声はこれだった。
「な、なに?カマかけようったって、そーはいかないわよ!」
『いやもうすごい勢いで噂が広まってるぞー。第四学区の駅でLV5が抱き合ってたって』
「ぶっ!」
『女子寮の方も、みさかが男といるということで、嘆き悲しんでいる女の子がいっぱいだそうだぞー』
「えええっ!」
『兄貴が言うには、上条当麻に色々と渡したい連中が第四学区に向かってるそうだしー」
「ちょ、ちょっと…」
『兄貴の携帯にクラスメイトやら外国人やらが上条当麻の居場所の問い合わせしてきて、兄貴キレかけだー』
「ど、どうしたらいいのよ…」
『…上条当麻はモテるんだぞー。油断すんなよー。あ、兄貴呼んでるから、これでー。』
「え、ちょっと、舞夏!?…切れちゃった」

美琴は青ざめながら、首をかしげている上条に概要を話す。
「何だよそれ…今の場所までバレてそうな勢いじゃねーか」
「まあ私がその、噂になっちゃのはともかく、当麻ってそんなにモテてるの?」
「いや、そんなハズねえ。クラスでもバカ扱いだしな。」
この鈍感男のことだ。…本人の感想などアテにならない。
「い、いきましょ。落ち着かないし」
「あ、ああ…」


上条は外に出ると、タクシーを止め、乗り込んだ。
「え?」
「まず、ちょっと離れよう。邪魔されたく、ねーだろ」
美琴は戸惑った顔をしていたが、にっこり笑うと、運転手に次の店の場所を伝えた。

「こりゃ、明日から大変な気がするぞ」
「あははは~…」
「お客さん、後ろ付いて来てるみたいだけど、どうするかね?」
「「え?」」
2人は後ろを見ると、確かにタクシーが後ろに付いている。
運転手がそう言うなら、間違いなく付けてきているのだろう。
「なんだこのやりすぎな奴は…単なる追っかけじゃないかもだな」
美琴は不敵な笑みを浮かべる。
「やっちゃう?」
「物騒な彼女デスネ…ま、きっちり話つけてさっさと終わらせるか。運転手さん、近くの公園に変更ねがいます」
攻の美琴、守の上条。この2人で負けることはほぼありえない。


2人は公園中央で待ち構える。

公園の入口から現れたのは、4つの影。
深くフードを被ったコート姿の4人組だ。上条と美琴の姿を認めると、まっすぐ向かってきた。
(4人…いやな数字だ。その人数で動くヤバイ奴らは思い当たりすぎる。判断ミスったか)

上条と美琴から5メートルのほどの所で、4人組は足を止めた。

「「え?」」
2人は思わず声を上げた。

緊張感が一気に抜ける。
「お前ら…」
「アンタたち、何やってんのよ!」

4人がフードを取る。シスターズの顔が現れた。

「先ほどぶりです、とミサカ一〇〇三二号は挨拶の言葉を述べます」
「どうやって付けてきたんだ?俺先生にも言ってねーぞ!」

「発信機を飲み込んで頂きました、とミサカ一〇〇三九号は種明かしを語ります」
「発信機…? まさか、あのカプセルか!?」
朝の検査の際、先生が離席した際に、御坂妹がスッと入ってきて、カプセルを飲む様、勧められたのだ。
上条は先生の指示で、と思い込んでいたが…
「排出物と共に体外に出るまでは、位置情報は常に押さえられます、とミサカ一三五七七号は答えます」
「ふざけんなテメエ!なんつーことしやがる」
「バレンタインデーはミサカにとっても大事な日です。お姉様の抜け駆けは許しません、とミサカ一九〇九〇号は反論します」

「ふん、遅かったわね。私はもうコイツに告白して、恋人として認めて貰ったわよ!」

シスターズに明らかに動揺が走った。
『き、緊急事態ですと、ネットワークに…』
『お姉様が素直になるという事を、今回計算に入れておらず…』
『…これはもう亡き者に…』
『…いえ、それは我々の存在意義が…』

「ちょっとアンタたち、何考えてんのよ!」
物騒なことを口走り始めているシスターズに対して、美琴が喚く。
「さあ、もう姉の恋人になった人に、ちょっかい出すつもり? 妹なら姉を2人っきりにさせる気遣いぐらいしなさいよ!」

シスターズは聞いていない。
『…では、2号作戦を…』
『ゴーグルを外せば見分けが…』
『…まだ告白だけなら、先に襲って既成事実…』
『…4人同時に…』

「こらーっ!帰んなさい!」
美琴は手をブンブン振り回してシスターズを引っ張ったりしている。
上条は、何だか良く分からないながらも、自分を取り合いしてるようなのは分かっていた。
(イチかバチかやってみっか…)
美琴を手前に引っ張って、そっと耳打ちする。
『えーっ、ダメ!』『そんな、私もまだ…』『なんであの子ばっかり…』
なんとかなだめすかし、上条は歩を進める。

「えーと、御坂妹、ちょっといいか?」
上条が手招きすると、ミサカ一〇〇三二号こと御坂妹は近くに寄ってきた。
首には前にあげたネックレスが光る。
「わたくし上条当麻は本来こういうキャラじゃないんですが…」
そう言うやいなや、御坂妹の左の頬に、そっと口づけをした。

「わりい!今日はこれで戻ってくれ!いくぞ美琴!」
上条は美琴の手を掴むと、大通りに向かって走り出す。

「……ミサカはミサカの純潔が奪われ愛の証がミサカの頬にミサカがミサカに…」
シスターズのミサカネットワークは、御坂妹の暴走によって統制不能となった。


美琴はブンむくれ状態でガンガン歩く。
「なんであの子ばっかり!ネックレスとか、キ、キスとか!」
「しょーがねーだろ。実際追跡はあきらめたようだぞ。さすが同じDNA、あーいう攻撃に弱いな」
上条は後ろを振り返る。
「こんな男だったなんて…妹たちの心をもてあそんで…」
「こっちは発信機いれられてんだぞ!おあいこだ!」

上条は美琴の髪の毛をくしゃくしゃっと撫でながら、
「まあ後で病院寄って謝ってくるよ。さあ、予約の店いこーぜ!」
「あ、…やばーい!時間過ぎてる!いこっ!」


――駆け出す初々しい恋人たちの時間は始まったばかり。来たる障害もまた彼らを愛する者たち…幸せな2人である。


fin.


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