とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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やくそく



御坂美琴は、自販機の前に立っていた。
それも長い時間。
それは何故なのかというと。
上段にあるスイッチを押すことができないからだった。
別に、怪我をしているわけではない。
単純に、身長が足りなかった。
御坂美琴は、小学校1年生だった。
そうして、どうしようかなと美琴は悩んでいると、

「どうかしたの?」

声をかけられた方を向いてみるとそこにはツンツンした頭の少年が立っていた。

「えっとね、うえのすいっちにとどかないの」

警戒という言葉をまだ知らない美琴はそれに素直に答える。
少年は「そっか」と呟くと。

「じゃあ、ぼくがかわりにおしてあげるよ」

と提案してきた。
美琴はそれを聞いて目を輝かせながら

「ほんとに!? ありがとう!」

と満面の笑みでそれに応じた。
すぐに美琴は小銭を入れはじめる。
すると、突然公園の広場の方から声が飛んできた。

「あ!!」

その言葉を聞いた少年が振り向くと、サッカーボールが飛んできていた。
しかもそれは、まだ気づいていない美琴の頭に直撃するコースだった。

「あぶない!」

少年は咄嗟に体が動いて、美琴に体ごとぶつかって美琴をそのコースから外す。

「きゃぁっ!?」

美琴は悲鳴をあげながら尻餅をつく。
その直後、ゴン!という音と共に少年の頭が自販機にぶつかっていた。
少年は、美琴の体を突き飛ばすので精一杯で、美琴の代わりにサッカーボールが頭に直撃していた。
その直後、ガコン!という音が自販機から聞こえた。
少年の頭は、下段のスイッチに見事あたっていたらしい。
でてきたジュースは、『いちごおでん』だった。

「い、いててて……」

「だ、だいじょうぶ?」

痛そうに頭を押さえる少年に、美琴は近づいて心配する。
そこへ、間違って飛ばしてしまったらしい少年が近づいて、一言謝るとサッカーボールを持って去っていった。

「だいじょうぶ。なれてるから」

「え……?」

美琴は驚いて大きい目をさらに大きくした。
少年は自販機のスイッチが押されていることに気づく。
そして、自販機からジュースを取り出して、それが何なのかを見る。

「ごめんね。じゅーす。すいっち、さっきのでおしちゃったみたい」

突然謝られたことに美琴は驚きながら、

「あ、あやまることなんかないよ! あなたはわるくなんかないもの」

少し大きめの声量で言っていた。

「いいや、これもいつものことだから。ぼくのせいなんだ」

「ぇ……? いつもの…こと?」

再び美琴の顔が驚きに染まる。

「そう。ぼくがいるとね、いつもふこうなことがおきるんだ。なんでなのかはわからないけど」

そういって、少年はすごく悲しそうな顔で笑っていた。
美琴は思う。なんとかしてあげたいと。
そして、気づいたら自然としゃべっていた。

「だったら。わたしがあなたをしあわせにしてあげる」

少年は驚きの顔をして止まった。
少しして、少年は言う。
そんなことは絶対に不可能だというような顔をして。

「むり……だよ」

そんな言葉を言われても、美琴は全く怯まないで、無邪気で、優しい笑顔で、少年に希望という光を与える。

「むりじゃないよ。いまはまだ、れべる1だからむりだけど。これからもっとがんばって、れべる5になるから。そしたらあなたをしあわせにする。あなたのふこうをふきとばしてあげる」

今までそんなことを言ってくれた人などいなかったのだろう。
少年は再び、驚きの表情で止まっていた。

「だから、あなたもあきらめないで」

こんなにも優しいことを言ってくれる人がいて。
少年からは諦めるという言葉がこの日から消えた。
少年は、目の前の天使のような優しい少女に、とびっきりの笑顔を見せて言った。

「うんっ! ……ありがとう」

それを見た美琴は同じくとびっきりの笑顔で。

「それじゃあ、やくそくだね」

「え…? やくそく?」

「そ。やくそく。ちゃんとまもれるようにやくそくするの」

少年は驚いた表情をして、その後笑って。

「わかった。やくそくする」

お互い、小指をだして、絡ませる。

「わたしは、れべる5になってあなたをしあわせにする」

「ぼくは、しあわせになることをあきらめない。あと、―――」

少年は、少し恥ずかしそうにしながら、けれどしっかりと最後まで言った。
その言葉を聞いて、美琴は初めはキョトンとしていたが、すぐに笑顔に戻って。

「うん。やくそくだよ!」

そういって、二人はゆびきった。










AM6:03

御坂美琴は目を覚ます。
そこは、いつもの寮の一室で、朝の陽射しがカーテンの隙間から入り込んでいた。

(なんだか……夢をみていたような…?)

美琴は夢の内容を思い出そうと試みるも、断片的にしか思い出せない。
何か約束をしたのは覚えているが、相手は誰だったのか。顔が出てこない。
あの少年が最後に言った言葉も、思い出すことができなかった。

(昔の……夢? あんなことあったっけ…?)

いまいち覚えていない。
黒子はというと、既に部屋にはいなかった。
美琴は、携帯にメールが来ていることに気づいて、見る。
メールは、黒子から『(前半は無意味なラブレターなので略)ジャッジメントの仕事で少し出かけて参りますの』というメールだった。
しばらく考えていたが、思い出せない。
いつまでも考えていてもきっとわからないだろうと思い、美琴はいつもの制服に着替える。
ふと、途中で思う。

(幸せだとか、不幸だとかって、相手がまるであの馬鹿みたいじゃない…)

着替えを終えて、美琴は朝食までどうしようかと考える。
今日は休みの日なので、学校にいく必要はない。
しばらく考えた末、することもないので散歩にでも行こうと思いつく。
アイツに会えたらいいなという期待も加えてみたが、さすがにこんなに早くからは出かけてないだろうと思い、少し落胆する。

(とりあえず、どこにいこうかな)

寮をでてから考えるも、行き先は思い浮かばない。
なのに、不思議と足は一つの場所へと向かっていた。










AM6:05

上条当麻は目を覚ます。
いつものバスタブで、やはり薄暗い。

(……変な夢みた)

夢の内容は、大体覚えている。
相手の顔はさっぱり思い出せなかったが、何を約束して、最後に何を言ったのかは覚えていた。

(昔の……夢、なのか?)

今までそんな夢は見たことがなかったから、判断がつかない。
それに、上条当麻は記憶喪失である。ある日より昔のことは、わからない。

(ま…まさか。あまりにも不幸だからあんなことを妄想したとかじゃないよな俺ー!?)

まさかそんなアブナイ人にまで…?と上条は勝手に戦々恐々していた。
とりあえず、夢のことを頭から追い払い、朝食を準備しなければならない。
そう思って、リビングへやってきて、上条は驚愕する。

「え? 6時12分…?」

自分の中ではすごく早い時間に起きてしまった自分に驚きを隠せない。
二度寝することも考えたが、何故か眠気がない。
今日は学校もなければ補習もないので、することがない。
早めに朝食を作るとインデックスを起こすことになるのでやめておく。

(……たまには、散歩でもすっか)

そう思って、上条は着替える。
思わず学ランに手が伸びそうになった自分に落胆するが、よくみると他に着替えがないことに気づく。

「…不幸だ」

学ランを着て外に出ることに少し躊躇いを覚えるが、行かないとすることがないので諦めて着用する。
そして、インデックスを起こさないようにドアをゆっくり開けて外へといく。
音をたてないようゆっくりドアを閉めて、いざ散歩へ。
寮から出て、どこへ行こうかと悩みながら歩くが、自然とその足はとある場所へと向かっていることに上条は気づかなかった。










AM6:25

(な、なんでここに来ちゃったんだろ)

御坂美琴の視界には公園があった。
その公園には、いつも美琴が蹴りを入れている自販機がある。
夢ではまだ小学生だったため、この学区ではない公園なのだが。
何故か夢と同じ自販機のある公園に来てしまっていた。
公園では、こんな時間にもかかわらず中学生くらいの子達がサッカーで遊んでいるのが見える。
それをみて夢の内容を再び思い出す。
そして、夢であれ誰かに向かって言った自分の言葉を思い出し、少し顔が赤くなる。
少しドキドキしながらこっそりと公園の自販機を覗き込む。
そして、美琴は驚愕することになる。

(ッ!!? な、なんで!?)

自販機の前には、ツンツン頭をしたあの馬鹿が立っていた。
あの馬鹿―――上条当麻は、ジュースを買うわけでもなく、蹴りをいれるわけでもなく。
ただボーッと自販機を見て突っ立っているだけだった。
その様子をみた美琴は夢の内容を思い出す。
誰と何を話していたのかを。
だけど、何故だかあの少年が最後に言った言葉だけは思いだせなかった。

(な、何やっているんだろ……。まさかまた飲み込まれたとか?)

美琴は上条に声をかけるか逡巡して、決断する。

「どうかしたの?」

そう言ってから、夢で少年が同じことを言っていたことを思い出す。
それを聞いた上条は、美琴の方を見て固まっていた。
美琴はなぜ上条が固まったのか理由がわからない。
ただ、見つめられている恥ずかしさで顔が少し赤くなる。

「な、何ジロジロ見てんのよ?」

上条はハッと我に帰り、目を逸らして。

「わ、悪ぃ。ちょっと、変な夢に似てたから」

夢という単語を聞いて美琴は驚きながら尋ねる。

「夢? ……どんな?」

上条は「あ、あー。それはだな」と言って目を逸らす。
それは、(夢とは言ったけど、妄想だと思われたらどうしよう)という考えで言うのを戸惑っているのだが、美琴はわからないので。

「何? そんなに人に言えないような夢なの?」

と、挑発してみる。
上条はその言葉に少し慌てながら。

「い、いや。そういうわけじゃないんだが……」

「じゃあ、何よ?」

「わかったわかった。じ、実はだな。自販―――」

上条が意を決して言おうとした時、公園の広場の方から声が聞こえた。

「あぁ!!」

上条達の方へ向かって飛んできた物体はサッカーボールだった。
先ほど広場で遊んでいた子の一人が間違えて飛ばしてしまったらしい。
そのボールは一直線に美琴の方へ飛んできていた。

「御坂! 危ねえ!」

先に気づいた上条が美琴を抱えて跳ぶ。
サッカーボールは夢とは違い、上条の頭に当たることはなく、自販機へとぶつかっていた。
上条は咄嗟に美琴を庇って自身の体を下にしていたため、上条の服の背中には見事に土がついていた。

「す、すいませーん! 大丈夫でしたか?」

駆け付けた少年達に上条は片手を上げて応じると、少年達は一礼してサッカーボールを拾って去っていった。

「御坂、大丈夫か?」

今だ頭を押さえたままだった手を離して、上条は聞く。
美琴はなかなか顔をあげようとしない。

(…こ、これじゃあまるで夢の再現みたいじゃない!)

と美琴は思って、恥ずかしさが出てきて顔を上げられないのだが、上条にはそんなことはわからない。
もしかしてどこか痛いのか?と思って聞こうとしたとき、自販機からガコン!という音が聞こえた。

『へ?』

思わず二人してその音の方を向くと、自販機のジュース取り出し口には『いちごおでん』が入っていた。
二人は口をポカンと開けたまま固まっている。
しばらくして美琴が上条から離れて『いちごおでん』をとりだす。
上条は上体を起こして、『いちごおでん』をみる。

「な、何よ、コレ。新手の嫌がらせ?」

「…なんでこうも夢と内容が似てるんだ」

「ぇ?」

二人は同時に呟く。
上条の呟きを聞いた美琴は目を大きく見開いていた。
そして思わず聞いていた。

「ア、アンタが見た夢ってもしかして、女の子、出てこなかった?」

「え? な、なんでそんなことを!?」

明らかにうろたえた上条をみて、美琴は期待を抱きながらさらに聞く。

「それで、いろいろあって、約束を交わさなかった?」

「な、なんでそんなドンピシャなことが……!? ま、まさかあの夢は」

「ううん。私も覚えてない。けれど、全く同じ夢をみた」

「え? え!?」

上条は状況を整理しようと頭をフル回転させるが、空回りに終わっている。

「でも。二人して同じ夢を見たのなら、多分本当のことなんだと思う」

上条はあの女の子は美琴だったのかと理解する。
同時に、また大規模魔術が起こったのではないかと思ったが、土御門が何も言ってこないので、除外する。
記憶喪失なのに昔の夢は見るのか?と聞きそうになったが、言えば何か言われると思ったので黙る。
長い沈黙。
それを破ったのは美琴だった。

「ね、ねえ。夢の、約束で、最後、何て言ったの?」

「おぶぅっ!? ………さ、さあ? お、覚えてないなー」

上条はオーバーと思えるような驚き方をすると目を逸らしながら明らかな棒読みで言っていた。
美琴は不満げな表情をして。

「何よ。私にはあんな恥ずかしいことを言わせておいて、アンタは教えないと。ほーう」

「うぅっ!? あ、あんな約束は無効だろ? お互い覚えてなかったんだし!」

「ほーう。アンタは幼い頃の私の純情を弄んだと。そういうことね。ほほーう」

美琴がいつになく黒い笑みを浮かべているのを見て上条の体に戦慄が走る。
同時に、上条は美琴が実は知ってておちょくっているのではないかと思ったので。

「お、お前本当は覚えてるだろ!」

「ん? 覚えてはいないけどなんとなく予想はつくわよ」

「だ、だったらいいじゃねえか」

「ダメ。アンタの口から聞きたいの」

(あ、悪魔だ……)

(って、これじゃあ思ってもない告白を強要してるみたいじゃない!)

上条は怖くて震えている。
対する美琴は自分が言った言葉の意味を反芻して顔が赤くなっていた。
上条は諦めて、言おうかと思った時。
美琴は、強要させて言わせるのは嫌だと思ったので。

「私は、あの約束、ちゃんと果たすつもりでいるわよ?」

「……へ? いや、だって、子どもの頃の約束なんだろ? わざわざ守る必要なんt「あるわよ」……へ?」

上条は意味がわからず困惑している。
何故だかわからないけれど、美琴は今ならどんなことでも言える気がした。だから。

「私は、アンタのことが好きだから」

上条はあまりの爆弾発言に呆然とする。
少しして復活すると、恐る恐る尋ねた。

「………ほ、ホントでせうか? 夢の影響でも受けたとか、そんなんじゃなくて?」

「ホントよ。子どもの時はどうだったかわからないけど、私は、アンタのことがずっと好きだったんだから」

思いもよらなかったことを告げられて、上条は選択を迫られる。
だけど、意外なことに全く悩むことなく答えはでた。

「そっか……。じゃあ、俺も約束を守らなきゃな」

美琴はその言葉を聞いて、ある可能性にたどり着き、慌てて否定する。

「わ、私が約束を守るからって言う理由でアンタも約束を守ろうとしてくれるんなら、こ、断るわよ?」

「そんなんじゃねえよ」

上条は笑みを浮かべながら言う。

「いつも不幸になってる俺に、あんな、優しいことを言ってくれる奴を好きにならないわけねえじゃねえか」

「え…? で、でもそれは夢の中の私の言葉で……」

「けど、そんな夢の中かもしれない約束でもお前は守ろうとしてくれるんだろ? だったら、今のお前が俺に言ってくれたも同然じゃねえか」

「え……あ…うん」

上条は顔を赤くしながら言っていたが、言われている方の美琴はもっと顔が赤かった。
上条はいいこと思いついたという顔をして、美琴に言う。

「そうだ。また、約束するか?」

「ふぇ? ま、また?」

「そ。約束」

そういって、上条は小指をだす。
美琴は顔を赤くしながらも小指を上条の小指に絡めた。
小指を絡めたことを確認すると、上条は先を促す。

「じゃあ、そっちからな」

「わ、私から!?」

「そ。別にいいだろ?」

上条に笑顔のままそんなことを言われると、反論ができなくなって。
美琴は頷いてから、あの時の約束の残りを言う。

「わ、私はアンタの不幸を吹っ飛ばして、アンタを幸せにする」

「俺は、幸せになることをあきらめない。そして、―――」
 (ぼくは、しあわせになることをあきらめない。あと、―――)

「美琴を幸せにする」
 (きみをしあわせにするよ)

「約束、だよ?」

「ああ。約束だ」

そういって、小指をきって。
笑顔で見つめ合って、そして。
二人は唇をあわせた。





…おわり。


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