とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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美琴の不幸な初体験



 ここは公園の一角。
 ベンチに座って話をしていた上条と美琴だったが、話はひょんな事から携帯ゲームの話題に。
「御坂、お前って携帯ゲームとかやんねえの?」
「私ああ言うチマチマしたのって駄目なのよね。イラっと来て携帯電話何個か壊した事あるし」
「……大変だなお前」
「な、何でアンタにそんな憐みの眼差しで見られなくちゃいけないのよ!?」
「ははは、冗談冗談」
「大体ゲームなんてのはお子様がやるもんでしょ!? 高校生にもなって恥ずかしく無いの?」
「そ、そこまで言わんでも……。悪い悪い。お前にゲームの話振った俺が悪かったよ。ちょっと頼みたい事もあったんだけど他当るわ。じゃ、俺行くから」
 そう言って上条は携帯をポケットに仕舞い込んで立ち上がる。
 すると美琴は慌てて上条のシャツを掴むと、
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」
「ん?」
「何でそこで食い下がんないのよアンタは? 私に頼みがあるんでしょ? そこまで話したんだから最後まで言いなさい」
「まだ何にも話してねえぞ俺?」
「いいから話せって言ってんでしょ!? もぉ、そ、こ、に、す、わ、ん、な、さ、い、よぉぉぉ!」
 上条はどうだか知らないが、美琴(こっち)はこの憩いの時間が一分一秒でも長く続けばと思っているのだから必死だ。
 それは上条にも――美琴の気持ちが正確に伝わったかどうかは不明だがとにかく必死さは伝わって、
「ひ、引っ張んなよ御坂!? コラ、ビリビリも止めろって! ちょ、判った判ったから……」
 泣く子とビリビリには敵わないと言った体で上条は仕方なく元の位置に座る。
 すると美琴は、少し上条の方を向いて座りなおすと身を乗り出して、
「で何? 頼みって?」
「ああ。今やってる携帯ゲームなんだけどさ。モンスターを育てる奴なんだよ」
「モンスター? 育ててどうすんのよ?」
「あ? 何か全部集めると景品がもらえるんだよ――言っとくがゲコ太じゃねえからな」
 景品と言った所で美琴の瞳が輝きを増したので上条はそれとなく釘をさす。
「あ、そ、そうなの?」
「ま、いいやそれは。それでここからが厄介なんだけど、このモンスターってのが携帯の機種に依存するみたいなんだよ」
「携帯の機種?」
「そうなんだよ。で他のモンスターは何とかなったんだけど後一匹が手に入んなくてさ」
「で私に手伝えって?」
「そうそう! さっすが常盤台のお嬢様は呑み込みが早くていらっしゃる。いやマジで尊敬。」
 そう言って上条はにこにこと笑って見せる。
 笑顔と言葉はいくら振舞っても懐が痛まないから上条は惜しげもない。
 ただしその効果は相手がこちらに注意を示している時に限ると言う訳で、
「ふぅーん……」
 美琴は顎に手を当てて何かを思案している様子で上条の事など上の空だ。
 その事に何か悪い予感を感じて上条は笑顔を引きつらせていると、
「『貸し』よねこれって?」
「ん? ま、まあそうだけど……あ、何? また何かそんな悪そうな笑いして……」
「ふっふっふっ……。楽しみにしといて」
 美琴の言葉に上条はずんと肩を落として、「不幸だ……」と自ら掘った墓穴に落ちた事を嘆いた。
「で、どうすんのよ? ほら」
「あ? 待て待て今俺が見せるから……ん、う、え……と……」
 そう言って上条は自分の携帯電話のボタンの上に指を滑らせる。
 すると程なくして携帯の画面に赤青黄色の目に痛い配色のマーブル模様が現れた。
「な、何これ気持ち悪い……」
「ちょ、ちょっと待てすぐ始まるから」
 不快感を露わにする美琴をなだめながら上条はじっと画面を見つめる。
 するとすぐに画面に変化が現れた。
 先ほどのマーブル模様が水に垂らした絵の具の動きを逆回転した様に形を変えて行き、やがてそれは『怪獣牧場』と言う文字になった。
 そして画面も今までのおどろおどろしい感じから一変、草原をイメージした2Dの映像に、同じく2Dのかわいらしくディフォルメされた犬か猫か良く判らない生き物がチョウを追いかけてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「か、かわいい!」
 当然の様に美琴の琴線を刺激するキャラクターたちに、上条は内心グッジョブを送りながら携帯電話を操作して行く。
「お! ほらこれ」
「うん?」
 そう言って画面に表示されたのは、黄色に虎縞模様の猫の様な姿。
 尻尾は雷をイメージしたのかギザギザの形をしたものが2本ゆらゆらと揺れている。
「ふええ……。こっれもかわいいわね。『電気ネコ』ってのがちょっと気に入らないけど」
 そう言って画面に食い入る美琴。
 中々のかわいらしい姿にさらに興味が増していたその時、美琴は知力、体力と書かれたパラメーターの上にカタカナで『ミコト』と書かれている事に気付いた。
「こ、これ私の名前……」
「あ? 悪ぃ悪ぃ……電気ったらお前の名前が浮かんでつい……」
 上条は咄嗟に言い訳にもならない言い訳を口にするが、美琴の耳には届かない。
(私の名前キャラクターに付けて大事に育てたりしてんだコイツ……)
『美琴、ほらご飯だぞ』
『美琴、今日は天気が良いから散歩でも行くか』
『美琴、でんげき攻撃だ』
『美琴、もう寝るぞ。早くこっちに来い』
 詳細は本人の自主規制のプライバシーの為にも控えさせていただきます、と言いたくなる様な怪しげな妄想が美琴の頭の中でぐるぐると渦を巻く。
「御坂?」
 妄想に没頭して急に黙ってしまった美琴に何が起きたのかと顔を覗き込むと既にその顔は真っ赤。
「大丈夫か御坂?」
「…………」
 改めて名前を呼ぶとぎこちなくもやっとこちらを向く。
 上条はその頭にうっすらと帯電の兆候を見つけて――、
「すとぉぉぉおおおおおおおっっっぷ!!」
「あたッ!?」
 右手で美琴の頭をぺしっと叩いた。
「ビリビリは止めろビリビリは。携帯が壊れる」
「あ、え、そ、そうね。ははは、そうよね……あはははははははは……」
 そう言って乾いた笑いを浮かべる美琴に、
(あれ? ビリビリって言われても怒らない? そんなにモンスターに自分の名前付けられてショックだったかのか……?)
 上条はいつもと違う様子に自分の思慮深さの無さを反省した。
 実はとんでもない妄想をしていた事が恥ずかしくて、とにかく全部無かった事にしたいなどと美琴が思っているなどつゆ知らず、
「悪かったな御坂、俺こいつ消して作り直すわ」
「ふえ?」
「ちょっと待ってろ。直ぐに作り直しちま――」
 そう言いながら画面には『削除しますか?』の文字。
(私が消されちゃう!?)
 怪しげな妄想はともかく、折角上条が自分の名前を付けた何かを持っているのが嬉しかったのに、それを消されてなどなるものか。
 美琴の瞳にきらりと決意の光が輝いた次の瞬間、
「消しちゃ駄目ぇぇぇぇぇえええええええええええええええッ!!」
「ゴフッ!?」
 ほぼゼロ距離からのタックル、そして瞬時にマウントポジションを確保すると、
「消したらその子が可哀そうでしょ!! アンタ大事に今まで育ててたんじゃないの!?」
「あ? ま、まあそうだけど……」
「わ、私は全然気にしてないからッ! そ、そうよゲームのキャラクターに名前使われたくらいでこの美琴さんがショックを受けるとでも!? ほほ、ほほほほほ。甘く見ないでよねッ!」
「キャラ変わってんぞお前?」
「ッ!? い、いいから早く続きを教えなさいよアンタは!」
「わ、判ったから取り合えず俺の上から降りて下さいよ。流石にマウントポジションではお話が出来ませんから……」
 上条の言葉にふと我に返ると、
「!!」
 男のお腹の上に馬乗りになって、お尻をお腹に押しつけて太ももで胴を挟み込んだ格好は、流石の美琴と言えども――いや相手が上条なだけに赤面ものである。
「あ……、ご、ごめん……」
 そう言ってそっと上条の上から退くとしおらしくベンチに座る。
 上条も腹をさすりながら立ち上がると、美琴の隣に座りなおす。
「じゃ設定すっから携帯貸してくれよ」
 上条は美琴から携帯を預かると、割と慣れた感じで携帯を操作してソフトをインストールしてから起動する。
「よし、出来た」
 上条は美琴に携帯電話を返すと画面を指さしながら、
「御坂、こいつに名前付けてくれ」
 指さされている奇妙で憎めない――鼠にイガグリを半分に切って被せた様な姿に、
「何これ?」
「ウニネズミ型モンスターだな。それとさっきの電気ネコ型モンスターを掛け合わせる訳だ――どうした?」
「え?」
「俺の顔に何かついてる?」
「なッ!? ななな、何でもないわよ! 名前付けりゃいいんでしょ名前……え……名前名前……」
「?」
 言葉には出さないが変な奴と言いたげな上条の視線が美琴には痛かったが、そんな事より今は目の前のウニネズミである。
 このツンツンした感じは美琴にとってまさにアレである。
(いいわよね。これしか思いつかないし……。ア、アイツだって私の名前付けてんだし。おかしく無いわよね。全然平気よね。突っ込まないでお願い……)
 そう言って美琴が付けた名前は『トウマ』。
 このすぐ後にとんでもない事になるなど美琴には未来を予知するスキルなど無い。
「お、終わったわよ」
「よし。じゃ通信してっと……」
 携帯電話の赤外線端末部分を突き合わせてデータを送り合う上条と美琴。
(ちょ、ちょっと何でトウマって名前付けたのに突っ込まないのよ!? 馬鹿じゃない!? 馬ッ鹿じゃ無いいいい!??)
 乙女心は何やら複雑の様だ。
 と、1人怒り心頭していた美琴の手の中で鈴の様な電子音が鳴った。
「?」
 時を同じく上条の携帯でも電子音。
「終わったな」
 その言葉に美琴は携帯電話の画面を覗き込んだ。
 するとそこにはこう書かれていた。
『トウマとミコトのあいだにこどもができました。』
 その文字を呼んだ瞬間、頭の中が真っ白になった。
 画面をぴょんぴょん跳ねる棘付きヘルメットを被った猫も、
「よしッ! よし来た針ネコちゃんゲットォォォ!!」
 隣でガッツポーズする上条の事もどーでも良かった。
 何だか判らないが、
(アイツとの間に子供が出来ちゃったああああああああああああああああああああああああああああああ!!!)
 これはゲームです美琴さん、と言う言葉は暫くは彼女の心には届かないだろう。
(何これ? 学校で習った事とか土御門の怪しげな雑誌でチラ見した事とか嘘で、実は電脳コウノトリが赤ちゃん運んでくるとかそう言うカラクリがあって、実はこの世界はコンピューターが作った電脳世界がああああああああああああ!?)
 もう支離滅裂である。
 そうして混乱したまま画面に表示された文字を凝視していると、
「ありがとな御坂! じゃ俺はちょっと用事があっから行くわ!」
「う、うん」
 そう言って上条の背中が小さくなるまで見送った美琴は、
「(私、一生懸命この子の事育てるから……)」
 消え入りそうなほど小さく呟いて、ぎゅっと携帯電話を抱きしめた。
 その後子供の名前に『クロコ』と付けてひと悶着起きるのだが、それはまた別のお話。



END


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