とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

141

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

美琴の一ヶ月



早朝6時前、目が覚めると美琴はおもむろに携帯を開きメールを確認する。
『新着メールはありません』
カエルをモチーフにした携帯のディスプレイを見て大きく息を吐く美琴。
「今日も着てない……。毎日メールしてるのにアイツからの返信が無い」
もうすぐ二人が付き合い始めて半年だ。居候のインデックスがイギリスに戻ったりと上条当麻を中心とした周りは変化していた。
だが、半年の記念日が明日だと言うのに当の彼氏である当麻との連絡が途絶えている。

美琴は『受信メール』を開き、『上条当麻』と名前が付いたフォルダの中で一番新しいメールを開く。
『しばらく連絡できねぇ、訳は次に会った時に話す。……ごめん』
このメールが届いたのは丁度一ヶ月程前になる。最初の一週間位は、(まーた何か厄介事なの?)等と思っていたが、一週間経っても連絡は来ない。
心配になり、毎日数通のメールを返信を期待しつつ、送っているが未だに一度も返信が来ない。
「……もしかして、私捨てられた?」
数日前から朝のメール確認が終わると生気を感じない声で告げている言葉。
(お姉様……。あの類人猿! 今頃何所で油を売っているのですの!)
隣のベッドでは、既に起きているが寝ているフリをしている白井黒子は頭まで布団に被っている。


「――様! そろそろお起きになってくださいまし、遅刻してしまいますわよ」
白井は既に学生服に着替えているが、御坂はメールの確認後に再びベッドに潜り白井の声に返答を返さない。
美琴の状態を知っているが故に、下手な事が出来ない白井は布団を揺さぶるりながら、"憧れのお姉様"である美琴をこんなにしてしまう上条当麻に殺意を混ぜた怒りを懐いていた。
「……ごめん黒子。……今日も休む」
この二日ほど美琴は学校を休んでいる。理由は無論上条当麻の事だ、一度校内で倒れ早退している、それ故寮監並びに担任もしばらく静養させる事にした。
無論、白井もこの案件に付いて寮監達から問われたが、美琴が当麻と付き合っている事は寮監達は知らないはず、その為白井にも『私にも判りませんの』としか答えられなかった。

白井は大きく溜め息を吐き、「行ってきますの……」と告げ、部屋を出た。
一人になった部屋で顔を布団から出し、天井を見上げていると視界が霞み……声を殺しながら涙を流す。これもまた数日、続けざまに行われている。

時間が経ったのだろう、部屋が暗い。泣き疲れて眠っていたようだ。
このような形で一日を過ごすようになり、もう数日当麻に送るメールの数も一通だけになっている。
白井は居ない、まだ仕事で帰っていないのか、食事にでも行っているのだろう、美琴はもう何日もロクな物を食べてない。
"食べたくない"と言っても無理やり食べさせる寮監に"ヨーグルトと一口サイズのパンにキャベツ、ハム、卵を挟んだ物"を2日に一度食べただけだ。
「……そうだ、メールしなきゃ」
うわ言のような声で呟き、携帯を開き『新規メール製作』を押しメールを打とうとするが、一日泣いて寝ただけの美琴には送る内容などあるはずが無い。
親指でボタンの上を撫でるように動かしながらメールの内容を考える。
「もし……捨てられたなら。アイツもいつまでもメールされた迷惑よね……丁度明日までに返信が無かったらもうお終いにしよう。……全部」
再び視界が霞むが、片手で拭いながらメールを打つ「今日はもう寝るね。おやすみ当麻」(単純な内容しか思いつかなかったわね……)と自虐しながら、ボタンを押す。
すると『送信開始』の文字が浮かび、その上に当麻と付き合って初めてのデートの際に撮った写真が浮かび上がった。
(――メ! やっぱりダメ! 送りたくない! 当麻と離れたくない!)
瞳から溢れる涙を他所に中止ボタンを連打したが、現れた画面は『送信は完了しました』と表示した。
「……終わった。私の始めての恋」
携帯を閉じた顔はもはや、死人同然とも言えるほど表情に瞳の輝きも失せている。まるで操られているかのようにフラフラと腕をブラつかせベットに入った。
メールを送り、どれ位時間が経っているのかも判らない美琴は天井を見続けていると、突然蛍光が付き、入り口には寮監と白井が立っている。
白井は盆を持ち、その上にいつものヨーグルトとパン、さらにスープなり何なりと沢山載っている、量にして二、三人分だろうか、一緒に食べようという事なのだろ。
「……あ、お帰り黒子。もう食事は済んだの?」
上半身だけをゆっくり起し、美琴の顔を見た二人は一瞬にして驚愕した顔になり、白井は手に持つ盆を落としかけ。寮監はカツカツと音を響かせながら美琴に駆け寄り抱き締める。
「御坂……一体何があった? 訳を話せ、……無理なら一時的にご両親の元に――」
寮監の言葉を遮るかのように、美琴のカエル携帯が『ガ~ガ~ガ~』と鳴り始め、美琴は一気に凶変し、目を大きく開け、瞳に生気が戻り始め、無我夢中にもがき始めた。
「携帯……携帯!!!」
尋常じゃない様子の美琴を拘束するかのように抱き締め続ける寮監と、静かに部屋の奥にある机に盆を置き、枕元にある美琴の携帯を掴む白井。
「黒子!! 私の携帯を返しなさい!!」
先ほど以上にもがくが、数日生理現象以外は寝たきりで食事もロクに口にしていない、美琴は寮監から逃れられない。
「白井! 御坂に携帯を渡せ!! 早く!」
しかし、寮監の命令を受けても白井は携帯を渡す素振りを見せず、それどころか能力を使い何所かに転送してしまう。
「お姉様、もう良いじゃないですの。"お姉様には黒子がおりますわ"」
「アッ! ……黒子ぉぉぉ!!」
「白井、お前……」
寮監が一瞬油断した隙を突いて美琴は、白井に駆け寄るが途中で強烈な吐き気と頭痛で寮監と白井の間で倒れる。
「急な興奮等は血圧が上昇して身体に毒ですわよ?」
「うぅっ! アンタ!私の……ウッ、携、帯どこにやったのよ」
吐き気を模様しながら、美琴は口を引き、寮監も美琴の傍に寄り背中を擦り、顎で白井に部屋の外へ促す。
顔色一つ変えずに部屋を出ようとする白井を掴もうと動こうとするも、急に動いた事と吐き気により、体が思うように動かない。
「ここで待っていろ御坂、白井は私が何とかする。今は横になるんだ」
寮監は美琴を以前より痩せた美琴を抱え、ベットに寝かせると、部屋を出て行った。

御坂は枕に顔を埋めて泣き始めると、ふと硬い感触を感じる。恐る恐る、片手を枕の下に忍ばせ、"ある物"を掴むと枕から手を引き出す。
「私の携帯……」
枕の下に在ったのは美琴のカエル携帯だ、白井が転送したのは、実は最初に置かれていた枕元から枕の下に移動させただけだ。
不審に想いつつ、携帯を開くと一ヶ月ぶりの"彼"からのメールだ。
『もう寝るのか? エライ早いな、上条さんはこれから晩飯を食べる所ですが』と美琴の状況など露と知らずに送られたメールだった。
嬉しさ半分、安心した気持ち半分、怒りと憎たらしい気持ちが全開といった美琴の心理状態だが、やはり視界は霞む。――いつもの悲しい涙ではなく、嬉しい涙だ――
流れる涙を拭き、メールの返信を打つ美琴。恨み辛み等言いたい事は山のようにあるが、それよりも先に送った返信は、
『おかえり! また厄介事とかしてたんでしょ~? 実は今から会いたいかな。 そっちの都合もあると思うけど会いたい。場所はいつも自動販売の前に来て』
返信するや否や、携帯を寝間着のポケットに入れ、勢いよく廊下に出ると白井が寮監に正座で説教させられている最中だった。
「み、御坂」
「お姉様……」
美琴の顔を見るや少しの間二人は硬直していたが、美琴はお構いなく、白井に抱き付き「ありがと! 黒子」と涙を流しながら強く抱き締める。
メールを返しながら美琴は気づいたのだ、あの時の状況を。もしあの場で寮監の前でメールを開けば事と次第によっては、どうなるか判らなかった。
白井は自分が罰なり何なりを受ける覚悟をしてあの策を行ったのだと。あの時の"お姉様には黒子がおりますわ"とは白井は美琴の側に居る事を指していたのだろう。
「良かったですわね、ひっく、お姉様」
美琴の反応からメールの送り主と内容が美琴にとって良い方向だった事を悟り涙を流しながら抱き返す白井に、
寮監はただただ首を傾げて考え、『御坂を回復させる奇策』だったのだと結論付けた。
そうと思い込むや否や、寮監は「それじゃ後はちゃんと食事を摂って休むんだぞ」と言い残し、去って行った。
白井が持ってきた食事は白井と寮監と美琴の簡素な食事分だけ為、自分の分を美琴に譲るためだったのかも知れない。

「――ん~美味しい!」
「お姉様~これもお食べになります?」
部屋に戻った二人は白井が持ってきた食事を食べているが、実際は殆どを美琴が一人で食べてしまった。
「……それにしても優に二人分を食べて、まだ食べるなんて……太っても知りませんわよ?」
「んー大丈夫! 大丈夫! さてと、そろそろ行きますか」
美琴は最後のヨーグルトを食べ終えると早々と制服に着替え始めるのを見て、白井は大きく溜め息を付くも、
(お姉様も元気なられましたし、今日だけは許してあげますわよ、類人猿……明日からは首を洗っておく事ですの)と一人戦々恐々とする事柄を考えニヤケ付くと、
美琴の支度が終わったのを見計らい、そっと肩に手を載せ「お気をつけて」と告げると美琴を寮の外へテレポートさせた。
すると白井の携帯が鳴り始めて確認すると、美琴からのメールだった。『今日はいろいろとありがとう、さっきは怒鳴ってごめん』それを読んだ白井は自然と微笑みを浮かべ、
着替えを持ちシャワールームへと消えた。

「かれこれ三十分……たく、ビリビリのやつ。急に会いたいって言ってきた癖に、いつまで待たせるんだ?」
上条当麻は、美琴との縁が多い自販機の前で待っており、定期的に携帯の時間と連絡待ちをしているが、呼び出した当人が現れず、つい昔の癖で"ビリビリ"と呟いた為。
「誰がビリビリだぁぁぁ!!」
声よりも先にビリビリ由来の"雷撃の槍"が飛んでくるが、昔からの癖もあり、常人離れした反応速度で右手を出し、飛んでくる槍を消失させる。
「アンタねぇ……い、一応アンタの彼女なのよ! いつまでビリビリ言えば納得すんのよ!」
雷撃の槍が飛んできた方向から勢いよく走ってくる音、視界は雷を無効化した際の土煙でまだ相手は見えない。
土埃が散っていく最中足音が消えたと思うや否や土煙の中から、当麻に向かい美琴が飛び付いたのだ。
咄嗟の事で当麻は仰向けに倒れ、美琴を抱き抱える形になった。「いてて、なにしやがんですか!」と愚痴を溢すも聞えていないのか、美琴はお構いなく当麻の胸の中で泣き喚き始めた。
誰も居ない公園の通路沿いにある自動販売機前で、美琴は長い時間泣き続けた。この一ヶ月で流した分だけで一生分の涙を流すかのように。
泣き止んだ頃に、当麻は口を開く「また泣かせちまったな。……すまん美琴」その言葉は深い悲しみが感じられ、美琴は顔を上げ、当麻の唇を奪う。
「バカ……何で急に連絡取れなくなったのよ。今から洗いざらい喋ってもらおうじゃない。」
目にはまだ涙は残ってはいるものの、悪党っぽい笑顔を見せ立ち上がる美琴に、当麻の顔も少しだけ明るくなり立ち上がる。
「で! どういう事かキッチリ話してもらうかしら?」
これから悪魔裁判か何か始めるかのような雰囲気を醸し出すテーブルに当麻と美琴は向かい合わせに座っている。
あれから、当麻は晩飯を食べる前に待ち合わせに出て、美琴も二人分の食事でも満足しなかった為、ファミレスに向かう事になった。
払いは急に呼び出した美琴が持つという事になっている、もちろん当麻も出すと言ったが、
雷撃の槍を放ったり「ついでにア、――当麻が逃げないようにね」と若干上目気味に見てくるものだから渋々「はい」と答えてしまった当麻は、今から始まるであろう諮問に生唾を飲む。
「で? なんで一ヶ月連絡取れなかったの?」
左腕で頬杖を付いて、当麻を睨むように見ている。会ったら泣かれ、ファミレスに入れば上目で見つめられ、今は睨みつけられ、(いろいろと忙しいな美琴は)と考えているとそれを読み取ったのか。
「早く答えなさいよ!」
若干顔を赤らめながら、テーブルを叩く。夜間で人も疎らとはいえ、数組の客は美琴達の方へ視線を向けた。
「わかったから! 落ち着けって! まぁ理由はイギリスに行ってたからな――」
"イギリス"その言葉で美琴は大きく溜め息を付いた。(やっぱり厄介事じゃない)しかし当麻の言葉は続いてた。
「一応統括理事会の依頼があってさ、それで一ヶ月向こうで仕事してた訳、内容は……スマン。口外は硬く禁じられてっから」
理由は判ったが、美琴は納得出来ず、怒りを覚えた。
「――んで! なんで当麻がそんな仕事する必要があるのよ! もう当麻は――」
「美琴!」
感情的に喋り始める美琴を当麻は強く名前を呼び、我を取り戻すと。当麻は左手にある小さくラッピングされた四角形状の箱を美琴に差し出した。
「……何よコレ」
「今は黙って受け取ってくれ、……中身はまだ開けるなよ」
(物で私に媚びるつもり?)と考えながら箱を受け取り、開けようとするも当麻の言葉に疑問に思いつつポケットにしまう。
「もっと詳しい事は、数時間待ってくれないか? 言葉を纏める時間をくれ!」
さらに不可解な事を告げる当麻を睨むが、頭を下げ両手を合わせてまで頼む格好を見て、一応の納得しておく美琴。話が一段落付いたのを見計らってか、店員が注文した料理を持ってきた。
「さてと、とりあえず続きは当麻が纏めた後ね。……いったたぎまーす!」
一時休戦めいた言葉を言うと、物凄い勢いで料理を食べていく美琴に、当麻は違和感を感じ驚いてみせるが、そんな様子を気にする気配はない。
いつもなら『何驚いてんのよ! わ、私だって年頃の女の子で、カロリー消費しているんだからお腹だって空くわよ!』等と言っていた少女が、
まるでずっと食事をしていなかったような光景に当麻も美琴の身に何かあったのかと考えを巡らす。
「……何、人の食事を見ながら悩んでるのよ」
じとっとした視線に気づいた時には、残り少なくなった料理を食べるのを止め、こちらをじっと睨んでいる美琴に、頭を掻きながら直球で告げる事にした。
「お前、何があった? 大変な事あったんだろ?」
当麻が不意にした言葉で美琴は"キレ"た。
「ンタの……、アンタのせいよ!!!」
再び客の視線が集まるが美琴は気にする余裕もなく、当麻の胸倉を掴み、この一ヶ月の事を早々と語った。

「「ハァ」」
二人は人気の無い河川敷を歩いて居た。以前追いかけっこをして居た頃に戦った場所でもある。
結局店員と店長の横槍が入り、当麻は殆ど食す事が出来ずに店を出る事になった。
美琴も美琴で、人前であんな事をしてしまった事を後悔し、その後に店長達に頭を下げさせた当麻に対する罪悪感等、二人して溜め息しながら夜道を散歩している状態だ。
「その……悪い美琴。お前を追い詰める事になっちまって」
「もう良いわよ……。私が勝手に自分で追い込んだんだから」
この会話も実はもう五回目だ、店長達の横槍でここ数日分しか聞けなかったが、
それでも一番傷つけた美琴、嫌な役を背負った白井、迷惑を掛けた寮監及び諸氏の方々へどう詫びるべきかと悩む当麻。
「そろそろの十二時ね」
携帯を取り出し、時間を見た美琴は河川敷に降りて行き、夜空に輝く星や月を眺めながら口を開く「そろそろ聞かせてほしいんだけど?」と。
当麻は口を開かずに携帯を出したのだろう、機械の駆動音が聞え、当麻は「よし」と美琴の横に並んだ。
「今回この依頼を受けたのは、まぁ報酬が高額だったのと――」
(報酬……お金か。アンタは不幸体質で生活費を紛失したりしてたものね)
「――俺を厄介事に巻き込まない事を条件に出したのさ」
「えっ」って美琴はゆっくりと横に居る当麻に顔を動かすが、当麻以前として夜空に向いている。
「実はさ、美琴と付き合いだした時から、美琴に心配ばかり掛けてばかりだったから、インデックスにも言われたんだ。
『私はとうま達の足枷になりたくないんだよ』って言ってステイル達に保護を頼んだ後、イギリス清教からも正式に通達されてきた」
「じゃ……あの子が帰ったり当麻の周りが変ったのって」
「そういう事。その時イギリス清教の不良神父達に『お前が守るべき相手は誰だ』って言われてさ、その時美琴の事が頭に浮かんで気づいたんだ。"俺が一番守るべき相手は美琴"だって。
うちのクラスに統括理事会にコネ持った友人が居て、そいつを通じて先月、さっき言った依頼を完遂する事で学園都市も厄介事を押し付けないって約束させたのさ。
まぁ俺の右腕の事とかもあって、全く厄介事に関わる事が無いとは断言できねぇけどな」
「そうだったんだ……なんか私も当麻に悪い事しちゃったのかな?」
美琴の声は明らかに沈んでる。それに気づいた当麻はようやく、美琴に向き直り真面目な顔になった――あの頃、丁度此処で勝負する事を受けた時の顔だ。
「ただ、一つだけ今俺は悩みがある」
「何よ? 言ってみなさいよ」
「美琴は……"俺と別れた方が"――」
(今、何て? 別れる? どうして?)頭の中で疑問文ばかりが浮かび、一気に血の気が引くのを感じると当麻の胸に顔を埋め両手で耳を塞ぎ「嫌! 嫌! 聞きたくない!!」と叫ぶ。
頭に当麻の手が載せられ、髪を梳くように撫でられ、手を耳から離し当麻の腰に手を回し外さないようしっかりと掴む。
「聞いてくれ美琴。この一ヶ月お前は傷つき、沢山の人に迷惑を掛けた。それは事情はどうであれ俺が起した事だ。……そんな俺に美琴と付き合う資格な、いてっ!」
話の最後に腕に力を入れ締め付け、話止めた。当麻は「急になんだ?」と顔を下に向けると、自販機の時と同じく美琴と唇を合わせていた。
「んっは、当麻のバカ! 私の唇を奪って、私を泣かせて、危うく廃人になりそうになった責任を放り出して、何勝手に人の付き合う資格とか言ってのんよ!
……当麻には、世界中を敵にしても私と付き合う責任があるんじゃないの?」
(あのシスターやほかの子達の立場もあるじゃない)と。恐らく鈍感な当麻はそこに気づいているかは判らないが、再び深く悩まれては話がループしてしまう為、美琴は口には出さない。
当麻は何かを考える素振りを見せて黙ったままだ、美琴は再び当麻の胸に顔を埋めると、心臓の音が高鳴りをしていて鼓動の数も早い。でもこの音を聞くだけ少しだけ安心出来る。
「俺は美琴が好きだ。義務や責任って気持ちじゃなく、俺個人として美琴を愛してる。俺も離れたくねぇ、こんな俺でも美琴は許してくれるのか?」
「当麻ったらバカなんだから。本気で責任があるから付き合えなんて言うわけないじゃない。むしろそんな脅迫的な関係ならこっちから願い下げね。
……それに私は、御坂美琴は、上条当麻を好き。これからもずっと、あ、愛してるんだから! バカ!!」
言葉の最後に照れ隠しか、当麻の腹部に思いっきり頭突きをお見舞いし、当麻は数歩後退りし腹部を抱えて膝を付いている。
「ちょ、ちょっと! ごめん痛かった?」
やり過ぎたと慌て、心配そうな顔をする美琴に大丈夫と片手を出し、ゆっくり立ち上がる。
「……この一ヶ月のお返しよ!! 私の心の傷に比べたら安い位よ!」
「上条さんとしても、今まで一番効きましたよ。今の一撃」
まだ片手でお腹を擦る当麻に顔色を落とす美琴だったが、突然携帯が振動し鈍い音が聞え、慌てて自分のカエル携帯を確認するが連絡も何もなかった。
変わりにポケットから携帯を出した当麻はボタンを押し振動を止めた。
「アンタは……! びっくりするでしょ! 何でこんなタイミングで――」
「十二時になった。美琴、さっきの包みを開けてくれ。……俺が報酬に惹かれたのは、まぁ不幸体質による家系圧迫もあるが、
それに、今日は俺達が付き合って丁度半年だろ? 何かしたいって考えてたんだぜ?」
当麻の言うとおりに、ポケットに入れたお詫びの印と思っていた品の袋を開けて中の箱を開けた。(これって……)中身は指輪だ。
二人が初デートの移動中に見つけたショウウィンドウに並んでいた、一品で美琴でも手が出ない額の指輪だ。
(そういえば確か……)



「いいなぁ~これ欲しいな」
ショウウィンドウを眺めながら美琴は当麻に聞えるようにワザとらしく言ってみた。美琴が見ているのは、花のような装飾に中央にダイアが埋められている指輪のペアリングだ。
「へぇ~ビ、ゴホン! 美琴もそういう物を好んだりするんだな」
つい、いつもの癖で"ビリビリ"と言い掛けて訂正したが、美琴は聞えていないようだ。値段をチェックしようとウィンドウを覗くと、顔中に冷や汗が流れ始め素早く離れた。
「無理! ビンボー学生の上条さんはこんな高い物買えませんからね!」
「判ってるわよ! 私だって無理してもちょっときついんだから! アンタ何かに……当麻に買ってもらおうなんて考えてないわよ!……そうね~いつか、いろいろと決心したら買ってほしいかな"指輪"」
「何だよ! いろいろって――」
ショウウィンドウを名残惜しそうにしつつ二人は歩いていった。



「あの時の覚えてたの?」
「まぁ、彼女との始めてのデートだったしな。いくら上条さんでもそう簡単に忘れないですよ」
当麻は若干顔を赤らめながら苦笑いしており、その表情が妙に可愛いと思った美琴も赤くなり、指輪を見つめた。
「これくれる……のよね?」
「こんな時に冗談言うわけないだろ! あの時言ったろ"決心したら指輪買って欲しい"ってな。
俺は美琴を守るって、愛するって決めたんだぜ? ここまで決めたらこ、個人的にだぞ! 結婚も視野に付き合いたいっていうか……」
当麻の突然のプロポーズに美琴は指輪の入った箱を落とし、当麻は慌ててキャッチして「危ねぇ! 落としたら――」と言いかけた所で美琴の目から涙が溢れて止まらなくなっていた。
「ホ、ホントに私で良いの? 私胸無いし、グスッ、中学生で年下だし、それに――」
泣きながら次々と自分や当麻が気にするであろう事を喋り始めるとさっきまでとは逆に当麻から美琴の唇を奪う、まるで誓いのキスのような感じに、美琴の心も落ち着きを取り戻した。
「俺はお前が好きだ。結婚についてはまぁ、まだお互いの歳も歳だから、二、三年は先になるけど、俺と結婚してくれるか? 美琴」
「私の返事は……」

言葉の続きに美琴は当麻と同じく誓いのようなキスをし、指輪を薬指に嵌め、月明かりに照らされて光り輝いていた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー