とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある超電磁砲たちと幻想殺し



 第七学区にあるとあるファミレス。とある女子メンバーたちにはこのファミレスは最寄の場所であり、行きなれた店の一つだ。待ち合わせをしたり場所を移動したりする時はこのファミレスをしようしている。そしてそのとあるファミレスには、とある女子メンバーたちが集まりつつあった。
「あれ?佐天さんはまだ来てないの?」
 御坂美琴、女子メンバーの最年長で有名な超能力者(レベル5)の第三位である。しかしこの場では常盤台の中学二年生、自分の強度などここでは一切関係ない。その隣には彼女のパートナーである風紀委員の白井黒子が肩を並べている。そして美琴が声をかけたのは白井の同僚兼友人である初春飾利である。白井と同じ風紀委員の一年であるが風紀委員での地位は白井の方が上であるが、職務以外では一人の友人であり美琴とも同じ友人であった。
 初春はとりあえず座ってくださいと二人に座るようにすすめた。美琴と白井は向かい側の席に座って、初春の隣の空いている席、もう一人の友人である佐天涙子が座るであろう場所を見た。
「佐天さん、学校に用があるって言っていたので遅れるらしいです」
「そっか。学校の用事があるんじゃ遅れても仕方ないよね」
「でも御坂さんたちが来る前に『終わったよ』というメールが入っていたので、そろそろ来る頃だと思います」
 今日、彼女たちがここに集まったのは昼食込みでのお話会をするためであった。ちょうど非番であった白井と初春を誘っての試みで、用事がある佐天も参加する予定である。このときばかりは、美琴も学校のことや学園都市での事件のこと、そして白井がよく言う噂の殿方のことはすっかりと忘れ友人たちとの楽しいひと時を過ごす。それは美琴の有意義な時間の中の一つであり、楽しみでもあった。しかしそれは美琴だけではなくここにいる白井や初春にも言えたことであった。
「それじゃあ、オーダーはどうしましょうか?」
「私はまだいいわ。喉もまだ渇いてないし、佐天さんが来るまで我慢できるわ」
「わたくしもお姉様と同じくですわ。初春はどうしますの?」
「私はちょっと喉が渇いたので紅茶でも」
 そういうと初春は手を上げて近くの店員を呼び止めた。白井は紅茶だけですのよ、と念入りに注意をしてため息をつくと席にもたれかかると力を抜いてリラックスした。美琴はリラックスした白井を横目に見たあと、窓の外の通行人を見ながら来るであろう佐天を静かに待つことにした。

 一方の佐天はファミレスで待つ三人とは違って、一人危機的な状況に追い込まれていた。
「はぁ…はぁ…はぁ」
 学校での用事が済み三人が待つファミレスに向かう途中、近道で路地裏を通ってしまったのが運のつき。途中の道で佐天よりも年上の不良に見つかってしまい追われる羽目になってしまった。佐天はいっさい能力がない無能力者であったため美琴や白井のように戦う術を持っていない。さらに武道なども心得もなければ喧嘩もまったくしない普通の女の子だ。それゆえに、不良を相手に戦うことが出来ない佐天には逃げるという選択肢しかなかった。能力がなくてもよい、と過去に言ったことがあるが今は何もない能力を呪った。だが呪ったところで能力は降りてこないのは、佐天にもわかっていたことだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…まだ」
 佐天は後ろを振り向かずに全力で走り続けた。相手は一人であったため、逃げられれば勝ちであったのは救いだった。それでも相手は見知らぬ他人、強度が一切わからず、見た目も十分に怖かった。不意にそんなことを考えてしまった佐天は、強度と見た目の恐怖が裏目に出てしまうこととなった。
「はぁ…はぁ……あっ!」
 怖いと思ったことが、動揺に繋がってしまい壁の端っこにあった空き缶に足をとられてしまい、滑り込むように腕から倒れてしまった。幸いなことに、とっさの受身に成功したため腕には出血もなく怪我はなかった。だが転んでしまったことにより後ろから追いかけてきていた相手の足音が自分の後ろでとまったことに気づき、佐天は恐る恐るであったが背後を向いた。
「へっへっへ。追い詰めたぜ、子猫ちゃん」
 下品な笑いを浮かべながら男は佐天に近づいてくる。このあと何をされるか想像できないことに、ただならぬ恐怖を感じ立つことを忘れ尻餅をつきながら後ろへとさがって行く。しかし男はそれが面白いのか愉快そうな笑みを浮かべて佐天へと近づいてくる。
「安心しなよ。痛い目は見ないよ、痛い目は、な」
「ひっ!!」
 初めて不漁に目をつけられてしまい、この後には捕まってしまい怖いことをされる。佐天は今まで体験したことのない恐怖を今ここで初体験した。そのあまりの恐怖に佐天は身体を震わせて、出そうな涙を必死に抑えて必死に男から離れようとするが距離は開くどころか詰められていく。
(怖い、誰か助けて!)
 声に出せればよかったが恐怖で震えて出なかった。佐天は心の中で誰かに助けが届くようにと願いながら目をギュッと閉じた。そして男の手が佐天に伸びてくる……がいつまで経っても男の手は佐天には届いてこない。
(手が…伸びてこない?)
 もう自分は捕まっているはずなのに、と疑問に思った佐天は恐る恐る目を開けてみた。そして、目の前にいたのは不良の男と………。

「…遅いですね、佐天さん。もう着いていておかしくないのに」
 あれから十分以上が経つが佐天が現れる気配は一向になかった。さきほど心配になった初春は簡単なメールを送ったが、まだ返事は届いていない。初春が言うにはこれだけ時間が経っても来ないのは少しおかしい。学校からも距離はあまり離れていないし、どこかに寄り道をしてもそう遅くはならない。それよりも友人想いの佐天が何も連絡をよこさないのが、初春には不安であったのだった。
「探しに行こうか?」
 そわそわして落ち着かない初春を見かねて美琴はあえて控えめに切り出すと、初春はそうですねと頷き返してきた。美琴はそれじゃ私がと代表して席を立つと、初春と白井にはここで待つように言い残してファミレスの出口へと歩いていく。そして出口を出た時、美琴は見慣れた髪形をした少年を発見した。
「げッ! ビリビリ」
「ああーー!! なんでアンタがここにいるのよ!!」
「毎回毎回、お前のいるところにはいちゃ悪いのかよ」
「そうじゃないけど……って、今はそんな場合じゃない!」
 少年こと上条当麻といつものように騒がしい挨拶をした後、今はアイツのことは後と美琴は上条のことは後回しにと頭の端に考えを追いやった。そして、上条とは逆方向の道を行こうとした時
「あれ、御坂さん…?」
 聞きなれた声というより探しに行こうとした相手の声が聞こえた。美琴はその方向を向くと、そこにいるのは上条……だけではなくもう一人がいたことに気づいた。そしてその相手が誰であるかも、このとき予想ではあるが美琴は感づいていた。
「あれ……? アンタ、背中にいるのって」
「あ、御坂さん。遅れてごめんなさい」
 上条の背中から伸びている腕と見知った長い髪の毛、聞きなれた声。それらには全て見覚えのある特徴であった。
「上条さん、もう大丈夫みたいです。ここまで運んでいただいてありがとうございました」
「ああ。だったら降ろすぞ」
 というと背中の少女はゆっくりとその姿を現した。少しだけ乱れた髪と初春と同じ制服姿で、あははとぎこちなく笑う少女はまさに佐天涙子、その人だった。
「改めて、遅れてごめんなさい。ちょっとトラブルに巻き込まれちゃって…そこを上条さんが助けてくれたんです」
「助けるって大げさだな。俺はただ通りかかっただけだよ」
「でも助けてくれたのは事実じゃないですか。もしあの時上条さんが来なかったから、どんなことをされていたか…本当にありがとうございました」
 上条はいいってと慌てながら、頭を下げた佐天に首を横に振った。あくまで上条は通りかかっただけで、そこに偶然佐天がいただけだったのだが、助けてくれたことには決して変わりない。
「……………」
 美琴も佐天を助けてくれた上条には一応、感謝はした。だがまた女の子を助けた上条を睨みつけると、上条の肩に手を置いた。
「説明、してくれるわよね?」
「御坂さん。一応訊きますが上条さんに拒否権は?」
「ないわよ」
 そういうと佐天に中に入るように促した後に続いていき上条もずるずるとファミレスに強制連行される羽目になった。そして上条はまた不幸なことになったなと大きなため息をつくしかなかった。

「へえー。それじゃあ、上条さんが佐天さんを助けてここまで連れてきたんですか…」
「そのファミレスなら場所は知ってたし、ついでに飯でも食おうかなって思って連れてきたら…箱の中には常盤台の不良お嬢様お二人でした~だから驚いたぜ」
「不良お嬢様ってどういう意味よ!」
 美琴は向かい側の席に座っている上条に雷撃の槍も放ちたいのだが、席の関係で放つことが無理であった。何故なら上条の左には佐天、右には初春が座っているからだ。女の子二人の挟まれている状況は美琴からすれば死刑決定なのだが、雷撃の槍を防げない二人はまるで上条に人質でも取られた気がしてならない。だが初春も佐天も同意の上での席だったので何も言い返せなかった。なので上条を睨みつけるだけでとどめておいた。
「でも良かったんですか? ここまで運んでいただいて」
「ああ、気にするな。それに腰が抜け女の子をあんな場所に置いていったり出来ないだろう?」
 上条は隣にいる佐天に誰にでも見せるいつもの優しい笑みを浮かべた。向けられた笑みを見て佐天ドキッとして顔を赤く染めて俯くと
「あ、ありがとう……ございます」
 俯きながら佐天は礼を言う。それを向かい側で見ていた美琴は無意識に優しい上条に少し怒りを覚えた。
(そんなことだから、色々な女の子に付きまとわれるって、こちは本当にわかってんの!)
「あのー御坂さん。上条さん的にはものすっごく怖いので、そろそろ睨みつけるのをやめていただけませんか?」
「……………」
「わかりましたごめんなさいそのままで結構です! ですからビリビリだけはご勘弁を!」
 さりげない脅しに上条は屈した。いくら幻想殺しを持っているとは言え、死ぬかもしれないものは怖いものは怖いのだろう。
 その一方、白井は何も言わず上条を見ていた。いや、こちらも睨んでいたというべきだろう。美琴は声をかけようか迷ったが、多分また厄介なことになりそうな予感がしたのでやめた。しかし、先ほどからまったく会話をしない白井に気づいた初春があれ? と白井の変化に気づき
「白井さん、さっきから黙ってどうしたんですか?」
 いけないものに触れてしまったわねと、美琴は爆弾の導火線に火をつけてしまった初春を少しばかり憎んだ。そして、声をかけられた白井は初春を恐ろしい形相で睨みつけた。
「どどどどうしたんですか?!」
「なんでもございませんことよ、初春」
 誰がどう見ても何でもなさそうな白井の表情に、初春がぶるぶると震えながらはいと頷いた。それを横目で見ていた美琴は、どうせアイツと私のことで何かを考えているのだろうと白井の考えを見抜きため息をついた。でも美琴自身は……そう思われてもいいかなと無意識に思っていたりしたがあえて気づかないことにして胸の奥にしまった。どこまでも素直になれないお嬢様らしい想いであった。

「上条さん、白井さんと御坂さんとはどういったご関係なんですか?」
 白井には訊けないと思った初春は聞く相手を上条に変えた。白井のこともあってか少し控えめに訊くと、上条はまず白井を見て腕を組んで考える。
「う~ん。白井とは………友人か知り合い程度か?」
「わたくしはあなたを敵だと思っておりますが」
 相違の意見は圧倒的に違ったようだ。しかし美琴だけが白井の一方的な敵意であったことに気づいていたが、説明が面倒だし自分にも何かが降ってきそうであったので言うのはやめておいた。
「ですが、前に助けていただいたことに免じまして、知り合いということにして差し上げましょう」
「前…? ああ、あの時のことは気にするな。俺がしたくてやったことだし、礼を言われる筋合いはねえよ」
「貴方がそう思おうともわたくしは気にしております! ですので、これでチャラにしてください」
「…………へいへい」
 相変わらずの反応の薄さがなんとも上条らしい。常識的に考えたら、命がけになって助けてくれた人間には相応の褒美があってもいいと美琴は考えている。なにせ命は何ものにも代えられない重要なもの、上条に教わったことだ。だというのに上条は、他人のため"だけ"に命を顧みず人を救う。その結果救えればそれで満足、礼など考えていない。白井もそうであろうが美琴も上条がそういった人間だと知っている。だから美琴はそんな上条を放ってはおけなかった。
「それじゃあ、御坂さんはどうなんですか?」
 などと上条のことを考えていると佐天は美琴のことへと話題を変えた。そして今度は美琴へと視線の方向を変えた。
 美琴の方を向きながらあーでもない、こうでもないと腕を組みながら白井の時よりも真剣に考えているように見える。自分のことを真剣に考えてくれていることは恥ずかしかったが内心では意外と嬉しかった。だが上条の答えは予想を大きく裏切る答えだった。
「御坂は………敵同士?」
「なんで敵になってるのよ! それともアンタは私にケンカ売ってるの!!」
 友人ならまだしも敵と言われてしまったことには、怒りを隠せなかった。しかも白井よりも交流が深いはずなのに白井よりも印象が悪いことが、さらに怒りを大きくした。
「だってお前、会うたびにビリビリするじゃねえか! 最近は減ったのは嬉しいけど、今さっきだって絶対に電撃を流そうとか考えてただろう!」
「それはアンタが悪いの! アンタが私にビリビリさせる理由を作るからよ!」
「意味わかんねえよ。大体俺が何をしたってんだよ?」
「それは……その…」
 上条が何をしたかは…言えなかった。
 他の女の子と話しているところを出くわしてみれば、自分で勝手に怒る。自分が言いたいこと、思っていることに気づいてくれない。上条当麻が思い通りに行かないのが、気に入らない。それらをまとめると独占欲という言葉が頭に浮かんだ。だけどそれをすぐに否定した。
(結局、私はこいつをどうしたいんだろう……)
 自分でも答えは出なかった。対する上条は、何も言い返してこない美琴に呆れてため息をついた。
「はぁー、俺が嫌いでも何でもかんでも俺のせいにするのは、さすがにどうかと思うぞ?」
「…………」
(嫌い…か。今の言葉って本当に思ってるの? 私が嫌ってると思ってるの?)
 自分の印象が最悪だと知った美琴は俯いて……何も言い返せなかった。そして、上条から見た美琴は上条を嫌いだと思い込んでいることに耐え切れなくなった。美琴は上条に対して好意はあるが恋愛感情はなかった。それでも自分の印象が上条に不評だったことは、失恋をしたときのように辛いものであった。
「ごめん、少し…」
 無意識で悪気はないことはわかっている。それでも、上条の一言は胸の中を抉られるように痛く辛いものがあった。美琴は決壊しそうな涙腺を隠すように、女子トイレへと駆け込んでいった。

 席を立った美琴を見て、上条はふと夏休みの出来事を思い出した。
 記憶上では会って二日目、美琴が橋の上で酷い表情をしてたときのこと。今にも消えそうでとても疲れきっていて、救いを求めているようなネコを思い出させる御坂美琴の小さな姿。胸がつぶれるかとすら思ったあの時の表情を、何故今思い出すのか、上条にはわからなかった。
 でも、一つ思ったことは
(放って…おけねえな)
 あの時と同じ。美琴を放っておくことは、上条には出来なかった。
「…………上条さん?」
 ふと、初春の声が聞こえて上条は自分が真剣なことを考えていたことを思い出した。そして、美琴が女子トイレに入っていったことも。
「どうしたんですか?そんな真剣な顔をして」
「御坂さんに、何かあるんですか?」
 本当ならすぐにその後を追って聞き出したいところだが、行ってしまった場所が悪い。いくら追いかけようと思っても、さすがに女子トイレに飛び込むほど上条も馬鹿じゃない。しかし、今ここには美琴の友人たちがいる。上条一人であれば、出てこなくても済むが何も言わずに引きこもっていれば誰かしら変化に気づく。
「結局、待つしかないか」
 上条は小さな声で呟いて、何も出来ない悔しさに舌を打った。そして気づかれないように小さく息を吐くと左右に座る初春と佐天に、笑いかけた。
「悪い、なんでもない。それで、他に何か聞きたいことは?」
 待っていれば嫌でも戻ってこなければならない。だからここで話を続けてあとで訊けばいい。上条はそう結論づけると二人の質問に訊きはじめることにした。
「あのー上条さん。つかぬ事をお聞きしますが、強度はいくつですか?」
「俺? 0の無能力者だけど…」
「嘘ですわね」
 上条の答えに異を唱えたのは、なんと向かい側の白井だった。いきなりの白井乱入に少々驚いたが、上条は本当だぜ、と自分が無能力者であることを繰り返した。
「初春、書庫のアクセスして上条さんの情報を調べてください」
 白井から指示され、初春はすぐにノートパソコンを取り出し書庫へアクセスした。そして初春が得意とする情報収集は約二分で終了した。
「上条当麻さん。○○高校、一年生。成績は最下位ランク、記録術は単位が危ないようですね。学校での事件はほとんど中心人物で毎回のように事件を起こすトラブルメーカー。特別な体質……不運に関しては人を超えているレベルと書かれてますね。
 超能力の測定ではレベル0。いっさいの能力がない…って記録されてますね」
「ですけど、上条さんには確かな能力がございます。わたくしもそれに救われたことがあります」
 なんでそんな不幸な部分まで調べあげられているのか聞きたいところだが、これも今日の不運の一つだと思っておいた。
 しかし、書庫の情報にはやはり幻想殺しがない。やはりこの能力が化学か魔術か書庫にもわからなかったが、それを知ることが出来たのは予想外の収穫だった。

「上条さん、能力があるって本当ですか?」
「ああ。白井が言ってるのはこの右手、幻想殺しのことだろ」
 と机の中央で自分の右手を広げて見せた。
「………見た目は普通の手ですけど、そのいまじんぶれいかー…でしたか? どんな能力なんですか?」
 無能力者の佐天は自分と同じ強度なのに、能力がある上条の存在にとても興味があった。無能力者でも能力を持つと言うのは、佐天からすれば異例の事態であり憧れてしまいそうなほどの存在であった。だがそれは佐天だけではなく同じ席の初春も、佐天ほどではないが似たようなことを思っていた。なのでこの二人からすれば、とても興味のある大きな話題であった。
 しかし上条はそんなこと知らなかったので、とりあえず簡単に能力を説明しよう思い右手を引っ込めた。
「俺の右手はどんな能力も打ち消しちまうらしい。書庫にも載ってないことだろうから詳しいことはわからないが、こいつに触れちまえば神の奇跡だろうとも打ち消しちまうだろうな」
「幻想殺し……ですか。確かに書庫にそんな能力は存在しませんね」
「ですけど面白い能力ですね。そんな能力があれば、能力者なんて怖くもないじゃないですか?」
「って思うかもしれないが、あくまで働くのはこの右手のみだ。それ以外の部位に能力を浴びせられたら、打ち消すことなんて出来ないのが欠点だったりするからすげえ役に立つものでもないんだけどな」
 それが幻想殺しの弱点の一つ。右手以外に攻撃されては防げない。能力者の戦いとしては便利でもあるが、その点は意外と痛手だ。
「とか言うけど、それを知ってても私は勝てないんだけどそのあたりはどうなのよ」
 ふいに聞こえた声の方向を向くと、歩いてくる美琴の姿を捉えられた。先ほどと変わらない口ぶりは、席を立つ前とはいっさい変わらない。表情にも曇りはなく、あれは見間違えではとさえ思わせた。が上条はまださきほどの回想を頭から拭えなかった。
「お前…大丈夫か?」
 一番最初に思ったのは心配だった。思い出すたびに締め付けられそうなあの表情は、今思い返しても嫌な表情だった。嫌な表情と言っても美琴が嫌いと言う意味ではなく、似合わない・相応しくないという意味である。
「別になんでもないわよ。ちょっと、お化粧直しに行っただけよ」
 嘘だとすぐにわかったが、今この場では口にしないで置く。白井や初春、佐天に迷惑をかけるのは上条からしてみれば申し訳ないことであるためだ。それに話したところで、逃げられるに決まっていると思った。
「ならいいけどな…」
 結局、また待つしかなかった。普段ならすぐに問い詰めるはずの上条を止めたのは、あの時のように自分の手で道を開いたように他人には頼らず自分で解決しようと思ったからだ。だからここでは芝居を打って後で聞きだそうと思えた。だが普段とは違って待つ選択肢を選んだ上条は待つというのは苦痛なんだろうなと、これからのことを考えて予感した。

 女の子四人との話は予想以上に有意義なものであった。
 最初は自分だけが男だったので、話についていけず一人で聞き役に徹するかと思っていた。だが蓋を開けてみると自分でも入りやすい話をしていたことに、上条は少々驚いた。
 例えば食事の話。この店が美味しいですよと初春に店を教えてもらったり安さと言えばこの店! と自分と同じ無能力者の佐天は貧乏学生に優しい店を紹介してくれた。美琴と白井の紹介の店は上条からすれば結構痛い出費になる店であったが、とりあえず知るだけであれば得をするので知識として蓄えることにした。他には、能力についての話。それは初春が調べた記事の中から面白いものをピックアップして、学園都市ならではのことに話を咲かせた。もちろん、自分が今まであったことのある能力者についても上条は少しだけ話したりと、意外と話せるものであったことに内心では驚いていた。
 意外と話が合うと、上条としても楽であった。デルタフォースは男同士、インデックスは魔術サイドで学園都市内の情報には関心がないと、意外と知り合いの中では話すことは限られているが、この四人の会話はそれらとは一味違ったことはいい意味での予想外だった。
「―――そういえば、上条さんに訊きたかったんですけど」
 まだ一時間程度しか経っていないが、佐天は上条の存在はすでに慣れてしまったようだ。少し遅めの昼食として注文したカルボナーラを一口食べて、さっきから訊きたかったんですよ、というような表情で上条に質問をする。
「夏休みの最後の日に、御坂さんがある男の人を押し倒したって事件があったんですけど、その男の人ってまさか上条さんですか?」
「「ぶっー!!」」
 上条と美琴はほぼ同時に噴いた。しかし佐天の言葉の捉え方は上条と美琴とではかなり違いがあったが、動揺を与えるには十分すぎる言葉だった。
「な、なぜそれを知っておられるのですか?」
「あ! やっぱり、上条さんなんですね! 御坂さんって男の人の友達で親しそうな人ってあまりいなそうだったんですけど、今日上条さんを見てて夏休みの事件を思い出したんですけど……そっか、上条さんなら納得」
「ななななにが納得なんですか!!?? こ、こいつとは何でもありませんって!!」
「御坂さん、なんでもないってどういうことですか~? 上条さんと何かあるんですか~?」
「~~~~~~~~~っ!!!」
 美琴は顔を真っ赤にして、ボンと爆発音を立てた。そして、ビリビリと青いものが美琴から出てくるのを上条は気づいた。
「うわっ!! ここで漏電は待て!!」
 上条は慌てて、テーブル越しから美琴の肩に右手を置いた。
「あ……」
「ふぅ、危ない危ない。ここで漏電なんてされたらたまったもんじゃないからな」
 上条が美琴に触れたことで青い光の電撃は打ち消された。その光景を見て、初春と佐天は上条の幻想殺しが本物であると理解した。もちろん幻想殺しがあったことにも驚きはあったが、それ以上に超能力者の第三位を触れただけで封じてしまったことに二人は驚いたのだ。
 そして、その隣の空間移動者は別の意味で驚いていた。
「お、おおおおねえさまが……おねえさまが! おのれぇええええ!! そこの類人猿がァァああああああ!!!」
 怒り心頭の白井は上条目掛けて金属の矢を投げた。狙ったのは危険がたくさんの顔面であった。それを上条は美琴との毎回の出会いの鍛えた反射神経でふせて避けた。
「うぉっ!! 白井、一歩間違えたら大怪我だぞ?!」
「怪我をさせるためにやっておりますのよ。それに、金属の矢ならば貴方も防げないんじゃないのではないですか?」
「だからって本気で投げてこなくても、あぶなっ!」
 近くに佐天がいるというのにこの暴走。佐天と初春は危ない気がしたので、この場から退避したかった。
 一方の上条は危なげなく回避しながら通路に出て行く。このような場所では当てられると、広い場所に移動しろと自然に身体が動いたためだ。皮肉にも美琴と毎回追いまわっされていることで、自然に身体が動くようになったことが役に立っているとは、本人も美琴も気づいてはいなかったが、とにかく上条は危なげなく回避しながら、店を出て行ってしまった。
「この若造! いい加減に死になさい! そしてお姉様はわたくしのもの、貴方ごときには渡しませんわ!!!」
「危ない! 危ないから!! ってこら、やめろ!! ああー結局これって不幸だーーーー!!!」

 その後、戻ってきた上条は全身汗だくで制服には穴らしきものが開いていたが、奇跡的なことに無傷だった。一方の白井はまだ足りないとでも言いたげな表情と、野獣のような殺気を放ちながらも戻ってきた。結局、白井が折れたらしいがいつまた暴走するかわかったものではなかった。
 戻ってきた上条に初春と佐天は美琴のことを聞く計画だったが、白井がこれであったのでまた後日と無言の会話を済ませた。そして、しばらくして白井に風紀委員の仕事の連絡がかかってきたのを気に今回はお開きになった。
「上条さん、今回はありがとうございました」
「気にするなって。上条さんは通りすがっただけで偶然ですよ」
「それでも、ありがとうございました。お話も楽しかったです」
 佐天はとても上機嫌に上条にお礼を繰り返した。さすがの上条もそれを察してか、そういっていただけたのなら光栄ですと少し紳士っぽい素振りで答えた。
「上条さん、またお話聞かせてください」
「機会があればいつでもいいけどな」
 初春も上条との話はとても有意義だったようだ。そして、また話を聞かせてくれることに喜びを隠せなかった。
「絶対、絶対ですよ! まだまだ話したりないことがたくさんあったので、覚えて置いてくださいよ!」
「あ、ああ。了解しました、えっと……初春」
 初春ははい! と答えると白井と共に行ってしまった。どうやら白井の付き添いで初春も行くようだ。
「それじゃあ私たちも行きましょうか。あ、上条さんと御坂さんはこの後は?」
「私は特に用はないけど…アンタは?」
「俺は御坂に用がある」
 この発言が何を意味しているのかわからず、美琴と佐天は驚きの表情で上条を見た。それからしばらくして佐天は何かを察したのか
「えっと………あ、そう言えば私ってば、これから行くところがあったんだ! すいません上条さん、会計はこっちでしておくので私、行きます!」
「あ、いや会計なら俺が―――」
「助けていただいたお礼です! それに白井さんと初春からもお金はもらってますし、大丈夫ですって」
 言うだけ言うと佐天は席を立ち、会計を済ませに行ってしまった。去り際に御坂さんファイトと聞こえた気がするが、上条には何を意味するかよくわからなかったので気にしないで置いた。それよりも、これで二人になれたことに安堵した。
 しかし美琴はさきほどの上条の発言に混乱していた。
(え? ええ!? わわわわわわたしにようって、まさか!! いやいやありえない! ありえないから!! でも、でも……もしかしたら……)
 なんだかんだ言っても、告白されるかもしれない状況に立たされてしまっては期待してしまうものである。美琴はちょうどその状況に立たされていた。 だが上条はそんなことも知らずに、さきほど心配したときのことを思い出していた。今の美琴には先ほどの面影はないが、いざ向かい合ってみるとあの時の表情が思い浮かべてしまう。暗く沈んだ表情、上条は気になってならなかった。なあ御坂と、上条は切り出すと美琴は緊張のあまりはい! と声高に返事をしてしまった。嫌われてるなと上条は思いながら、真っ赤になった美琴に言った。
「俺のことってそんなに嫌いか?」

「……………………………は?」

 鈍感な上条らしい質問だと冷静であれば思えたが、今の美琴にはものすっごく馬鹿らしく期待した自分が馬鹿に思える質問であった。だが上条からしてみればとても重要であった。
「まさかそんなことも気づけないほど情けない質問だったか?! 上条さんってそれほどまで嫌われて……ってあれ? 御坂さん。こっちに来てなんですか? 笑っているのはわかるんですが、なにか危険なものを感じたんですが?」
「ふっ……ふっふっふ……そうよね。期待してた自分が馬鹿よね。でも…期待させてたこいつもこいつよね」
「御坂さん、その背中から見える悪魔はなんですか!? 上条当麻、人生最大の危機を感じているのですが!!??」
「とりあえず…いっぺん死んでこいやァァァ!!!」
「なんでこうなるんだーーーーー!!!」
 上条当麻、今日も不幸は絶好調であった。

「それで、アンタの質問だったっけ?」
「はいそうですすいませんでした御坂様」
 場所は変わっていつもの自販機近くのベンチ。あの後、被害が店に広がることがあったので美琴は上条を引っ張ってここまで連れてきたのだ。当然、上条には拒否権のきの字もなかった。
「別に……嫌いじゃないわよ」
「へ…?」
「だから……嫌いじゃ……ない、わよ」
 美琴が言えたのはそれだけだった。だというのに、今すぐここから逃げ出したいほど恥ずかしかった。告白となればもっともっと恥ずかしいのだろうに、嫌いではないというだけでここまで恥ずかしいとは予想外だったのだ。そして予想外だったからこそ、美琴は感情をコントロールできなかった。
「って! また漏電してるって!!」
 上条は慌てて美琴の手を掴み漏電を止めた。間一髪だったので上条への被害は皆無であったが、美琴への精神の被害はかなりのものであったことに上条は気づくわけもなく
「まったく。しばらくこのままでいいよな?」
 喜んでいいのかどうかわからない拷問を言い渡された。美琴は小さく頷くと、しゅんと小鳥のように小さくなった。
「お前、そんな頻繁に漏電するなよな。もし俺がいなかったらどうするんだ」
「………誰のせいよ、馬鹿」
「俺のせいだって言うのか?…はいすいませんでした!」
 気づいていない上条を睨み返し、美琴は自分が動揺しているのが馬鹿らしく思えてきた。それが冷静になれる土台となってだいぶ落ち着いてきた。
「大体、嫌いだったらアンタに電撃を浴びせないで無視すればいい話じゃない。なんでいちいち効かない電撃ばっか浴びせてアンタを追わなくちゃいけないのよ」
「……言われてみればそうですが、追われているのはどう考えても嫌っているからとしか」
「そ、それは……そう! コミュニケーションよ、コミュニケーション!」
「そんなコミュニケーション、上条さんはお断りしたいものです」
「だったら、いい加減に私の電撃を浴びなさいって。きっと楽になれるわよ?」
「イエケッコウデス。マダシニタクアリマセン」

 はぁーとため息をついて改めて上条を見た。相変わらず敵意を持っていると勘違いしているのは若干引きぎみの態度でバレバレだ。
「別に今日はビリビリしないわよ。アンタが話があるって言うから付き合っただけよ」
「そ、そうですか……」
 上条は安堵の息を吐く。相変わらず警戒の多いやつだと思ったがこれも美琴の自業自得だとは本人は気づいていない。
「電撃の話は置いておいて、なんでアンタがそんなことを勘違いをしてるのよ?」
「じゃあ、御坂は電撃で追いかけてくる人が好意を持っていると考えるでせうか?」
「ぐっ……うっ。でも、私はアンタを嫌ってないわよ! それだけは覚えておきなさい!!」
「へいへい…とりあえず覚えておくよ」
 相変わらず適当そうな返事に怒りたくなったが、また勘違いされそうだったので我慢した。
「アンタは私を救ってくれた恩人なのよ。嫌いになれるわけないじゃない」
「そうか? 上条さんはやりたいことをしただけですから、そんなこと気にしませんよー」
「それでもよ。それでもアンタは恩人なのよ。だから、すっかり遅くなったけど」
 美琴は一旦目を閉じて…ゆっくりと開いたあとに上条を見た。優しく嬉しそうだとわかるぐらいの笑みで、美琴は素直にあの時言い忘れた言葉を、心を込めて言った。

「ありがとう、当麻」

 告げられた言葉は自分に対してなのだが、上条にはその一言はとても十分すぎてもったいない気がした。ただ自分がやりたくてしただけであって、彼女たちのためだけに戦ったわけではない。それでも彼女は上条に感謝している。改めて言われて、上条は美琴たちを救ったのだと再度実感した。だから上条はいつも通りに言葉を返した。
「俺がやりたくてやっただけだ。気にするな」
 やっぱりなと美琴は予想通りの言葉に胸が温かくなった。やっぱり上条はどこまでいっても上条であり、助けてくれたことを感謝しても仕切れなかった。
 でも……それだけ。そして、これで終わり。
「んじゃ、気分転換にゲーセンでも行かない?」
「いいけど夕方にはスーパー行くから長居はできねえぞ?」
「別にいいわよ。じゃあそれまで遊ぶわよ」
 美琴は元気良く上条の手を握りながら、ゲームセンターの方向へと引っ張っていった。上条は仕方ないなと笑いながらそのあとに続いていく。
 そしてこれはまだ美琴が上条に恋愛感情を抱いていなかった、過去の話であった。


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