とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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だれでも歓迎! 編集

さてんがんばる!



「えっ、来れなくなっちゃたの?」
『ごめんなさい佐天さん~』
 初春飾利の本当に申し訳なさそうな声に、佐天涙子はため息をつく。
 隣の御坂美琴も、白井黒子から同じ内容の電話らしく、渋い顔をして携帯を耳に当てている。

「ま、しょーがないわね」
 4人で映画――ビバリー・シースルーの新作を見る予定だったのだが、緊急招集で2人欠ける事になってしまった。
「ジャッジメントの仕事で、何だか3回に1回はこういう事になってますから、慣れてるとはいえ……」
「……やってらんないわねー」
 縁のある映画監督のモノだけに、4人一緒でないとねえ、というのは2人とも同意見だった。

 じゃあ何しようか、そうですねえ…と話しながら映画館のロビーから出て、美琴は見つけてしまった。
 上条当麻が一人で、上映中映画リストのパネルとにらめっこしている姿を。


「なーにやってんの?」
 そりゃ映画見にきたって言うわよね、と自分で突っ込みながら、上条の横で美琴は問いかける。
「ああ、御坂か……何やってるかと問われれば、食費との相談、かな……」
「は?」
「ここで映画を見てしまうと、今後一週間の食事がグレードダウンする……そうまでして見るのか、とな」

「相変わらずみみっちいわね……」
「超能力者お嬢様には分かるまい!無能力者への奨学金はほんと少ねえんだぞ!」
 目を爛々として美琴と上条を見比べていた佐天は、『無能力者』の言葉にピクッと反応する。
「それにしたって映画も見れなくなる程じゃないでしょー」
「色々あんだよ……ところでそっちは?見てきたのか?」
「ううん、黒子が来れなくなってね……ああ、紹介しとくね。友達の佐天涙子さん」

「初めまして佐天ですっ! 柵川中1年でーす!」
「どうも、上条当麻、高一です。学校も学年も違うのか」
「うん、黒子つながりでお友達になったの……それにしても、アンタが映画見るなんて意外なんだけど」
「用事があってさ、3時間ほど時間潰そうかなってな。帰るにも半端だし」

 佐天がすっと手を挙げた。
「上条さん、お金を使わず、時間を潰しませんか?」
「はい?」
「佐天さん?」

「私の部屋に来て、3人でおしゃべりしません?おこたもミカンもありますよ」


 佐天の部屋の前で、上条と美琴は顔を見合わせた。佐天は部屋の中を片付けている。
「なんだか引っ張られるように来てしまったが、いいんだろうか……」
「女の子の誘いにほいほい乗っちゃうのって、どうなのかしらね?」
 お前の友達なんだから、いーじゃねえかとブツブツ言っている上条の横で、内心は嬉しがっている美琴であった。

「はいっ、大丈夫ですよ~。どうぞー」

「あはは~、男の人入れたのは親兄妹を除いて初めてですよー、上条さん」
「それはそれは恐縮です……」
 部屋の中は暖かくなり始めていた。
 奥に通された上条は、コートを脱いでどっかと座り込む。
「うーん、コタツひとつとっても小洒落た……女の子の部屋だなあ」
「上条さんはコタツ出してないんですか?」
「出してるけど、何の個性も無い安物だかんな。暖かくさえしてくれりゃいいんで、それでいーんだけどさ」

 美琴も無言でコートなど脱いで丁寧に折りたたみ、コタツに入って早速ぬくぬくしている。
 美琴の場合は寮にコタツがないので、久々のぬくもりだ。
「コタツにミカン…あとは猫でもいれば完璧かしら」
「俺は三毛猫飼ってるぞ」
「えー!?初耳」
「うわー、いいなー!」
(あと白いビッグイーターもいるけどな……)
 上条は心の中でひっそりとつぶやく。


 佐天が湯のみに入れたお茶と、バスケットにポテチを入れて持ってきた。
「うっふっふ~、準備完了ですよー。じゃあのんびりだべりましょうー」
「ありがとね佐天さん~。こういうのもいいわねえ」
「俺はちょっと落ち着かねーな」

「大丈夫ですよ、じきに御坂さんも落ち着かなくなりますから」
「え?」

「この人ですよね?大覇星祭の借り物競争の人って。お二人の関係から全て!聞かせていただきますね!」


 蜘蛛の巣に捕まった美琴はもがく。
「ちょ、ちょっと佐天さん、そーいうつもりで……!?」
「です!常盤台のお嬢様が、男の人とどう知りあうのか?……これは余程のドラマがあるとしか思えません!」
「な、何もないってば!」
「まず、お二人の関係は?恋人?友達?」
 早速真っ赤になっている美琴に、佐天はニヤニヤ笑いを隠しきれなかったが、上条の方を見て熱が引いた。
 上条はやや口をへの字にして、視線を上にさまよわせていた。

「上条さん、もしかして騙して連れてきたなとか思って、怒ってます?」
「ん?いや、そういう他愛ないことで怒る趣味は、カミジョーさんにはございません。でも、関係、ねえ……?」
 上条はポテチをぱりぱり食いながら思案げだ。
「御坂との関係って改めて聞かれるとな。最初はケンカ仲間で、そこから友情を育んで仲間になったみたいな、かな?」
「なによその少年漫画みたいな設定」
「例えるならゴクウとピッコロ?敵から仲間になったよなあれ。ゴクウとクリリンの関係とは違うよな」
「……私をピッコロ扱いしてない?」
「魔貫光殺砲とレールガン似てねーか? そういえば俺髪の毛ゴクウみてーだな」
「アンタ女の子に向かって緑色はないでしょ緑色は!」

「ちょ、ちょーっと待って下さいお二人とも!話が思いっきりずれてます!」
 佐天は、上条が一筋縄ではいかない相手だと、直感で悟った。

「ケンカ仲間って、まさか殴り合うわけじゃないですよね?ボクシングみたいなルールですか?」
「……正真正銘、私は全力で電撃・レールガン・砂鉄剣なんでもありで挑んだけどね……」
 佐天はAIMバーストに取り込まれた時の記憶をうっすら持っている。
 AIMバーストを倒した時の御坂美琴は鬼神の如くであり、なお余裕があった。
 佐天は上条を見つめる……上条はすっとぼけた顔をしている。

「結果は私の全戦全敗。コイツには効かないの、私の攻撃が」
「さっき上条さん無能力者って言ってたじゃないですか?能力あってもありえない話なのに!」
「演算してやってる訳じゃねーからな。超能力じゃなくて、特殊能力だな」
 ずずっ、とお茶をすすりながら上条は続けた。
「弱点も多い能力だから、ネタばらしはここまでにさせてくれ」
「はー……」
 佐天はよく分からないまま話を打ち切られて戸惑っている。

「ま、経緯はともかく、御坂とは……」
 実際のところ、出会いも、全戦全敗という内容も、記憶の無い上条は、強引に話を変えようとしていた。
「能力とか関係なしに、頼れる普通の女の子としてお近づきにさせて貰ってるよ。高校生としちゃ情けねー話だけどさ」


 佐天は美琴をちらっと窺った。美琴は満更でもない顔で頬を赤くしている。
「じゃ、じゃあ、御坂さんは上条さんの事は、どうなんですか?」
「わ、わわ、私!?」
「御坂って、いつもプンプンしてるから何考えてるかサッパリ分かんねーんだよなあ……」
「いつもプンプンって…私達といるときはそんな姿ほとんど見せないですよ?白井さんが変なことしない限り」
「ホントかよ。俺いつも出来の悪い弟みたいな扱いで、目を合わせりゃボンクラだの、この馬鹿だのと」
「えー、こちらではいつも落ち着いてて、いざとなれば頼れるお姉さんモードで引っ張ってくれる人ですよー」

 美琴は口をぱくぱくさせて、目を泳がせている。
「どっちがホントのお前だ?」「どっちが素なんですか、御坂さん?」
「べ、べべべ別に演技してるわけじゃなくて、えと、その……」
「怒り表現っつーのは喜怒哀楽の基本だからさ、俺の方が素なんじゃね?」
「いやー、素直になれない照れ隠しと見ましたよ!怒り表現で誤魔化してるんじゃないですか?」
「照れ隠しなら、それなりのアピールってのか?ツンデレみたいなものも含んでるだろ普通。コイツはいつだってツンツンだ」

 上条と佐天は、う~んと首を傾げて美琴を改めて見つめた。美琴は首をすくめて真っ赤になっている。
「ん、でも確かに変だ」
 上条と急に気づいたようにつぶやいた。
「何がですか?」
「こんなにずっとおとなしい御坂は初めて見るかもしれない。佐天さんがいるからか」

 その時、上条の携帯が震えた。

 ああ、ちょっと失礼…土御門か、とつぶやきつつ、上条は何やら話すとすぐ電話を切った。
「わりいわりい。ちょっと待ち合わせ時間早まる事になったっつー連絡だった。あと1時間ほどはいけるけどな」
「は~い。じゃあまだ質問タイムは続けていいわけですね?今質問が増えました」
「ん?」
 佐天は見逃さなかった。

「そのカエルのストラップ、御坂さんとペアストラップですか?」

「ん?そうだけど?ペア契約した時に貰ってさ、携帯壊れて交換したときに、折角だしと着けたんだけどなー」
「ペッ、ペペペペペア契約!!!?」
 美琴は額をコタツテーブルに当てた形で突っ伏してしまっていた。うなじまで真っ赤なのが見て取れる。
「やっぱ似合わねーかねえ」
「に、似合ってますから大丈夫!そんなことより、ペア契約って!?」
「いや正にこのストラップ狙いでさ」
 上条は美琴をアゴでしゃくる。
「ペア契約にしたらストラップ貰えるっつーから、付き合っただけだ。逆らえない事情もあったしな」
「御坂さんがお願いしたってことですか?」
「そー。そういうことがあってさ、レアもんぽいっし、このストラップつけてるわけだ」

 ◇ ◇ ◇

「……ところで、何でお前は寝てるんだ」
「なんかもう色々と……たぶん佐天さん盛大に勘違いしてそうだから、それを思うと……」
 美琴は顔を上げ、二人の顔を見ずにつぶやく。
 ペア契約を仕掛けておいて、勘違いも何もない。佐天は、美琴に揺さぶりをかけることにした。
「勘違いですか……じゃあ、今から私、上条さんの携帯番号ゲットしていいですか?私の家を知る彼の番号を!」
「番号?それぐらいいくらでも……」
「ス、ストップ!」
 相変わらずの鈍感さでもって携帯を取り出そうとした上条を見て、美琴は叫んだ。

 そのまま美琴は佐天の顔を見つめる。
 佐天は初めて見た――美琴のこれほどまでに、何かを訴えるような、子犬のような表情の顔を。
「わ、わかりました!か、上条さん番号はまた今度!やっぱ男女で軽々しく教えあうもんじゃないですよね!」
「? ただの番号交換だろ? まあいいけど……」
 また美琴は突っ伏してしまった。


 佐天は改めて、この2人の上級生を見比べた。
 見紛いようもない。御坂さんはこの人に惚れている。もう舞い上がって上条の方を見ることもできないようだ。
 御坂美琴と知りあって半年近くになるが、ここまでベタ惚れの男を隠し通してきたとは。
 そしてこの上条という男、最強のLV5をただの後輩のように扱い、その好意に全く気づいてない!?

 佐天は心に決めた。
 この男から情報を引き出し、御坂さんの援護射撃をすると!
 いつも何だかんだで助けてもらってる御坂さんに、ようやくお返しができる機会が来たと!


「ね、ねえ上条さん。今恋人っていないんですよね?」
「いる、と強がりを言いたいとこですがね」
「例えばですよ? 私が試しに付き合って下さいとか言うと、どーなんですか?」
「そ、そりゃあ嬉しいだろうなあ。けど、中学生相手っつー現実の前にはなー」
「え?中学生ダメなんですか?」
 やばい、年上好きなのか、と佐天は焦る。これじゃあ援護射撃どころかヤブヘビだ。
 ここでそろそろと美琴が起き上がってきた。目を閉じて、上条の方には顔を向けない。ちょっとオデコに跡が残っている。

「いや、年齢的にはおかしくねーんだろうけどさ。高校に入りゃわかるけど、中学生に手を出したらもう最悪のレッテルがつく」
「そーいうもんなんですか?」
「そーいうもんなの。いわゆるオトナの魅力がつき始める同級生をヨソに、中学生に目をむけるのはロリコンだ、ってな」
「じゃあ世間体だけが問題ってことですか?」
「突き詰めるとそうかもしんねえな。けど中学生ってまだガキだしさ、…って、ガキっていうと御坂怒るんだよな、いっつも」
 美琴は少し頬を膨らませたのみで、動かない。

「ま、ガキ…子供の世界に戻りたくねえっていう、どっちがガキだよっつー話かもな、実際のトコロ」
「……上条さんって、何か悟りすぎてません?何かこう、理由つけないと恋愛できないみたいな風に聞こえますよー」
「やっぱ言われるか。恋愛ってのはこういう理屈っぽい世界じゃなく、感情のまま動いた方がいいとはわかってるけどさ」
「そーですよ!仮に中学生から告白されたって、嫌じゃなければ受け入れましょうよ!」
「だなー。でも、俺みたいな能力もない金もない…顔は並だと思ってますけど!……そういう奴に告白する子、なあ?」
 上条は首をふりつつ、ため息をついた。
「自分からいい子見つけては玉砕していかねーと、永遠に彼女できねーだろな、ははは……」

 普段の佐天なら、「じゃあホントに立候補しちゃおうかな~」といったボケをかますところだが、今は冗談では済まない。
「じゃ、じゃあ今の上条さんは、万が一告白されたら、オールオッケーみたいな感じなんですか?」
「…そうだなあ。あまりにストライクゾーン離れてたら流石に、だけどな。……えーと、御坂大丈夫か?ずっと黙ってるけど」

「だ、大丈夫。アンタたちの会話聞いて楽しんでるから、気にしないで」
 美琴は片目を開いて答える。自分では引き出せない上条の恋愛観に、内心はこの上なく興味津々状態である。
 ほんと今日の御坂はおとなしくて不気味だな……と上条はひとりごちる。
「ストライクゾーンですかあ……やっぱ顔とか胸とか、男の人なんだから見ますよねえ……」
 佐天は上条に斬り込んでみた。

「いや?そりゃ美人だとか巨乳だとか、それには目は奪われますが!でも彼女基準としては別に、って感じだぞ」
「え~、そんな事いって本心隠してません?じゃあ私達2人、ストライクゾーンには入ってます?」
 一瞬詰まる上条。
「あ、ああ。入ってる、ぞ」
「それはそれは。ありがとうございます」
「っつーか、キミタチがストライクゾーンに入らない奴なんて、いねーんじゃねーか……?」

「逆にどーですか御坂さん?上条さんはストライクゾーンに入ってます?」

 佐天はこれぐらいならどうかな?と美琴に振ってみた。
「ご、ごめん。そのストライクゾーンっていうのが、いまいちピンときてないんだけど」
「内面とか知らない部分は抜きにして、外面だけでとりあえず判断するぶんには、交際OKというライン、ですかね……?」
 上条は佐天の言葉を頷いて肯定してみせる。
「まあそんな感じかな。検討の余地有りってな」

「でも、それだと……」
 佐天はにま~っと笑う。
「上条さんは、御坂さんの外面に加え、そういうプンプンしている所や諸々を加味しても、ゾーン内なんだ?」
「そりゃな。根っこはイイヤツなのは分かってるし」

 これはいい感触だ、とニヤリとしながら佐天は美琴に向き直った。
「さて改めて御坂さん。ゾーン判定どうぞ!……御坂さん?」

(交際OK……って!? 根はイイヤツとか……? そ、そう思ってくれてたの?)
 美琴は完全にトリップしていた。


「……さん!…さかさん!御坂さん!?」
 ハッ!と美琴は我に返る。
「あ、ああ、ごめん!……ちょっと考え事が」
「急にうつむいて固まっちゃいましたから何事かと……そ、それで御坂さんはどうですか?」

 なんだか夢見心地のような気分で、美琴の口が自然に動く。
「え、わ、私? 私もOKよ」

「……何がですか?」
「……あれ、交際の話してなかったっけ」
「! 御坂さん、ストライクゾーンどころか、上条さんと交際するのがOKってことですか!!!?」
「え……?」
 ようやく美琴の頭が状況を整理し始め、自分が何を言ったか、理解した、時。

 美琴は佐天の座っている方向へ真横に倒れこみ、コタツ布団に顔をうずめて震えだした。


「うわー感動……!恋人成立の瞬・間…!」
「ちょーっと待ってくれ。俺も突然で何が何やらだ」
「また難しく考えてますね? お互いオッケーで何が何やらもないですよ」
 佐天はまだこの期に及んで、といった表情で上条をジト目で見る。

「いや、俺は御坂のゾーン外とばかり思ってたからさ。……結構御坂のプライドに触る事やってきてるしな」
「プライド?」
「電撃は効かないわ、ピンチは何度か助けられるわ、でな。もちろん俺だって御坂に助けられてるから対等なんだけど」
 上条は美琴に一瞬視線を走らせる。
「その対等ってのが、御坂の中で俺を『許されざる者』にしてんじゃねーかなと。LV5の挟持ってヤツだな」

 はあーっ、と佐天は大きなため息をついた。
「上条さん、見事にぜんっぜん分かってませんねー」
「はい?」
「確かに御坂さんは最強のLV5ですよ?学生の頂点です。でもね……」
 佐天はぐいっと身を乗り出した。

「その頂上で一人立つ御坂さんは、ずっと待ってるんですよ、自分が寄り掛かれる人を!
あたし達じゃダメなんです、寄り掛かられても倒れちゃう。
御坂さん程になると、行動や振る舞い一つで、簡単に世界も物事も、変わったりしちゃうんです。
そーんなプレッシャーの中過ごしてるのに、なに『許されざる者』とか言ってスルーしちゃってるんですか!
御坂さんが独裁者風な人だったらそういう感想もアリですけど、そんな人じゃないのは分かりますよね?
みんな御坂さんを強い強いって祭り上げるけど、普通の女の子なんですよ御坂さんは!」

 佐天は息をついで更に上条に畳み掛ける。上条はこの説教モードにヒクついている。
「上条さん、いつもプンプンしてるって言ってましたけど、当たり前じゃないですか。
あたし覚えてますけど、御坂さんがカエルのストラップつけ始めたのは10月頭ぐらいだったはずです。
携帯のペア契約はその頃ってことですよね?御坂さんは、その頃既にさりげなく想いを上条さんにぶつけてたわけですよ!
そしてさっきまでの、このコタツでの御坂さんの態度。ずーっと真っ赤で、上条さんとほとんど視線合わすこともできず!
……な・ん・で気付かないんですか!普通に話せないからプンプンして誤魔化してるのに!どんだけ鈍感なんですか!」

 一瞬間が開き、更にと口を開こうとした佐天に、上条は右手で制した。
「いや、分かった。……まあ、その、俺が悪かった、です……」
「本当にそう思ってます?」
「し、しかしだな、俺を好きになる奴がこの世にいるなんて、だな……しかもこんなスーパーお嬢様が、とは……」
「あ、ちょっと待ってください。好きかどうかはあたしは知りません。あくまで推測です」
「う……」
 あれだけ言い切っておいて推測かい、と突っ込みたい上条であったが、言葉を飲み込む。
 しかしまったく見当違いなら、流石に起き上がって否定するだろう、とは思う。

「上条さんが、ちゃんと御坂さんの意思を確認して下さい。男なんだから、ちゃんとリードしてあげて!」
 佐天は、ん~っと伸びをして、
「しゃべりすぎて喉が乾いて体も熱くなっちゃいました!ちょっとコンビニで飲み物買ってきます!」
 佐天はそう言うと、10分で戻ります、と言い捨てて外へ駆け出していった。

 ぽつんと2人きりにされた。どう見てもこの時間で結果を出せ、ということである。
 美琴の震えは止まっていた。が、どんな表情をして起き上がればいいかわからず、起き上がれない、といった様子だ。


 上条は意を決して、コホンと咳払いした。
「……なあ御坂。もし俺の事をそれなりに好いてくれているのなら、起き上がってくれないか?
そうでないならそのままでいい……3分ほど待って、俺はこの部屋を出て行く」
 美琴はすぐに、しかしのろのろと、体を起こした。顔は俯き、表情はわかりづらい。

「御坂、まだちょっと俺も気持ちの整理はついてないが……佐天さんの言うとおり、感情で動くとするならば……」
 下を向いて口を引き結んでいる美琴を見つめながら、上条は言葉を繋げる。
「俺を好いていると意思表示してくれたお前を、愛しく思う気持ちが湧いてきた。俺はこの気持ちに従う」

 上条は居住まいを正すと、コタツの上に右手を出した。
「御坂、こんな鈍感野郎で申し訳ないけど。もし、付き合ってくれるなら、この手を取って欲しい」
 美琴は。……両手で上条の右手を柔らかく包み込み、声も出さず頷いた。何度も、何度も。
「……ありがとうな、御坂。ずっと耐えさせて、悪かった……」
 美琴は声を殺して泣き始めた。左手はまだ上条の右手を離さず、右手でとめどなく流れてくる涙を押さえ……


 ガチャ、と扉の開く音がし、佐天がにゅっと顔を出した。
「終わりました、か……?」
「ああ、OK。おかげさまで……」
 佐天は部屋に入って座らず立ったまま、2人の手がコタツの上で結ばれているのを見て、微笑む。
「恋人確定!ですか?」
 上条と美琴は頷いた。
「やりましたね御坂さん!グッジョブですよ上条さん!じゃあこの喜びを……」

 おもむろに佐天は携帯を取り出し、ちゃちゃっと操作すると耳に当てた。
「佐天です、今いいですか?大ニュースです!なんと御坂さんに彼氏が出来たんです!私、立ち会いました!
……ええ、ええ、今ですか?彼氏の胸の中で嬉し泣きしてますよ。またご本人から確認してもらえば!じゃ!」
 御坂美琴が潤んだ瞳で顔を上げ、上条当麻が口をあんぐりあけて硬直している前で、佐天涙子は携帯をしまいながら笑う。


「『私の戦闘力は530000ですの』って言いそうなラスボスですけど、ゴクウとピッコロで頑張ってくださいね!」


おしまい。


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