最恐と最強
とある休日、御坂美琴は暇を持て余し、いつもの公園を散歩していた。
「うーん、なんとなくここまで来ちゃったけど、流石にアイツはいないか…
ったくあの馬鹿、こういうときに限って見つからないんだから…。はぁ…自販機蹴って帰ろっと」
もしかしたらという期待を抱きここまで来たのはいいが、結局お目当ての人物は見つからずに、ジュースを手に入れて帰ろうとする。
いつものようにトントンっと予備動作に入った所で突然声を掛けられた。
「おーっす、御坂じゃねーか。何やってんだ?こんな所で」
「わ!ちょっといきなり声掛けないでよ!びっくりするじゃない」
「わりーわりー、んで?何してたんだ?」
「見てわかんないの?自販機蹴ろうとしてんのよ」
「は?何でまたそんな事を?」
「え?何でって…いつものようにジュースを飲もうと思ったのよ」
「おいおい、ジュースくらい普通に買ったらいいじゃねーか、お前お嬢様なんだろ?」
「べ、別にいいでしょ!それに、誰かさんみたいにお金飲まれたら嫌だから!」
「はは!そんな間抜けな奴がいるのか」
「…?アンタ、自分の事でしょ?それにさっきからなんか会話がおかしいような気がするんだけど、どこかに頭でもぶつけた?」
「そういえばそうだったな!あはは…ははは…」
「?」
会話の違和感を感じ首を傾げる美琴。当麻は一瞬ドキッとしたした動きを見せたが、美琴はその動きを見ていなかった。
「んで?アンタはここで何してんのかしら?」
「あ~実はお前を探してたんだよ」
「え!?な、なんで!?」
「ああ、ちょっと大事な話があってな、すぐ済むからちょっとだけ時間いいか?」
「………」
(え!?ちょ、何?私を探してたって!?それに大事な話って!?この真剣な表情といい、ま、まさか…
こ、こ、告白とか!?いやいやでもこいつの場合はまたなんか厄介事に巻き込まれて…えーでもでも!もしかしたら本当に!! )
当麻の真剣な顔を見て、顔を真っ赤にし、あれやこれやと想像を膨らます美琴。そんな彼女をつまらなそうな顔で見る当麻。
チッ、っと軽く舌打ちをしてから、立ち尽くす美琴に声を掛ける。
「おーい、御坂さーん、聞いてますか~?」
「ひゃ!!な、なによ!大事な話って」
「ああ、実は俺、お前の事が――――――――――」
当麻の言葉に辺りが静まり返る錯覚を覚えた。まるで自分以外の全てがどこか遠くへ行ってしまったかのように。
そんなの嘘だ。そう考える彼女の動悸は先ほどまでとは違う意味で速くなり、真っ赤だった顔は一瞬にして真っ青に染まった。
体は小刻みに震え出し、視界がぼやけていく。
「え…?今…なんて…言った…の…?」
先ほど言われた言葉がどうか嘘であって欲しいと思い、口に出した縋る様な美琴の言葉。震えたその声には力が無く、とても弱々しいものだった。
それに対して当麻は特に表情も変えずに美琴の僅かな希望を打ち砕く。
「なんだ、聞こえなかったのか、仕方ねえな。もう一回言うぞ、俺はお前の事が大嫌いだ」
「――――――――嘘…でしょ?」
「嘘じゃねーよ」
「どう…して…?」
「どうしても何も、鬱陶しいんだよ。会うたびに電撃飛ばしてくる、口は悪い、弱者を見下したその態度、本当うんざりするわ」
「…」
「わかったらもう二度と俺に近づくなよ、用はそれだけだ」
「…」
当麻の容赦ない言葉が美琴の心を切り刻んでいく、絶対の存在である当麻からの明確な拒絶。それは美琴にとって死刑にも等しいものだった。
全身の力が抜け、膝から崩れ落ち、両手で顔を押さえる美琴。そんな彼女を見て満足そうにその場を立ち去ろうとする当麻。
―――――その時
「――――――――――!!!」
聞き覚えのある声に顔を覆っていた両手をどけて、声の聞こえてきた方向を見る。
ぼやけた視界が捉えた人物は、いつも自分のピンチに駆けつけてくれる、強さと優しさを持ったヒーローだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「くそ!御坂…、間に合ってくれ!」
少年は公園に向かって走っていた。全力疾走をする少年の左腕は大きく皮膚が剥がれている。
先ほど突然何者かに襲われ、気絶している間に剥がされたのだ。
少年は自分の皮膚を剥がした人物が誰だか知っていた。そしてその人物がその皮膚を使って何をしているのかも。
少年は痛みも気にせずに、ひたすら発電機のプロペラが回る方向へ走る。恐らくそこにいるであろう人物を守る為に。
「あの野郎、御坂に何かしたら絶対に許さねぇ!とにかく無事でいてくれ!」
程なくして目的地の公園にたどり着く。しかし、探している人物は見つからない。
(何処だ御坂!何処にいる!?)
キョロキョロと辺りを見回しながら走る。そして、彼女とよく会うあの自販機の前でその姿を見つけた。
そこで少年は見た。探していたその彼女が膝を付き、両手で顔を押さえる姿を。
そして、その前に立ち笑みを浮かべている自分とそっくりな顔を持つ男を。
「―――!!!」
ザワリ、と全身の血が沸騰するような感覚を覚える。鼓動は強く激しくなり、体中の熱が武器である右手に集中されていく。
今まで全速力で走っていたが、更に加速し、目の前の男に真っ直ぐ突っ込む。
「――――ンの野郎おォォおおおおおお!!」
その叫び声に気付き少年の方を向く男。黒いナイフを取り出し構えを取るが、少年は気にすることなく突き進む。
「御坂を!!泣かしてんじゃねえぇぇぇ――――――――ッ!!!」
叫びと共に渾身の右を放つ、その拳は黒いナイフを砕き、男の顎を捉える!
あまりの衝撃に男が吹き飛ぶ。同時にパキィンと男の仮面が砕かれた。
「御坂!大丈夫か!?アイツになんかされたのか!?」
「…」
「おい!どうした!?どっか痛いところでもあるのか!?」
「…アンタが…二人…?」
吹っ飛んだ男はピクリとも動かないが、そんな男には目もくれず、美琴の心配をする少年。
美琴の方は目の前で起きた事が理解できずにいたが、辛うじて疑問を口にする。
「ああ、あの野郎は偽者だ、以前海原の偽者がいただろ?そいつだよ」
「偽…者…?」
「ああ、そうだ」
「そうなんだ…」
「それで?お前は一体アイツに何されたんだ?なんか酷い事でもされたのか?」
顔の砕けた男が何者か説明する当麻、しかし、美琴はどこか上の空でぼーっと当麻を見つめ、生返事をしている。
こんな状態になるという事は余程酷い目にあったのだろうと当麻は感じた。
どのように声を掛けていいか迷っていた当麻だが、「ねえ…」と美琴が口を開いた。
「アンタは…、アンタも私の事…嫌い…なの…?」
「は?なんだいきなり?」
「さっきそいつに言われたの、『大嫌いだ』って…アンタの顔で、アンタの声で…、それで私……」
先ほどの言葉を思い出し美琴は遂に泣き出してしまった。先ほどまでのように両手で顔を覆い、泣き顔を見られないようにして。
そんな美琴を見て、当麻は頭を掻く。そして、小さくため息をつくと、美琴の頭に手を乗せ、撫でながら話しかける。
「んなわけねーだろ、そりゃ確かに顔を合わせばすぐビリビリするし、毎度のように追いかけてくるし」
「や、やっぱりアンタも」「でもな」
「俺はお前の事その…好きだぞ?お前といると退屈しないし、根が良い奴なのは知ってるしな。
ただまあ、いっつも突っかかって来るから、お前に嫌われてるのかと思ってた」
「…ぇ?」
「だから、あいつの言った事なんか忘れちまえ。俺はお前の事好きだ」
「――――好き?え?」
「えぇぇぇえええ――――!!!!!!!!」
(ええ!?何これ何なのどうなってんのー!?コイツがわ、私の事好き!?でもでもさっきの事もあるしこいつが偽者って可能性が――――!!!
ああでもこれは嘘であって欲しくない、というかもう今の言葉脳に刻みつけた、えへ、えへへ…ふにゃ)
「ど、どうした?み、御坂?」
当然当麻にしてみれば『友達』として好きというつもりで言った言葉だったのだが、美琴には特別な意味として伝わった。
真剣な顔で好きと言われ、盛大に勘違いをした(させられた)美琴はふにゃふにゃになりながらも行動を起こす。
頭を撫でられていた美琴は、当麻の胸に寄りかかり腰に手を回し抱きつく、抱きつかれた当麻は突然の状況に脳がパンクし固まっている。
そんな当麻を上目遣いにやや潤んだ瞳で見つめ、自らの想いを口にする。
「わ、私も…アンタの事が…好き…いつからかなんてわかんない、気がついたら好きになってどうしようもなかった。
さっきコイツに大嫌いって言われた時、凄く辛くて、悲しくて、このまま消えたいと思ったの。それくらいアンタが好き」
「御坂…」
「だから…、アンタが迷惑じゃなければ、ずっと一緒にいて欲しい…」
「…」
今まで嫌われていると思っていた美琴からの告白に当麻は目を閉じ考える。気の知れた友達として見てきた美琴を自分はどう思っているのか。
夜通し追いかけっこした時は―――疲れはしたが、不思議と充実感があった。
街や公園でばったり会った時は―――そっけない態度を取りながらも、あの憎まれ口を聞けるのが嬉しかった。
怪我で入院した時は―――必ずお見舞いに現れ、安らぎを与えてもらった。
他にも美琴との思い出は沢山ある。その一つ一つが自分にとって大切なものだと気付く。
――――そうか、俺
再び目を開けると、そこには顔半分を自分の胸に埋め、涙をこぼしながらじぃーっと自分を見つめる美琴がいた。
当麻はふっと美琴に笑顔を見せると、そのまま彼女を抱きしめた。
「俺の方こそ、こんな不幸で超鈍感な奴だけど、ずっと一緒にいてくれないか?」
「…うん、うん!」
「ありがとな」
想いが通じ合い、抱きしめあう二人。
美琴の方は、うれし涙を流し、涙でぐしゃぐしゃになった笑顔で当麻を見つめる。
当麻は、そんな美琴を見て「ほら、泣くなよ」といいながら優しく抱きしめて背中をポンポンと叩いている。
二人の抱擁は美琴が泣き止むまで続いた。
「落ち着いたか?じゃあとりあえず顔洗って来い」
「うん、じゃあちょっと行ってくるわね」
涙で真っ赤になった顔を洗うように促す当麻、美琴もこのままでは恥ずかしいので、顔を洗いに行く事にする。
暫く時間が掛かると予想した当麻は、未だに大の字で倒れている偽者に視線を向ける。
「さーて、こいつをどうするかが問題だ、というか生きてるのか?こいつ」
つんつんと突っついてみるが反応は無い。一応脈はあるので生きているようではある。
暫くその伸びた物体で遊んでいると、顔を洗い終えた美琴が戻ってきた。その目は少し腫れ、充血している。
しかし、おかしな点が1つある。それはバチバチという音と共に、彼女が帯電していた事だ。
「戻って…きたわよ…」
(うぅ…やっぱ恥ずかしい…どんな顔すればいいのよ…)
「み、御坂?ど、どうした!?なんかバチバチいってるぞ!!?」
「ふ、ふぇ!?」
(うわー!やっぱ無理無理!まともに顔見れない――)
先ほどの出来事を思い出し、恥ずかしさのあまり漏電していた美琴。心配した当麻は心配し駆け寄る…が!
(うわー!!こっち来た!?どうしよどうしよう!?あいつの顔が――――――)
「ふにゃー」
「どわあぁぁぁああああああ!!!」
「――――――」
限界を迎えた美琴はバチバチバチィィ!っと制御効いていない電撃を撒き散らす!
それは辺りの草木を焦がし、街灯を割り、目の前の少年…は無傷だが、少し離れた場所にいた人物には容赦なく襲い掛かった。
突然の出来事に慌てる当麻だが、右手が美琴に触れたことで、放たれる電撃は消え去った。
「お、おい!お前いきなり何すんだ!俺を殺す気か!?」
「わ――!!う――わ――!!」
「いいから落ち着けっつーの!」
暴れる美琴をぐっと抱き寄せる当麻。すると美琴は途端に大人しくなり、当麻の胸に自分の体を預ける。しかし、その力は完全に抜けている。
「ん?おい、御坂?」
「―――――」
「気絶…してる?」
美琴の意識は、抱きしめられた瞬間に無くなった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「う…ん…?」
「お?ようやく目が覚めましたか?姫」
「あれ…?私どうしたんだっけ?」
「なんか良く分からんが突然気を失って倒れたんだよ、大丈夫か?」
「そう…な!??ななな!?」
「どうし…」「何やってんのよアンタ―――!??」
あれから暫くして目を覚ました美琴は驚く。心配そうに見つめる当麻の顔がすぐ近く、いや真上にあった。
膝枕をされていた彼女は状況を飲み込むと、突然顔を上げる。当然そこには当麻の顔があるわけで…
『ゴッ!』
「ぐあぁぁああああ!!!」「~~~~~~~~!!!」
鈍い音と共に痛みに耐え切れず悶絶する二人。
「て、テメエ!いきなり顔上げんな!」
「な、なによ!アンタがあー、あんなことするからいけないんでしょーが!!」
「いやいや!?俺は悪い事はしていませんよ!?ってそれにしても痛ぇ…お前どんだけ石頭なんだよ…」
「ちょっとあんた!乙女に向かって石頭はいくらなんでも酷いんじゃ…~~~~~~!!」
「ほら、頭痛いんだったら大声出すなよ」
「何よぉ…あんたの所為でしょーがぁ…」
涙目になりながら言い合う二人、流石に悪い事をしたのか?と思った当麻は、美琴の額を撫でる。
「なんか、悪いな。気絶するくらい体調悪いのに気付いてやれなくて」
「ち、違うわよ、あれはアンタに抱きしめられたのが…その…嬉くて…それで、あの…ごめんね?いきなり起き上がって迷惑かけちゃって…」
美琴の様子がおかしいのは、体調の所為だと思っていた当麻だが、美琴は違うという。
先ほどの出来事についてごにょごにょと話す美琴は顔を真っ赤にしているが、その表情からはうっすらと不安が見える。
「気にすんな、それにあれぐらいで嫌いになったりしないからそんな顔すんなよ」
「本当に?」
「ああ、んな事で嘘ついてどうすんだよ」
「よ、よかったぁ~」
「あれれ?という事はもしかしてさっきの電撃は嬉くて…出ちゃったとか?」
「んな!?」
「図星ですか御坂サン!?これは上条さんもびっくりですよ!」
「しょ、しょーがないじゃない!ていうか忘れなさいよ!!」
「それに、その時の御坂ときたら、真っ赤になって、手をモジモジさせ」「うわー!!お願いだからこれ以上何も言わないで―――!!」
「へいへい、わーったよ。それで?もう落ち着いたか?」
「へ?うん、もう大丈夫よ?」
「そんじゃあ、そろそろそこで伸びてる奴をどうするか考えようぜ」
「へ?」
当麻が指差す方向を見る美琴。そこには未だに沈黙している元凶が仰向けに倒れていた。
それを見た瞬間先程された事に対する怒りが生まれ、彼女はバチバチィ!と辺りの空気を鳴らし始める。
「コイツ…よくもこの私を…!」
「ちょーっとストーップ御坂ー!ダメだぞ?電撃は絶対ダメだぞ!?」
「何でよ!?コイツは絶対に許さない!!」
「まあ待て、俺もコイツのした事は許せないが、まずは意識を取り戻させる事が」「ふん!」
バチィ!!制止を振り切って雷撃を放つ美琴。放たれた電撃は偽当麻だった人物(今はボロボロになったエツァリ?)に直撃する。
ビクン!と大きく体が跳ねる。それを見た当麻は慌てて声を出す。
「お、おい!何やってんだお前!?」
「何って、電気ショックで意識を取り戻させてんのよ」
「お前なぁ…流石にそれは酷すぎねぇか?」
「加減はしたから大丈夫よ、…死なない程度に」
「…ん…私は一体…」
「げ、本当に目覚めたし…効果抜群の心臓マッサージだな…」
「何ならアンタが入院した時にやってあげよーか?」
「激しく遠慮します…」
「冗談よ」
「冗談に聞こえないのですが…」
「だったら今後は大怪我して入院しない事ね」(全く、いつもどれだけ心配してると思ってんのよ、この馬鹿)
「善処します…」
電撃を浴びせて強引に偽当麻の意識を取り戻す事に成功し、目の前に正座させる。
「それで、アンタは何の為にコイツに成りすましてあんな事をしたのかしら」
「…」
「あ、そう、そっちが何も喋る気がないなら無理やり吐かせるだけよ?」
バチバチィ!っと怒りに任せ空気を鳴らす美琴。当麻はその様子を黙って見ている。
というか美琴の目が据わっているので、手を出せずにいるというのが表現として妥当だろう。
そして尋問を受ける偽当麻はどうにかこの状況を打破するか考える。
(思ったより早く上条当麻が目を覚ましてしまいましたか、私とした事がとんだ失態です。
とにかく今はこの状況を何とかしないと…このまま殺されてしまいそうな勢いですね…さて…)
「あくまで何も喋らないっての?ふーん、わかったわ、そっちがその気なら…」
「上条当麻!貴方が悪いんだ!貴方が御坂さんを悲しませるから!私には届かない領域にいるくせに、彼女を守ると誓ったくせに!」
「どういう意味だ?」
「貴方は本当に何も分かっていない…!!御坂さんの好意を全て無視し続け、彼女の想いを踏みにじって悲しい顔をさせてきた!
私にはそれが許せなかった!だから」
「だからコイツに成りすまして私にあんな事したっての?私の心を踏みにじったっての?」
「そ、それは違う!私はただ、御坂さんの気持ちを上条当麻に気付いて欲しかった!だからここに来れるように意識を軽めに落としておいたんだ!」
偽当麻は本物がここに来て自分を倒し、彼女への気持ちを認識させる事が目的だと必死に訴える。
当麻はその訴えを聞く。よく考えれば、自分が邪魔ならそのまま殺してしまえばよたっかた筈では?とも思う。
「なあ御坂、コイツ本当」「―――嘘ね」
当麻が偽当麻の言葉を信じ、口にした言葉を遮る美琴。その瞳には嘘である絶対の自信と怒りに満ち溢れている。
「わ、私は嘘など言ってない!私は本当に…」
「アンタ、あんまり人前で素顔を見せないんじゃない?感情がモロ出てるわよ」
「!?」
「まあ私も鬼じゃないしー?コイツとの仲が進展したのも『一応』アンタのおかげでもあるわけから~?
素直に言えば軽ーいお仕置きで済まそうと思ってたんだけど…気が変わったわ、この期に及んで嘘を付いて逃げようなんて…死ぬ覚悟はできたかしら?」
チュィィィィ―――ン、っという甲高い音と共に辺りの空気が張り詰める、美琴の髪の毛は逆立ち、今までとは桁の違う放電を始める。
バチバチィ!という音が聞こえ始め、彼女の周りの空間が陽炎のように揺らいでいる。
「ま、待ってください御坂さん!話を、話を聞いてください!!」
「問答…無用ぉおおお―――――ッ!!」
「はいはい、そこまでにしておけ、御坂」
完全に切れた美琴は全力の電撃を放とうとした―――瞬間当麻の右手が彼女の頭に乗せられ、その電撃は目標に向かうことなく霧散した。
「ッ!!ちょっと!邪魔しないでよ!私はコイツを許せないのよ!」
「いいから落ち着け、まあここは俺に任せてくれ」
「おい偽海原、お前がどういうつもりでこんな事をしたのかはわからねぇ、でもな、お前のおかげで御坂と恋人になれたことは事実だ。
それには感謝してる。だがお前は俺の顔を使って御坂を傷つけた。それは許せない。そしてテメエがこれから先、また御坂を傷つけようってんなら…
―――――まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
右の拳を握り、偽当麻の頬を狙って渾身の力を―――放たない。
当たる寸前で勢いを殺し、強く握り締めた拳でぐっと押し付ける程度の一撃だ。
「…何故本気で殴らないのですか?」
「怪我人相手にこれ以上追い討ちかけれるかよ、それに全力で殴らなくても、俺のこの右手に乗せた想いは変わらねぇんだ」
「とことん甘いですね…貴方って人は……もう一度聞かせてもらえますか?貴方の答えを…」
「ああ、何度でも言ってやるよ。俺は―――――――――――」
「ふん、相変わらず最低な答えだ…ですが、これで私もようやく諦める事ができそうですね」
「もう御坂の事は諦めろ、俺がこれからもずっ…と?」
唐突に背中にドンという感触があり、振り返ると耳まで真っ赤にした美琴が抱きついていた。
背中に顔を押し付けてグリグリすると当麻の顔を見る。その顔は先ほどとは打って変わって喜びの感情が溢れている。
「うわわ!いきなり抱きつくな!」
「えへ、えへへ…」
「…やれやれ、見せ付けてくれますね。ではお邪魔虫の私は退散します」
目の前でいちゃつく二人に呆れた偽当麻は見てられないといった様子で立ち上がろうとする…が!
「ちょっと待ちなさい、私からもしておきたい事があるんだけど」
「「!?」」
「み、御坂?さっきのじゃ駄目か?」
「そういうわけじゃ…あるわね。でも多分大丈夫よコイツが『アンタ』なら」
「「???」」
「さて、偽者さん、アンタはコイツに化けてたのよね?」
「は、はい…それが何か…」
「コイツってさー、なんでか知らないけど私の能力効かないのよねー」
そこまで言うとゴソゴソとポケットからコインを取り出す。そのコインを見た瞬間二人は凍りつく。
偽当麻の様子を見てニヤリと口端を吊り上げる美琴。そして告げる。
「でさー、アンタがコイツなら私の超電磁砲でも余裕で止めれちゃうわよね?」
美琴の死刑宣告を再度受けた偽当麻はガクガクと震える。
当麻は美琴を止めようとするも、サッと離れられ右手が届かない位置にいる。そして美琴は罪人に告げる。
「乙女の!純情を!弄んだ報いを受けろやゴルァァアアアア―――――――――――!!!!!」
叫びと共にコインが弾かれる!ドゴン!!という爆音が響き地面が揺れる。土煙が上り、衝撃波が周りの草木を揺らす。
乙女の心を傷つけた不貞の輩は傷つけた相手の本気の報復を受けるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「~~~♪」
「えらくご機嫌ですね、御坂さん…」
「ふぇ!?そ、そう?」
「それはもう…鼻歌混じりにスキップしてればそれぐらい分かりますよ…」
「そ、そりゃあアンタと…その…やっと……なれたから…嬉しくて…だから…」
「もしもーし、ちゃんと言えてませんよ~?」
「う、うっさい!っていうか何でアンタはそんなにテンション低いのよ!?」
「お前…あの惨状を見たら誰でもこうなるだろ…」
「あ~、あ~~、あはは…テヘ☆」
「テヘ☆じゃねぇよ!全く…ヒヤヒヤしたぜ…」
「馬鹿ねー、この私が本気で殺っちゃうと思ったわけ?私はレベル5なのよ?」
「レベル関係ないから!あの時の目はマジでしたよ!?」
そう話す彼らは今、公園を離れ川沿いの堤防を歩いている。スキップで当麻の少し前を行く美琴はえらく上機嫌だ。
それとは対照的に当麻の方はげんなりとしていた。それはそうだろう、目の前で自分の彼女が殺人を犯す所を目撃しそうだったのだから。
…あの時、超電磁砲は発射寸前に美琴が方向をずらし、偽当麻から少し離れた場所に着弾する。
着弾時の余波と土埃が偽当麻を襲った程度で命を刈り取る事は無かった。
「あのまま放っておいて良かったのか?」
「まああれだけ脅しておけばもう二度とあんな事しないでしょ?」
「いや、そうじゃなくて、病院に連れて行かなくても良かったのかと…」
「はぁ…、アンタは優しすぎるのよ、まぁ…アンタらしいといえばらしいけど…
まあ、あれだけ派手にやっとけば誰か気付くでしょ?心配なし!」
「そういう問題じゃ…」
「いいの!そ・れ・よ・り、時間もあるしこれからその…デ、デートにいくわよ!」
自分で言ったデートという言葉に真っ赤になり『ガシィ』っと両手で右手を掴み、引っ張る美琴。
それに対して当麻は困ったような顔を浮べてこう言った。
「あ~、大変魅力的なお誘いなのですが、俺、行かなきゃならない所があるからデートはまた今度な」
「んな!?ちょっとアンタ!こーんなかわいい~~彼女ほったらかして何処行こうってのよ!?」
「病院だよ、病院。左腕の皮剥がされちまってな、ずっとズキズキしてたんだ」
「わ!ほ、本当だ!?ね、ねぇ?これ大丈夫なの?」
「まあ激痛って訳でもないからな、ってな訳でデートはまた今度。そんじゃあ俺行くわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私も行くってば!」
左腕の手当てもらう為に病院に向かおうとする当麻。背を向けてひらひらと右手を振る当麻を呼び止める美琴。
「はぁ?別にちょっと見てもらうだけだから心配ないぞ?それに付いてきても待ってるだけで退屈なだけだぞ?」
「も、もう!何でアンタはそんなんなのよ!?い、一緒に居たいのよ!それくらい分かれこの馬鹿!!」
バチィ!相変わらずの鈍感さに思わず電撃を放つ美琴。だがそれはいつものように右手によってかき消される。
「うお!?お、お前なぁ!俺だって一応怪我人だぞ!?」
「あ…うぅ…ごめん…いつもの癖で…」
「はぁ…そんじゃあ行くぞ。早くしないと日が暮れちまう」
「う、うん」
電撃を打ち消した当麻は再び歩き出す。その背中を追いかける美琴。前を歩く彼に追いつき、右隣に並んだ時――
「そうだ、御坂に大事な事言ってなかったな」
「え…?」
真剣な目で美琴を見つめる当麻。突然の事に目を点にして当麻を見つめる美琴。
「御坂…いや、美琴、俺はお前の事が好きだ。友達としてじゃなく、一人の女の子として」
「―――――――――――――」
「これから色々大変な事に巻き込んだりするかもしれない、けど、絶対に俺が守るからずっと隣にいて欲しい」
そう言って右手を差し出す当麻、目を見開き、少し口を開いてぼーっと見つめていた美琴はのろのろと当麻に近づくと、
差し出された手を両手で包み込むように掴み、一言――
「…うん」
短く返事をした。
「そっか、ありがとな。さっきはああいう形になっちまったからな、ちゃんと言っておきたかったんだ」
「…ん」
「ん?どうした?御さ…美琴?」
「えへ…えへへ…―――――――――――――」
「おい!美琴!?しっかりしろー!?」
「――――」
当麻の真剣な告白。それは美琴にとって不意打ちだった。
心の準備が出来ていなかった彼女は、愛の告白&名前で呼ばれるという最強コンボにあっさりKOされる。
そのまま意識を失い、当麻に倒れ掛かる。しかし、その表情は幸せそうに微笑んでいた。