とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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情けは人の為ならず 巡り巡って己が為



「男性恐怖症?」
 御坂美琴は、小さくなっている湾内絹保に向かって、そんな単語あるの?とでもいいたげな口調で返す。
「はい……」
「前に言っていた、お姉様に助けられた件から、だそうですの」
 白井黒子がため息をつきながらフォローする。

「ああ、不良に絡まれたってヤツね」
「それからは、一人で学舎の園から出ると、とても怖くて……」
「やなトラウマ抱えちゃったわね」
 腕組みをする美琴に、黒子も真似をするかのように腕組みをする。
「泡浮さんや婚后光子では、これまた外と接点が密にあるタイプではございませんので、この手の悩みは……」
「だからって、私も別に……そりゃできる事があるなら協力するけどさ」

「何言ってるんですの、お姉様。あの殿方紹介すればいいじゃないですの」
「へ?」
「そう、常盤台中学の生徒にも全く萎縮せずのマイペース、困ってる人がいればすぐ顔を突っ込む殿方が」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、アンタまさか」
「情けは人の為ならず、と申しますわ。皆で助けあって……」
「別にことわざはどうでもいいから!何でアイツが出てくんのよ!」

「他にご相談にのって頂ける方がいらっしゃるのですか?」
「ええ、高校生の殿方なんですの。この常盤台のエース、御坂美琴お姉様に対して、敬意もなくタメ口で」
「べつに年上なんだからいいじゃない」
「無能力者なのに変な力を持ってまして、お姉様もわたくしも、口惜しいながらもその能力で助けられたことがありますわ」
「素直に感謝する気持ちって大切よねえ」
「顔はまあ並というところですの。嫌悪感は抱かないと思いますわ」
「ひ、人によって見え方は違うかもね!」

「…………」
「……」
 美琴と黒子の間に微妙な空気が漂っている。

「あと年上のお姉さんが好みだそうですわ。巨乳も言わずもがなだそうで」
「う、嘘!なんでそんなこと知ってんの?」
「はい、嘘ですわ。実はあのシスターでも分かる通り、年下好きの貧乳OKだそうですわ」
「ほ、本当!?」
「嘘ですの。あんな殿方の趣味など存じておりません」
「…………」
 美琴と黒子の間に険悪な空気が漂い出した。

 黒子としては、うまい具合に話が進んで、湾内絹保と上条当麻がくっついてくれれば万々歳である。
 あの類人猿に近づく女が多ければ多いほど、お姉様はわたくしのモノうひゃはふへへへ、という事しか考えていない。

「何にせよこういう時、お姉様は結局、あの殿方をお頼りになりますよね?」
「ぐっ……」
「すぐお電話なさって下さいな。湾内さんが居られるうちにスケジュール調整いたしませんと」
「で、でも、今アイツが電話出られるかわかんないし、さ」
 美琴としては、上条と話している姿は、できるだけ知り合いに見られたくない。
 どれほどテンパるか分からないからだ。
「あーもう、めんどくさいお姉様ですの!ちょっとお貸し下さい!」
 と、テーブルの上に置いてあった、美琴のゲコ太ストラップ付の携帯に触れるやいなや、黒子の姿が消えた。

「! く、黒子アンタ!」
 美琴が焦ってキョロキョロしている間に、上空から声が降ってきた。
『こんにちわですの。………流石にお分かりになりますか、そうです白井です。………ええ、突然ですがお願いが……』
 口をぱくぱくさせて、美琴は上空を見つめている。照明塔の上で、黒子が澄ました顔をして美琴の携帯を耳に当てていた。

 撃ち落とすか美琴が迷っている間に、黒子は戻ってきた。
「1時間後、お会いできるそうですの。お姉様、湾内さん、いかがですこと?実はわたくし、今日ならあまり遅くは無理ですが」
 全てが黒子のペースで気に入らなかったが、美琴は頷き、絹保も頷いた。
 美琴の視線が嫌だったのだろう、また黒子は消え、照明塔の上で続きを話しこみ出した。

 その後の、着信履歴まで覗いた黒子に美琴の怒りが爆発し、取っ組み合いをし始めた話は、また別の話にて……

 ◇ ◇ ◇

「男性恐怖症?」
 上条当麻は、隣に――右側の通路側で小さくなっている湾内絹保を見つめ、不思議そうな顔をしている。
「つまり、この、やたら小さくなってやや震えてる状態は、俺に怯えてるってことか?」
「そうなるわね」
「俺に珍しく頼みごとっつーから何事かと思ったら……結構オオゴトじゃねー?」

 上条の向かいに座った美琴は、へえ~、と少し感心していた。難しい問題だとすぐ分かってくれたようだ。
「しかし何で俺なんだ?」
「それについてはわたくしが。下手な男を使いますと、あわよくば良い関係になろうとする不埒な考えを持たれかねません」
「俺ならそれはない、と。……白井も分かってんじゃねーか」
「いえ、そういう事が起こっても、貴方なら手加減抜きでぶち殺しても問題なさそうですので」
「…………」
「まあ、一番の理由は、わたくしとお姉様の共通の知り合いという点で、湾内さんも信用しやすかろうという事ですわ」
「俺はお前らが信用できねえよ……」
「黒子はともかく私は信用しなさいよ!」

 ふ~、とため息をついた上条は、両腕を頭の後ろに組んで、ファミレスの椅子にもたれて宙を見上げる。
「じゃー、手を握ったり、抱きしめたりしても平気になれば、大丈夫ってとこかね」
「私でさえそんなことしてないのに、させるわけ無いでしょ!」
「なんでお前基準なんだ!」
「はいはい。まあ今日のところは、結果は問わずというところですの。今日湾内さんがどれだけ打ち解けるか、ですわ」
「よ、よろしくお願いいたします……」


 上条はそのまま考え込んでいたが、ようやく口を開いた。
「たぶん、無理して話しかけても逆効果なんだろーな。俺が普通に喋ってるのを横で見て、まあ怖くないと思ってもらえば」
「そーね、自然が一番だと思う」
「でもまあ何だ、お前とはいつもバタバタしてる感じがするけど、こうやってのんびり話すのは滅多にねえよな」
「そういやそうね」
「普通の会話とやらが、ジジババくさいですわよ?」
「ほっとけ!」「ほっといてよ!」

 上条が、ポンと手を叩いた。いわゆる、手のひらの上にグーを乗せる、アレである。
「そういや、いっぺん聞きたかった事なんだが、いいか?」
「なーに?どうぞ」

「レールガンっつー通り名、お前が自分で付けたのか?」
「ブフッ!」
 美琴は飲んでいたドリンクが気管に入って、むせている。そして顔は真っ赤だ。

「わ、わわわ悪い!? だ、だっせーとか思ってるんでしょっ! なにカッコつけてんだとか思ってるんでしょっ!!」
「何も言ってねーじゃねーか……いや、お前にピッタリだとは思うぞ?」
「あ……そ、そう……?」
「あれってLV5になると付けられるのか?」
「別にそう決まってるわけじゃないみたい。能力開発の先生たちの会議で許可みたいなの出すみたいだけど」
「ふーん、白井もいずれLV5になると、通り名付くのかねえ」
「お姉様を見てると、とてもとてもLV5に届くとは思ってませんけどね」
 黒子は、それに私より上位のテレポーターがいることですし、と小さくつぶやく。

「黒子だったらどんな通り名になるのかしらね?」
「そうだな、……『レールガン』御坂美琴………『アブノーマル』白井黒子!ってのはどうだ!」
「し ば き た お し ま す わ よ?」
「一生モノになりかねないから、慎重に付けないとねえ……」
「わたくしとしては、やはりラブなんとかといった、愛に満ちあふれた名前にしたいですわ~」
「一生モノだといっとろうがっ!」
「んじゃあ『ラブプリーチャー』……愛伝道師ってのはどうだ?」
「む……ちょっと惹かれますわね」
「テレポーターと関係ないでしょアンタらっ!!」

 湾内絹保は目を丸くして3人(といっても上条を正視出来なかったが)を見つめていた。
 まず美琴がこんな荒い口調で――たまに白井に対して近い表現はあったが――話しているのを見るのは初めてである。
 そして『いつもゆったりとお話をする』絹保にとって、会話スピードについていくのが精一杯であった。
 口を差し挟むことなど不可能である。

「湾内さんは何かアイデアない?思いついたことをっ!」
 美琴が、そんな絹保の気配を察して、そのままのノリで絹保に振る。
「あ、あの、えっと……」
「ああ、この馬鹿は無視してね。私達の方見て話してくれればいいわよ」
「ひでえ……」

 絹保は、実はちょっと思いついたことがあったので言ってみた。
「あの、白井さんはジャッジメントですから、そういうジャッジなんとか、なんてよろしいんじゃないかしら、と思いましたけど」
「ふむ、そっちの方向ですの……」
「ジャッジ……ジャスティスとかもいいかもねえ」
「そもそも白井、お前必殺技、なんかねーのか?それに名前つければ、自然に通り名になるんじゃねー?」
「あの鉄矢攻撃に、ですの? そんな技に名前を付けるなんて子供みたいなこと……」
「子供で悪かったわねっ!!」
「んじゃ『ジャッジメントタイム』ならどうだ! 処刑の時間だ……みたいなもんでさ!」
「どうせなら審判の時間だ、にして欲しいですの。でも、響きは確かにいいですわね」
「なんか聞いたことあるような名前だけど、それなら私も賛成できるかなー。んじゃさっさと黒子、LV5になりなさいな」
「…………」
 あっという間に、会話に置いていかれる絹保ではあったが、隣に上条がいるという意識は薄れつつあった。


「そういや、アンタの右手の能力も、名前ついてたわよね?アンタ名付けたの?」
「いや、このイマジンブレイカーっつーのは医者がつけてくれた。あのカエル顔のな」
「ふーん。幻想殺しねえ……なんか小洒落てて腹立たしいわね」
「なんでだ! まあ悪くねえとは思ってるけど」
「ところで湾内さんは、例えばこのグラスのドリンクを使って能力を見せて頂くことはできませんの?」
「あ、できますよ」

 絹保はすっと腕を前に出すと、黒子のグラスの中をしゅるるっとかき混ぜた。
「お、すげー。触れずに出来るのか。水流操作ってヤツか」
「アンタの右手の能力、見せてあげたら?」
「……触れられるなら、いいけどさ」
 上条は右手をテーブルの上に投げ出した。手の甲を上にして。

「湾内さん、ちょっと勇気を出して、コイツの右手の甲に触れられる?無理にとは言わないけど、面白い経験できるわよ」
 絹保はおそるおそる上条を見たが、上条は窓の外を見て、そっぽを向いてくれている。
 男性恐怖症と言っても、生理的に嫌悪感を抱くといった類の恐怖症ではない。
 絹保はためらいがちに、左手の指で上条の右手に触れてみた。
「こう……ですか?」
「それで、さっきのグラスにもう一度やってみて」
 再度、絹保はすっと逆側の右腕を前に出して、念じてみた。

 しゅるるるっ!

「…………」
「回ってますわね」
「はい、回しましたから、回ります」
「…………」

 美琴は髪の毛を逆立てて上条に噛み付いた!
「ア・ン・タ・は~~~~!アンタの右手の機能がオンオフできるなんて初めて知ったわよ!私にそんなに恥かかせたい!?」
「ちょっと待て!俺は何もしてねえ!」
「アンタの能力効いてないじゃない!」
「んー、御坂と能力の出し方が根本から違うとか?この子の左手と右手は別制御なんじゃねーか?」
「やはり演算は脳で行いますから、頭を触れば効果はあるかもしれませんですの。しかし……」
「湾内さんの頭に右手を置く?そりゃ流石に無理でしょー。それが出来たら苦労しないわよ」

「……やってくださいませんか?」
 どうやら自分は御坂様の面目を潰してしまったらしい、と絹保は焦っていた。
「へ?無理しなくていいわよ。遊びみたいなもんだし」
「いえ、やってみたいのです。その面白い経験というのを」

「じゃー、視線は合わせねえようにして、頭触らせてもらうか」
 絹保はややテーブルに乗り出すような体勢になり、目を瞑った。
 怖がられるって、微妙な気分になるなあと思いながら、上条は手を伸ばす。

 上条は、ライトブラウンでセミショートな湾内絹保の髪――やや後頭部よりに、そっと手を置いた。
「アンタ、ちょっと赤くなってない…?」
「流石に緊張するぜそりゃ。純正の常盤台のお嬢様だもんなあ」
「……私達も純正なんだけど?」
「やせいの ときわだいおじょうさまが あらわれた!って、じょ、冗談だ冗談!」
 美琴の前髪に一瞬バチバチッと電気が走ったのを見て、上条は左手であわあわと手を振る。
 今ボケると、右手使用中のため、死ねる。

「あ、あの、わたくしはどうすれば……」
「ああ、わりいわりい、この状態でさっきの回す力を」
「コ、コラァ!」
 上条はわりいわりい、と言いながら、無意識に絹保の頭を撫でていた。小さい子をなだめるかのように。
「何ナデナデしてんのよ!我慢してんのに、必要以上に触れたらダメでしょこの馬鹿!」
「あ、いえ!……大丈夫です、このまま……」

 ……このまま?
 上条はあえて外していた視線を、絹保に合わせる。当初の怯えたような表情ではなく、柔らかく微笑んでいる……?
(ん~、まだ判断は早計、か)
「それじゃ、改めて。あの水回してみ」
「は、はい……」

 絹保はすっと右腕を前に出す。
 上条は横目で絹保の表情を伺う。前の2人も。

 絹保の目に戸惑いの色が浮かぶ。だんだんと目が見開かれてゆく。
「どうして……?」
 絹保の反応に笑みを浮かべた上条は。
「フフ。んじゃ、手を離すぞ」
「ま、待ってくだ……!」
 小さく叫んだ黒子であったが……

 いきなり封印が解かれた湾内絹保の力は、調整も何もあったものではなく。
 少量とはいえ一瞬水柱となったジュースは、遠心力に伴ないまんべんなく、4人に降り注いだ。


「ご、ごめんなさい!」
 真っ青になった絹保は、タオルをカバンを取り出したが、オロオロするばかり。
「いや、湾内さんはもちろん悪くないから。もうね、この馬鹿ホント、何て言ったらいいのかしら……」
 美琴はハンカチを取り出して、ぬぐいながら上条を睨む。
 白井黒子も無言でハンカチで濡れた部分を押さえるように拭きとっている。
 実際のところ、かなり氷が溶けたジュースではあったので、濃度も糖度も知れていたが。

 上条は右手を差し出した形で固まった体勢のまま、自分の馬鹿さ加減に呆れていた。
「ご、ごめんなさい……」
 そう言って絹保が上条を拭き始めた。
 え?と美琴と黒子が固まる。男性恐怖症はどこ行った?

「あ、いいよいいよ。俺なんて濡れたままでいいから。先自分の体拭きなさいって」
 上条もハンカチを取り出し、拭き漏れたところをぬぐった。
「で、でも……」
「えーと、いや、それよりも」
 上条は美琴と黒子の方を見る……2人は頷いた。

「もう俺に対しては、……怖くねえか?大丈夫か?」

 何を言われているのか分からない、といった表情をした後、絹保の頬が赤くなってゆく。
 こく、こくと頷くと上条の顔をじっと見つめだした。

 美琴に危険信号が走る。
(まっずーい!湾内さん、まさかコイツに!? まずいまずいまずい!)
 人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった、などと冷静に分析している場合ではない。
 白井黒子は、横でニタアと笑っている。

「んー、しかし何かいきなりだな?ビックリすることが起こって、リセットされたんかねえ?」
 おそらく、元々たいしたことはなかったのだ、と美琴は思う。
 絹保本人からすると大事だったろうが、あの時助けた美琴からすると、かなりしょーもない部類の不良どもだった。
 男性恐怖症、という言葉だけが一人歩きしただけの思い込みだろう、と。

 しかし、そんな事より、この現実の方がマズイ。
 もうさっきから、湾内絹保の視線が完全固定されている。

「ひょっとしたらイマジンブレーカー発動したんかな。俺、前に呪い解いたことあるんだよ、コレで」
「の、呪いですの?」
「ああ、お前らと地下街テロん時会っただろ。あの前日に学園都市の外でな」
「なんだかよくわかりませんが、精神的なものを直せるんなら、医者いりませんわね」
「そこまで万能じゃねえはずなんだけどなー」

 上条と黒子の会話を聞きながら、美琴は頭を抱える。
(ほんともーコイツは!次から次へと!)
 早めに諦めさせるような手を打つべきか。いやいや、そんな事は人道にもとる。
 いや、そもそも早とちりかもしれない、いやでも、この熱い視線は……
 美琴の心は千々に乱れる。


 何を思ったか、上条は携帯を取り出した。
「んじゃ、湾内さん」
「は、はいいっ」
 絹保の声は上ずっていた。
「携帯出して。赤外線で俺の番号送る」
「え、ええ!?」
「ちょ、アンタ何やってんの?な、なんで番号を!」
 美琴からすればたまったものではない。上条の携帯番号を求めて、自分のあの苦労は何だったのだ、と。

「いや、今日は単に俺に慣れただけだろ?恐怖症治ったかはこれから次第だと思うし」
 上条は何を興奮してんだとばかりに、美琴に視線を走らせる。
「いつでも俺を呼べる体勢にしておけば、安心できるだろ?何かあった時も、何もなくてもさ」
 ……だめだ、と美琴は観念した。
 これは間違いなく落ちる。私がこんな事言われたら、撃沈する。


 湾内絹保は。美琴の読みどおり、上条に心を奪われていた。
 とはいえ、自分の感情がなんなのか分かっていない。
 視線が外せないし、心臓のドキドキが止まらない。
――いつでも俺を呼べる体勢にしておけば、安心できるだろ?
 初対面の自分に、こんな優しく、頼れる人が……

 絹保はおずおずと携帯を取り出し、自分も番号を送り込むべく、操作しようとした時。
 次の上条の一言で、凍りついた。

「ああ、湾内さんの番号はいいよ。俺からだけで」

 湾内絹保の表情を見て、何か感じたのだろう、上条が一言加えた。
「いや、こういう事に乗じて、女の子の携帯番号をゲットしようなんて不埒なことは考えてませんから、上条さんはね」
「貴方の番号をお教えするのですから、いずれゲットできると考えておられるのでしょう?やはり不埒な男ですわね」
「白井、その俺に対する偏見はどこから生まれてきてるんですかねー!?」

 余計なツッコミをする黒子と上条の会話の流れの中で、絹保は何とか口を挟もうとした。
 私の番号、もらって下さい、と。
 そう言おうとしたとき、目に入ってしまった。

 上条の携帯にぶら下がる、ゲコ太ストラップを。
――あれは、御坂様と同じ……?

 そういう、ことなのですね……
 湾内絹保は理解した。殿方がするにはファンシーなストラップ。
 そう、わたくしのために友人を手配してくださっていたのだ。最も信頼できる、人を。最も――

 絹保は、一瞬沸き上がった涙をさりげなくぬぐうと、上条に微笑んだ。
「では上条様。受信モードにいたしましたので、よろしくお願いいたします。ありがたく頂戴させていただきます」
「あ、ああ。待ってろ」
 送受信が終わり、皆が一息つく。終わったー、という空気だ。
 美琴ひとりだけ、モヤモヤとし続けたままである。

「とりあえず目標は達成できましたし、出ましょうか。わたくしも仕事に戻ります」
「みなさん、本当にありがとうございました!御坂様、本当に頼り甲斐がある方をご紹介いただき、ありがとうございました!」
「あ、いやー、その……うん、良かったわね……」
「聞いたかお前ら!頼り甲斐がある、だぞ!?お前らもこういう言葉がスラスラだせるよーにだな!」
「生まれて初めて言ってもらったからといって、舞い上がらないで下さい、ですの」
「…………」


 本当に急いでいたようで、黒子は店を出ると、一礼して消えてしまった。
「わたくしも……今日は一人で帰ってみて、今日の効果を実証してみます」
「だ、大丈夫?」
「はい、上条様の番号もいただきましたし。本当にこれだけで、心強く思えるものですね……」
「まあ、今日なら駆けつけられるしな!頑張れよ!」

「では本日はこれで。……御坂様」
「う、うん、またね」
「秘めたる背の君をご紹介いただきまして有難うございました。決して口外いたしませんので。それでは……」
 一礼した湾内絹保は、足取りもしっかりと歩き始めた。

「最後なんつった、あの子?すっげえ言葉使い丁寧……というか、あれこそ俺のイメージする常盤台の……」
 つぶやく上条の横で、美琴は真っ赤になって固まっていた。
 秘めたる背の君、つまり秘密の恋人……あの子、コイツが私の恋人だと思って!?
 湾内さん……身を引いちゃったんだ……


「さて、俺たちも帰るか」
 我に返った美琴は、慌てて上条を見上げる。
「んっと、解決してくれたし、今からお礼タイム!何か食べたいのあったら言って!」
「え、いーよ。別に何もしてねーし、腹も減ってねーし」
「いいから言いなさいよ!」
「お前こーなったらホント融通きかねえなー。……んじゃお互い楽しめる映画でも行こうぜ」
「……へ?」
「長いこと見てねえし、……今、何やってっかも知らねーけど」

……な、なにこの展開?
 美琴は浮かんでくる笑みを隠すため、うつむいて誤魔化す。
「しょ、しょうがないわね。今は、ビバリー・シースルー監督の新作がいいみたいよ。れ、恋愛映画モノだけど!」
「う、寝ちまいそうだし、ちと恥ずかしい気がするぞ、それ」
「大丈夫大丈夫。戦場に向かった片思いの人のもとに、思い余って向かっちゃう一人の一途な女の子がね……」


――情けは人の為ならず。白井黒子の情けは、邪なため還元されず……
――巡り巡って己が為。代わって御坂美琴に、少しばかりの幸せが、やって来た。


Fin.


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