とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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だれでも歓迎! 編集

I'll save you all my Justice.



「明日の皆さんのご予定は~?」
 12月のとある土曜日の夕方、いつもの4人組は足早に帰宅の途についている。
 佐天涙子は明日もヒマ――本来は宿題もあるのだが――なので、聞いてみたのだが。
「我々はお仕事ですの。午後から仕事というか緊急会議ですが」
「ほんと困ったものですよねえ。午前ならまだ、午後から空いたんですけど……」
 白井黒子と初春飾利は申し合わせたようにため息をついた。
 いくら正義の志があれども、日曜を潰されると気分が滅入る。

「私もダメだなあ。母さんが来るのよね」
 御坂美琴が人差し指をあごに当て、思い出したかのように言った途端。

「あ、ああああああの、お姉様オーラ大人バージョン爆発の、あのお母様ががが!!!!!」
「アンタは落ち着け!」
 黒子が暴れる前に一殴りし、黙らせる。

「へえ、お母さんがいらっしゃるんですか」
「うん、大学の用事のついでにね。ちょっとデパートで買い物付き合って、ご飯食べて、って感じ」
「久々なんですか?」
「大覇星祭に来てたから、3カ月ぶりってとこかな。ま、どーせ会ったって、ろくな事言わないんだけどね」
「ろくな事?あー、アレですか。彼氏できた?とかそういう……」
「そうそう!どこの親も一緒だと思うけどさー、ほっといてほしいもんだわね」
「言われてもいいように、彼氏作りましょうよ!」
「で、出会いがあればねえ。は、はは……」
 後ろでその会話を聞いていた白井黒子が、意味ありげな目で美琴を見つめつつ、やれやれといったため息をついていた。

 ◇ ◇ ◇

 日曜日。
 佐天涙子は、ヒマにまかせて、そのオーラを発するという御坂母君を確認しようと、デパートに潜入した。
 時間も不明だし、それなりに広いデパートなので、会う確率は低い。
 むやみやたらに探すよりは……!と、受付までつかつかと向かう。

「すみません、今日、常盤台の制服を来た学生と、その母親らしき人との2人組、って見ませんでしたか?」
 怪しい者ではないという意味も込めて、学生証をビッと出して受付嬢に挑む。
「常盤台中学の制服の方でしたら、先程前をお通りになられましたね。ご姉妹のようにも見受けられましたが」
「そうですか!どちらへ向かいました?」
 エスカレーターの方を指し示され、佐天は一礼すると早足で向かった。

(婦人服階か……紳士小物系もありえるなあ)
 佐天はエスカレーター前で立ち止まり、案内板の前でムムムと考える。
 常盤台は制服が義務付けられているため、美琴の服を買うとは考えにくいし、母親に選んで貰う性格とも思えない。
 母親の服としても、学園都市は科学は発達していても、衣類はわざわざ買うほどの先進性はない。
 自然なのは、例えば父親へのプレゼントを母娘で選ぶといった類の……よし、紳士小物だ!時期的にもおかしくはない。

 佐天は目的階に降りたが、……閑散としていた。まあここは学園都市、客層が合わないといえばそれまでだが。
 ぶらぶらと売り場を見て歩いてみる。

 客は見渡す限り、高校生らしき少年が一人いるのみであった。
 佐天と同じく、ぶらぶらと見て回っている風である。
(いないなあ……読みが外れたかなー)
 そう思って、エスカレーターの方に戻ろうとした、その時。

 ガシャン!という音とともに、何かが大量に滑り落ちたような音がして、佐天は振り返った。
 先程の少年が、ベルトハンガーと共に、ベルトの山に埋もれて一緒に倒れている。
「だ、大丈夫ですか!?」
 慌てて佐天が駆け寄ると、少年が頭を掻きながらよろよろと立ち上がった。
「ふ、不幸だ……どうやったら引っ掛かんだよ…………あ、すみません。大丈夫だから」

 佐天はベルトハンガーを起こすと、落ちたベルトをさっさと掛け始めた。
「わりいな、助かるよ」
「いえいえ~~」


「さすが上条くんね。もう隣に女の子がいるなんて」
 佐天が声がした方を振り返ると、……カッコ良く成長した御坂美琴、としか思えない女性と。
 その後ろで、状況判断能力を失ったかのように、呆然と立ち尽くす御坂美琴その人の姿があった。

 ◇ ◇ ◇

「佐天涙子です!初めまして!」
「佐天さんね♪母の御坂美鈴です。そーね、美鈴さんて呼んでね。呼びにくいでしょ?」
「は、はい、美鈴さん。ほんとわっかいお母さんだなあー」
「うっふふー、ありがと♪」

 我に返った美琴は、上条に食ってかかる。とはいえ少し、ヒソヒソ声で。
「なんでアンタと佐天さんがいんのよ!」
「佐天さんてあの子か。俺は昨日、御坂さんの電話でさ、ダンナのネクタイ選び手伝って、って……」
「私がいるって聞いてないの?」
「聞いてねえ。まあいるかも知れねーなとは思ってたけどさ」
「あンのバカ母! 全部秘密にしやがって……!」
「ステーキ食わせてくれるって言うからさ、上条さんは乗ってしまった訳ですよ」
 このデパートの最上階の店で、おいしいビッグサイズのステーキランチがあるのは有名だった。
 ちなみに当初、インデックスがついてこようとしていたが、この話があったので上条は断固阻止していたりする。

 実際のところ、上条当麻の存在自体は、美鈴ならやりかねないと想定していたパターンの一つではあった。
 しかし、佐天涙子の存在は。
 佐天の何でも首を突っ込みたがる悪癖は、このデパート来襲にも表れている。
 ちょっと昨日触れただけで、この行動力。
 間違いなく、自分と上条の関係を突っ込んでくる。そして横には、自分をからかうのを生きがいにしているような母親が。
 最悪の組み合わせだ。
(マズイ、本当にマズイ。こんなの逃げられない)
 美琴の上条への想いは、ハッキリ言って決壊寸前だ。つつかれたら、それだけで赤面確定である。バレバレだ。

「で、佐天さんは偶然ってワケ?」
「ハンガー蹴倒して助けてもらってたとこだ。それ以上でも以下でもねえ」
 起こるべくして起こった偶然、というところか。
 そして、母親と話していた佐天涙子が振り返り、……美琴はもう覚悟した。
 興味がMAXゲージを振り切っているようで、佐天は、美琴と上条をニヤつきながら見比べていた。


「というわけで、改めましてこんにちは!佐天涙子っていいます!中1でっす!」
「俺は上条。高1な。さっきはありがとな」
「いえいえー。つまり上条さんは、待ち合わせしてたってことですね?」
「ああ、御坂さんとな。 って、あれ?御坂さんどこ行……ぎょわわっ!!」

「年下の男の子ゲットォーー!」
 後ろから思いっきり抱きつかれた上条は、完全硬直している。ここまで密着したハグなど、未経験だ。
「そうなの佐天さん。友達の上条くんを私がここに呼んだの~」
 上条の顔の横から、美鈴はひょいっと顔を出す。
「え、えーと、美鈴さんのお友達なんですか?御坂さんじゃなく?」
「美琴ちゃんは教えてくれないの、上条くんとの関係。だから私の友達。ちゃーんと携帯番号も交換済みよン♪」
「は、はあ……」

 上条と美鈴とは、断崖大学でのスキルアウト襲撃事件以来である。
 命を救ってもらった美鈴としては、上条は最大級のお気に入りだ。
「息子になってくれたら、毎日こうできるのに……」
 美琴と佐天は、もはやどこから突っ込むべきかも分からず、口をぱくぱくしていた。
 上条に至っては、尚更である。背中の柔らかいものの感触が、シャレになっていない。
「よしっ、じゃあ挨拶も終わったことだし。上条くん、ネクタイネクタイ♪こっちかなー」
 ようやく美鈴は上条を解放したかと思うと、今度は手を引っ張って連れて行ってしまった。

「パ、パワフルなお母さんですね……」
「あのバカ母、そこまでするかフツー? な、何考えてんのかしら……」
「なんであんなに仲いいんですか?」
「知らないのよ。私の知らないとこで会ったことあるらしいんだけどね……」
 き、禁断の恋?と口走りそうになった佐天は、慌てて自分の口をふさぐ。
「あーもう、一気に疲れたー。……で、佐天さんは、単なるウチの母鑑賞ってとこかしら?」
「えへへ、そんなとこです。といっても、30分で見つからなきゃ帰る、程度の軽い気持ちでしたけどー」

 水面下で。
 いかに自然に上条の話を引き出すか考えている佐天と、そうはさせないと考えている美琴の戦いが、開始されていた。

 ◇ ◇ ◇

「上条くんもネクタイいる?プレゼントするわよん♪」
「いや、する機会ないですし。お気持ちだけありがたく、ってことで」
 上条を引きずって来たわりに、美鈴は自分でぱぱぱっと決めている。
 明らかに、目的は別、といったところだ。
「近況を聞きたいってとこですかね?御坂の」
「うん、あの子全然話してくれないし」
 あの『戦争』での上条や美琴の活躍は、あくまで裏での話。表には一切でていない。
 そして、そんな話を母親にするワケにもいかず。

「まー、上条くんの事だから、本当にヤバイ話なら私に一報入れてくれると思うから、まあ平和なんだと信じるけど」
「実際そうですよ。戦争終わってから、特に何事もないですし。御坂も元気ですよ」
「……戦争終結間際の頃って、美琴ちゃんの携帯、全然繋がらなかったのよね。…上条くんにも。気が気じゃなかったわよ」
「……はい、俺と御坂はその時、あるところにいました。でも……」
「あの子のそばにいてくれたなら、母親としてはオールOKよ。本来、守るべき筋合いもない話だしさ。ありがとね」
 上条の身体は一つ。守るべき人が同時に散開していた場合、常に究極の選択が問われる。
 今回は、『たまたま』美琴もインデックスも守ることが出来たが、……美鈴の感謝を受け取るには、心苦しいものがあった。
「ダンナへのクリスマスプレゼントはコレでヨシ、っと♪ あの女の子も一緒に、お昼食べましょーか」
 美鈴は上条の肩をポン!と叩くと、レジに向かって歩いていった。


「おっ待たせ~♪ んじゃー、他に寄るところなければ、お昼にしましょうか。佐天さんも一緒に行こう!」
「え、いいんですか!?」
「もっちろん!美琴ちゃんが普段女の子たちとどんな事して遊んでるのか聞きたいし♪」
「やったー!ぜひぜひ♪」
「上に店予約してあるから。3人が4人になってもテーブル席なら大丈夫でしょ。行こ行こ♪」

 美琴と上条は、口を引きつらせていた。
「……アンタは何でそんなカオしてんのよ」
「……根掘り葉掘り、上条さんを徹底解剖されそうな気がしてならんのですよ。女の共同戦線なんて考えただけで……」
「私はそれ以上に、嫌な予感しかしてないわ……」
 わざわざロシアまで押しかけて……まあ色々ありはしたが、基本的に何ら2人の関係は変わっていない。
 相変わらず、美琴には上条の心の中は分からない。
 ただ、出会った時によく見せていた『げ、またビリビリか』的な表情は、最近では無くなっていた。

 からかわれるのは嫌だが、それ以上に、せっかく徐々に近づけた距離を、悪意なく踏み荒らされそうな。
(ほんとカンベンして欲しいわ……)
 美琴はため息をついて、前を行く母親と友人についていった。

 ◇ ◇ ◇

 個室に案内された4人は、ステーキランチなるものを食していた。
 女性陣は180gモノ、上条はダブルの360gモノをパクついている。

 凄い勢いで無言でバクバク食っている上条の姿に、美琴はあきれていた。
「そんな急いで食べなくても……アンタちゃんと味わってる?」
「だってうめえんだもんよコレ」
 美琴が突っ込んでいる間にも、佐天は美鈴に、美琴との出会いや普段なにをしてるか等しゃべりまくっていた。
 ただ、レベルアッパーなど事件性のあるものは、あんまり心配させるネタは良くない、と避けてはいた。

「ま~、そんなわけでして。年齢も中学も能力も違うのに、縁ってのは不思議ですねー」
「ホントねえ。それを言えば、美琴ちゃんと上条くんなんて、どう接点があったのやら」
 皆食べ終わり、ドリンクを頼んで一息入れたタイミングである。
 そろそろ話が振られそうだと、美琴はビクビクしていたが、……そうあっさりと話に乗る気はない。
 美鈴と佐天は、すました顔でお冷を飲んでいる美琴から、上条に視線を移すと。

 上条は満腹で満足したのか、あくび混じりで眠そうにしていた……

 ◇ ◇ ◇

 佐天は美琴と上条を見比べる。
 恋人ではない、……と思う。それならば、あの白井黒子が呪詛の声を上げているはずだ。
 うーん、分からない。直球で行くしか無いか、と美琴に直撃した。
「御坂さーん、そろそろ上条さんのご紹介をして欲しいな~、なんて……」
「うん?私じゃなくて、佐天さんの隣の年増がトモダチだって言ってるんだから、そっちに聞いたらいいと思うわよ?」
「……ほほう年増とな? 美琴ちゃん、ママに対してここで挑発とは愚かなり。覚悟して貰おうかな」
 ついいつもの余計な一言を入れてしまい、美琴は青ざめた。

 丁度ドリンクが届けられ、美鈴はのどを潤すと、佐天に向かって話し始める。
「ええと、アレ有名じゃないのかなあ?大覇星祭の借り物競争で美琴ちゃんが1位になったの知ってる?」
「ああ、大画面ビジョンで見ました!ブッチギリ優勝のアレですね!」
「あの相手してた男の子よ、上条くんは」
「え!? だって御坂さん、あれ通りすがりの人捕まえたって……」
「ふ~ん、そんな理由にしてたんだ。なるほどねえ……」

 上条がここで反応した。
「通りすがり、って俺がか?」
「その時初めて会ったんですか?」
「違う違う。俺と御坂とは夏ぐらいからの知り合いだよ。腐れ縁ってヤツだ。……俺の存在をそんなに隠したいのかオマエは」
 美琴は真っ赤になってうつむいている。

 上条は佐天に向かって、腕組みをしながら説明をする。
「借り物競争の時も、知ってるか?あれ条件は『第一種目で競技を行った高等学生』だったんだぜ?
あんなの、いくらでも条件満たすヤツいるのに。まあ知り合いの方がやりやすいってのは分かるけどさ……って」
 上条は思い出したように、美琴に向き直った。
「そういや御坂。あれ俺が第一種目終わったトコだと良く知ってたな。当てずっぽうか?」
「……そ、そうだったかな?忘れたわ……」
 小さな声で、美琴はぼそぼそとつぶやく。
「あっはっはー。上条くん、まだこの子の性格分かってないねー。そんな当てずっぽうなんてあり得ない、あり得ない」
「そうですね、御坂さんがゴールして条件満たさず失格~、なんて似合わないですね。絶対知ってましたね、それは」

 美鈴はニヤ~と意味深な笑顔を作り。
「今、美琴ちゃん、忘れた、なんて言ってたけど、私は知ってるのよねん」
「え、な、何よ」
「私は見逃さなかったわよ。あのシスターの子が、『いたよね、ぼうたおしーのとき』って言って、美琴ちゃん慌ててたの」
「……!」
「あとで詩菜さん――ああ、上条くんのお母さんね――に聞いたら、上条くん第一種目棒倒しだったんだって。
美琴ちゃん、上条くんの応援しにいって、バッチリ目撃されてるのよねー」
「あ、お、思い出したわよ!応援じゃなくて、その、見てたのが、たまたまで、その」
「忘れたり、思い出したり、大変ね美琴ちゃん」
 美琴は何も言い返せず、顔を背けて、また真っ赤になっていた。

 佐天は、持ち前のカンの良さで、薄々気づき始めていた。
(これは……御坂さんの片思いパターンじゃないの、これって!?)
 なんだお前知ってたのか、とのんきに美琴に突っ込んでいる上条を見て、どうやら一方通行らしいとも判断する。

 他に、御坂さんが男と絡むイベントは無かったか?と記憶を辿った佐天は、「アレ」を思い出した。

「この話の流れだと、……ひょっとして、あのミイラフォークダンス事件も、あのミイラ、上条さんだったり?」
「ああ、ミイラなんて話になってたけど、それ俺だよ。白井が何を思ったかドロップキックしてきやがった思い出しかねーけど」
「なになに?そんな事件あったの?大覇星祭は前半で帰っちゃったからなあ、私」
「ええ、大覇星祭でフォークダンスがあったんですけどね。あ、私は又聞きでの話なんですけど」
 佐天は美鈴に説明しだした。

「大覇星祭のフォークダンスは交代しないペアダンスですから、結構カップルていう意味合いが強いんですよ」
 この時点で美鈴はまたニヤ~と含み笑いで美琴に視線を走らせる。
「そこで御坂さんが連れてきたのは、包帯だらけの人で。ただ雰囲気がカップルという感じじゃなかったので、
おそらく大覇星祭に参加出来なかった人を、御坂さんがせめてフォークダンスだけでも、ということで連れてきたのかと。
さすが御坂さん、学生の頂点にいながら気遣いも素晴らしい、という話になってたらしいです」

「ところが、テレポートで白井さんが現れるなり、その包帯さんにドロップキックして、もう滅茶苦茶な状態になって。
その後、白井さんとその包帯さんは仲良く病院に運ばれたとか。これが謎のミイラフォークダンス事件です」
(いまだに腹が立つ…黒子ったら! 私が決死の覚悟でコイツを誘って、踊ってたというのに!)
 美琴はあの時のことを思い出し、ブルブルと震えていた。


「なるほどねー。で、実際どうだったの上条くん?」
 美鈴は美琴の様子を面白そうに見やりながら、上条に聞いてみた。
「まずミイラってのは大げさですね。手足の包帯が目立ってただけだろうな。別に普通に動ける状態だし。
で、御坂に首根っこ掴まれて、無理やりフォークダンスやらされた訳ですけど。……でもまあ今にして思えば。」
 上条は苦笑いする。
「変な所で勝ち組負け組ってのがあって。フォークダンスに参加できた俺は、クラスで勝ち組に入れたな。くだらねーですが」
「フォークダンスそのもののご感想は?」
「すっげー恥ずかしかった!やっぱ人前で女の子と踊るってのは慣れないっすね。俺周りの真似するので精一杯でしたし」
「美琴ちゃんは可愛かった?」

 上条は。……柔らかい手の感触と、どこか嬉しげな美琴の横顔――とことん、こちらを向かなかった――は覚えているが。
「……見てる余裕無かったです、ハイ」
「だってさー、美琴ちゃん。残念だったね」
「わ、私は踊れただ……じゃなくて!別に何だっていいわよ!」
 美鈴はやれやれと首を振って、素直になれない娘を見やる。


 佐天は頬杖をついて、うらやましそうな声を出した。
「いいなー、御坂さん。きっちり上条さんを誘って、思い出作りしちゃうんだもんなー。積極的だなあ」
「え、いや、ちょ、ちょっと違う…の!こ、コイツが言ってたように、私も負け組な気配だったから、しょ、しょうがなく!」
「誰と争っての勝ち負けですか御坂さん……常盤台中学がそんなノリだとは思えませんけど……」
「……じ、自分との戦いね…」
 あまりにボロボロな話で、佐天は吹き出しそうになった。
 もう確実だ。あの最強のLv5が、初心な恋を前に悪戦苦闘している姿が、ここにある。
 そして、母親の美鈴さんも、それは見抜いていると。


 まだまだ美琴に突っ込みたいところだが、たった2つのネタだけでもうアップアップの美琴に、これ以上はマズイ気がする。
 かといって、上条にも下手に突っ込みにくい。
 変なつつき方をして、御坂なんて何とも思ってないけど?などと口走られたら、一生御坂さんに恨まれる。というか焼かれる。
 それ程に、この男の心理は読みにくい。分かっているのは、ウルトラ級の鈍感男ということだ。

「上条さんてモテますよね?そんな感じがするんですけど」
 佐天は変化球で攻めてみた。

「はい?」
「モテますよね?」
「初めて聞かれましたよそんな事。」

 上条は、一拍おいて、言い切った。
「そもそも、俺を好きになる奴なんているわけねーんだな、これが」

「なんですか、その言い切りっぷりは……」
 佐天はやけに自信たっぷりに宣言する上条にたじろいだ。
 美琴も上条が何を言い出すのかと目を見張っている。
「俺には特殊な能力があってさ。これ自体は御坂も知ってんだけど」
 上条は右手をテーブルの上に出し、わきわきと手をうごめかす。

「御坂が俺にちょっかい出してくるのも、全てはこの右手のせいなんだ。これのせいで、御坂は初めて負けたんだよ」
「ま、負け?」
「色んな戦いしてきたけど、私が初めて負けを認めた相手なの、コイツは。その右手は、私の電撃を打ち消すの」
 美鈴もこれについては初耳である。驚いたが、黙って聞いている。
 佐天は美琴のレールガンの破壊力を知っている。それすらも効かない?
「レールガンも効かないんですか!?」
「だめ。周り一帯が停電になるぐらいの電撃もだめ。そうなると殴り合い勝負だから、勝てっこないというワケ」
 そうなると、さっきまでの初々しい一方通行っぽい想いの話は、何やら単純でもないような気がしてくる。

「ま、そっちの話はいいんだ。それでこの右手だけど、ある人の話だとな……」
 佐天はごくっと唾を飲み込む。
「あらゆる能力を打ち消すと同時に、神の御加護・赤い糸といったようなものも打ち消している可能性が高いんだと」
「……はい?」
「冗談だと思ってるだろ」

「確かに詩菜さん、上条くんのお母さんも、『息子は異常なほど不幸体質です』て言ってたわね」
 佐天はさっきもツッコミそこねたけど、親同士が知り合い!?てどうなのよ、と心の中で叫んでいた。
「そう、俺はとにかく不幸に見舞われる。御坂だって何度も目にしてるはずだ」
「そ、それは知ってるけど……」
「佐天さんも今朝のベルト、見ただろ。あんなの引っ掛けるヤツいねーよ。引っ掛けたって倒れねーよ。でも、ああなる」
「確かに違和感感じなくはないですけど、うーん……」

「つまり、こと恋愛に関してもな。まず幸せはやってこねえ……だから、ほとんど期待してねえんだ、俺は。
ネガティブに聞こえるかしんねーけど、特殊能力と引き換えだ、しょうがねえ」
 上条ははあっとため息をついた。
「俺の不幸に巻き込んじまう可能性も高いしな。少なくとも、こっちから積極的には行けねーよ」


「でも上条くん。その能力がホントだとしても、あなたを好きになる人がいるわけない、ってのはちょっと違うんじゃない?」
 美琴は、美鈴の指摘に、心の中で強く頷く。
 この気持ちは、打ち消されてなどいない。
「厳密に言えば、そう思ったとしても、言い出せない・タイミングが合わない・伝わらないとか、そういうことになるかな。
俺の能力が、そういう赤い糸を結ぼうとする行為をぶった切るみたいです」
 美琴は愕然とした。

「ふむ、そうなると……」
 美鈴はちょっと思案気な素振りをみせた後、佐天に向き直る。
「ねえ佐天さん、これは初敗北の仕返しの、最大のチャンスだと思うんだけど、どう?」
 佐天はピン!ときた。
「ですね!ちょっと勝負ですけど、悪い結果にはならないと信じます!」
 上条と美琴は何の話かわからず、キョトンとしている。

「美琴ちゃん……、勇気を出して、上条くんの右手を打ち破ってみなさいな」
「御坂さん、上条さんの初敗北は、今がチャンスです。絶対行けますって!」

 美琴は何を言われているか、……理解すると一気に真っ赤になった!
「ちょちょっと、何言ってるのよ!無理……ってか何の事よ!」
「私たちはもう、分かってるから。上条くんは幻想に取りつかれてる。ただの思いこみよそんなの」

 上条がむむっ?と眉をひそめる。
「な、なんだ……?」
「上条くんはそこで、悠然と構えててね?」
「は、はあ……」

「ね、美琴ちゃん。コレって時が経つほど、上条くんの防波堤が強固になっていっちゃうわ。正しいと思い込んでね」
「お互い不幸ですよ御坂さん。いや、あえて言いますが、上条さんのために、言ってあげて下さい!」
 美琴は口をぱくぱくしていたが、想いは完全に見抜かれていると理解し……肩を落とした。
「で、でも……」
「素直になりなさいな。今お母さん、真剣だからね」
 美琴は美鈴の顔を見てみた……いつもの姉のような表情から、母親の表情になっている。

 佐天は乗り出して、上条の右手をひっつかんだ。
 そして無理やり引っ張って、美琴の目の前に、上条の右手の甲を置く。
「お、おい……?」
「上条さん、そのままですよー、そのまま」

 ◇ ◇ ◇

 美琴はぎゅっと目を瞑り、俯いた。

 こうやって背中を押してもらわないと、きっと永遠に告白できないんだな、私って。
 人前で告白なんて、……でも、この2人の前でなら。

――怖い。やっぱり怖い。
 何でコイツは私をこんなに追い詰めるんだろう。橋の上でもそうだった。
 拒否されたら。明日からもう、笑顔をみせてくれなくなったら。
――だから、今まで言えなかったのに。

 引き結んでいた美琴の口が、緩み始め――


 上条は、異様な雰囲気に呑まれていた。

 その中心点が美琴なのは分かる。正面の2人は、美琴の動きを固唾を飲んで見守っている。
 そして肝心の美琴は、目を閉じて、何かに耐えているように見える。
 ……やがて、口元だけが開きかけては閉じ、開きかけては閉じる。


 口が閉じっぱなしになった刹那、美琴の頬を一粒の涙がこぼれた。
 そのまま肩を震わせている。

 佐天は――ずっと黙って見守るつもりだったが、あまりに心細気な美琴に、思わず声を掛けた。
「御坂さん、上条さんの右手を両手でしっかり掴んで。そして、…そうですね、『あのね』から始めましょう。ね?」


 美琴は、一瞬硬直したような動きをみせた後、目を微かに開き、上条の右手を確認し。
 そうして、ゆっくり、おずおずと……両手を揃えるように、上条の右手に被せた。

「あの…ね」

「私ね…、ある日からね、寝る前に小さく一言つぶやいてから寝るようにしてるのよね。
……普段言い続けていないと、いつかその日が来ても、口に出せないと思ったから」
 そう言って、美琴は両手に力を込め、――そして、上条をまっすぐ見つめた。

「上条当麻が、好き……ってね、毎日」

「……!」
 上条が息を飲む。美琴は、言葉が伝わった事を確認すると、また目を伏せた。

「……最初は、それすら言えなかったけど」
 肝心の言葉が言えたせいか、美琴は解放感を感じていた。

「アンタの事は昔から気になっていて、とにかく反応してほしくて、ちょっかい出しまくったりしてさ。
でもアンタが病院を抜け出してきたのかボロボロだった、あの日。アンタの心の芯を知って、もうそれからは――
もうこの想いは恋愛以外の何ものでも無い、って分かって……。そうして意識し始めたら、もうダメ。
アンタの事が好きで好きでしょうがなくって、落ち着かなくって夜も眠れなくなっちゃって。
だから、まず。上条当麻ってコトバを舌の上で転がしてみて、さ……」

 美琴は、勝手に溢れ出す言葉を止められずにいた。今まで堰き止められてた分、止まらない。
「すごく、心地良かった。そうしてね、最初は上条当麻、だけで寝られたんだけど。
だんだんそれじゃ物足りなくなって、好きって言葉を足したときは、むしろ心臓バクバクして寝られなくなっちゃったし。
でもそこからは毎日、寝る前に、そう言って。
ちなみに、昨日の夜は。上条当麻が大好き、だったり」
 上条の反応が怖いのだろう、美琴は上条に視線をあわせず、掴んだ右手だけを見つめている。

「は~、ついに言っちゃった。こんなに言っても、この右手は、打ち消しちゃうのかな……。
でも、この右手には何度も助けられたから、文句も言えないけどさ……」


 しばしの静寂が訪れた。美鈴と佐天の視線は、自然と上条に移る。

「は、はは……一つ、俺の右手の弱点を忘れてました……」
「?」
 上条がようやく絞り出した言葉に、2人は首を傾げる。
「連続攻撃に弱いんですよ。薄皮を剥ぐように、何度も攻撃されると、処理がおっつかなくなって、防ぎきれない」
 宙を見上げた上条は、大きなため息をついた。
「これだけ『好き』を連打されちゃー、撃ち抜かれて当然っすね……はは」

 右手を美琴に掴まれたまま、居住まいを正す上条。
「もうグダグダ言う必要ないっすね。御坂美琴の声は間違い様もなく、届きましたよ。
……さて、御坂。右手をそう押さえられると、上条さん何もできないんですが。」

 バッ!と美琴は両手を離し、膝の上で重ねた。視線はテーブルの上から、膝の上の自分の手に移る。

「御坂、しっかりこっち見てくれ。な?」
 上条の具体的な返事を貰えていない美琴は、不安まじりの表情で、おずおずと上条を見つめる。
 美琴の顔を見つめながらニヤッと笑った上条は、言い放った。

「また俺の勝ちだな御坂?恋愛ってさ、先に好きって言わせたヤツの勝ちだよな普通。一生、俺に言われるなオマエは」
 美琴はみるみる真っ赤になって、怒り混じりにアンタって人は……!と口を開きかけた、が。

「一生だって、佐天さん。母親の前で、まあ」
「うはあ、なんかプロポーズまで行ってません?これって」
 2人の言葉に、美琴は「え?」と固まった。

「ま、これで分かったでしょう?俺も鈍感だけど、御坂も鈍感だってことが。似たもの同士ですよ」
 そう2人に肩をすくめて言うと、美琴に向き直った。
「御坂、ありがとな。俺は……さっき言った不幸に巻き込んじまう不安とか、また抱えてる問題も色々あって。
お前に100%の返事ができる状況じゃねえけど……」

 上条は真剣な顔で、美琴の左肩に右手を置き、宣言した。
「これからは御坂美琴の彼氏として、側にいる。そして――己が正しいと信ずる道を以て、お前と、その周りの世界を守る」


 美琴は感動と嬉しさに打ち震えていた……が。
 同時に、ここで上条の胸に顔を埋めてしまっては、自分はもう上条に完全敗北のような気がしていた。
 いくら心は陥落しても、LV5としての誇りがある!一矢報いねば、という思いがムクムクと湧き上がった。

「ひ、ひどいわよ。ムードもなにも、……焼肉屋でこんなのって、ないわよ!」
「お前がこんなとこでテンパるからだろ!せっかくカッコイイ台詞言ってんのに、こんな時でも文句ばっかりだなお前は!」
 上条は荒っぽく、かつ優しく、美琴の頭を胸に抱き寄せた。
 美琴も頭でぐりぐりっと押し返す。そして、想いをこめて、両手を大きくまわして――、上条に抱きついた。


「あーあ、この2人もっと引っ張ってからかい続けるつもりだったのになー。ついついくっつけちゃった」
「……ようやく、御坂さんに今までの借りを返せたかなあ、って気分です。良かったねえ、御坂さん……」

 恋が実った少女の母親と、恋が実った少女の友人は、顔を見合わせて。そして、会心の笑みを交わし合った。


Fin.


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