「砂の上で生きるというのはなかなか難しいものでして…」
「いいえもちろん、利点も多くはありますが」
「先王の代まではいろいろと…」
城内を巡りながら、案内を申し出た男は丁寧に話をしてくれる。内容には無駄がなく、
どこかその口調も堅苦しく感じられるのは、おそらくもともと寡黙な男なのだろう。
客を預かる兵士として、礼節としてあえて多弁に努めてるのだ。
だが、ティナの注意は彼の話の内容ではなく、あちらこちらに見える甲冑を纏った
男たちの姿に注がれていた。
エドガーは、私を兵士と言った。そしてこの人たちも兵士だ。
だけどどうしてか、違和感を覚えてしまう。
「兵士」と言う言葉が私に与えるのは、冷たく、恐怖を伴うような印象。
それがこの人たちとはうまく結びつかない。
その違和感がして、先ほど王間を出ようとした彼女の足を引き止めたのだった。
「どうかされましたか?」
「いえ……あの、エドガーという方は…どういう人なのでしょうか?」
「…エドガー様ですか」
ぽつりとこぼれた彼女の言葉に、兵士は初めて大きく顔を緩ませた。
「あの方は、素晴らしい人です」
途端に男は弾けるように語りだした。その表情には、もうさっきまでの生真面目な色は
どこにもなく、身内を自慢するような明朗に満ちている。誇らしげな横顔を見るうちに、
ふいに違和感の正体を掴むことができた。
そう、この人は…、尊敬するエドガーを、この国を「守る」ためにここにいるんだわ。
でも私の知っている兵士は、誰かから何かを「奪う」人たちだった。
私は?
私はどっちだったの?
最終更新:2007年12月12日 00:17