三節 Two of us13

「行きましょう、シド」
 守衛をなぎ倒し、夜の闇にまぎれて二人は脱走した。ところが城壁から堀へ出る通路の
入り口まで来たところで、不意にシドは足を止めてしまった。
「・・シド?」
「行くんじゃローザ」
「いったい何を・・? あなたも一緒に・・」
「わしはここに残らねばならん」
「何を言い出すの!」
 あおの言葉に耳を疑いながら、ローザは必死で声を殺して説得しようとした。
 時間がなかった。衛兵がいつかぎつけて、ここにやってくるかもしれない。
「シド! ここにいたら、いつかあなたも殺されてしまうかもしれないのよ!?」
「案ずるな、王にわしは殺せん。わしは飛空艇に必要な人間じゃからな」
「でも、それなら、なおのことここを離れるべきじゃないの!」
「そうはいかん」
 シドは決然と言った。
「わしがいなくなれば、これ以上の飛空艇の開発は不可能じゃ。それぐらいはあの
ボンクラにもわかっとるだろう。そうすればどうなる? もはや進軍を待つ必要は
どこにもなくなる。すぐに世界中の国が戦火の危険に晒されるだろう」
「・・でも」
「既にバロンの軍事力はずば抜けている。現状でも、平和に慣れきった諸国を制圧するに
たやすいだろう。それは、わしの造ってしまった飛空艇のせいじゃ。だからこそ、わしが
歯止めになるのだ。整備の工程を操ることも、兵器に手を加えることも、多少の細工は
できるじゃろう。それでわずかでもバロンの動きを鈍らせることができれば・・、
それはわしがやらねばならんのだ。わしにしかできないことじゃからな」
「それが終わったら!? そうしたら、あなたはどうなるのよ!」
 ガハハ、と笑いかけて、シドは声を潜めた。
「そう簡単に死にゃせん。いざとなったらあの老いぼれ王を盾に逃亡してみせるわい」

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最終更新:2007年12月12日 04:15
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