「Prelude18」


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 ほんの数日前の出来事だった。あの幸せに包まれた瞬間。初めて触れた唇の感触も、ぎこちなく自分の手をとって指輪を嵌めてくれたあ

の手つきも、昨日のことのように思い出せるというのに。
 あの時純白の花嫁衣裳に身を包んでいたアーシェだったが、今は――彼の死を悼み、喪に服す為に漆黒のベールを纏っている。
「汝の肉体は大いなる父の祝福を受け、大地へと帰らん――」
 厳かに祈りが捧げられる。祭壇の上には、棺があった。その棺の中には、――ラスラが、いる。
 アーシェは棺のそばに立ち尽くしていた。誰よりも、ラスラの近くに立っていた。彼女の視界には入っていなかったが、礼拝堂には人が

溢れていた――誰もが涙を流し、若き王子の死を悼んでいる。
(どうして――)
 ナルビナに発つ前――戴剣式のときに、彼が見せた表情。
 もう二度と会えなくなるなどと、誰が想像できただろう。もう二度と触れられなくなることに、誰が耐えられるのだろう。
 涙が一筋、零れ落ちた。
(なぜ、いなくなってしまうの――)
 膝をつく。棺に縋る。ラスラの、――愛する夫の、傷一つ無い顔。まるで寝ているだけのような、安らかな――顔。今にも目を開けて、

彼女に声を掛けてくれるような気がした。『どうしたんだ? アーシェ』少し眉をひそめて、涙を流す彼女の頬を優しく拭ってくれるよう

な、そんな気がした。
 だが――もう、そんな瞬間は訪れないのだ。永遠に。
「汝の魂は母なる女神の元、安らぎのときを迎えん」
(ラスラ…………)
 ラスラは死んだ。ダルマスカは、帝国の手に落ちた。不思議と怒りは感じなかった――ただ深い悲しみに心を支配されて、それ以外の感

情が表れていないだけかもしれないけれど。
「ファーラム」
鐘が鳴る。彼の魂を、安らかなる世界へと連れ去る音。
雨音が聞こえてくる。彼の死を悼むように、雨がダルマスカに降り注いでいた。

Final Fantasy XII 「Prelude」 了
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