式典が終わり、にぎやかな祝宴の幕が開いた。街中の酒屋から集めてきた酒樽をひっくり返し、
一同浴びるように飲みまくる。厳正な規律を重んじる騎士団とはいえ、この日だけは無礼講だ。
熟練の隊長も、青臭い見習い騎士も、まるで百年の友のように肩を組んで酒を飲み交わす。
そのうち壇上に人が集まりだした。宴会恒例の時間が訪れたのである。竜騎士団の入団式では、
新人騎士達が練習仕合を披露することになっているのだ。もちろん既にかなり酔いが回った頃合に
行われるから、素面なら見れたものじゃない泥仕合がほとんどになってしまうのだが、祝酒の肴と
しては十分というものだ。
もっとも今年はカインがいたため、かなり一方的な展開が繰り広げられた。同年代どころか、
城内を探してもほとんど無双の腕前を持つカインである。多少酔っていても、その凄まじい槍技は
粗を見せない。流石は団長よ、と観衆も大いに沸き立っていた。
そして、最後に壇上に上がった一人によって、観客はさらに盛り上がる。
「……胸をお借りしてよろしいですかな、団長?」
「望むところです、副長……!」
一礼を交わし、副長とカインは向き合う。槍を構えたまま彼らは微動だにしない。お互いが機を
窺いあっているのだ。いつしか騒いでいた一同もぐっと壇上に釘付けになっていた。
勝負は一瞬で終わった。
目にも止まらぬ速さで突き出された槍は、互いの武器を寸分無く捉え、キインと鋭い音を立てて
頭上高く二本の槍が舞った。相打ちだ。
「とうとう追いつかれてしまいましたな」副長が悔しげな顔をつくり、頭をかいてみせる。
「酒のおかげでしょう」
笑いあい、二人は握手を交わした。
素晴らしい試合に一同惜しみない喝采を贈り、後はもう日が暮れるまでひたすら飲んだ。
副長も彼にしては本当に珍しく、どっぷりと酔っていた。彼に付き合わされていたカインは、
後ろの方で伸びている。やがて宴は全員での団歌熱唱で幕を引き、皆千鳥足で夜道を引き上げ、
残りのものはその場で泥のように眠った。
空では星がひときわ美しく光っていた。
そしてその夜。
副長は自決した。
最終更新:2007年12月13日 01:13