3人の視線の先には紫の長髪が綺麗な男が立っていた。
周りには5、6人の部下と思われる海賊がいる。
「(…しまった、見つかった…)」
バッツは隣にいるじいさんの案に乗ってしまった事を激しく後悔した。
レナはまたしても無言だ。もうあきらめてしまったのだろうか。
「(…ほう、この男、妙に綺麗じゃの…)」
ガラフはピンチに陥りながらもその男を観察していた。
その瞳はまたあの『強く、透き通った』ものに変わっていた。
「俺の船を盗もうとは、ずいぶんと大胆な奴らだ!」
「(ああ、やっぱ海賊だ…やっべーな、こりゃ)」
バッツは高圧的で敵対心丸出しの相手に対して何も出来ない。
そんな中レナがなんとその男に歩み寄っていく。
「おい、レナっ!」
バッツが強く呼び止める。
「(あれ?こんなのもついさっきあったような…)」
そんな事考えてる暇はないのに頭の片隅で思う。
バッツは今日と言う日を一生忘れる事はないだろう。
今までの3年間がなんだったんだと思うほど怒涛の1日を過ごしているのだから。
そして男の前に立ったレナは驚くべき発言をする。
「私はタイクーンの王女レナ。勝手に船を動かそうとした事は謝ります」
「「!!!!!」」
バッツもガラフも度肝を抜かれる。まさか、そんな身分にある女の子とは全く思ってなかったからだ。
「王女…」
「…様?」
2人は顔を見合わせる。口は開きっぱなし。
そんな2人の事も知らず、レナは必死に説得を続ける。
「お願い!船を貸して下さい!風の神殿に行かなければならないの!お父様が危ないの!」
またしても初対面の相手に感情的になるレナ。もちろん父親の事を想っての事だ。
目には涙を浮かべ、その声は擦れている。
しかしレナの思いを踏みにじるように弄ぶように男はこう続けた。
「へぇ~、タイクーンのお姫様かい!こりゃあいい金になりそうだぜ!」
その一言は彼が非道な海賊と言う事を決定付けるに充分すぎるものだった。
「やめろっ!」
思わずバッツが間に入る。自分の命が危ない事はわかっていても、レナは守らなきゃならない。
レナと父親を必ず逢わせてやりたい。自分の父が病死したバッツにとって『父』とはかけがえのない大きなものだから。
「??」
そんな時、何かが一瞬だけ光り、男の表情が一瞬動揺した。
バッツとガラフは何故動揺したのかよくわかっていない。
しかしレナだけが気付いた。自分のペンダントを見てこの人は動揺したんだと…
そのペンダントは印象的だ。バッツもレナと初めて逢った時このペンダントに目を奪われている。
それ程、眩しい。
それは彼女の心の清らかさがそのままペンダントにも滲み出てる。そんな風にさえ思える。
「…そのペンダントは…」
男が聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟き、俯く。
しばらく黙る男。部下にも動揺が伝染している。
「…そいつ等を牢屋にぶち込んどけ!」
「へいっ!」
そう言って子分達は3人を取り押さえ船の地下部屋へ無理矢理連れて行く。
3人ともとりあえず命が助かった事でほっとしている。が、気は抜けない。
いつの間にか陽が落ちて辺りが暗くなり始めていた。
最終更新:2007年12月13日 03:23